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第35話 Among Us!【前編】

(さて)と、()れで良し」

 正太郎は『ズーム』の設定(せってい)を終え、二度ほど満足げに(うなず)いた。12月21日16時。()の後、3時間で『Among Us』大会が始まる。()れにしても、今日は実に、多忙(たぼう)な一日だった。心より、そう思わざるを得ない。午前中は、部室と講堂の大掃除と英語の補習。午後は昼飯の後、祐子との、動物的で激しすぎる交合(エッチ)を3時間ほど。()の後、六助と一平に連絡をし、今、『ズーム』の設定(せってい)が終わった(ところ)である。其処(そこ)へいずなから連絡があり、みうみうへの連絡が完了したとの事で、みうみうも参加との事である。みうみうは、当然(とうぜん)()のゲームの事は知らなかったのであるが、いずながゲームの概要(あらまし)を説明しておいたとの事である。(もっと)も、あのみうみうである。頭の中に、若干(じゃっかん)常人(じょうじん)(こと)なるフィルターを持っている少女なのである。『Among Us』の様な難解なゲームを、理解したかと()う点に()いては、一抹(いちまつ)の不安を覚えたのであるが、其処(そこ)はいずなが説明しておいたと太鼓判(たいこばん)を押していたので、まあ、此処(ここ)はいずなを信頼するものとしよう。続いて、先程(さきほど)(まで)一緒(いっしょ)に甘い時間(ひととき)を共有していた、(すこぶ)上機嫌(ハイテンション)の祐子からの連絡である。

「あっ、正ちゃん? 先刻(さっき)はありがとう。(すご)く楽しかったね」

 正太郎は、(あたか)も、其処(そこ)に祐子がいるかの(ごと)くに顔を赤らめ(なが)ら、

「…うん。僕の方こそ楽しかったよ。祐ちゃんは、大丈夫(だいじょうぶ)だった?」

「うん。勿論(もちろん)。又、行こうね」

「うん」

(ところ)で、先刻(さっき)、康代ちゃんと葵ちゃんと連絡取ったよ」

「そう? 如何(どう)だった?」

「二人とも、OKだって」

「そうか。わかった。じゃあ、設定(せってい)しておくね」

 (さて)()れで、全部で13人。愈々(いよいよ)、準備は(ととの)った。18時を過ぎた(ころ)から、続々とメンバーが集まって来る。まず、最初にアクセスして来たのが六助と一平であった。彼らサッカー部は年末に向け、まだまだ練習はあったのであるが、ボストンティーパーティーの面々と遊ぶのを楽しみにしており、帰宅後すぐにズームにアクセスして来たのである。続いてやって来たのは、葵とみうみうである。彼女たちは、まあ、六助たちもそうなのであるが、抑々(そもそも)、『Among Us』のルールを良く知らない。(しか)も、ズームを使うのも初めてなのである。()の不安も相俟(あいま)って、かなり早くからの参加となった次第(しだい)である。続いて、ヤスベエ、いずな、凛子。そして、敬介と明彦が続き、(またた)()に、11名までが参集した。敬介と明彦も、()のゲームの経験は無い。彼らも矢張(やは)り、若干(じゃっかん)の不安があるのだろう。(しか)し、高志とひろみが(いま)だアクセスがない。正太郎が心配して、高志の携帯(スマホ)に架電するも、電源が切られている模様(もよう)である。流石(さすが)(あわ)てた正太郎が、高志の家電に電凸(でんわ)するも、おふくろさんに()れば、(いま)だ帰宅していないとの事である。

彼奴(あいつ)ら、一体(いったい)如何(どう)したんだろ? また、パフェでも食いに行ってんのかな)

 確かに、そうで有れば、携帯(スマホ)不通(ブロック)(うなず)ける。まあ、()(まま)、アクセスが無ければ、()()えず、()のメンバーだけで、始めるしかない。倉皇(そうこう)としている(ところ)へ、高志とひろみが()け込んで来たのである。

「おまたせー」

「ごめんごめん。遅くなって」

 開始5分前である。

「おい、如何(どう)したんだよ。心配したぞ」

「いやー、わりいわりい。ちょっと野暮用(やぼよう)でよー」

「本当にごめんねー、正太」

 ひろみも、何故(なぜ)追随(ついずい)する。まあ()い。正太郎は最後の確認事項を告げた。そして、一つの約束事として、()し、自身が殺害、(ある)いは、追放された場合、ズームの映像の音声をミュートにすると()う事である。()れは今回のゲームを成立させる(ため)約束事(きまり)である。元来(がんらい)()のゲームとズームは連動している(わけ)では無いのである。


 (さて)愈々(いよいよ)、ゲーム開始である。舞台は宇宙船マップ、ザ・スケルドである。まあ、()のゲームの、最も定番かつ、標準的なマップでもある。正太郎自身は水色のアバターで、頭にはテンガロンハットの様な物を(かぶ)っている。一方(いっぽう)、祐子は桃色のアバターである。妙な衒気(げんき)もあったもので、アバター(まで)もが巨乳(きょにゅう)である。濃い緑色、モスグリーンのアバターはひろみである。頭には湯飲みを()せている。オレンジ色のアバターは高志である。頭にはみかんを()せている。(さて)、カフェテリアをスタート地点として、全員が四方八方へと、散って行った。正太郎はスタート地点から右手、(すなわ)ち、ウエポンルームの方へ向かった。後ろからピンクのアバターが()いて来る。最初は祐子かと思ったが、祐子では無く、如何(どう)やら、ヤスベエである。小脇(こわき)に厚手の本の様な物を抱えている。


(あれは祐子じゃ無いのか?)


