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第34話 約束の地アマルフィにて

 12月21日土曜日午前10時50分過ぎ。正太郎は部室で、机に顔を()()した(まま)で、(へこ)んでいた。()し、()の構図に表題(タイトル)をつけるのであれば、『(すべ)てに絶望せる哀れなる男』と()うのが、最も的確(てきかく)なのでは無いか? (かた)や、()(かたわ)らには(すこぶ)ご機嫌(ハイテンション)な祐子が、ニコニコし(なが)椅子(いす)に腰掛けている。寒椿(カンツバキ)見頃(みごろ)を迎える()時季(じき)、今日から、待望(たいぼう)の冬休みが始まる。一般的な生徒の期待(およ)び希望を数値化(クォンティファイ)すれば、今が、()わば、熱量(エントロピー)が最も高い状態(ステータス)であり、年末・年始を()て、新学期早々の実力テスト、(すなわ)ち、絶対(アブソリュート)零度(・ゼロ)に向けて、収束(しゅうそく)して行く形となる。部室には、他に、高志とひろみがいる。()の後、部室と講堂の大掃除と英語の補習(()れは正太郎のみ)で、今年の部内と学内の予定は()れで(すべ)て終了である。扨々(さてさて)(しか)し、よくよく見れば()の組み合わせ。()しくも先一昨日(さきおととい)(いささ)(みょう)(ところ)遭遇(エンカウント)した、ちょっぴり大人(アダルト)な4人組でもある。


 実は、昨日(きのう)、二学期の成績表が手渡された。(すなわ)ち、終業式の翌日での事である。(さら)に、(さかのぼ)る事3日前には、二学期の期末試験の総合順位も発表されていた。此処(ここ)で、心配性な読者の(ため)にも、いつもの8人について、()の成績を抜粋(ばっすい)しておこう。(おおむ)ね360人中、祐子13位、いずな16位、高志39位、明彦45位。()の4人については、壁新聞組(成績上位者につき名前張り出し)である。続いて、凛子52位、ひろみ83位、正太郎121位、敬介148位。全員、前回の騒動(七夕(たなばた)騒動)があった一学期期末試験より、大幅(おおはば)に順位を上げていた。特に正太郎と敬介の大躍進(だいやくしん)目覚(めざま)しく、一気に150位以上順位を上げた形である。にも(かかわ)らず、意外な程、落ち込む正太郎を見咎(みとが)めて、ひろみが(たず)ねた。

「何よ、あんたは? 鬱陶(うっとう)しいわね。一体(いったい)如何(どう)したってえのよ」

「いや、通信簿がな…。畜生(ちくしょう)昨日(きのう)親父(おやじ)にボコボコにされた。くっそー」

「何でなの? あんた、一学期末が花道だったんでしょ。今回、総合順位121位なら、大躍進(だいやくしん)()(とこ)じゃないの。敬介なんて148位だけど、大喜びでみんなに見せて回ってたわよ。『今回は赤点が一つもない。驚異の200人抜きだ』って。いずなの手を両手で押し(いただ)いて、『()れも()れも、いずなちゃんのお陰だ。ありがとう』とか()(なが)ら、(はしゃ)ぎまわっていたわよ」

「一学期、どんだけ、悪かったんだよ。彼奴(あいつ)は。正太、オメーもそうなのか?」

 高志が突っ込む。

「いや、(オレ)、一学期は298位。限々(ぎりぎり)、花道じゃあなかった。でも、成績は2から5だけで構成されていたんだ。多数決を取ると2が優勢なレベルの…。()れが、今回、現国の8を皮切りに、7だの6だのが入って来やがってよ…」

()れの、一体(いったい)何処(どこ)が不満だって()うのよ? (まった)く、意味が(わか)ん無いわね」

「成績表がな…。親父(おやじ)が5段階評価じゃなく、10段階評価である事に気が付いちまったんだよ。()れで、親を(たばか)りやがってと、一学期の分も(まと)めて、()れこそボッコボコに…」

「あきれた…。(ただ)の、意図的(いとてき)不作為(ふさくい)じゃないの? クリスティのあれと同じね。フェアかアンフェアかで論争になった(ヤツ)…。まあ、あんたの場合は、明らかにアンフェアだと思うけど…」

「おー、あれかあ。所謂(いわゆる)叙述(じょじゅつ)トリックって(ヤツ)だな」

「何が叙述(じょじゅつ)トリックだ。人聞きの悪い。叙述(じょじゅつ)トリックもクソもねーだろ。親父(おやじ)馬鹿(ばか)が、勝手に勘違いしただけじゃねーか」

抑々(そもそも)()れを叙述(じょじゅつ)トリックって()うんだろうが」

 高志に続いて、ひろみも(たしな)める。

「何、()ってんのよ。一学期は、あんたが勘違い(ミスリード)(ねら)っていたのは、明白(めいはく)じゃないの。5がMAXだった事を()い事に…。そう()えば、夏休み前に、小遣(こづか)い増額されたとか、戯言(たわごと)、ほざいていたもんね。…あの成績で(みょう)だとは思ったけど…」

「正ちゃんのお父さん、厳しいもんね」

(オレ)、知ってんだぜ。親父(おやじ)だって、『兵隊さんが棒をいっぱい(かつ)いだ』様な、成績だったって」

()れまた、えらく古風な表現だな…。いつの時代の人だよ。(まった)く。(甲乙丙丁戊(こうおつへいていぼ)の内の丙丁戊(へいていぼ)だけで構成された成績。()の場合、特に()が多いケース)」

「正ちゃん。今回、2は?」

(まった)く無し」

「やったね。補習無しだね」

「いや、祐ちゃん。英語が3だったからな。補習が(まった)く無しと()(わけ)じゃあ無いんだ。でも、今回は英語だけだし、冬休みは日程がタイトだから、補習も今日でおしまい。()れだけは、本当にありがたい。()れも、祐ちゃんのお陰だ」

「そんな事ないよ。正ちゃん、頑張(がんば)っていたもの。でも、()れなら、後は、年末にかけて楽しいイベントばかりだね。差し詰め、クリスマス…」


 正太郎が、高志とひろみを牽制(けんせい)する様に、流眄(ながしめ)(なが)()った。

「ところで…、()(けん)なんだけど、今、俺達(おれたち)8人、眼鏡(メガネ)コンビやいずな達も含めて、みんな(つが)いになっているだろ。クリスマスイブも、みんなで()り上がった方がいいのか、個々に()り上がった方がいいのか。()れに、六助(ロク)一平(イチ)も、(たま)には誘えって、(うるさ)いしよ。高志は、如何(どう)思う?」

「うーん、確かにな。二人だけで盛り上がりたいって(やつ)らもいるだろうしなあ。でも、()の前みたく、妙な(ところ)でバッティングってのもなあ。(オレ)抑々(そもそも)、敬介やいずなみたいに、毛も()(そろ)ってそうも無い(ヤツ)らと、ああ()場所(トコロ)で、遭遇(エンカウント)したら、多分(たぶん)、2月位まで、立ち直れないと思うぜ」

「ちょっと、あんた、また、そう()(とこ)へ行く心算(つもり)なの? 昨日(きのう)もストロベリーパフェ食べに行ったのに…。まあ、そりゃ、高志が如何(どう)しても、行きたいって()うのなら、あたしも無理(むり)には、反対はしないけど…」

「いっ、お、(オレ)?」

 (しか)し、正太郎がひろみの失言に驚いて、()かさず突っ込む。

「き、昨日(きのう)もって、また行ったのか?」

 高志が(あわ)てて、()(つくろ)う。

「いや、だって、昨日(きのう)は終業式だったし、()の、学期の節目(ふしめ)に何か想い出に残る事をしないといけないだろ…」

全然(ぜんぜん)、関係ねーだろ。おい、ちょっと待てよ、そう()えば、(たし)か、一昨日(おとつい)も…」

 祐子も()かさず、相槌(あいづち)を打つ。

「そうそう、あの時。()の後、パフェを食べに行くんだー、とか何とか、ひろみちゃん()ってたよね…」

 一昨日(おととい)(くだん)の部室立ち聞き事件(じけん)の当日である。確かに、()の日の別れ(ぎわ)、高志とひろみは所用(ようじ)があるとかで、早々に、二人して匇卒(そそくさ)と姿を消している。

「違うわよ。一昨日(おととい)は、如何(どう)してもチョコパフェが食べたいって高志が()うから、仕方(しかた)無く…。…()の、あたし、…(ほか)にパフェ屋も知らないし」

