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第36話 Among Us!【後編】

 (さて)、二回目の議論(ぎろん)は終了した。祐子は上部エンジン(アッパー)へ向かう長い回廊(かいろう)を歩いていた。祐子は考える。先程(さきほど)議論(ぎろん)についてである。()の中で、殊更(ことさら)、対立が先鋭化(せんえいか)していたのは、高志と明彦であった。()の両者が、(とも)乗組員(クルー)である可能性(かのうせい)はあるのか? 祐子は自問(じもん)自答(じとう)して見る。答えはいいえ(ノー)である。如何(いか)疑心暗鬼(ぎしんあんき)(きも)である()のゲームにあっても、二人とも乗組員(クルー)であり(なが)ら、彼処迄(あそこまで)衝突(しょうとつ)する理由は、皆目(かいもく)、見当たらないし、抑々(そもそも)、メリットも無い。では、両者ともに地球外知的生命体(インポスター)であるのか? ()の問い掛けに対しても、答えはNO(いいえ)である。()れは、先程(さきほど)の両者乗組員(クルー)である可能性(かのうせい)以上に、有り得ないのである。何故(なぜ)なら、()のゲームの地球外知的生命体(インポスター)は2人だけなのである。そして、地球外知的生命体(インポスター)同士は互いに認識出来(でき)るのである。此処(ここ)()の2人が対立して得る果実は何なのであろうか? 皆目(かいもく)、見当がつかないし、抑々(そもそも)的外(まとはず)れである。つまり、何方(どちら)か一人だけが、地球外知的生命体(インポスター)である公算(プロバビリティ)が、極めて高いのである。だが、にも(かかわ)らず、()れ以上に不可解(ふかかい)かつ、実に興味深い(おもしろい)のは、両者が(とも)に、虚偽(ウソ)主張(しゅちょう)をしている点にある。


 虚偽(ウソ)主張(しゅちょう)()れについては、当初(とうしょ)、祐子はかなり早い段階、(すなわ)ち、議論中(ぎろんちゅう)から気がついていた。高志の場合は簡単である。先程(さきほど)、明彦が主張(しゅちょう)した通りである。()し、高志が主張(しゅちょう)した様に、本当に明彦の殺人を目撃(もくげき)したのであれば、当然(とうぜん)即座(そくざ)に通報ボタンを押すべき事案(じあん)なのである。(しか)し、そうしなかった…。()れは何故(なぜ)か? 答えは一つである。つまり、そう出来(でき)なかったからである。仮に、何らかの理由でボタンを押せぬ(まで)も、本当に目撃(もくげき)をしたのであれば、Uターンして、医務室(メッドベイ)に踏み込み、通報ボタンを押せば良いだけなのである。()状況(じょうきょう)()る意味、現行犯なのである。()の場合、クールタイムの関係上、明彦からの反撃を一顧(いっこ)だにする必要も無く、通報ボタンを押し、議論(ぎろん)に突入すれば良いだけの話なのである。だが、彼は()れをしなかった。ひょっとして、高志がひろみの殺害(さつがい)を知ったのは、召集(しょうしゅう)された時になのではあるまいか? そうとすら、思えるのである。何故(なぜ)なら、あのとき、高志は、かなり、ひろみの死を驚いた風であったでは無いか。


 だが、祐子は考える。おかしいのは、何も高志だけではない。明彦の発言にも、相当(そうとう)に、不審(ふしん)な点がある。一見(いっけん)、明彦は正当な事を主張(しゅちょう)している様にも見える。現に、六助が彼の不在証明(アリバイ)担保(たんぽ)していた。にも(かかわ)らず、彼は(うそ)()っているのである。彼は()のゲームのプレイは初めてと()っていたのだ。当初(とうしょ)()れを理由に参加を断ろうとしていた(くらい)である。そして、前回の議論(ぎろん)の際にも、はっきりと、医務室(メッドベイ)に入った事は一度も無いと、主張(しゅちょう)していたのだ。つまり、彼は、彼の人生に()いて、()宇宙船(ザ・スケルド)医務室(メッドベイ)の内部は、(まった)くの未知と()う事になる。にも(かかわ)らず、彼は医務室(メッドベイ)内部を、実に事細(ことこま)かに描写(びょうしゃ)していた。ベッド、モニター、通風孔(ベント)の位置関係は、(まさ)に彼が証言(しょうげん)したとおりである。では、彼が何故(なぜ)()れを知り()たのであろうか?

 ()れについては、以下の2つの可能性(かのうせい)しか考えられぬ。


 ① 元々(もともと)医務室(メッドベイ)の内部を知悉(ちしつ)していた。

 ② ()のゲームの最中(さいちゅう)に入った事があった。


 ()(いず)れかになるのである。(いず)れの場合であっても、明彦が虚偽(きょぎ)申告(しんこく)をした事に変わりは無く、特に②の場合は、所謂(いわゆる)、秘密の暴露(ばくろ)()う事になり、彼が地球外知的生命体(インポスター)である蓋然性(プロバビリティ)は格段に()()がるのである。


 ()れでは、彼が白(乗組員(クルー))であり(なが)ら、虚偽(きょぎ)申告(しんこく)をした可能性(かのうせい)は無いか。()れを考えてみた。(たと)えば、突然(とつぜん)、高志に嫌疑(けんぎ)を向けられ、(あわ)てて、咄嗟(とっさ)(ウソ)をついてしまった場合である。(しか)し、()の線も極めて薄いものと考えた。何故(なぜ)なら、高志が明彦の殺人を目撃(もくげき)したと(しょう)する時刻は、停電明けの直後なのである。()の時刻、明彦には強固(きょうこ)不在証明(アリバイ)がある(わけ)で、()し、()(まで)医務室(メッドベイ)に入った事があったのなら、

(おれ)は、ゲーム序盤に医務室(メッドベイ)に入ったが、ひろみの死体なんて無かった』

 そう、主張(しゅちょう)すれば良いだけの話なのである。つまり、見た(まま)の事実を、順を追って説明すれば良いだけの話であり、無実であれば、()れをしない理由は、何処(どこ)にも無い。にも(かかわ)らず、()れをしなかった。つまり、不必要に嘘をついてしまった。()れは、明彦の人の良さの発露(はつろ)であろう。本来(ほんらい)であれば、死体の事だけ伏せて、医務室(メッドベイ)に行ったと主張すれば良いのに、後ろ暗い(ところ)があったが(ゆえ)に、つい、行ってないなどと、()()()虚偽(ウソ)の証言をしてしまったのである。(したが)って、其処(そこ)から導き出される結論(けつろん)は一つである。第三者的に見ても、(おそ)らくは、地球外知的生命体(インポスター)は、高志ではなく、明彦であるに違いない。そうなのである。祐子は明彦が地球外知的生命体(インポスター)である事を確信(かくしん)していたのである。