 そう思った矢先に、桃色の巨乳(きょにゅう)アバターもついて来る。矢張(やは)り、祐子もついてきている様である。


(少し(まぎ)らわしいな)


 正太郎はそう思わざるを得ない。祐子とヤスベエのアバターの色合いがである。少々(しょうしょう)尾籠(びろう)ではあるものの、胸の大きさで判別する事にした。正太郎はウエポンで作業(タスク)に取り組む事にした。正太郎の足許(あしもと)を下方へ向けて、3体程のアバターが通過して行った。一人は茶色のアバターで頭にサッカーボールを()せている。六助である。やや遅れて、真っ赤なアバターが通り過ぎて行く、祐子同様、巨乳(きょにゅう)アバターのみうみうである。そして、みうみうと相前後(あいぜんご)して黄色のアバターも通過して行った。頭に鏡餅を()せている。敬介である。目まぐるしくアバターが交錯(こうさく)する()状況(じょうきょう)に正太郎は少々(しょうしょう)閉口(へいこう)していた。一方(いっぽう)、祐子は刻一刻(こくいっこく)変転流転(へんてんるてん)する()状況(じょうきょう)を、淡々(たんたん)と記憶していく事で対処して行った。


 此処(ここ)で祐子やいずなの特殊(とくしゅ)能力(のうりょく)について、少し触れておきたい。今迄(いままで)再三(さいさん)(わた)って描写(びょうしゃ)されてきたが、祐子の特殊(とくしゅ)能力(のうりょく)の源泉は映像(フォトグラフィック)記憶(・メモリー・)能力(のうりょく)である。祐子は自身が見た光景を瞬時に()の映像を脳内の記憶領域(メモリー)に焼き付けることが出来(でき)るのである。(たと)え、()れが動画であったとしても、()瞬間(しゅんかん)瞬間(しゅんかん)を静止画像として(とら)え、(あたか)も、パノラマ写真の様に記憶しているのである。()うした能力(スキル)を持ち合わせる人間は、極稀(ごくまれ)に存在すると()う。(たと)えば、天才的放浪画家である山下清や、三島由紀夫、(ある)いは、伝説的将棋棋士、枡田(ますだ)幸三(こうぞう)などがそうだと()われている。枡田(ますだ)は夕暮れ時に電線に()まった雀の数を、即座に()い当てる事が出来(でき)たとされており、()れも、後年、枡田(ますだ)が語った(ところ)()れば、『頭の中の映像の雀を数えれば良いだけだから簡単だ』と()ったとされる。一方(いっぽう)、いずなの能力(のうりょく)は単純に記憶力である。3の次は・、次は1、次は4、次は1、次は5、次は9、次は2、次は6、次は5、と()った具合(ぐあい)に果てしなく続けていくのである。(ただ)し、いずなの場合は()れが自身の記憶領域(メモリー)に、実に整然と格納されており、(たと)えば、100桁目はと問われれば、9と即答する事が可能なのである。結果的(けっかてき)には、祐子もいずなも似た能力(スキル)を有しているのであるが、()の中身は大きく異なるのである。そう()った意味では、いずなの父親である、吾郎先生の能力(のうりょく)は祐子の()れに近いと()えるだろう。吾郎先生の場合は、基本、映像(フォトグラフィック)記憶(・メモリー)がメインなのであるが、彼の場合は、()能力(スキル)に加え、棋力の高さと光速の思考による映像加工能力(のうりょく)でも有る。以前にも叙述(じょじゅつ)したが、吾郎先生は棋譜(きふ)一瞬(いっしゅん)見ただけで、()の局面を再現出来(でき)たと()逸話(エピソード)が残っているが、彼の場合は、所謂(いわゆる)()(のち)(すなわ)ち、指了図(しりょうず)(まで)寸分(すんぶん)(たが)わずに再現したと()う。()れは映像(フォトグラフィック)記憶(・メモリー)のみならず、彼自身の棋力との、()わば、ハイブリッドであり、指し手双方の、棋風、棋力を総合し、結果(けっか)()く有るべきであるとの結論(けつろん)を導き出していたに過ぎないのである。いずれにせよ、極めて、稀有(けう)な能力であろう。


 (さて)、そう()った次第(しだい)であるから、祐子、いずな双方の持つ()能力(スキル)は、誠に()のゲームに適していると()える。祐子は様々な作業(タスク)(こな)しつつも、他のメンバーの動向(どうこう)把握(はあく)する事に(つと)めた。()のゲームの()いは、()わば虚実(きょじつ)の洗い出しでも有る。何が本当で、何が嘘なのか、正確に把握(はあく)しなければならない。藤色のアバターで白衣を着用したのはいずなである。彼女も祐子と同様に状況(じょうきょう)把握(はあく)腐心(ふしん)していた。いずなは()のゲームの定石(セオリー)が何であるかを考えていた。()のゲーム、クルーであれ、地球外知的生命体(インポスター)であれ、周囲の状況(じょうきょう)把握(はあく)に注力する事は必須なのであるが、()れだけでは無い。作業(タスク)であれ、妨害工作(サボタージュ)であれ効果的に実行して行く必要があるのだ。