抑々(そもそも)彼処(あそこ)はパフェ屋じゃねーだろ。お前らはパフェ屋を何だと思ってやがんだ。日本全国のパフェ屋さんに謝れ! (しか)し、するってえと、何か? つまり、三日連続じゃねーか。成程(なるほど)()れなら、確かに想い出にも残るわな」

「ひろみちゃん達、三日連続なんて、何か()いなあ。仲良しさんで(うらや)ましいなあ」

 祐子が心底(しんそこ)(うらや)ましそうな顔をする。

「違うのよ、祐子。昨日(きのう)()(かく)一昨日(おととい)はあくまでもパフェが目的で…」

 正太郎がニヤニヤし(なが)ら、

「だから、あんな(ところ)へパフェ目的で行く馬鹿(ばか)は、滅多(めった)にいねーだろ」

「まあまあ、正太。あん時は本当にパフェ目的でだな…。でも、高い金払ってパフェだけってのも、流石(さすが)に芸が無いってんで、仕方(しかた)無く、やるべき事は、(しっか)りやったけど…」

「ちょっと待ちなさいよ! 仕方(しかた)無くって、一体(いったい)如何(どう)()う意味よ!」

 高志とひろみが羞恥(しゅうち)と照れくささで、しどろもどろになり(なが)らも、しょうもない痴話喧嘩(ちわげんか)を始める。(しか)し、正太郎の()()みは収まらない。

(しか)し、弥早(いやはや)、三日連続とはなあ…。何と()うか…、()の、好きだな」

「いや…、()の…、あの、だから」

 ひろみは()()になり(なが)ら、口篭り(フィラー)の連続である。正太郎はニヤニヤし(なが)ら、(さら)()()む。

「まるで、覚えたてのサルと同じだな」

「…()無礼者(ぶれいもの)!」

「ぐはぁ」

 ひろみの一喝(いっかつ)(とも)に、ひろみの正拳突きが、高志ではなく正太郎の鳩尾(みぞおち)急襲(きゅうしゅう)する。かなり、(めずら)しい構図(こうず)である。()(ため)、4人の話題は今日からの冬休みの予定にと、急速に戻って行く事となったのである。


 祐子がニコニコし(なが)(たず)ねた。

「それで、ひろみちゃんたちは、クリスマスイブに二人だけで行くなら、如何(どう)()(ところ)へ行きたいの?」

「ああ、(オレ)如何(どう)()(ところ)が、ひろみが喜ぶのか良く分らなくてさ。(むし)ろ、教えてもらいたい位だぜ」

 高志も勘良く、早速(さっそく)、話を()らせにかかる。そんな、高志を知ってか知らずか、ひろみが夢見る様な調子(ちょうし)で続ける。

「そうねえ。おいしいお料理が出て、カラオケなんかもあって、小洒落(こじゃれ)たゲーム機かなんかが置いて有って、ムードミュージックも素敵なメロディーが流れていて、あと、高志にちょっと甘えられる様な場所があって…。そうそう、あと、お風呂(ふろ)も有れば()いわよね。そして、お風呂(ふろ)の後には、やっぱりパフェよね」

 正太郎が、(あき)れた様に、平然(へいぜん)と、事も無げに()ってのけた。

今迄(いままで)の条件を、厳密(げんみつ)精査(せいさ)()つ検討した(かぎ)り、()れって、普通にラブホだよな…」

 ひろみが()()になり(なが)ら、憤然(ふんぜん)(さけ)ぶ。

()無礼者(ぶれいもの)! 乙女(おとめ)に向かって、何て事、()うのよ、正太。乙女(おとめ)(ささ)やかな夢を、侮辱(ぶじょく)する心算(つもり)? 白樺(しらかば)の林に囲まれた、軽井沢とか、清里辺りのペンションのホワイトクリスマスを、想像(イメージ)したのよ」

 高志も()()になり(なが)ら反論する。

「ふざけんな、何を()いやがる。360度どっから見ても、まんま、俺達(おれたち)入室(チェックイン)した、『リバー・サイド・ホテル』の小部屋(こべや)じゃねーか。何が白樺(しらかば)の林だ。最初はカラ箱 (カラオケボックス)かと、思ったけど、風呂(ふろ)なんて、ねーしよ。クイズにしたら、一般の人の正答率が97%の問題だぞ」

「祐子ぉー。みんな(ひど)いよね。乙女(おとめ)のロマンチックな憧憬(ゆめ)を…」

「…いや。私もてっきり、ラブホかな、と…。ひろみちゃん、気に入っちゃったのかなって思って…。『リバー・サイド・ホテル』に3日連続で行ってるし…」

「祐子。お願いだから、()(くだり)はもう忘れて。大体(だいたい)、みんな、発想が下世話(げせわ)に過ぎるわよ。あーやだやだ。大人(おとな)になっちゃった人たちは…」

「ふざけんな。お前だって、同じ穴の(むじな)だろうが。大体(だいたい)、あの時も、『今日は泊まってっちゃ駄目(だめ)?』、とか、飛んでもねえ、無茶(むちゃ)振りをだな…。あいたたた…」

 ひろみがふくれ(なが)ら、高志の左腕を、後ろ手に(ひね)りあげている。

「今のは、高志君が悪いよね。そう()う、乙女心(おとめごころ)をちゃんと分かってあげないと…。今度、正ちゃんにも、()ってみよ。()れに、私も、3日連続で連れてって欲しいし…」

 如何(どう)も、先日以来、祐子も赤裸々(せきらら)に過ぎる(きら)いがある。正太郎が(あわ)てて(つぶや)く。

「…冗談(じょうだん)じゃねーぞ。おい」


 其処(そこ)へ、いずなと敬介、明彦、凛子が入ってきた。敬介がニコニコし(なが)()った。

「あっ。又、なんかやってる。今日は一体(いったい)何の騒ぎ?」

(うるさ)いわね、観世物(みせもの)じゃないわよ」

 敬介が(あわ)てて(さけ)ぶ。

「わー。ごめんなさい」

 いずながニヤニヤし(なが)ら、

「だから、如何(どう)見ても観世物(みせもの)だって…。ひろみっち、今度はハロゲン族、何をしたの」

 ひろみは、高志の手を離し(なが)ら、()った。

「何でもないわよ。クリスマスの相談をしていただけ」

「ふーん。クリスマスの相談ねえ。痴話喧嘩(ちわげんか)にしか、見えないのになあ」

 祐子が勘良く、話を()らせに掛かった。

「いずなちゃんなら、クリスマスイブ、何処(どこ)行きたい?」

「うーんとね。いずな、お歌が歌えるところがいいな」

「今、二人だけがいいか、みんなで行くかで、()めてたの」

「お歌、うたうなら、みんなの方がいいなあ。ケースケ、アニソン全然(ぜんぜん)知らないんだよ」

「うわー、ひどいよ、いずなちゃん。ちゃんとサ●エさん歌ったじゃないか」

「そんな、おじいちゃんの時代からの国民的アニメを持ち出されても…」

「そんな、ちび●る子ちゃんも歌ったじゃないか」

「確かに、清水のレジェンドだけど、そんな、パパの子供時代のアニメを持ち出されてもなあ…」

 凛子がニコニコし(なが)ら、

「いずな、()の辺にしといてあげなさいよ。青くなって震えているみたいだから、…作者が。ところで、みんな、イブは如何(どう)するの?」

「うーん。いずなも、考えているんだよ。(みんな)で盛り上がるのも楽しそうだし、ケースケと二人きりってのもいいかなあって」

 敬介が横で赤くなり(なが)らも、鼻の下を伸ばしている。其処(そこ)で凛子が何かを思い出した様に(つぶや)いた。今日は珍しく単色ではなくレインボーカラーのカチューシャをしている。

「そう()えば…。祐子かいずなにあったら聞こうと思っていたんだけど…」

如何(どう)したの?」

「ムッキー。なーに。凛子っち」

 祐子といずな、それぞれが反応する。

「あんたたち、『Among Us』ってゲーム、聞いた事有る?」

「ううん。知らないよ」

 祐子は(かぶり)を振る。(しか)し、いずなは大きく(うなず)いた。

「ムッキー。知ってるよ。パパがやっているのを見た事がある。人狼(じんろう)みたいなゲームでしょ。見ていて、結構(けっこう)面白(おもしろ)そうだなって、思ったよ」