 だが、祐子にしてみれば、他の者にも、矛盾(むじゅん)と行かぬ(まで)奇妙(きみょう)な発言は、少なからずあった。まず、一平である。彼は通風孔(ベント)使用の現場を目撃(もくげき)したと()う。だが、()れを議論(ディスカッション)時間(・タイム)が残り20秒になる(まで)(おくび)にも出さなかった。()れは如何(どう)にも()せぬ事である。()の理由は、一体(いったい)、何だろう。(もっと)も、あの一平の事である。単なる錯誤(プレミ)可能性(かのうせい)もある。本気で、通風孔(ベント)(もぐ)れないか試行(しこう)していた位なのである。通風孔(ベント)の重要性に気がつかなかった可能性(かのうせい)は、多分(たぶん)にあるのだ。だが、敬介の場合は明らかに違う。彼は一平の証言(しょうげん)に対して、()の発言の遅さを明確(めいかく)(なじ)っているのである。()の敬介がである。何故(なぜ)議論(ディスカッション)終了1秒前に、何と明彦の通風孔(ベント)使用を告発したのである。()の行為は、彼自身の発言に対する明らかな撞着(どうちゃく)で有り、敬介の証言(しょうげん)鵜呑(うの)みにする以前に、如何(どう)考えても、説明(せつめい)(よう)する出来事(できごと)なのである。


 葵は、今、自身の置かれた状況(じょうきょう)に、(すこぶ)る満足していた。と()うのも、(まさ)に彼女の大好きな、推理小説(ミステリー)の様な展開(てんかい)なのである。当初(とうしょ)、彼女は推理小説(ミステリー)にある様な明確(めいかく)(ヒント)が落ちているかが不安であった。(しか)し、豈図(あにはか)らんや、()程迄(ほどまで)明白(めいはく)(ヒント)が落ちていようとは、思わなかった。聡明(そうめい)な彼女には、(いく)つかの奇妙な発言には気がついていた。祐子が、気がついたのと同様、高志と明彦の(あや)しげな証言(しょうげん)矛盾(むじゅん)にも気がついていた。余程(よほど)議論(ぎろん)の最中に()れを指摘(してき)をしようかと思った位である。指摘(してき)をし、()の両者の絨毯爆撃(ローラー)主張(しゅちょう)しようとした位なのだ。絨毯爆撃(ローラー)とは、対立する疑わしい対象(ターゲット)を、軒並(のきな)()って行く戦術(せんじゅつ)である。()れは『疑わしきを罰せず』の(まさ)に逆を行く戦術(せんじゅつ)であり、玉石(ぎょくせき)(とも)(くだ)く様な()りを敢行(かんこう)し、確実(かくじつ)地球外知的生命体(インポスター)()らして行く戦術(せんじゅつ)なのである。()(しゅ)強引な力技(ブルート・フォース)なのではあるが、()うしたゲーム、特に人狼ゲームなどでは、割と有効な戦術(せんじゅつ)なのでもあるのだ。(しか)し、彼女は出来(でき)なかった。一つは、(おそ)らくは生来(せいらい)の引っ込み思案(じあん)(わざわ)いし、()い出す事が出来(でき)なかったのである。葵は思った。(おそ)らくは()の2人の内、どちらかが地球外知的生命体(インポスター)であるのは、(ほぼ)確実(かくじつ)であろう。祐子は()の2人の容疑者から地球外知的生命体(インポスター)特定(とくてい)していたが、葵には出来(でき)なかった。(しか)し、絨毯爆撃(ローラー)を行なえば、確実(かくじつ)に一人の地球外知的生命体(インポスター)(めっ)する事が出来(でき)るのである。一人の無実の乗組員(クルー)()()えに。だが、()れは現実の事件とは違う。(たと)え、無実の人間を()()えにしてでも、地球外知的生命体(インポスター)の数を(げん)ずる事が、最優先事項なのである。


 いずなは今迄(いままで)議論(ぎろん)を、再度、反芻(はんすう)していた。いずなは()の4人の殺害(さつがい)状況(じょうきょう)特定(とくてい)しようと(こころ)みていたのだ。地球外知的生命体(インポスター)のクールタイムは人数の兼ね合いから若干(じゃっかん)短く設定されており、40秒となっている。()の設定であれば、(おそ)らく、一人の地球外知的生命体(インポスター)が、3分足らずの時間で4人の人間を殺害(さつがい)する事は可能であろう。だが、いずなは()れは無いと見ていた。いや、1人と3人ですらないのだ。(おそ)らくは、2人と2人なのだ。と()うのも、殺人の現場である。まず、確定(かくてい)している部分で()えば、ヤスベエはセキュリティルーム、凛子は酸素ルーム(オーツー)()られていた。(しか)し、六助と一平と()目撃(もくげき)者がいるヤスベエの場合と異なり、凛子の場合は葵の証言(しょうげん)を信ずればとの前提(ぜんてい)付きなのである。後の2名に(いた)っては、現場すら特定(とくてい)されていないのである。(もっと)も、ひろみの場合は、高志の荒唐無稽(こうとうむけい)とも()える証言(しょうげん)により、殺人現場が医務室(メッドベイ)との主張(しゅちょう)()されていたが、()れは証言(しょうげん)自体(じたい)(いちじる)しく信憑性(しんぴょうせい)()いており、とても、白出しなど出来(でき)状態(じょうたい)である。(さら)に、()の後に飛び出した敬介の証言(しょうげん)(いた)っては、ひろみの死体に関する情報は一切(いっさい)無く、医務室(メッドベイ)で明彦が通風孔(ベント)の使用をしていたと証言(しょうげん)するのみなのである。にも(かかわ)らず、いずなには二人の地球外知的生命体(インポスター)の正体が、(ほぼ)特定(とくてい)出来(でき)ていたのである。