 黄緑色(きみどりいろ)のアバターは葵である。頭にチューリップを咲かせている。葵は先程(さきほど)祐子に誘われて、初めて()のゲームに接した(わけ)であったのだが、頭の中で()のゲームを本質的に(とら)えようとしていた。()のゲームは、()わば、殺人の疑似体験(シミュレーション)である。本来(ほんらい)禁忌(きんき)とされる、殺人の疑似体験(シミュレーション)と、()の犯人の(あぶ)()しを(きも)としている。過去にも描写(びょうしゃ)した様に、葵は読書好きである。特に好きなジャンルは推理小説(ミステリー)である。推理小説(ミステリー)は作家と読者の知恵較べとなる(わけ)であるが、()のゲームは如何(どう)だろう? 推理小説(ミステリー)は作家が細心の注意を()って配した(ヒント)が無ければならない。ノックスの十戒(じゅっかい)踏襲(とうしゅう)した物で無ければ、推理小説(ミステリー)とは呼べぬであろう。だが、()のゲームは? 本来(ほんらい)、あるべき(はず)(ヒント)となる様な、些細(ささい)な、矛盾(むじゅん)撞着(どうちゃく)齟齬(そご)捍格(かんかく)が散りばめられているとは限らないのである。


 青のアバターで、アバターにも真紅(しんく)のカチューシャを装着(そうちゃく)した凛子は、ゲームバランスと()う物を考えていた。凛子が見物していた弟のやっていたゲームでは、参加人数が10人に対して、地球外知的生命体(インポスター)が2人であった(はず)である。()のバランスが適正であるか如何(どう)かは扨措(さてお)き、今回は()れよりも3人多い13人なのである。推理小説(ミステリー)の様に、地球外知的生命体(インポスター)が意図を隠蔽(いんぺい)し、韜晦(とうかい)する様な知力があれば、是非(ぜひ)も無いが、()れが無ければ早々にゲームが詰む可能性だってあるのだ。


矢張(やは)り、地球外知的生命体(インポスター)を3人にしようと、開始前に提言(ていげん)しておけば良かったかなあ)


 そう、思わざるを得ない。(しか)し、ゲームは始まってしまったのである。


 群青色(ぐんじょういろ)でサッカーボールを蹴っているアバターは、一平である。


(…)


 元より、(いちじる)しく寡黙(かもく)()の男は、(はた)から見て、何を考えているか判らぬ(ところ)が、多分(たぶん)にある。


 黒のアバターで眼鏡を掛けているのは、明彦である。彼は管理室(アドミン)の方向へ作業(タスク)(ため)に向かったが、内心では()う考えていた。


(おそ)らく、作業(タスク)完了でゲームが終了する事は無いだろうな…)


 ()のゲームの本質をである。()のゲームは元より、地球外知的生命体(インポスター)によるクルーの殺人ゲームを主眼に置いている。つまり、地球外知的生命体(インポスター)が手を出さずに、例えば、妨害工作(サボタージュ)による勝利のみを目指さぬ仕掛けとして、()のルールが存在しているのである。(したが)って、作業(タスク)完了によるクルー勝利は、()わば、つけたりであり、地球外知的生命体(インポスター)地球外知的生命体(インポスター)として機能するのであれば、本来(ほんらい)は有り得ない決着なのである。


 (さて)、ゲーム開始後、1分近く経過した(ころ)、誰かが非常召集のボタンを押した。非常召集のボタンは、各プレイヤーが一度だけカフェテリアで押す事が出来(でき)()れ以外は死体を目撃(もくげき)した時のみに限られている。今回の招集者は正太郎であり、彼は唯一(ゆいいつ)のボタンを此処(ここ)で使用してしまった事になる。画面に死亡者はいない事が告げられる。

「おお、全員無事だな」

如何(どう)したの? 正ちゃん」

「まあ、()()えず、生存確認って(ところ)かな」

 ズーム上で(つぶや)く正太郎に、作業(タスク)を非常召集に()って中断させられた高志がぼやく。

「クッソー。折角(せっかく)作業(タスク)やっていたのに…」

結構(けっこう)面白(おもしろ)いね。(すご)くドキドキしちゃった。私、推理小説(ミステリー)が好きだから…」

 そう感嘆するのは葵である。みうみうも続く。

「みうみうはお掃除したよ」

 ゴミ処理の作業(タスク)の事を()っているらしい。高志が()かさず茶々を入れる。

「そう()えば、みうみう。おめー、アバターでも、(ちち)がでけーな」

「ウッキー、ハロゲン族。超下品(サイテー)!」

 最近、みうみうはいずなの影響を(とみ)に受けている。いずなの口癖(くちぐせ)微妙(びみょう)真似(まね)たらしい。


(うまい。流石(さすが)は経験者)