「ああ、()れなら、(オレ)、プレイした事あるぜ」

(オレ)も」

 高志と正太郎が名乗りを()げた。

「あたしも、弟がやっている後ろで見てたんだけど、結構(けっこう)面白(おもしろ)そうなのよねー。まあ、やっている事は人狼(じんろう)なんだけどさ」

「ねえ、凛子ちゃん。()れ、どんなゲームなの。教えて」

 ゲームオタクでも有る祐子が、早速(さっそく)に食いついた。

「まあ、あたしも、弟の後ろで見ていただけだから、そんなに、(くわ)しい(わけ)じゃあないんだけれど…」

 そう前置きし(なが)らも、凛子は説明を始めた。


『Among Us』はアメリカ発のオンライン多人数ゲームで、宇宙を舞台としたオンラインゲームであり、()骨子(こっし)は、所謂(いわゆる)人狼(じんろう)ゲームである。()(ゆえ)に、宇宙人狼(うちゅうじんろう)などと呼ばれる事もある。プレイヤーは、閉ざされた宇宙船、(ある)いは、基地の中で、乗組員(クルー)(村人)とインポスター(人狼(じんろう))陣営に分かれる。インポスター。和訳(わやく)すれば、詐欺師(さぎし)偽者(にせもの)、替え玉、(だま)す人とでも(やく)すのであろうが、公式に()れば、人間に擬態(ぎたい)した地球外知的生命体となっているから、()稿(こう)では、地球外知的生命体(インポスター)で統一する事にしよう。乗組員(クルー)から見た場合、乗組員(クルー)地球外知的生命体(インポスター)の識別は出来(でき)ずに(地球外知的生命体(インポスター)同士は識別可能である)、当然(とうぜん)、誰が地球外知的生命体(インポスター)かと()疑心暗鬼(ぎしんあんき)が発生する。乗組員(クルー)(すべ)てのタスク(簡単なミニゲーム)をこなすか、後述する投票により、(すべ)ての地球外知的生命体(インポスター)排除(エリミネート)出来(でき)れば乗組員(クルー)側の勝利である。一方、地球外知的生命体(インポスター)はサボタージュと呼ばれる妨害工作を行なえる。ドアのロック、停電、通信妨害、酸素枯渇(さんそこかつ)炉心溶融(メルトダウン)があり、()の内、特に、酸素枯渇(さんそこかつ)炉心溶融(メルトダウン)は30秒以内に解消されなければ、自動的に地球外知的生命体(インポスター)側の勝利となる。(さら)地球外知的生命体(インポスター)は一定条件を満たせば、任意に乗組員(クルー)を殺害する事が出来(でき)る(まあ、()の部分は人狼(じんろう)ゲームの(まま)なのであるが)。()って、地球外知的生命体(インポスター)側は、乗組員(クルー)の人数を地球外知的生命体(インポスター)以下にすれば、地球外知的生命体(インポスター)側の勝利となる。地球外知的生命体(インポスター)は一定時間の経過と伴に、乗組員(クルー)に接近した際に、殺害ボタンが現れるので、乗組員(クルー)を殺害する事が出来(でき)る。殺害されると、エフェクトが流れ死体として残るのである。そして、誰かが死体を発見した時、()しくは、カフェテリア内の緊急招集ボタンを使用した時に、緊急招集が行なわれ、会議を行なう事となる。会議では、目撃情報、アリバイ、疑わしい状況(じょうきょう)などの意見を戦わせ、最後に追放すべきメンバーを投票する(勿論(もちろん)、棄権も出来(でき)る)。()の時、一番票が集まったプレイヤーが追放される。追放は死亡と同義である。殺害されたプレイヤーや追放されたプレイヤーは、()の後ゴーストとしてゲームに参加出来(でき)、タスクやサボタージュをする事が出来(でき)る。()の点は、通常の人狼(じんろう)ゲームと異なり、(すべ)てのプレイヤーが最後まで楽しめる設計となっている。此処迄(ここまで)の説明で分る様に、地球外知的生命体(インポスター)排除(エリミネート)は追放に()ってのみ発生する(ため)乗組員(クルー)側はゲーム時間内に全地球外知的生命体(インポスター)(あぶ)り出す必要に迫られる。地球外知的生命体(インポスター)が殺害を企図した場合、乗組員(クルー)が防御する事は不可能なので、非常召集から発生する一定時間殺害が出来(でき)ないクールタイムを利用し(なが)ら、時間を稼ぎ、証拠を集め、疑わしい乗組員(クルー)を論破し、投票で吊っていくしかないのである。()のゲームに()いて、人狼(じんろう)ゲームの様な役職、(すなわ)ち、狩人、占い師、霊媒、狂人、妖狐、双子、パン屋などは無く、純粋に乗組員(クルー)地球外知的生命体(インポスター)構図(こうず)となっている。(さら)に、地球外知的生命体(インポスター)の能力の一つとして、通風孔(ベント)の使用がある。()れは、各部屋を繋ぐ通路ではなく、通風孔(ベント)を使って移動する事である。()れは、地球外知的生命体(インポスター)乗組員(クルー)の意表をつく動きを出来(でき)(わけ)であるが、()る意味、()れは諸刃(もろは)(やいば)でもある。何故(なぜ)なら、通風孔(ベント)を使用しているのを目撃された瞬間(しゅんかん)地球外知的生命体(インポスター)である事が判明してしまうのである。例えば、殺人は複数、人が密集している状況(じょうきょう)で発生した場合(所謂(いわゆる)、ごちゃキル)、居合わせた誰かに罪を(なす)り付ける事も可能だが、通風孔(ベント)の場合はそうもいかない。誰かに目撃された瞬間(しゅんかん)に、地球外知的生命体(インポスター)である事が確定してしまうのである。(ゆえ)に、()のゲームが上手な人は、(あま)通風孔(ベント)を多用せず、此処(ここ)ぞと()う時に使用するとの事である。


 (さて)、説明としては、大体(だいたい)、こんな(ところ)ではあるのだが、以上を聞いて、異様に食いついた人物が居る。()れは上機嫌(ハイテンション)の祐子である。元来(がんらい)、祐子は推理パズルには、異様な迄に関心を示す。(ゆえ)に、常々(つねづね)人狼(じんろう)ゲームは、一度はやってみたいと思っていた(ところ)ではある。(しか)し、生来(せいらい)の内気と引っ込み思案(じあん)(わざわ)いし、(いま)だプレイをした事は一度もない。だが、此処(ここ)に極めてゲーム性の高い類似したゲームが提供されたのである。(しか)も、今日からは冬休み。

「いいなあ。やってみたいな。私」

 祐子が(つぶや)く様に()えば、正太郎も続く。

面白(おもしろ)そうだな。如何(どう)せ、今日から休みなんだから、みんなでやってみないか?」

(オレ)は構わないぜ」

「やろう。やろう」

 (たちま)ち、(ほとん)どが賛同したが、唯一(ゆいいつ)、明彦だけが、

「いや、(オレ)、やった事が無いから」

 と、多少、しり込みをする。()れを押さえて凛子が叱咤(しった)する。

「何、()ってんの、私がレクチャーしてあげるから」

 と後押しをし、結局(けっきょく)、今日の19時に開催と()う事に相成(あいな)ったのである。(さて)、『Among Us』をやるとなると、8人と()う人数では少々(しょうしょう)、少ない気もするので、他のメンバーにも声を掛けると()う事で、話は(まと)まったのである。具体的には、祐子がヤスベエと葵を、いずながみうみうを、そして、正太郎がでこぼこコンビを、それぞれ誘うと()手筈(てはず)になったのである。


 (さて)、以上が決った(ところ)なのだが、祐子は愈々(いよいよ)()って上機嫌(ハイテンション)であり、少々(しょうしょう)軽躁状態(けいそうじょうたい)にある。勿論(もちろん)、今日から冬休み、『Among Us』を(みんな)でやると()うのも、重要な要素(ファクター)ではあるのだが、()れだけではない。祐子のご機嫌(ハイテンション)(わけ)を説明するには、1日ほど(さかのぼ)る必要がある。昨日(きのう)(すなわ)ち、高志と正太郎による部室立ち聞き事件(じけん)の翌日、終業式の日の事であるが、祐子が帰宅して30分程した(ところ)で、(にわ)かに正太郎から電話があった。先刻迄(さっきまで)一緒(いっしょ)にいた正太郎である。一体(いったい)、何事だろう? と、(いぶか)ったのだが、携帯(スマホ)をとってみると、益々(ますます)、用件が(わか)らない。以下が()の通話内容である。