 地球外知的生命体(インポスター)2人。仮にAとBとした場合、AとBのそれぞれの殺害(さつがい)人数は2人づつであろう。そして、Aがヤスベエとひろみを殺害(さつがい)したとするならば、Bは凛子とみうみうを受け持ったものと思われる。(もっと)も、()れには然程(さほど)根拠(こんきょ)()(ほど)の物がある(わけ)では無く、()の方が自然(スムーズ)と思われるからである。まあ、いずなには、()の考えに固執(こしつ)する心算(つもり)は無かった。殺害現場(さつがいげんば)を考えた時、ヤスベエはセキュリティルーム、凛子は酸素ルーム(オーツー)、ひろみは医務室(メッドベイ)、そして、みうみうは不明である。(しか)し、目撃(もくげき)情報から総合的に勘案(かんあん)して、大体(だいたい)、右側の何処(どこ)かである。(さら)()えば、ウエポンルーム、シールドルーム、操縦室(ナビゲーション)(いず)れかである。(さて)(さら)に、前回の会議からの約3分の時間を、停電を境に前半、後半で区切った場合、どの時間帯で殺されたとの点を考えてみた。まず、凛子とヤスベエは明らかに後半、()れも(おそ)らく後半の最後である。だが、ひろみとみうみうは如何(どう)であろう? いずなは意外にも前半でないかと踏んでいる。()れは、当然(とうぜん)地球外知的生命体(インポスター)の殺人冷却期間の影響をもろに受けてしまうからである。冷却期間がある以上、連続して犯行を行なう事は不可能である。(したが)って、前半に犯行が行なわれたと考えた方が合理的である。(しか)し、前半に犯行が行なわれたとすれば、召集(しょうしゅう)が発動する(まで)は、彼らの死体は其処(そこ)に転がっていなければならない。勿論(もちろん)、彼らの死体が発見されない事には、(おお)いに違和感(いわかん)がある。だが、()れ以上に、彼らの生存した目撃(もくげき)情報が無さ過ぎるのである。(こと)、ひろみに関しては、最初の召集(しょうしゅう)以降、(だれ)からも目撃(もくげき)情報が無いのである。(したが)って、何処(どこ)かの部屋の(すみ)っこ。所謂(いわゆる)、デススポットにて、人知れず殺害されていたとしても、不思議では無い。(たと)えば、高志が主張(しゅちょう)した様な医務室(メッドベイ)の奥などは、確かに格好(かっこう)殺人現場(デススポット)となり得るのである。


 いずなは、高志の証言(しょうげん)を検討してみた。高志の証言(しょうげん)を信ずれば、ひろみの殺害現場(さつがいげんば)医務室(メッドベイ)、時刻は停電明けと()う事になる。幸いな事に、偶々(たまたま)、同時刻、いずなは高志と行動を(とも)にしていた。まず、高志の主張(しゅちょう)する、『明彦が、医務室(メッドベイ)でひろみを殺害(さつがい)するのを見た』とする証言(しょうげん)である。()れは、荒唐無稽(こうとうむけい)であり、(まった)くの出鱈目(でたらめ)である事が良く(わか)る。停電前は、(ある)いは、停電明けもそうなのであるが、医務室(メッドベイ)前の回廊(コリダー)から、医務室(メッドベイ)を見通す事など出来(でき)ないのである。()れについては(まった)()って明彦が反駁(はんばく)したとおりなのである。(ゆえ)に、高志が目撃(もくげき)したと()証言(しょうげん)は、出鱈目(デタラメ)()(ところ)なのであるのだが、唯一点(ただいってん)、明彦が医務室(メッドベイ)()いてひろみを殺害(さつがい)したと()う点だけは、虚構では無く(ワンチャン)、高志を信ずる事が可能では無いか。そう思っていたのだ。勿論(もちろん)()れは可能性(かのうせい)の一つに過ぎない。そして、()の立証は次回議論(ぎろん)のフェーズが(めぐ)って来ても困難である。にも(かかわ)らず、いずなは、(いく)つかの状況に()り、()可能性(かのうせい)を、(おそ)らく事実であろうと推定していた。


 敬介の奇妙な証言(しょうげん)についても、()程度(ていど)、推理はしていた。敬介のあの発言は、明らかに明彦()りを誘導しようとして()されたものである。あの限々(ぎりぎり)のタイミングでの発言の真意は、()れ以外に考えられない。()し、あの発言を冒頭で行なっていれば、当然(とうぜん)、展開は違う物となっていただろう。議論(ぎろん)紛糾(ふんきゅう)し、結果(けっか)、発言者は、色んな部分で馬脚(ばきゃく)を現すことにもなったであろう。だが、そうではなかった。(ある)いは、発言者は、結果(けっか)、嘘がばれても構わないと、思ったかもしれない。取り()えず、彼の目的は唯一(ただひと)つ、明彦の()りだったのである。(したが)って、議論終了限々(ぎりぎり)に、咄嗟(とっさ)に、ああした(きょ)に出たのである。そうなのである、あの発言がケースケの物だと考えるから、事態(じたい)稚児(ややこ)しくなるのであって、()し、ケースケ以外の人物の発言だとしたら如何(どう)であろう。となれば、色々と見えて来る事がある。ケースケの声色(こわいろ)真似(まね)()の人物は、明彦の()りを切望(せつぼう)している人物であり、限々(ぎりぎり)、あのタイミングであれば、(ある)いは、(みんな)(だま)()可能性(かのうせい)がある事を知悉(ちしつ)している狡猾(こうかつ)な人物で、そして、声帯模写(ものまね)上手(じょうず)器用(きよう)な人物。そんな人物は、一人しか心当たりが無い。(第33話参照)