 内心、そう思ったのは凛子である。タイミングとしては絶妙(ぜつみょう)である。なんでも、『Among Us』の上級者に()れば、()地球外知的生命体(インポスター)が事を起こす前の非常召集は、()(しゅ)定石(セオリー)であるという。とは()え、実際に殺害が発生した(わけ)ではない。(したが)って、地球外知的生命体(インポスター)を特定出来(でき)る様な行動も、不自然な動きもある(はず)も無く、()の時間の議論は自然と長閑(のどか)な方向へと向かう事となった。

「ふわわあ、ゆうちん、ゆうちん。ペスは、ペスは、ペスは?」

 ()状況(じょうきょう)を知ってか知らずか、連呼(れんこ)するのはみうみうである。

「いるよー。後ろで丸くなってるよ」

 祐子がそう答えるや(いな)や、祐子の後方で、ワンワンワンと激しく吠え立てる声が聞こえている。(おそ)らく、賢い彼女(ペス)の事である。みうみうの()った事が判ったのであろう。()の議論の時間であるが、(まさ)しく、人狼(じんろう)ゲームの議論時間と同義である。先程(さきほど)述べたとおり、誰も殺害をされていない()状況(じょうきょう)にあって、議論の時間も無用である。(おそ)らく、地球外知的生命体(インポスター)襤褸(ボロ)を出す事などあるまい。と()うよりも、襤褸(ボロ)の出し様が無いのである。(したが)って、みうみうの様な無邪気(むじゃき)な発言もありうるのである。一同の会話は、ゲームとは()して、関係の無い長閑(のどか)な話題に終始(しゅうし)した。そして、投票終了の時刻である。()れも、人狼(じんろう)ゲームの投票と、(ほぼ)、同義である。投票は無記名であり、人狼(じんろう)ゲームには無いスキップ(吊らない事に投票)が存在する。(しか)し、此処(ここ)で異変が発生した。本来(ほんらい)であれば、()の様な状況(じょうきょう)であれば、スキップに13票集まって(しか)るべきなのである。(しか)し、投票結果(けっか)は、スキップ7票、無投票4票、祐子1票、いずな1票、であったのである。()結果(けっか)には全員に衝撃が走った。問題なのは祐子といずなに投ぜられた票である。無投票、()自体(じたい)も危険なものなのであるのだが、抑々(そもそも)、祐子といずなに投ぜられた票は、(おそ)らくは地球外知的生命体(インポスター)によるものであろう。()のグループの知的部分の(さい)たる二人、所謂(いわゆる)肯綮(こうけい)とも()うべき()の二人に狙いを定めて、投ぜられたのである。


 勿論(もちろん)地球外知的生命体(インポスター)側も意思疎通(コミュニケーション)を欠いていたと()えるであろう。本来、本気で抹殺(まっさつ)を図るのであれば、同じ人物に2票投ずるべきなのである。(いや)()れとても、然程(さほど)、効果の有る事では無い。スキップに2票以上投ぜられれば、()(まで)なのである。(しか)し、全員があの(まま)長閑(のどか)な会話に(かま)け、無投票となった場合は如何(どう)であろう。()れは戦術として、立派(りっぱ)に成立してしまうのである。現に、会話に没頭する(あま)り、投票を失念したと(おぼ)しき人間が4名も居た事になるのだ。一同は()れを大いに反省すると同時に、13人のうち2人は地球外知的生命体(インポスター)であると()厳然(げんぜん)たる事実に、今更(いまさら)(なが)ら、秋霜烈日(しゅうそうれつじつ)の思いを(あら)たにしたのである。


 (さて)、第一回の議論は以上の通りである。会議が終わって、各プレイヤーは四方八方へ散って行った。()の中で一人、水色のアバターである正太郎はウエポンルームへ向かって行った。彼は作業(タスク)(ため)に向かったのである。彼の作業中、何体かのアバターが通り過ぎて行った。赤のアバターと相前後(あいぜんご)して桃色のアバターが酸素ルーム(オーツー)へ向かう廊下(ろうか)を下へ向かって行った。そして、(ほぼ)間髪(かんぱつ)入れず、黄色のアバターが下から上がって来て、カフェテリア方向へと向かって行った。正太郎は作業(タスク)を終えると、ウエポンルームのもう一つの作業(タスク)を行う(ため)に、やや、上方へ移動した。()の際に青のアバターがカフェテリアからウエポンルームを経由して下へ向かって行き、正太郎とすれ違う形となった。そして、青のアバターとすれ(ちが)った(ころ)丁度(ちょうど)、停電が発生した。


畜生(ちくしょう)愈々(いよいよ)、始まりやがったな)


 正太郎は即座にそう思った。地球外知的生命体(インポスター)が、愈々(いよいよ)、サボタージュを仕掛けて来たに相違無い。


 いずなは保管庫(ストレージ)作業(タスク)を処理した後、通信室(コミュニティ)作業(タスク)を片し、途中(とちゅう)、黄色のアバターが管理室(アドミン)までついてきた。()の後、管理室(アドミン)で各部屋の所在人数を確認していた。()の際に、原子炉(リアクター)に1名、上部(アッパー)エンジンに1名、カフェテリアに1名、ウエポンに1名、酸素ルーム(オーツー)に1名、操縦室(ナビゲーション)に1名居た事を確認している。そして、()の直後に停電が発生した。