「もしもし。正ちゃん?」

「…うん」

一体(いったい)如何(どう)したの?」

「…あのね。…()の」

「…?」

「…今日は、()の。…とても、…祐ちゃんにね、えーと…。実は()いたい事が…、今日は、()の、とても寒かったよね」

「?」

「えーと、まあ、()れでも…明日晴れると()いよね」

 と、正太郎が何を()いたいのか、皆目(かいもく)判らないし、抑々(そもそも)、さっぱり要領(ようりょう)を得ない。(しか)し、祐子には正太郎が()いたい事が、(ほぼ)、100%直感出来(でき)ていた。だが、祐子は(はや)る心を懸命(けんめい)(おさ)え、辛抱強く正太郎の話を聞いている。祐子は過去の経験則(ルールオブサム)から知っている。正太郎が()うした、一見(いっけん)、何を()いたいのか判らない様な物謂(ものい)いをする時は、かなりの高確率で、祐子にとって、(うれ)しい結果を(もたら)す事が多い。(たと)えば、中学3年の夏期講習の最終日である。あの時、正太郎は、祐子を(さそ)って銀座の生ジュース屋へ行くのであるが、()の法則を知悉(ちしつ)してさえ居れば、正太郎の意図は推定出来(でき)ていた(わけ)で、あのような悲劇は回避出来(でき)ていた(はず)なのである。(第13話参照)特に、正太郎の言葉のうち、口篭り(フィラー)が50%を越える状況下(じょうきょうか)()っては、パチンコで()(ところ)の、激熱(げきあつ)演出も同然(どうぜん)であり、正太郎の制服がキリン柄やヒョウ柄や、レインボー柄になる様な物であり、当り確定演出も同然(どうぜん)なのである。まあ、正太郎の口篭り(フィラー)まみれの通話を、()れ以上此処(ここ)掲載(けいさい)しても、(せん)無き事でもあり、退屈(たいくつ)なだけであるから、約20分に(わた)る通話内容を一言(ひとこと)要約(ようやく)すれば、


『明日デートに行こう』


 と、()う事であった。抑々(そもそも)()の二人。今まで散々(さんざん)描写(びょうしゃ)して来たとおり、デートの(さそ)いは、7分3分(しちさん)の割合で祐子発であり、意外と正太郎の(さそ)いは多くは無い。()れは、正太郎の愛情が薄いと()(わけ)では無く、()れ以上に祐子が正太郎に対して、積極的である事に起因(きいん)するものである。(さら)に、灯篭流(とうろうなが)しの時(第9話参照)や、円周率騒動の時(第33話参照)の様に、一見(いっけん)、正太郎が祐子をホテルに連れ込んだ様に見え(なが)らも、よくよくみれば、祐子が絵を描いた、(ある)いは、そう仕向(しむ)けたシーンが、頻繁(ひんぱん)散見(さんけん)される。最初の部活選択の(くだり)や、学校祭や竜爪山(りゅうそうざん)登山の時の様に、かなりの高確率で、巧妙(こうみょう)、かつ、(したた)かに祐子が(さそ)っているのである。()し、()れらの部分(まで)も祐子発とカウントすれば、()比率(わりあい)は95%を越えるであろう。確かに、祐子は内気で、人見知りが激しく、引っ込み思案(じあん)ではある。だが一方で、自分の好きな物、例えば、推理、パズル、(ある)いは正太郎に対しては、極めて、積極的(アグレッシブ)であり、そう考えれば、確かに、辻褄(つじつま)は合う。要するに、祐子は、意外や意外、肉食系女子なのである。(しか)し、人間は如何(どう)しても、内気でおっとりした振る舞いと、ぽっちゃりした見た目に(だま)される。(すなわ)ち、()の二人は、草食系男子である正太郎と内気おっとり(かく)れ肉食系である祐子と()構図(こうず)であったのである。(さて)、先程の正太郎からのデートの(さそ)いも、()れ自体、かなり(めずら)しいものなのであるが、今回は()のデートの内容が、有り得ないレベルで有り得ない、かなり特殊なデートであったのだ。()れは、高志やひろみたちの要領(ようりょう)を得た言葉を引用(いんよう)すれば、


『明日、パフェを食べに行こう』


 と、()うものであったのである。(もっと)も、()れは本編では(つまび)らかにされなかったが、前回、リバー・サイド・ホテルの最後に、祐子が言葉巧(ことばたく)みに正太郎を誘導(ゆうどう)し、()の様に仕向(しむ)けた(ところ)があり、正太郎は()の時の約束に(したが)っただけに過ぎない。(さて)閑話休題(かんわきゅうだい)。ついに、()の言葉を引き出したのだ。祐子の有頂天(うちょうてん)ぶりは想像に難く無い。祐子は通話が終わるや(いな)や、

「やっったー」

 宙空(ちゅうくう)携帯(スマホ)を放り上げると、部屋中をばたばたと()け回った。のみならず、部屋中央で、ドスンドスンドスンと3回ほど飛び跳ね、全身で喜びを表現していた。肥満体(おデブ)の祐子の事である。家中が揺れる様な騒ぎである。驚いた祐子の忠実な友である飼い犬のペスが、早速(さっそく)、部屋に侵入をして来る。祐子はかまわずペスに抱きつく。

「ペスぅ、やったよ。明日、正ちゃんとデートだって」

 ペスも、ワンワンと(しき)りに尻尾(しっぽ)を振っている。祐子の大きな胸にペスの顔が()まっている。今度は、(しば)しの後、心配した母親も祐子の部屋に顔を出す。母親は4日程前の祐子の憔悴(しょうすい)落胆(らくたん)振り(円周率大会の日である)は認識していた。心配していた(ところ)に、翌日はご機嫌(ハイテンション)な23時帰宅である。()の時期、父親は宮崎に出張中であり、そうでなかったら、大目玉の事案であった。そんな(わけ)で、母親も祐子の様子を心配して、(のぞ)きに来たのだ。少し、状況(じょうきょう)を整理してみよう。4日前は失恋した様なテンションでの帰宅である。3日前は上機嫌(ハイテンション)の深夜帰宅である。(しか)し、何故(なぜ)下着(ショーツ)は水に落ちたかの様にぐしょぬれ。それでも、なお、ご機嫌(ハイテンション)なのである。そして、一昨日(おととい)昨日(きのう)()て今日の()の騒ぎである。母親が祐子の部屋に入ると、当の祐子は、鼻歌交じりでベッドの上に下着(ショーツ)を並べている。ベッドの上には浅葱色(あさぎいろ)檸檬色(レモンいろ)石竹色(せきちくいろ)若緑色(わかみどりいろ)下着(ショーツ)が並んでいる。(さなが)ら、事務用付箋(じむようふせん)の4色セットの様な色合いである。


「ちょっと祐ちゃん。一体(いったい)、何の騒ぎ?」

 祐子は母親を認めると、ニコニコし(なが)(うれ)しそうに()った。

「あっ、ママ。あのね、あのね、あのね。明日、正ちゃんにデートに(さそ)われちゃったの」

 もう、誰かに()いたくてたまらない。そんな、感じの、幸福感が(あふ)れ出した様な満面の笑みである。母親も愛娘(まなむすめ)の幸せそうな笑顔に、思わず相好(そうごう)(くず)すと、釣り込まれた様に()った。

「あらあら、良かったわね。すると、正ちゃんと仲直り出来(でき)たのね」

 祐子は、うんうんうんと(うれ)しそうに(うなず)く。

「それで、如何(どう)して下着(ショーツ)を並べているの?」

「そう、()れなの、ママ。明日、どの下着(ショーツ)で行こうか悩んでいる(ところ)なの。ねえ、ママは如何(どう)思う?」

 母親は(ひたい)に手を当て(なが)ら、(あき)れた様に()()った。

「あのねえ…。祐ちゃん。何でもママに相談してくれるのは、すごく(うれ)しい事なんだけど、普通、そんなの母親に相談するかなあ…。()れって、どの勝負下着(しょうぶパンツ)()いか? って事でしょ?」

「あっ」

(まった)く、もう…」

 そう()(なが)らも、ママは協力してくれた。

「ねえ、祐ちゃん。()浅葱色(あさぎいろ)のは如何(どう)? 控えめで知的な祐ちゃんにピッタリだと思うんだけど」

「うん。()の色、祐子も気に入ってるんだけど、()の前、使っちゃったから、駄目(だめ)なの」

 母親は溜息(ためいき)()(なが)ら、(ふたた)()()った。

如何(どう)して、ママにそう()う事()うかなあ…。そう()えば、一昨日(おととい)()下着(ショーツ)、びしょぬれになって洗濯機に入れてあったわね。つまり、3日前にも正ちゃんと、(いた)しちゃったって事よね?」