 正太郎は電気室(エレクトリカル)作業(タスク)をしていた。作業(タスク)をし(なが)らも先程(さきほど)議論(ぎろん)反芻(はんすう)していた。明彦と高志の捍格(かんかく)についても考えてみた。()の件に関しては、圧倒的に明彦に分がある様に思われる。()れが正直な感想である。(したが)って、最後の敬介の発言については、(ほぼ)、真相に辿(たど)り着いていた。正太郎は、高志の(あや)しげな証言(しょうげん)にも気が付いていたし、器用(きよう)な彼が、良く声帯模写(ものまね)披露(ひろう)しているのを、目撃(もくげき)している。()って、正太郎は高志が地球外知的生命体(インポスター)であると確信(かくしん)していた。電気室(エレクトリカル)作業(タスク)に来たのも、高志が明彦に付かず離れずやって来たからであり、(さら)に、いずなも付いて来る。(おそ)らく、いずなも、()の二人をマークする意味で、作業(タスク)其方除(そっちの)けで付いて来たのであろう。(だれ)かが、()れも複数、頸木(くびき)として同行していれば、何か事件(こと)が起きても、同行した人間は目撃(もくげき)者に早変わりする。()()う、密集(みっしゅう)した状況(じょうきょう)にあっては、地球外知的生命体(インポスター)としては、絶望的なごちゃキル(密集(みっしゅう)状況(じょうきょう)での殺人)しか無くなり、殺人の機会はあっても、逃げ切ると()う点に()いては、格段に難易度(ハードル)があがって来るのである。


 ただ、此処(ここ)で、乗組員(クルー)陣営(サイド)にも失策(エラー)があった。本来(ほんらい)であれば、()の局面では、()ずは扨措(さてお)いても、召集(しょうしゅう)ボタンを押すのが何よりも先決だった(はず)である。会議召集の冷却時間が経過するや(いな)やボタンを押し、会議を招集し、一平と敬介に先程(さきほど)目撃(もくげき)発言の真意を(ただ)すのが、最優先事項であった(はず)なのである。(しか)るに、此処(ここ)では、()の行動を起こす人物が居なかった。全員でお見合いをする形となってしまったのだ。明彦そして高志の2名のうち、何方(どっち)かに地球外知的生命体(インポスター)が居たのは間違いない。()の2名はお互いに牽制(けんせい)する形で、つかず離れずに行動を(とも)にしていた。のみならず、目撃者(もくげきしゃ)(もく)される一平もなんとなく行動を共にする形である。(さら)()の後から、いずな、葵、正太郎と()った、彼らに疑惑(ぎわく)の目を向ける面々(めんめん)が続く。結局(けっきょく)(ところ)、集団での行動となってしまったのである。(しか)し、此処(ここ)地球外知的生命体(インポスター)に突かれた。地球外知的生命体(インポスター)はもう一人居るのである。()の後の召集(しょうしゅう)は祐子の手によってなされた。(だれ)にも押されない召集(しょうしゅう)ボタンに不安を(いだ)いた祐子によって、召集(しょうしゅう)(いた)ったのである。


「あっ」

「また、やられた。金田●少年みてーになってる」


 召集(しょうしゅう)された全員は驚いた。×印(デッド・マーク)が新たに出現している。なんと、六助の上にも×印(デッド・マーク)がついている。つまり、もう一人の地球外知的生命体(インポスター)()って、始末(しまつ)されたと()う事であろう。驚愕(きょうがく)するメンバー達。だが、いち早く冷静さを取り戻したのは正太郎であった。

「くっそー、六助(ロク)まで。一体(いったい)(だれ)が…。死体発見者は祐ちゃん?」

「ううん。私じゃないよ。確かに、緊急招集ボタンを押したのは私だけど、死体発見の通報ボタンじゃないよ…」

「そーか。だとすると、六助(ロク)殺害現場(さつがいげんば)は不明な(わけ)か」

(おれ)大体(だいたい)、右側をぐるり回った形だが、六助(ロク)とは合わなかったぞ。祐子ちゃんとは、一度、すれ違ったけど…」

 そう主張(しゅちょう)するのは敬介である。其処(そこ)へ割り込んで来たのはいずなである。

「ムッキー、ケースケ。()()えず優先すべきは、前回の議論(ぎろん)の続きからだよ。ケースケと一平に聞きたいんだけど、通風孔(ベント)目撃(もくげき)証言(しょうげん)抑々(そもそも)、あれは、一体(いったい)(だれ)目撃(もくげき)したの? ()ず、其処(そこ)からだよ」

 敬介が()れを受けて応える。

「いや、いずなちゃん。抑々(そもそも)、あれを()ったのは、(おれ)じゃあ無いよ。…やい、こら、高志。あれは、手前(テメエ)仕業(しわざ)だろ。人を()める様な事をしやがって」

「いやあ、(おれ)は、お前の心の声を代弁(だいべん)しただけで…」

「ふざけんな。何が心の声だ。(さて)は、手前(テメエ)地球外知的生命体(インポスター)だな。こんちくしょう」

「わあ、待て待て、落ち着けって…。(おれ)じゃあ無いって」

大体(だいたい)手前(てめー)無垢(むく)な村人(()の場合、乗組員(クルー)の事)なら、何故(なぜ)、人を(おとしい)れる様な真似(まね)をする。手前(てめー)のやってる事は誣告(ぶこく)だぞ」

「いや、()れには、海より深い事情(ワケ)があってだな…」

「やっぱり、あれは高志の仕業(しわざ)か。()れは、愈々(いよいよ)、敬介の()うとおり、高志が地球外知的生命体(インポスター)に違い無いな」

 明彦が便乗(びんじょう)する。(しか)し、いずなは(いた)って冷静に、一平に水を向ける。

「ねえ、一平。一平が地下道に入るのを見たのは、一体(いったい)(だれ)だったの?」

(だれ)って、明彦だよ」

「うわあ、何て事、()うんだ。()れこそ、(でっ)()げだ」

「ほれ見ろ、やっぱり」

 (あわ)てる明彦を尻目(しりめ)に、勝鬨(かちどき)を上げる高志。だが、明彦も食い下がる。

「おい、一平。見間違いかなんかじゃないのか? (おれ)には(まった)く、身に覚えが()えぞ」

「そんな事あるもんか。(おれ)は視力が3・0なんだ。()の前も、北斗七星の脇の小さな星も見えた(くらい)だ」

「おい、危ねえな。何てえモンを見てやがんだ。死んじまったら如何(どう)すんだ! 大体(だいたい)()の場合、視力は関係()えだろ」

 ()かさず、敬介が茶々を入れる。(しか)し、高志は(たた)み込む。

「決まりだな。()れで。早速(さっそく)、明彦に投票してやったぜ」

「うわあ、待て待て、早まるな。()れこそ高志の思う(つぼ)だぞ」

「何を()いやがる。観念しやがれ」

「ねえ、一平君。本当に間違い無いの?」

「ああ、祐子ちゃん。間違い無いよ。明彦がヤスベエを()ったのは見てないけど、上から下りて来て、通風孔(ベント)に飛び込んだのは目撃(もくげき)したよ」

「決まりだな。取り()えず、1インは確定(かくてい)だな」

 (つぶや)く正太郎。だが、明彦は懸命(けんめい)に食い下がる。

「わあ、待てってば。()れなら、高志の発言は如何(どう)説明(せつめい)するんだよ。抑々(そもそも)、あの回廊(かいろう)から、殺害現場(さつがいげんば)を見える(はず)が無いんだ」