 停電の恢復(かいふく)には電気室(エレクトリカル)にて作業を行なう必要がある。高志は恢復(かいふく)作業の(ため)下部(ロワー)エンジンより電気室(エレクトリカル)に向かった。()の際に、相前後(あいぜんご)して、原子炉(リアクター)方面の十字路より降りてきた群青色(ぐんじょういろ)のアバターと一緒(いっしょ)に向かう形となった。下部(ロワー)エンジンでは黒のアバターとすれ違っている。電気室(エレクトリカル)前の回廊(かいろう)黄緑色(きみどりいろ)のアバターが保管庫(ストレージ)方向へ向かって行くのを確認している。高志は気を変え、停電復旧には向かわずに、黄緑色(きみどりいろ)のアバターを追い掛ける形で保管庫(ストレージ)方向へ向かって行ったのである。


 ひろみは医務室(メッドベイ)作業(タスク)を行なっていた。()うした奥まった(ところ)での作業には、若干(じゃっかん)、抵抗があった。当然(とうぜん)、前の廊下(ろうか)からは視認(しにん)出来(でき)ずに、此方(こちら)からも廊下(ろうか)状況(じょうきょう)視認(しにん)する事は出来(でき)ない。()のゲーム内には、()()った、デススポットとも()える場所は数多(あまた)存在している。当然(とうぜん)()()った場所での単独作業は襲撃(しゅうげき)誘発(ゆうはつ)する様な物である。ひろみ自身、然程(さほど)油断(ゆだん)があった(わけ)でもなかろうが、つい、現実(リアル)での護身術への信頼が(あだ)となった。此処(ここ)はゲーム空間の中なのだ。地球外知的生命体(インポスター)からの襲撃(しゅうげき)(あらが)(すべ)は無い。次の瞬間(しゅんかん)突然(とつぜん)、彼女の後ろからアバターが出現した。


 グサッ、グサッ、グサッ、グサッ。


 と()う、如何(いか)にも刺殺を連想させる効果音と(とも)に、殺害エフェクトが流れた。


(や…られた。此奴(こいつ)地球外知的生命体(インポスター)だったのか)


 そう思うと同時に、現実(リアル)でのひろみは毒づいた。

「何よ、もう」

 ひろみはベッドの上でふくれている。ひろみはベッドの上に、ばたりと仰向(あおむ)けに倒れこむと、一言(ひとこと)(つぶや)く。

「もう…」

 現実(リアル)のひろみは、何と全裸(ぜんら)である。ベッドの上に寝転ぶと天井を見上げた。ひろみは()られてしまった。()れは、ひろみの()のゲームからの脱落を意味していた。


 ()(ころ)、敬介は保管庫(ストレージ)で給油作業(タスク)を終えた(ところ)であった。上へ向かって歩き出すと、丁度(ちょうど)、藤色のアバターが通信室(コミュニティ)の方からやってきた。


(いずなちゃんだ!)


 敬介は藤色のアバターを追っ掛ける様な形で管理室(アドミン)へ入って行った。(ほぼ)、同時に黄緑色(きみどりいろ)のアバターが下へ降りていくところであった。丁度(ちょうど)管理室(アドミン)には敬介の作業(タスク)がある。藤色のアバターは管理画面を注視している様である。敬介は大好きないずなとゲーム内でも一緒(いっしょ)に居られる事に(ほの)かな幸福を感じていた。


()うして二人(そろ)っているのは、(あなが)ち、悪い戦術ではない。地球外知的生命体(インポスター)襲撃(しゅうげき)をある程度、阻止(そし)出来(でき)るだろう)


 (おそ)らく、敬介の考えは(あやま)ちでは無いだろう。(ただ)し、いずなが地球外知的生命体(インポスター)でなければ、の話ではあるのだが…。倉皇(そうこう)している内に、いずなが移動を始めた。如何(どう)やら、カフェテリア方面へ向かう様であった。回廊(かいろう)へ出ると、丁度(ちょうど)、下からオレンジ色のアバターが上がって来て、3人並走(へいそう)する様な形でカフェテリアへ突入した。停電は(いま)だに回復されてはいない。其処(そこ)で敬介はウエポン方面へ、いずなと高志は上部(アッパー)エンジン方向への長い回廊(かいろう)へと向かって行ったのだ。


 いずなは上部(アッパー)エンジンへ向かう回廊(かいろう)途中(とちゅう)医務室(メッドベイ)への分岐(ぶんき)の地点で(しば)し立ち止まった。と、()うのは、()瞬間(しゅんかん)、停電は解消されたのであるが、()かさず、酸素枯渇(さんそこかつ)警報(アラーム)が鳴り響いたのである。(しか)も、前回の非常呼集から3分近くも経過しているのである。そろそろ、地球外知的生命体(インポスター)が何か起こすには頃合(ころあい)である。オレンジ色のアバターは、迷う事無く上部(アッパー)エンジンへと消えて行った。酸素枯渇(さんそこかつ)を解消する(ため)には、酸素ルーム(オーツー)管理室(アドミン)で操作する必要がある。先程(さきほど)、敬介がウエポン方向へ行った事から考えて、自分は管理室(アドミン)へ向かう方が合理的であろう。いずなは一瞬(いっしゅん)逡巡(しゅんじゅん)の後に、今来た道を戻って行ったのである。