「あっ」

「本当に、祐ちゃんたら、賢い様で抜けているからなあ。でも、あの時も思ったけど、なんで、下着(ショーツ)がぐしょ()れだったの?」

()れは…」

 と、()(なが)ら、祐子は()()な顔でモジモジしている。(やが)て、小声で、

「祐子が興奮しすぎて、()の、お麁相(そそう)しちゃって…」

 消え入りそうな声である。

「あらあら、()れは大変。正ちゃんも吃驚(ビックリ)しちゃったでしょ」

()れが、そうでもなかったの。正ちゃん、祐子のお麁相癖(そそうぐせ)、知ってたみたいで…」

「まあ、()れはそうよねえ。小さい頃、正ちゃん、祐ちゃんが表でお麁相(そそう)すると、良く、泣いてる祐ちゃんをお家まで送って来てくれたからね」

「えーっ、祐子、そんなにお麁相(そそう)したかなあ。精々(せいぜい)、7、8回くらいだよ」

「充分でしょ。()れで、先一昨日(さきおととい)は正ちゃん、()れについてなんか()ってた?」

 祐子は顔を赤らめ(なが)らも、ニッコリして、(うなず)いた。

「あのね、祐子の頭を撫で(なが)ら、『僕は全然(ぜんぜん)気にしないよ。祐ちゃんは祐ちゃんだから』って、祐子、(うれ)しくて涙がでちゃった」

 ()れは、正太郎の(いつわ)らざる本音であろう。(おそ)らくは、円周率騒動の自身の反省を踏まえての祐子への贖罪(しょくざい)を言葉にしたものであろう。

「へー、良かったわね、祐ちゃん。あっ、そうだ。()い事がある。ママの勝負下着(しょうぶパンツ)貸してあげようか? ちょっと待っててね」

「えっ」

 驚く祐子を尻目に、母親はパタパタと部屋を出て行った。


「おまたせー」

 母親はすぐさま戻ってくると、祐子のベッドの上に色とりどりの下着(ショーツ)を並べた。真紅、紫紺、黒、濃紺、緑。原色系が多く、祐子には(いささ)派手目(はでめ)下着(ショーツ)が、所狭しと並んでいる。

「ママの体型は、祐ちゃんと然程(さほど)変らないから、穿()けるでしょ。ママ。娘の頃から()の体型だから」

 そう()って、祐子と同様に丸っこい肥満(おデブ)体型の母親は、(あま)り、自慢(じまん)にもならぬ事を自慢(じまん)する。

「アラフォーのおばさんに()われてもなあ。少し、傷ついちゃうよ」

 祐子は少々(しょうしょう)困惑(こんわく)する。

「でも、よくよく考えたら、勝負下着(しょうぶパンツ)って、抑々(そもそも)、ママ、一体(いったい)、誰と勝負する心算(つもり)なの?」

「あら、そんなの、恭一郎さんに決っているじゃあないの」

「パパと?」

「そうよ。恭一郎さんって、月に、精々(せいぜい)、7日。多くても10日位しか清水に帰ってこないでしょ。」

「うん…」

(しか)も、ガッチガチの草食系。帰宅中の夫婦の(いとな)みは精々(せいぜい)、3回、多くて4回」

「あのねえ…。普通、娘にそう()う話する? 大体(だいたい)()の回数の何処(どこ)が草食系なのよ? まあ、パパが草食系と()うのは、何となくわかるけど」

 確かに、()れは祐子の()うとおりであろう。10日中で4回となれば、2.5日に1回の割合であり、月間に直しても4回と()う回数は、(すなわ)ち、週当たり1回と()う事であり、然程(さほど)、少ないとは思われない。(むし)ろ、40台の夫婦としては多い方ではないかと思われる。

「あら、祐ちゃん。()れには、ママの涙ぐましい努力があるのよ。パパが帰って来たときの食卓。祐ちゃんも覚えてるでしょ。結構(けっこう)、気を使っているのよ」

 確かに()われて見れば、母親の()うとおりである。うなぎ、納豆、山芋、豚肉、にんにくと()った、所謂(いわゆる)、精のつくとされる物が食卓に並ぶ事が多い。先月などは、すっぽんが食卓に並んだのである。

「恭一郎さんは月に20日程、宮崎で禁欲的にお仕事してるから、お家に帰って来た時は、如何(いか)に草食系のあの人でも、若干(じゃっかん)、肉食系が入っているの。其処(そこ)で、あの料理よ。そうすると、完全に肉食系モードにスイッチが切り替わって、(けもの)の様に(いど)まれちゃうのよ。先月の(いとな)みなんて、思い出しただけで、子宮がキュンてなっちゃうわよ」

「あのねえ…。だから普通、娘にそう()う話する? ()れで、()の話の何処(どこ)ら辺に勝負下着(しょうぶパンツ)が入ってくる(わけ)?」

 母親は臆面(おくめん)も無く、能天気(のうてんき)な話を続ける。

「まあ、パパもママも、もう然程(さほど)、若くは無いでしょ。一回(あた)りの(いとな)みの回数は、精々(せいぜい)一回、多くて二回、盛り上ると三回、(まれ)に四回」

「本当に四十台?」

其処(そこ)勝負下着(しょうぶパンツ)の出番よ。アレを使うとね。パパったら、結構(けっこう)、興奮しちゃって、プラス二、三回はいけるわよ」

「つまり、四、五回って()(わけ)? 思春期の学生でもそんなにしないよ」

 と、祐子は()いつつも、3日前には正太郎に(まさ)()の回数可愛(かわい)がって(もら)っている。

「でも、変だなあ。私は確かに、早寝だし、眠りが深い方だけど、そんな気配(けはい)微塵(みじん)も感じた事無いよ」

「あら、そんなのを娘に悟られる様では、親として失格よ。祐ちゃん、覚えているかしら。祐ちゃんが小学校3年の頃、夜中におねしょして、泣き(なが)ら起きて来た時の事…」

「うん、覚えているよ。ママが一緒(いっしょ)にお風呂(ふろ)に入って、(なぐさ)めてくれたっけ」

「そう、あの時、丁度(ちょうど)(いた)している最中だったんだから」

「あっ」

 祐子は()われて初めて、()の光景を思い出した。祐子の脳裏(のうり)に明確な映像が(よみがえ)る。()うなると、祐子の記憶からは(のが)れる(すべ)は無い。確かに、ママは寝ているパパの上に(またが)っていた。(ぞく)()う、深夜のプロレスごっこと()(ヤツ)であろう。()われてみれば、二人とも全裸(ぜんら)だった。

「そう()えば、あの時、パパもママも全裸(マッパ)だった…。ママがお風呂(ふろ)一緒(いっしょ)に入ってくれたけど、なんか微妙(びみょう)不機嫌(ふきげん)だったよね」

「当たり前でしょ。折角(せっかく)、人が気持ち良く(さか)っていた(ところ)に、突然(とつぜん)の乱入でしょ。そりゃ、不機嫌(ふきげん)にもなるわよ。()れも絶頂(イク)直前に…」

(あき)れた。(まった)くなんて親なの」

「一人寝室に残されたパパなんてもっと悲惨よ。あの人、泣き(なが)ら手で()いたみたいだから。()れ以来、夫婦の(いとな)みには細心(さいしん)の注意を払う事にしたの」

「そうなる前から、細心(さいしん)の注意を払ってよ。じゃあ、最近は静かに(いた)す事にしたの?」

「そんな事ないわよ。()れに、アレの時は、ママ、結構(けっこう)大きな声だしちゃうし」

「もう、普通、娘にそんな事()う?」

 祐子はそう()(なが)らも、先日の正太郎との交合(エッチ)を思い出して、(おの)ずと顔を赤らめた。(かえり)みればあの時、祐子自身、かなりの嬌声(よがりごえ)を発していた。身に覚えの有ると()うのは、(まさ)に、()の事であろう。

「だから、最近では、祐ちゃんが学校へ行くと同時に、戦闘開始(コンバットオープン)。ほら、パパったら、一応、社長さんだから、()(あた)りは何とでもなるみたい」

「あっきれた。娘が勉学に(はげ)んでいる最中(さなか)に、なんてえ事してくれてんのよ。」

「先月なんてね。祐ちゃんが帰ってくる直前迄(ちょくぜんまで)可愛(かわい)がって(もら)ったわよ。延々(えんえん)、約6時間。実に堪能(たんのう)させて頂きました」

「本当に、もう…。じゃあ、今月は如何(どう)する心算(つもり)なのよ。私、冬休みで、学校行かないよ」

「そうなのよねえ、()れで困っているのよねえ。ねえ、祐ちゃん、正ちゃんと旅行にでも行ってきたら…。多少(たしょう)の事なら、ママも目を(つむ)るわよ」

「もう、(あき)れた。何処(どこ)の世界に高校生の娘に婚前旅行を斡旋(あっせん)する母親がいるのよ。()れも、自分の交合(エッチ)(ため)に…。そりゃあ、祐子も正ちゃんと行ってみたいけど…」