「ムッキー、確かに()の通りだよ。あの時、いずなも高志と並行(へいこう)して移動してたから(わか)るけど、彼処(あそこ)から医務室(メッドベイ)なんて見渡せる(はず)が無いよ」

「そうだろ。だったら…」

「でも、眼鏡(めがね)。何であんたが()れを知っているのよ? いや、()ればかりじゃあ無い。いずな、今先刻(いまさっき)医務室(メッドベイ)に行って見て(わか)ったけど、医務室(メッドベイ)内の構造が、眼鏡(めがね)()ったとおりだった。そう、其処(そこ)が問題なんだよ、なんで、()れを知っているの? ()のゲームは初めてだって()っていたのに…」

 いずなに続き、葵も(たた)み掛ける。

「いずなちゃんの()う通りだと思うよ。私も先刻(さっき)医務室(メッドベイ)に行って確認した。確かに、明彦君の()ったとおりの構造だった。でも、問題は明彦君が医務室(メッドベイ)詳細(しょうさい)何時(いつ)知ったかだと思うよ」

「ムッキー、葵っちの()うとおりだよ。()れに、ハロゲン族も眼鏡(めがね)も、ひろみっちの殺害現場(さつがいげんば)医務室(メッドベイ)と断定していた。眼鏡(めがね)なんて、今も殺害現場(さつがいげんば)って()ったけど、ひろみっちの殺害現場(さつがいげんば)は、抑々(そもそも)()だ、特定されていない状態なんだし、本来(ほんらい)()れを知っているのは、犯人と殺されたひろみっちだけの(はず)だよ。だから、ハロゲン族も眼鏡(めがね)も、殺害現場(さつがいげんば)を知っている事の合理的説明(せつめい)が必要だと思うんだけど…」

 抑々(そもそも)、ひろみの殺害現場(さつがいげんば)特定(とくてい)されていないのである。ひろみの殺害現場(さつがいげんば)医務室(メッドベイ)とされたのは、高志の(あや)しげな主張(しゅちょう)だけなのである。だが、明彦も()(あや)しげな主張(しゅちょう)前提(ぜんてい)として自身の不在証明(アリバイ)主張(しゅちょう)してしまった。()の二人の人物が、()れこそ、申し合わせた様に、ひろみの殺害現場(さつがいげんば)特定(とくてい)していると()う事は、(おそ)らく偶然ではあるまい。彼らは、ひろみの殺害現場(さつがいげんば)を知っていたのである。だが、本来(ほんらい)殺害現場(さつがいげんば)を知っている人物は、殺されたひろみと、殺した犯人だけなのである。(しか)し、迂闊(うかつ)にも明彦は不在証明(アリバイ)の証明に没頭(ぼっとう)する余りに、入った事の無い(はず)医務室(メッドベイ)状況(じょうきょう)事細(ことこま)かに叙述(じょじゅつ)してしまったのである。()れは、所謂(いわゆる)、二重の意味で秘密の暴露(ばくろ)該当(がいとう)するのであろう。

 ① ひろみの殺害現場(さつがいげんば)医務室(メッドベイ)と認めてしまった事。

 ② 入った事の無い(はず)医務室(メッドベイ)事細(ことこま)かに描写(びょうしゃ)してしまった事。

 数多(あまた)推理小説(ミステリー)頻出(ひんしゅつ)するトリックでもある。明智小五郎風に物申せば、『つい、本当の事を()おうとして、嘘を()いてしまった』と()う事になるのであろう。流石(さすが)の明彦もぐうの()も出なかった。結局(けっきょく)()の回の投票は、明彦6票、高志2票で、明彦が追放となったのである。


 (さて)、会議後のカフェテリア。いずなは此処(ここ)を離れる心算(つもり)は無かった。いずなの中では、最早(もはや)()のゲームは決していた。()(まま)、冷却期間を乗り切り、後は召集(しょうしゅう)ボタンを押すだけなのである。いずなは先程(さきほど)の仮定を推し進めていた。2人の地球外知的生命体(インポスター)、仮にAとBとした時、Aは(おおむ)ね左側で活動しており、ひろみ、ヤスベエを殺害(さつがい)した。そして、()れは、(おそ)らく、先程(さきほど)、追放された明彦である。一方、Bは主に右側で活動しており、()の人物は、()ず、みうみうを、そして、召集(しょうしゅう)間際(まぎわ)に凛子を血祭りに()げたのである。(さら)に、()の後には、他のメンバーの監視の間隙(かんげき)()って、六助までも手に掛けたのである。だが、いずなには、()の人物、地球外知的生命体(インポスター)Bの正体は(わか)っていた。