 ヤスベエはセキュリティルームで監視カメラの前で監視を続けていた。()の監視カメラは船内の4箇所を監視する事が出来(でき)るのである。ヤスベエは思った。


()の監視カメラって仕組(システム)は性に合っているなぁ)


 (いく)つものアバターが様々な動きをしている。藤色のアバターが医務室(メッドベイ)前の回廊(かいろう)をカフェテリア方向へ戻って行く。青のアバターが酸素枯渇(さんそこかつ)警報(アラーム)を受け酸素ルーム(オーツー)へ飛び込んで行く。(ほぼ)、入れ違いに、黄色のアバターがカフェテリアに向かって行く。(さら)に、黄緑のアバターがシールドルームの方から上に上がって来た。恐らくは、酸素ルーム(オーツー)へ向うものらしい。続いて酸素ルーム(オーツー)から出て来たアバターがあった。()のアバターは、黄緑のアバターと操縦室(ナビゲーション)前のT字路ですれ違ったが、次の瞬間、シールドルームを行き過ぎた(ところ)で、なんと通風孔(ベント)へ飛び込んだのである。


「あっ」


此奴(こいつ)地球外知的生命体(インポスター)か!)


 (はか)らずも、一人目の地球外知的生命体(インポスター)は判明した(わけ)である。かなり、意表を突く人物では有る。


(まずい。早く非常召集しないと…)


 早く、()の場を脱出し、情報を(みんな)と共有しなければならない。彼女は足早に監視カメラを離れようとした()の時、目の前に()る人物が居た。


 グサッ、グサッ、グサッ、グサッ。


 そして、殺人エフェクトが流れた。同時にヤスベエは、皮肉(ひにく)にも二人目の地球外知的生命体(インポスター)の正体を知る事となった(わけ)なのである。


此奴(こいつ)が二人目の地球外知的生命体(インポスター)だったのか…)


 ヤスベエのアバターは()かさずゴースト化し、壁を透過(とうか)し、残りの作業(タスク)を片付けに行ったのだった。


「あっ」


 六助はセキュリティルームに踏み込むと、奥の管理画面コンソール前にピンクのアバターの死体があった。ヤスベエのものである。一方(いっぽう)、セキュリティルーム下方の通風孔(ベント)周辺では、群青色(ぐんじょういろ)のアバターがうろうろしている。一平である。右に行ったり、左に行ったりと、通風孔(ベント)の上を(しき)りに上下左右に移動しており、作業(タスク)をしている風でも無く、極めて疑わしい状況(じょうきょう)である。()し、一平が地球外知的生命体(インポスター)であれば。()(まま)、殺害されてしまう恐れすらある。六助はヤスベエの死体発見に接し、表示された発報(はっぽう)ボタンを()かさず押したのであった。


 全員がカフェテリアに緊急招集された。死亡者の上に×印(デッド・マーク)が表示される。ひろみ、凛子、みうみう、ヤスベエの上に×印(デッド・マーク)が表示されている。

「うわぁ、お茶屋の貧乳娘(ひんにゅうむすめ)が死んでる!」

 下品な雄叫(おたけ)びを()げるのは、高志である。明彦も続いた。

「凛子も()られているぞ。一体(いったい)何処(どこ)でだ? 誰が()った?」

「今のは通報(レポート)ボタンだったよな? 押したのは誰だ?」

 正太郎の疑問に、六助が答える。

(おれ)だよ。セキュリティルームでヤスが()られていた」

 葵がぼそりと()った。

「私は、前回の召集の後は、大体(だいたい)()いて、右側にいたなあ。管理室(アドミン)から、保管庫(ストレージ)、シールドへ行った時、酸素枯渇(さんそこかつ)警報(アラーム)を受け操縦室(ナビゲーション)から酸素ルーム(オーツー)に向かったんだけど、みうみうとは会わなかったよ。祐子ちゃんとは一度すれ(ちが)ったけど。でも、酸素ルーム(オーツー)に行ったら、其処(そこ)で凛子ちゃんが(ころ)されていて…。通報(レポート)ボタンを押そうとした矢先に、召集されて…」

 明彦の問い掛けに答えた形である。

「つまり、酸素ルーム(オーツー)での事だな。酸素ルーム(オーツー)側の恢復(かいふく)を操作したのは誰なんだ? 葵ちゃんなのか?」

 正太郎の問い掛けに、敬介が答えた。

「いや、多分(たぶん)(おれ)だと思う。(おれ)が飛び込んだ時には祐子ちゃんが作業(タスク)をやっていた。だが、(おれ)酸素枯渇(さんそこかつ)恢復(かいふく)操作をした時には、酸素ルーム(オーツー)には、凛子はいなかったし、抑々(そもそも)、死体なんぞ無かったぞ」

「つまり、()の後の話と()(わけ)か…。と()う事は、()られたのは、つい、先刻(さっき)()(わけ)だな。()れで、管理室(アドミン)側の恢復(かいふく)をしたのは誰なんだ?」

 正太郎の問い掛けに答えたのは、いずなである。

「ムッキー、いずなだよ。警報(アラーム)が鳴った時、ケースケがウエポンへ向かって行くの見てたから、いずなは管理室(アドミン)へ行ったんだよ。正ちんこそ、何処(どこ)にいたの?」