 母娘(ははこ)能天気(のうてんき)な会話は、(とど)まる(ところ)を知らない。()の親子、コミュニケーションは比較的良好な方なのであるが、流石(さすが)此処迄(ここまで)赤裸々(せきらら)な会話に至った事は無い。祐子は、恐る恐る母親に(たず)ねてみた。

「ねえ、ところでママの初体験(はじめて)って何歳(いくつ)の時だったの?」

「あら、祐ちゃんと然程(さほど)変らないわよ。2年の夏。みなと祭りの時。駅前のラブホでね…。ママも祐ちゃんに吸われて、大分(だいぶ)小さくなっちゃったけど、あの頃はかなり巨乳(きょにゅう)だったから…」

如何(どう)でも()い情報ありがとう。()れで、お相手は?」

「あら、パパに決っているでしょ。パパとはお幼稚(ようち)からの付き合いだったから。ママの浴衣姿(ゆかたすがた)悩殺(のうさつ)しちゃった」

(あき)れた…」

 心底(しんそこ)(あき)れた様に(つぶや)く祐子。(しか)し、手口と()う点に()いては、祐子も然程(さほど)、変らない。

「だから、灯篭流(とうろうなが)しの夜に、祐ちゃんが浴衣(ゆかた)びしょ()れで帰って来た時に、本当は帯を見る前から(すで)に、『やったな、此奴(こいつ)』と、看破(かんぱ)してたわよ」

「もう、かなわないなあ。それで、ママ。()の頃の頻度(ひんど)は?」

「うーん、そうねえ。年に1回位かな。七夕(たなばた)牽牛(けんぎゅう)織姫(おりひめ)みたいなもんよ」

()れ、絶対(ぜったい)に嘘!」

「えへへ、やっぱり(わか)る?」

(わか)るわよ。ママの性欲の強さからしてありえないもん」

「あら、()れはちょっと(ひど)いわね。でも、流石(さすが)に毎日はね。中学生の身の上としては、ホテル代もバカにならないし…」

「ちょっと待ってよ。2年生って中学校の(ころ)のお話なの?」

「そうよ」

 母親はケロリとして(うなず)く。

「何よ、私と然程(さほど)違わないって、全然(ぜんぜん)違うじゃない」

「あら、だって2歳しか違わないでしょ」

「何、()ってんの。抑々(そもそも)範疇(カテゴリー)が違うでしょ」

「そうかなあ。まあ、2年程度の話でしょ」

「でも、ママの事だから、此処(ここ)のお(うち)に連れ込んだりしたでしょ?」

()れがそうでもないのよねえ。何しろ、あの当時、お姉ちゃんも居たし、()れに此処(ここ)のお家、当時は結構(けっこう)、使用人が居たりして、二人っきりになる機会(チャンス)なんて無かったもの」

「ふーん」

「まあ、実際、毎日でもしたい年頃でしょ。でも、お小遣(こづか)いも(すぐ)()きちゃうし、()れに、お勉強もしなければならないしね。(もっと)も、ママもパパも、『江尻中の双璧(そうへき)』って()われる程度には、お勉強は出来(でき)たけど。()れでも、流石(さすが)()(まま)だと(まず)いかなって思ってね。パパと話し合ったの」

「何て」

「学生のうちは出来(でき)るだけ我慢(ガマン)しようって。勿論(もちろん)我慢(ガマン)出来(でき)なくなったら、お互い遠慮なく()うって事で」

()れで、()れで」

 興味津々(きょうみしんしん)の祐子は先を(うなが)した。

「それで、月1(ある)いは二月に1、位かな。本当に連日する様になったのは、大学に入ってからよ。ほら、私達、同棲(どうせい)してたから…」

「うわあ。なんかいいなあ。そう()(ただ)れた生活もちょっと(あこが)れるなあ」

「もう、祐ちゃん、流石(さすが)に失礼でしょ。でも、楽しかったわよ。あの頃は。おままごとみたいで」

 祐子は、母親との会話を楽しんでいる。()の親子。確かに非常に良好な関係を築いてはいたが、此処迄(ここまで)踏み込んだ会話をしたのは、初めてである。祐子は母親の青春時代の思い出話を傾聴(けいちょう)していた。そうだ、誰だって青春時代はあるものだ。私達も、自分の行くべき道を見据(みす)(なが)ら歩んで行かねばならない。祐子はそう思わざるを得ない


 (さて)閑話休題(かんわきゅうだい)。講堂の掃除も終わり、(みんな)も帰り始めた。祐子は、正太郎の英語の補習待ちである。部室で冬休みの宿題を始めた。()のうち、いずなもやって来た。いずなは相方の敬介が、英語と数学の補習である。

「祐ちんも、正ちん待ち?」

「うん。いずなちゃんも?」

「そう。ケースケ、英語と数学だから15時過ぎまで時間潰しだよ。()のあと、二人で銀座のジュース屋さんへ行くの。祐ちんは?」

「正ちゃんが終わったら、取り()えずマックにでも行って腹拵(はらごしら)え。()の後は…如何(どう)しようかなあ」

 此処(ここ)で祐子は、(とぼ)けざるを得ない。流石(さすが)に本当の事は()えないであろう。実際、正太郎との約束では、祐子が処女(ヴァージン)を、そして、正太郎が童貞(ヴァージン)を互いに卒業した、ファッションホテル『アマルフィ』へ行く事となっているのだ。


 約定の地であるファッションホテル『アマルフィ』は、昭和の時代は清水ステーションホテルと()う、結構(けっこう)、大きな総合ホテルであった。清水駅から約100m程静岡寄りに位置し、正面は駅前銀座に面し、裏通りである駅裏通りにも面していた。部屋数20室を(ほこ)る、清水ではそこそこ大きなホテルではあった。最盛期には結婚式場なども営業していたのであるが、如何(どう)しても()の手の大型ホテルの需要(じゅよう)近隣(きんりん)の静岡地区に食われてしまう。(さら)に致命的な事には、圧倒的な駐車場不足が()げられる。結局(けっきょく)、中小都市の悲哀(ひあい)()うべきか、()の生き残りをビジネスホテルとして繋ごうと模索(もさく)するも、結局(けっきょく)()れも空転(くうてん)し、()命脈(めいみゃく)()たれる事となるのである。今では、3F以上の客室をファッションホテルである『アマルフィ』として、2Fを地中海レストラン『レッジョ・ディ・カラブリア』として、1Fをカラオケ『ボルサリーノ』として、BFを、ピンクサロン『ジョバンニ』、ゲームセンター『ボッカティオ』とおっぱいパブ『デカメロン』として再出発する事となったのである。()うして、比較的健全な施設(しせつ)と、若干(じゃっかん)、不健全な施設(しせつ)が、物の見事に同居する様な構造にはなっているが、()導線(どうせん)綺麗(きれい)に分けられていた。レストラン、カラオケ、ゲームセンターは表通りである駅前銀座から、ラブホとピンクサロンとおっぱいパブは駅裏通りから入って行く事となるのであるが、其処(そこ)()れ、中では繋がっている箇所(かしょ)があるのである。特にレストランは、灯篭流(とうろうなが)しの話で描写(びょうしゃ)した様に、裏通りからレストランかホテルの分岐(ぶんき)で進入する事が出来(でき)た。だが、()の日の正太郎と祐子は(さら)巧妙(こうみょう)な手口を使う。二人はマックで腹拵(はらごしら)えをした後、駅前の駐輪場に自転車(チャリ)を置くと、二人は手を繋いで駅前銀座を歩いた。彼らは、学校帰りであるから、当然(とうぜん)、制服姿である。そして、(くだん)施設(しせつ)に到着すると、まずは、地階のゲームセンターに下りていくのである。なんか、よくあるRPGのダンジョン攻略法(こうりゃくほう)の様であるが、二人は()の通りに進んだ。ゲームセンター内は比較的閑散(かんさん)としており、誰かと遭遇(エンカウント)する可能性は意外と低い。そして、ゲームを見る風を(よそお)(なが)ら、施設(しせつ)のはずれに位置する小型のエレベーターに乗り込むのである。()のエレベーターは地階と3階を直接結んでおり、1階と2階は通過する。元々は、総合ホテル時代の従業員専用エレベーターであったものであろう。抑々(そもそも)、多くの客はこんな自販機の影にエレベーターが存在する事すら知らないし、エレベーターの行き先は3Fのみなのである。(したが)って()れを利用すると、目指すラブホのフロントに直行出来(でき)(わけ)である。まあ、()ってしまえば、RPG等に出てくる、ボス部屋直行エレベーターみたいなものであり、無用な敵との遭遇(エンカウント)回避(かいひ)出来(でき)るのである。()のエレベーターに乗り込んだ時の祐子は、何時(いつ)も以上の輝く笑顔であるのは勿論(もちろん)であったのであるが、()の手も上気(じょうき)して(ひど)く熱かった。(おそ)らくは、()れから予想される正太郎との交合(エッチ)に、(いささ)か興奮しているのであろう。