 最初の違和感(いわかん)は、極些細(ごくささい)証言(しょうげん)齟齬(そご)であった。()れはケースケと()の人物の証言(しょうげん)である。ケースケは()の人物を酸素ルーム(オーツー)目撃(もくげき)し、すれ違ったと()っていた。(しか)し、()の人物はウエポンルーム付近(ふきん)まで一緒(いっしょ)だったと()っていたのである。実に些細(ささい)捍格(かんかく)である。()証言(しょうげん)齟齬(そご)は何を意味するのであろうか? 多分(たぶん)()の人物は少しでも凛子の殺害現場(さつがいげんば)から遠ざかりたかったのだと、いずなはそう解釈した。(したが)って、()の人物は、咄嗟(とっさ)に自身の不在証明(アリバイ)(ため)、ケースケが酸素ルーム(オーツー)を退出した後も、(あたか)も、ケースケと一緒(いっしょ)だった事を強調し、()気無(げな)く、印象操作(いんしょうそうさ)を行なったのである。ケースケは割りと泰然自若(たいぜんじじゃく)とした男である。良く()えば、(おお)らかな人物。悪く()えば、大雑把(おおざっぱ)な人物である。少しばかりの状況(じょうきょう)差異(さい)など意識する事は余り無い。仮に()し、ケースケが()状況(じょうきょう)に気が付いて指摘(してき)したからとて、然程(さほど)、大きな問題に成るとは思われない。仮に指摘(してき)されたとしても、『あれ、そうだっけ』で、済む様な状況(じょうきょう)なのである。(もっと)も、()の人物は、抑々(そもそも)所謂(いわゆる)、記憶違いとは、無縁な人物であったのであるが…。状況(じょうきょう)を少し整理してみよう。()ず、()の人物が酸素ルーム(オーツー)作業(タスク)をしている風を(よそお)う。続いてケースケが酸素枯渇(さんそこかつ)修理の(ため)酸素ルーム(オーツー)作業(タスク)を行う。そして、終わるとウエポンルーム経由で管理室(アドミン)に向う。本来(ほんらい)であれば、()の人物はケースケを、真っ先に手に掛けようとしたのやもしれぬ。(しか)し、考えを変えた。と、()うのも、ケースケを不在証明(アリバイ)の証人とする事を思い立ったのかもしれなかった。朴訥(ぼくとつ)な人柄のケースケは証人としてはうってつけであり、(くみ)(やす)いと考えたのかもしれなかった。そして、ケースケをやり過ごした。(おそ)らくは、操縦室(ナビゲーション)の前のT字路付近であろう。地球外知的生命体(インポスター)の視野は他の乗組員(クルー)よりも広いのである。ケースケに勘付かれる事無く、ケースケをやり過ごす事は可能であろう。()の直後、凛子が酸素ルーム(オーツー)へ飛び込む。(しか)し、()の人物も続いて飛び込み、凛子を殺害(さつがい)する。そして、何食わぬ顔で酸素ルーム(オーツー)を後にして、ウエポンルーム経由でカフェテリアへ向ったのである。いや、葵が()の人物とすれ違ったと証言(しょうげん)している。葵は操縦室(ナビゲーション)から酸素ルーム(オーツー)へ向った(わけ)だから、()の人物は、ウエポンルームとは逆の操縦室(ナビゲーション)方向へ向かい、(おそ)らく、通風孔(ベント)を使ったに相違無(そういな)いのである。


 (さら)にいずなは考えた。だが、()れは扨措(さてお)き、()のゲーム中の証言(しょうげん)()いて、最大の違和感(いわかん)は、実は、其処(そこ)では無い。勿論(もちろん)、明彦や高志の証言(しょうげん)でもない。もっと、決定的で、致命的(ちめいてき)な一言があったのだ。()れは、一平の爆弾発言直後の、()の人物の発言である。あの時、一平は残り時間20秒を切った段階で、

()る人物が通風孔(ベント)を使用するのを見た』

 と、()っている。抑々(そもそも)()のタイミングで()の様な発言をする事自体が、有り()べからざる事態なのであるが、次に来るべきは、当然(とうぜん)、『(だれ)が?』、なのである。()れはそうであろう。()のゲームに()いて、通風孔(ベント)使用者=地球外知的生命体(インポスター)の図式が成立する(わけ)なのだから、(だれ)如何(どう)考えても、次は『(だれ)が?』となるのが、(すこぶ)る自然なのである。(しか)るに、()の人物は、()かさず、『(だれ)が?』では無く、『何処(どこ)で?』と、咄嗟(とっさ)に話を()り替えたのである。平素(へいそ)()の人物の知的水準(レベル)から(かんが)みれば、明らかにおかしい。いや、有り()ない発言であった。()れはもう、違和感(いわかん)()生易(なまやさ)しい次元(レベル)では無く、ハッキリと矛盾(むじゅん)と言い切る事が出来(でき)次元(レベル)なのである。だが、一平は、()の人物の問い掛けに、素直(すなお)に反応してしまった。()れは、一平が()の人物に対して、普段から厚い信頼を寄せている事が(うかが)える。(おそ)らく、平素(へいそ)からの習慣より、()の様に反応してしまったのであろう。だが、()状況(じょうきょう)は、()の人物にとって、()れが最適解であったとは思われぬ。()の場合の最適解は(おそ)らく、何もしない事、(すなわ)ち、明彦を見捨てる事であった(はず)である。此処(ここ)無理(むり)をした(ところ)で、明彦を救い()るか如何(どう)かは不確定であり、万一(まんいち)、事が露見(ろけん)して疑惑の目を向けられでもしたら、元も子も無いのである。現に、()の人物の不自然な発言により、いずなからは、決定的に疑惑の目を向けられてしまったのである。だが、()の人物からすれば、()れは、咄嗟(とっさ)の事では有り(なが)らも苦渋(くじゅう)の決断でも有った(はず)だ。と()うのも、ゲームバランスが、決定的に不利に過ぎていたのである。地球外知的生命体(インポスター)側の勝利条件から逆算するに、地球外知的生命体(インポスター)2名で9人の乗組員(クルー)殺害(さつがい)する必要があるのである。此処(ここ)で明彦が脱落する事になれば、とてもではないが、勝利など覚束無(おぼつかな)いのである。


 そして、いずなの召集(しょうしゅう)により、会議が始まった。まず、高志が口火を切った。

(さて)と、もう一人の地球外知的生命体(インポスター)なんだが…」

「ムッキー。()れについては、心当たりがあるんだけど…。()れはひろみっちや凛子っちが()られた後の会議での事なんだけど。…1人、(きわ)めて、(いや)途轍(とてつ)も無く不自然な発言をした人物がいたよね」

 高志と葵が同意する。

「ああ。(おれ)も、()れに気が付いた」

「うん、私も。()の人は通風孔(ベント)を使った人物の名を問うべき状況(じょうきょう)に有り(なが)ら、場所を話題にして、(ごく)自然(ナチュラル)に話を()り替えた」