(おれ)警報(アラーム)が鳴った時は、通信室(コミュニティ)にいた。丁度(ちょうど)、葵ちゃんがシールドを上がっていくのが見えたから、ユーターンして保管庫(ストレージ)経由で管理室(アドミン)に向かったんだ。明彦は何処(どこ)にいたんだ?」

(おれ)は、酸素枯渇(さんそこかつ)警報(アラーム)の時は電気室(エレクトリカル)にいたなあ。ちょっと前までは一平もいたが、()の時は電気室(エレクトリカル)に六しかいなかったと思う…」

 明彦が述懐(じゅっかい)する。いずなは()き続き祐子に(たず)ねた。

「祐チンは?」

「私はカフェテリアだった。酸素ルーム(オーツー)からウエポン付近まで敬介君と一緒(いっしょ)だったから…」

 敬介も同意する。

「確かに祐子ちゃんとすれ(ちが)ったよ」

 正太郎が取り(まと)める形で(つぶや)いた。

成程(なるほど)。凛子とヤスベエの現場は判ったが、みうみうとひろみは、一体(いったい)何処(どこ)()られたんだ? 誰か目撃(もくげき)した(やつ)(ある)いは情報を持っている(やつ)は?」


 通報(レポート)ボタンが押されると、()(まで)、現場で転がっていた死体は消滅してしまう。(したが)って、殺害場所を特定する事自体(じたい)、困難となって来るのだ。祐子が、(おもむろ)に、(しゃべ)りだした。

「前回の召集直後、行動を(とも)にしていたのは私だと思う。私がウエポンで作業(タスク)をしていた時、みうみうちゃんも作業(タスク)をしていたみたいだから…。()れで、終わった後、私は操縦室(ナビゲーション)へ行ったんだけど、みうみうちゃんはシールドルームの方へ行ったみたい…」

 そして、敬介も続く。

(おれ)大体(だいたい)()いて、右側に居たからなあ。()れも、シールドルーム、保管庫(ストレージ)通信室(コミュニティ)を中心にな。みうみうは一度すれ違ったと思う。確かシールドルームから上に向って行ったと思う。()の時、(おれ)はシールドルームで作業(タスク)をしていた」

成程(なるほど)な。他に、()(あと)のみうみうを、目撃(もくげき)した(やつ)は?」

 正太郎の問い掛けに口を開く者はいなかった。

「誰もいないのかよ? 高志は如何(どう)だ? 何処(どこ)にいた?」

(おれ)大体(だいたい)、左の方にいたなあ。みうみう、凛子とは一度もあってねえ。やじろべえは、一度、原子炉(リアクター)で見かけた。確か()(さい)、六も(そば)にいた。だが、(しか)し、ひろみについては()える事がある。(おそ)らく、ひろみが()られたのは医務室(メッドベイ)だ」

 此処(ここ)で高志は衝撃的な発言をする。正太郎が思わず聞き返す。

「本当か? 何か根拠(こんきょ)があるんだな?」

「ああ、(おれ)医務室(メッドベイ)の前の回廊(コリダー)上部(アッパー)エンジン方向に行った時、ひろみが()られるのを目撃(もくげき)した。モニターの(あた)りだ。そして、()ったのは明彦だ!」

「な、何を馬鹿(バカ)な事を…。(おれ)医務室(メッドベイ)などに入った事も無いぜ。何か証拠でもあんのかよ。医務室(メッドベイ)のモニターの前って、通風孔(ベント)の横のベッドの最奥部だよな? 大体(だいたい)、お前が目撃(もくげき)したって、抑々(そもそも)廊下(ろうか)から其処(そこ)(まで)見えるのかよ? それに、目撃(もくげき)したとほざくのは何時(いつ)(ごろ)の事なんだよ?」

丁度(ちょうど)、停電が恢復(かいふく)して、酸素枯渇(さんそこかつ)警報(アラーム)が鳴りだした(ころ)だ」

「つまり、停電明けって事だよな。()れなら、(おれ)電気室(エレクトリカル)にいたぜ。六と一平が証人だ」

「ああ、明彦なら確かにいたぜ」

 六助が明彦の証言を担保(たんぽ)する。だが、高志は(さら)に明彦に詰め寄る。

「オメーは下部(ロワー)エンジンから十字路の方へあがって行ったじゃあねーか。(おれ)()(ちが)ったぞ? あの時、医務室(メッドベイ)に向かったんじゃねーのか?」

「ああ、確かに()(ちが)った。だが、停電が起きたから、修理(しゅうり)する心算(つもり)原子炉(リアクター)から下へ降りて行ったんだ。手前(てめえ)こそ修理(しゅうり)もせずに電気室(エレクトリカル)前を素通りして行ったじゃねーか。大体(だいたい)、殺害現場を見たとかほざくのなら、何故(なぜ)()の時に通報(レポート)しねえ? 其処(そこ)は明らかに変じゃねーか?」


 ()れには高志も言葉に詰まってしまった。確かに、明彦の()う反論にも一理ある。()し、本当に殺人現場を目撃(もくげき)していたのなら、明彦の()うとおり、即座に通報(レポート)ボタンを使用出来(でき)るし、又、通報(レポート)すべき事案なのである。其処(そこ)躊躇(ちゅうちょ)すべき理由は何一つ無い。()の場合、明彦の主張には(すじ)が通っており、明彦と高志の対立は、(いささ)か、明彦に()がある様に思われる。