 二人はエレベーターを降りると、部屋を選択する(くだん)のパネルに向かった。部屋は4~7階各フロア5室で20部屋。()の手の連れ込み宿にしては多い方なのであろう。半分位が準備中と()う事で(ふさ)がっていた。祐子は相変わらずハイテンションである。キラキラと光る眼差しで、部屋選びのパネルを見つめていたが、正太郎としては気が気では無かった。こんな(ところ)を誰かに目撃でもされようものなら、()れこそ、致命傷である。()状況(じょうきょう)流石(さすが)に言い(わけ)出来(でき)ない。(もっと)も、祐子の方は存外(ぞんがい)腹が()わっており、

「ねえ、正ちゃん。どのお部屋が()いかなあ」

 と、(すこぶ)呑気(のんき)な事を()っている。確かに、灯篭流(とうろうなが)しの時、(すなわ)ち、初体験(はじめて)の時は、二人とも部屋を選択する余裕なぞ、ある(はず)も無く、()(かく)、正太郎が空いている部屋のボタンを押し、エレベーターに駆け込んだ次第(しだい)であるから、抑々(そもそも)何処(どこ)の部屋に入室(チェックイン)したかすら覚えてはいない。(さて)()の3Fの構造なのであるが、ロビーのパネルで部屋を選択すると、上り専用エレベーターで客室へ向かう(わけ)であるが、隣には下り専用エレベーターがあり、帰りの客が使うのである。それぞれのエレベーターは3Fが起点となっている(ため)、帰りの客も此処(ここ)ロビー前を通る形となる。(もっと)も、帰りの客はエレベーターを降りた直後に回り込む様に下り専用階段へと進む形になる。(さら)にはパネル横にも階段があり、此方(こっち)は2Fレストランへ直接繋がる入口となっており、階段手前にはショーケースに料理見本が取ってつけた様に設置されているが、抑々(そもそも)、レストラン目当ての客は2Fの段階でレストランへ入店する(ため)態々(わざわざ)、3Fのラブホロビーを通って入店する馬鹿(ばか)は居ないのである。(したが)って、()の階段を利用する客はホテルで交合(エッチ)した後のカップルに限定されており、正太郎達の様に()のホテルの構造を知悉(ちしつ)する地元の人間達からは、『賢者(ロード・)ロード(オブ・ザ・マギ)』、(ある)いはレストランから行く場合は、『天国へ(ステァ・ウェイ)の階段(・トゥ・ヘヴン)』と、呼ばれていたのである。


 (さて)、正太郎と祐子がパネル前で部屋の選別を行なっている(ところ)へ、下りエレベーターが活動を開始した。屹度(きっと)、退室をしたカップルが降りてくるのであろう。正太郎と祐子は(あわ)ててレストランへの階段手前のショーケース前で、メニューを甄別(けんべつ)するレストラン客を(よそお)った。降りてきたのは大学生風の若いカップルであり、正太郎たちをじろりと流眄(りゅうべん)(なが)らも、きまり悪そうに裏通りに向かう階段を、匇卒(そそくさ)と立ち去っていった。祐子たちはパネルの前に戻ると、祐子が()かさず()った。

吃驚(ビックリ)しちゃったね。正ちゃん」

「うん」

 正太郎も顔を赤らめ(なが)らも、同意する。(しか)し、引き続き下りエレベーターが始動する。また、(さか)り終わったカップルが退室(チェックアウト)して来たに相違(そうい)無い。

(うわっまた)

 二人は(ふたた)び、素知(そし)らぬ顔でショーケース前へと移動した。此方(こちら)は何しろ、制服姿なのである。(あま)り、大胆(だいたん)な振る舞いが出来(でき)るものでは無い。今度の客は二人とも長身だが、大分若い感じである。双方とも濃いサングラスをしており、男は深手のコート、女はパーカーを羽織(はお)っており、髪にはレインボー柄のカチューシャをしている。

(えっ、あのカチューシャ…)

 正太郎が(いぶか)った次の瞬間(しゅんかん)。祐子が思わず声を()げた。

「凛子ちゃん!」

「えっ、祐子? ()れに、正太も?」

 女性の方は凛子であった。良く良く見れば、男の方も明彦である。

(また、()の展開かよ…)

 正太郎が(あき)れるのも無理(むり)は無い。だが、()われてみれば()の二人。(かね)てから、(あや)しげな行動(ふるまい)も多く、抑々(そもそも)、よく思い返してもらいたい。夏合宿の最中に凛子がアマルフィへ()れて行けと明彦にせがんでいたではないか。(第17話参照)


 ()れにしても、前回に引き続き、()(また)、実に飛んでもない(ところ)での邂逅(エンカウント)である。()()な顔をした明彦が、(すべ)てを(あきら)めた様に、サングラスを取り眼鏡(メガネ)に戻ると、しどろもどろな言動に終始(しゅうし)する。

「おお、なんだ、おまえらか。(めずら)しいな。こんな(ところ)に何の用だ」

「こんな(ところ)への用件なんて、大概(たいがい)、お前らと同じ用向(ようむ)きだろ。そーか、凛子のカチューシャ、レインボー柄なんて、(めずら)しい。(みょう)(みょう)だとは思っていたが、パチンコで()(ところ)の、当り確定演出みてーなモンだったのか?」

 正太郎も冷やかに返答する。一方、それぞれのお姫様たちは、まるで女子高生の様に(まあ、実際、女子高生なのではあるが)、キャッキャ、キャッキャと(はしゃ)(なが)ら、呑気(のんき)にハイタッチをしている。

「うわー、凛子ちゃん達もなんだ。やったね」

「祐子こそ、良くも()朴念仁(ぼくねんじん)を、此処迄(ここまで)、引っ張り出したわね。(まさ)に、驚嘆(きょうたん)(あたい)するわ」

「何か、ナチュラルにディスられてる気がするんだが…」

 正太郎がぼやく。(しか)し、ご機嫌(ハイテンション)な凛子は続ける。

()れはそうと、祐子。折角(せっかく)此処(ここ)で会ったのも、何かの縁だから、耳寄りな情報を一つ。教えてあげるわね」

 そう()うと、凛子は祐子に顔を近づけた。

「あたしたちが居た401号だけど、ベッドがボタン操作でグルグル回るのよ。楽しいわよ」

 ()れを聞いた祐子の(ひとみ)が、(たちま)ち、お星様になった。

「ねえ、正ちゃん。聞いた。聞いた? ベッドがメリーゴーランドみたくグルグル回るんだって。何かメルヘンだね」

「…何処(どこ)がだよ!」

()れにあの部屋はね、部屋の横一面、鏡張りなのよ」

「ねえ、正ちゃん。聞いた。聞いた? 部屋の横一面、鏡張りなんだって。オシャレねえ。お化粧用かなあ」

「いや、絶対(ぜったい)に、そう()用途(ようと)じゃないと思うぞ」

()れだけじゃあないわ。別のスイッチでは、ベッドが激しく上下動(じょうげどう)するの。祐子、あんたが上になった時に試して御覧(ごらん)なさいな。そりゃあもう、絶叫(ぜっきょう)モンよ」

「うわー。正ちゃん。聞いた。聞いた? 何か絶叫(ぜっきょう)マシンみたくなるスイッチもあるみたいよ。楽しみだねー」

「いや、祐ちゃん。()れ、多分(たぶん)絶叫(ぜっきょう)マシンとは、全然(ぜんぜん)、違うと思うぞ」

 正太郎があたふたして否定(ひてい)する。そして、明彦に、若干(じゃっかん)もてあまし気味(ぎみ)(ささや)いた。

「おい、明彦。止めなくて()いのか? 何か如月姫(きさらぎひめ)、しょうもないラブホのモブネタに走っているんだが…」

(オレ)()わんでくれえ」

 明彦が泣き声を()げる。だが、凛子姫は(とど)まる(ところ)を知らない。

()れに、中では、オモチャのカプセル販売もあるのよ」

「うわー正ちゃん。聞いた。聞いた? 中でオモチャも販売してるって。何か夢があるよね。子供たちが喜びそう」

「いや、祐ちゃん。多分(たぶん)、子供たちが喜ばない(たぐい)のオモチャだと思う。…祐ちゃんが喜ぶかも知れないけど」

「えーっ、何で私が?」

「それに祐子。部屋の端にはなんか健康器具みたいのが置いてあるの。対面座位(抱き地蔵)補助椅子って()うらしいんだけど、二人で向かい合って使ってみなさいよ。そりゃあ、もう、のけぞりモンよ」