 やはり、(みんな)も気が付いていたのである。いずなは祐子に(たず)ねる。

其処(そこ)で質問なんだけど、ゆうちん。ケースケとは何処(どこ)ですれ違ったの?」

「ウエポンだよ」

「ケースケ。()れ、本当?」

「ううん。違うよ。祐子ちゃんとあったのは酸素ルーム(オーツー)の中だよ」

 そうなのである。敬介も祐子の発言との、(ごく)些細(ささい)齟齬(そご)に気が付いていたのである。祐子も咄嗟(とっさ)に記憶違いな風を(よそお)う。

「えーっ、ウエポンで敬介君と合ったと思うんだけどなあ…」

「あれれー、変だなあ。いずな、ウエポンに居たけど、ケースケしか見て無いよ」

 (さら)に葵も参戦する。

「ねえ、いずなちゃん。()れって酸素枯渇中(さんそこかつちゅう)の話だよね。だとしたら、私、祐子ちゃんとすれ違ったよ。操縦室(ナビゲーション)前のT字路で…」

「だとしたら、まるっきり逆方向だよね」

「…」

 ()(あた)りで、祐子も自身(おのれ)の不利を悟ったのであろう。言葉に詰まってしまった。(しか)し、いずなは(さら)(たた)み掛ける。

「あと、もうひとつ良いかな? ゆうちん。」

 其処(そこ)でいずなは一呼吸(ひとこきゅう)()()くと、続けて、(たず)ねた。

「…みうみうと六助(ロク)は、何処(どこ)()ったの?」


「…君の様な(カン)()清高生(ガキ)は嫌いだよ」


「うわぁ、タッカー氏だぁ」

「ひいぃ。怖いよー」

 祐子の最後の台詞(せりふ)が余りにも似すぎていたせいも有るのであろう。祐子はたちどころに()られてしまった。そして、乗組員(クルー)陣営(サイド)には勝利(ビクトリー)のエフェクト、地球外知的生命体(インポスター)陣営(サイド)には敗北(デフィート)のエフェクトが流れたのであった。


 ()られてしまった祐子であったが、彼女は(すこぶ)上機嫌(じょうきげん)で、(なか)ば興奮した様に()った。

「あーあ、負けちゃった。でも、負けちゃったけど。(すご)面白(おもしろ)かったよ。何か本当に殺人鬼になったみたい」

「うん。私も、当初(とうしょ)、本当に推理小説(ミステリー)みたくなるのかが不安だったけど、意外となるもんだよね」

 興奮気味の葵が追随(ついずい)する。明彦が多少(たしょう)の不満を(こぼ)す。

「でも、()れじゃあ、ゲームバランスが悪すぎるだろ。地球外知的生命体(インポスター)側には無理ゲーに過ぎるぞ」

「あっ、私も()れ、ちょっと思った」

 祐子も()かさず同意する。興奮冷めやらぬ(みんな)が口々に感想を口にする。敬介がにやにやし(なが)()()った。

「でも、いずなちゃん。最後に祐子ちゃんを追い詰める(ため)()った、アレは絶対に嘘だろ。ウエポンで(おれ)を見かけたってのは」

「ムッキー、()れはそうだよ。だって、あの時、いずなは管理室(アドミン)酸素枯渇(さんそこかつ)恢復(かいふく)をしてたんだから」

「もう、やっぱり」

 憤然(ふんぜん)とする祐子に、正太郎が(たず)ねる。

「祐ちゃんも、なんで反駁(はんばく)しなかったの? (おれ)ですら、()れは嘘だと思ったのに」

「だって、いずなちゃんだけでなく、高志君や、葵ちゃんにも疑われていたみたいだったから、もう駄目(アウト)かなって」

「ムッキー。ところで、六助(ロク)何処(どこ)()ったの?」

「えーっと、医務室(メッドベイ)だよ」

「そーだよ。医務室(メッドベイ)作業(タスク)してたら、祐子ちゃんが通風孔(ベント)から飛び出して来て、いきなり、ブスリと…」

 みんながワイワイ盛り上がっている(ところ)で、ひろみが(つぶや)いた。

「ところで、高志。あんた、あたしが()られたのを見つけた時、何つった?」

「えっ。ひろみさんが死んでるって…」

「そうじゃあ無いでしょ。お茶屋の…、()の後よ」

「確か、お茶屋のお嬢様がお隠れあそばしたとか…」

 ()かさず、高志が(とぼ)ける。(しか)し、(いき)()つひろみは(おさ)まらない。

「嘘、おっしゃい。お茶屋のぺちゃぱい娘が如何(どう)のとか、ほざいていたわね!」

「あいたたたた…。おいこら、ひろみ。逆関節を取るんじゃねえ。折れたら如何(どう)すんだ」

 其処(そこ)で祐子が、()()ずと、(かね)てからの疑問を(てい)する。

「ねえ、ひょっとして、ひろみちゃんと高志君、今、一緒(いっしょ)に居るの?」

「ムッキー、やっぱり。変だ変だとは思ってたけど、ハロゲン族がひろみっちの殺害現場(さつがいげんば)を知ってたの、ハロゲン族が地球外知的生命体(インポスター)で無いのなら、()れしか解釈出来(でき)ないもんね。だから、てっきり、ハロゲン族、ひろみっちと一緒(いっしょ)にいると()んでたんだけど…」

「いやいやいや、そうじゃあ無え。ただ、何と()うか。同じ時間(とき)空間(くうかん)を共有してるって()うか…」

 正太郎と祐子が、(ほぼ)同時に思う。


矢張(やは)り、此奴(コイツ)らパフェ食ってやがったな…)


 明彦が()える。

畜生(チクショウ)矢張(やは)りそうか。(みょう)だとは思ってたんだ。高志の野郎(やろう)が、ひろみの殺害(さつがい)状況(じょうきょう)を、やけに正確に把握(はあく)してやがったから…」

「まあ、落ち着け明彦。()の手のゲームには、何と()っても、お互い情報の共有が不可欠(ふかけつ)だ。だから、情報の共有をした方がいいかなと…」

「ウッキッキー。うわあ、ズルだぁ。でも、(なん)で、ハロゲン族とひろみっちが一緒(いっしょ)にいるの?」

 事情を知らないみうみうが素朴(そぼく)な疑問を(てい)する。高志が()かさず(とぼ)ける。

「ふっふっふ、(まさ)呉越同舟(ごえつどうしゅう)。私の好きな言葉です」

(だま)れ! 外星人第0号(メフィラス星人)!」

 敬介が(いき)り立つ。明彦も()れに続く。

「ふざけんな、こん畜生(チクショウ)()れを世間一般の言葉では如何様(いかさま)っつーんだよ。(さて)は、手前(テメエ)ら。二人してラブホ(あた)りに時化込(しけこ)んでやがんな」