 ()うした、プレイヤーの虚虚実実(きょきょじつじつ)()()きを主題(テーマ)としたゲーム。(まさ)人狼(じんろう)ゲームが()れなのであるが、意外と()の歴史は古く、1980年代に一世(いっせい)風靡(ふうび)したボードゲームである『ディプロマシー』が、()嚆矢(こうし)とされる。()のゲーム。第一次大戦前夜のヨーロッパを舞台として、各プレイヤーはイギリス、フランス、イタリア、ドイツ、ロシア、オーストリア、トルコの七大国に扮し、虚虚実実(きょきょじつじつ)な外交戦を展開するのであるが、()のゲームの秀逸(しゅういつ)な点は、サイコロを使わない点にある。つまり、偶然の要素を完全に排除(はいじょ)し、如何(いか)に、相手を(だま)し、(あざむ)き、出し抜く事が要求されたゲームなのである。(しか)()秀逸(しゅういつ)なゲームシステムは()る意味完全に(あだ)となってしまった。結果(けっか)()のゲームは、数多(あまた)の優良なゲームクラブを崩壊させた、悪魔のゲームとして後世に名を残す事に成ったのである。結局(けっきょく)()のゲームの様に人間の負の部分に重きを置き、人間の闇の部分を凝縮した様なゲームでは、如何(どう)しても、()の影響はゲーム内だけに留まらず、本来(ほんらい)の人間関係に致命的な(ひび)をいれる事に成りかねない。()結果(けっか)、ゲームクラブ自体(じたい)瓦解(がかい)させる様な感情的しこりが其処(そこ)彼処(かしこ)で発生し、(はなは)主客転倒(しゅきゃくてんとう)な話ではあるが、クラブ自体(じたい)を崩壊させて行く事になったのである。(したが)って、()の後に出たボードゲームである、『マキャベリ』や『文明の(あけぼの)』では『ディプロマシー』の外交を踏襲(とうしゅう)しつつ、運の要素をふんだんに取り入れられている。特に『文明の(あけぼの)』ではゲームオーバーと()概念(がいねん)が無く。プレイヤーが退場する事が無い。人間誰しも、自身が納得する(ため)の理由を必要としており、ゲームが終了した際に、『あの時、正太郎が裏切らなかったら』と、『あの時、飢饉(ききん)が発生しなかったら』では、()(あと)現実(リアル)()ける人間関係がまるで違ってくるのである。


 (さて)、議論時間も残り30秒を切った。六助が一平に(たず)ねた。

「ところで、一平。何故(なぜ)、オメーは通報(レポート)しなかった? セキュリティにいたよな? (しか)も、通風孔(ベント)周辺をうろうろしやがって?」

通風孔(ベント)?」

 一平が(いぶか)()反芻(はんすう)する。咄嗟(とっさ)には、何の事だか判らぬ風であった。(しか)し、此処(ここ)で一平の口から、とんでもない爆弾発言が飛び出す。

「だって、(おれ)の目の前で、地下道に入って行った(ヤツ)がいて…、(おれ)真似(マネ)出来(でき)るかと思って…」


「!」


「おい、()れって…」

 敬介の(つぶや)きに続き、正太郎が(うめ)く様に()った。

通風孔(ベント)の事じゃねーのか?」

「おい、ばかやろ。超重要情報だろ。何故(なぜ)()れを先に()わねえ」

 敬介が気色(けしき)ばむ。明彦が(あき)れる。

「ひょっとして、(ヤツ)は狂人(人狼(じんろう)ゲームに()いて、市民でありながら人狼(じんろう)をサポートする役職)か?」

「いや、()のゲームにそんな仕組(システム)()え」

 正太郎が言下(げんか)に否定する。

「ねえ、一平君。()れって、一体(いったい)何処(どこ)の話なの?」

「ああ、祐子ちゃんか。彼処(あそこ)だよ。ヤスベエの殺されていた部屋の…、何つったけか?」

「セキュリティか…」

 もう、議論時間は(ほぼ)無い。(しか)し、此処(ここ)(さら)なる爆弾発言が飛び出す。

「でも、(おれ)は明彦が通風孔(ベント)を使っている(ところ)を見たぜ。医務室(メッドベイ)でな」

 声の主は敬介である。()途端(とたん)、議論時間は終了した。


 投票結果(けっか)は明彦が3票、高志が2票、一平が1票、そして、スキップが3票。綺麗(きれい)に票が割れた形となった。『誰も追放されなかった』の、エフェクトが流れる。ゲームは実に混沌(こんとん)とした状況(じょうきょう)(てい)して来ている。一体(いったい)地球外知的生命体(インポスター)は誰か、そして、()のデスゲームの行方(ゆくえ)如何(どう)なるのであろうか?

次々と倒されて行くクルー達。然し、最初召集会議の発言中にも、数多の矛盾、撞着は確かにあった。果たしてインポスターは誰か? そして、其の結末は如何に? 次号、『第36話 Among Us!【後編】』括目して待て。

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