 正太郎が感心する。


(おお、明彦。慧眼(けいがん)だ)


「うわあ、待て待て。やじろべえが居るんだぞ。滅多(めった)な事をほざくんじゃねえ」

(やかま)しい、()如何様(いかさま)野郎(やろう)。おい、ヤスベエ、()の状況、(しっか)りメモって置けよ」

心得た(ラジャー)

「違うのよ。あたしたちはただパフェを食べに来ただけで…」


(やはりそうか。(しか)し、()れで4日連続だな)


()(かく)、落ち着け。(すぐ)に会計を済ますから」

 明彦はニヤニヤし(なが)ら、追撃する。

如何(どう)せ、カプセルと気送管を使って会計する様な(ところ)だろ…」

(やかま)しい!」

 凛子もニヤニヤし(なが)追随(ついずい)する。

()いからスッキリしてらっしゃいな。45分位なら、待ってあげるから…」

「何がスッキリだ。大体(だいたい)()微妙(びみょう)な時間の(きざ)み方はなんだあ!」

 と、散々である。そんな中で正太郎は思った。


(あーあ、また、やらかしやがった此奴(こいつ)ら。()れも、一種の秘密の暴露(ばくろ)だよなあ)


 確かにそうであろう。今の(くだり)。正太郎、祐子、高志、ひろみ、明彦、凛子と()った、ちょっぴり大人(アダルト)な6人衆には、然程(さほど)、違和感が無かったやも知れぬが、()の手の施設を利用した事の無い、()()面々(めんめん)にしてみれば、気送管を使った会計方法など、想像の埒外(らちがい)(はず)なのである。()まる(ところ)、『あなたがたは、何故(なぜ)()れを知っているの?』と、()(わけ)なのである。

()(かく)、30分待ってくれ。急いで家に戻るから」

「…あたしは5分」


(つまりは、千歳町と()(わけ)だな。いつものパフェ屋じゃねーか)


 正太郎も腹の中でニヤニヤしている。倉皇(そうこう)としている内に、高志とひろみは退出してしまった。


(さて)と、11人になっちまったな。継続するにしても、地球外知的生命体(インポスター)如何(どう)する? 人数増やすか?」

 其処(そこ)でいずなが()()ずと提案する。

「実は、()の事で、提案があるんだけど…」

「ん、如何(どう)した? いずな」

「実は、是非(ぜひ)、参加したいって人が居て…」

「?」

 突然(とつぜん)、中年男性の渋い声が飛び込んで来た。

「やあ、みなさん。初めまして。菜月の父です。いつも、菜月がお世話になっております。(ところ)で、折角(せっかく)、お楽しみのところ申し(わけ)有りませんが、私も仲間に入れてもらえませんかねえ」

「ちょっと、パパ…。勝手にマイクを取らないの」

 後ろで、いずなの声が聞こえる。なんと、吾郎先生が参戦を表明してきたのである。一同は流石(さすが)動揺(どうよう)した。

(だれ)?」

「何か、いずなの父ちゃんらしいぞ」

 ざわつく周囲を他所(よそ)に、正太郎が代表して挨拶(あいさつ)をした。

「吾郎先生、先日は有難う御座いました。お陰で仔猫(ミニャラ)も元気になりました(第28話参照)。何分にも、若輩者(じゃくはいもの)の寄り合いでは有りますが、()(よろ)しければ、遊んで行ってやってください。(みんな)も良いだろ?」

「ああ、勿論(もちろん)だぜ。(ところ)で、いずなの父ちゃんて、何者?」

 (いぶか)る六助を凛子が叱責(しっせき)する。

馬鹿(ばか)ねえ。小泉医院の医師(せんせい)よ」

()れに、元プロ棋士でタイトルホルダーだぜ」

「マジ?」

「ああ」

 肯定(こうてい)する正太郎を尻目(しりめ)に、吾郎先生は笑い飛ばす。

「ハハハ。昔の事ですよ。()れでは、(みな)さん、(よろ)しくお願いします。ああ、菜月ちゃんとは別室の書斎(しょさい)から接続(アクセス)しますんで、ご心配無く」

「ムッキー、当たり前でしょ! パパ!」


 ()くして、地球外知的生命体(インポスター)3人による、2戦目が始まった。が、()れは、何と地球外知的生命体(インポスター)側の圧勝で幕を閉じた。と、()うのも、組み合わせの妙とでも()うべきか、3人の地球外知的生命体(インポスター)が、()のグループの知的肯綮(こうけい)とも()うべき、祐子といずな、(さら)には、吾郎先生と()う反則級の組み合わせであったのである。()れに()り、乗組員(クルー)側は何も出来(でき)ずに翻弄(ほんろう)された挙句(あげく)に、1地球外知的生命体(インポスター)も暴く事が出来(でき)ずに終戦したのであった。明彦などは、

「とっとと、次をやろうぜ。(おれ)先刻(さっき)から、敗北(デフィート)の文字しか見て()えんだ!」

「おう、お待たせー。さあ、やろうぜ」

 其処(そこ)へ高志とひろみが再合流する。正太郎がニヤニヤし(なが)ら突っ込む。

「おう、来たか。予想通りスッキリした声をしてるな」

「な、何がスッキリした声だ。ふざけやがって」

 結局(けっきょく)、高志とひろみが再合流した後も続けられ、翌日、練習がある六助と一平が23時ごろ抜けたのであるが、()の後も続けられ、翌朝8時過ぎに解散するまで、ゲームが行なわれ、特に、翌日仕事のある吾郎先生は、細君(さいくん)である順子先生に、

『子供達相手に、いい年して、何、やってるの!』

 と、こっぴどく叱責(しっせき)されたとの事であった。

突然、年末に降って湧いた温泉旅行の話。山梨県笛吹市にある石和温泉に、ボストンティーパーティーの面々が遊びに行く事となった。果たして、メンバーは? そして、方法は? 次号、愈々、温泉旅行編開始です。『第37話 特急ふじかわ号に乗って(石和温泉旅行編【1/6】)』お楽しみに。

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― 新着の感想 ―
[一言] しっかり、ミステリーも書いているじゃあないですか。次の挑戦も楽しみにしてます。
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