「うわー正ちゃん。聞いた。聞いた? 中に健康器具までおいてあるんだって。背中がのけぞる位に伸びるんだって。試してみたいね。(ところ)で明彦君。対面座位(抱き地蔵)って何の事?」

(おれ)に聞くなあ!」

 流石(さすが)()うなってくると、(いささ)か、手に負えない。明彦が凛子を()()てる。

「さあ、凛子さん。早くパスタを食べに行こう。こんな(ところ)を誰かに目撃されでもしたら…」

「なーにーよー。こんな場所で遭遇(エンカウント)したら、()れこそ、其奴等(そいつら)も同じ穴の(むじな)所謂(いわゆる)、同類でしょ。そう、おたおたしなさんな」

「いや、そうは()ってもですね、人目と()う物が…」

「いいじゃない。見つかったら、見つかったで、()の時は、其処(そこ)の『レッジョ・ディ・カラブリア』でクリームパスタを食べてましたって、()えば()いでしょ。フランクフルト入りの(ヤツ)を…」

 其処迄(そこまで)()った(ところ)で、『アッ』と()う表情をすると、ボソリと(つぶや)いた。

(もっと)も、フランクは皮付きだったけど…」

「おい、明彦。如月姫(きさらぎひめ)大丈夫(だいじょうぶ)か? 妙にハイテンションで、何か明白(あからさま)にお下劣(げれつ)な下ネタに走っているんだが…? お前、何か変なマッシュルームでも食わせたんじゃ無いだろうな?」

「んな(わけ)ねーだろ。勘弁(かんべん)してくれえ。大体(だいたい)、お前らが来ると判っていたら、此処(ここ)へは来なかったわ。抑々(そもそも)、祐子ちゃんも何つって、正太に(さそ)われたんだ?」

 其処(そこ)()かさず、祐子も(とぼ)ける。

「えーっ、だって、だって、正ちゃんが『Among Us』の細かいポイントを(くわ)しく教えてあげるからって、何処(どこ)か静かで落ち着いた(ところ)へ行こうって、誘われて」

「なっ」

 明らかな虚構(うそ)である。だが、明彦は(おろ)かな事に、()れを額面通りに受け取った。

「オイ、正太。いくらなんでも、()れは流石(さすが)にやりすぎだろ。『Among Us』のルール説明に(かこつ)けて、何も知らない、無垢(むく)な祐子ちゃんをこんな(ところ)に連れ込んでだな…」

「オイ、何だか、(オレ)が何にも知らない、無垢(むく)田舎(いなか)未通女娘(おぼこむすめ)(だま)くらかして、ホテルに()れ込んでいる様な構図(こうず)になっているんだが…」

「ち、違うのか?」

全然(ぜんぜん)違う。祐ちゃんも(ひど)いよ。(オレ)()めて…」

「えへへ、てへぺろ」

 祐子はお茶目(ちゃめ)に舌を出すと、ニコニコし(なが)ら、こつんと自身の頭を軽く小突く。ぽっちゃり型の祐子の()仕草(しぐさ)。中々に可愛(かわい)らしい。()れなら、確かに、田舎(いなか)無邪気(むじゃき)未通女娘(おぼこむすめ)()われても通用するだろう。其処(そこ)へ凛子が(さら)に突っ込む。

「祐子に、少々(しょうしょう)()められた位でガタガタ()いなさんな、正太。如何(どう)せ、()(あと)、あんたも祐子を()(たお)()満々(まんまん)(わけ)なんだからお相子(あいこ)でしょうが」

「なっ」

 相変(あいか)わらず、途轍(とてつ)も無く、下品な事、()の上無い冗談(ジョーク)を飛ばす。()の間に、祐子はと()うと、

「あれっ、401号が()だ準備中になってる。祐子、メリーゴーランドベッド、見たかったのになあ…」

「そりゃそうだろ。先刻(さっき)まで此奴(こいつ)らが(さか)っていた(わけ)だから…」

 明彦が()()な顔で小さくなっている。正太郎は気がついている。祐子の一人称(いちにんしょう)が、『祐子』となった時は、大体(だいたい)()いて、イチャラブモードである事を。そろそろ、入室した方が良さそうである。凛子が()かさず祐子に(ささや)いた。

「安心して、祐子。此処(ここ)の4階、(すべ)て同じ造りだから。…確認済みよ」

 祐子は晴れやかな顔になり、屈託(くったく)の無い笑顔を見せると、迷わず空いている402号のボタンを押した。

「ありがとう、凛子ちゃん。さあ、正ちゃん。行こ!」

 (やが)て、上りエレベーターが開くと二人が乗り込んだ。

「祐子。グッドラック!」

 凛子がサムアップをする。祐子もエレベーターの中からサムアップで応じると、(とびら)は閉まり二人は上って行った。


「ああ、驚いた」

 明彦が、(いささ)か衝撃的邂逅(かいこう)について(あき)れる。地中海レストラン『レッジョ・ディ・カラブリア』の店内である。凛子と二人で注文したパスタを待っている。

「まさか、あの、正太と祐子ちゃんがなあ…」

 凛子は、明彦を冷やかに流眄(りゅうべん)すると、

「あの二人については、まあ、然程(さほど)、驚かないけどね。抑々(そもそも)、君は、あの二人について、如何(どう)考えていたの?」

「そりゃあ、今から、(うれ)し恥ずかし初体験(しょたいけん)って、(ところ)だろ?」

 凛子は軽く溜息(ためいき)()くと、()かさず否定(ひてい)した。

「…な、(わけ)無いでしょ!」

「そうかあ? でも、あの、二人だぞ?」

「あのねえ、先刻(さっき)の会話、聞いてたでしょ。あれで、()れから初体験(はじめて)ですって()われたら、いくら、あたしでも引くわよ。明彦君。君も人間観察がまだまだだねー」

「だって、あの二人だぞ? (オレ)たちの仲間内で男子一番の晩熟(おくて)は、敬介か正太だろ?」

「まあ、()れには異存(いぞん)ないわ」

「でもって、女子の中では祐子ちゃん。…だろ?」

其処(そこ)(ところ)は違うわね。逆に、女子一番の肉食系は、多分(たぶん)、祐子だよ」

「そりゃあ、違うだろ。だって、あんなに大人(おとな)しくて、内気で、人見知りで、引っ込み思案(じあん)なんだぜ?」

「内気と人見知りってのは、まあ、同意するわ。でも、晩熟(おくて)ってのはねえ…。同意しかねるなあ…」

「だって、対面座位(たいめんざい)とかオモチャを知らなかったぜ?」

「な、(わけ)ないでしょ。あれは明彦君。君をからかっただけよ」

「はあ?」

「こんな(ところ)に制服で堂々と乗り込んで来る二人よ。知らない(わけ)ないでしょ。大体(だいたい)、あの冗談(ジョーク)は、君だから成立するのよ」

「?」

「正太を(のぞ)いた何時(いつ)もの3人を想像してご覧なさいな。()し、あれが高志だったら、卑猥(ひわい)な笑顔を浮かべて、『よし、祐子ちゃん。俺が手取り、胸取り教えてやろう』とか、『教えてやるから、おっぱい(さわ)らせて』とか、()い出しかねない。結果(けっか)、祐子自身に性的被害が(およ)ぶ可能性すらあるわよ」

「確かに」

 まあ、実際の(ところ)、高志は紳士ではある。()の様な事を実行に移す事もあるまいが、充分に()い出しかねない。明彦は苦笑いを浮かべながら(うなず)いた。

「一方、敬介だったら、『対面座位(たいめんざい)? お茶か、いけばなの作法(さほう)じゃないのか』とか()いだして、()れで終わりよ。挙句(あげく)に、彼自身が試験で、()れを回答する恐れすらあるわ」

 抑々(そもそも)対面座位(たいめんざい)が回答となるような、試験問題など想像しかねるものの、明彦は此方(こちら)も同意した。

「確かに」

「つまり、あの冗談(じょうだん)が、冗談(ジョーク)として成立するギリギリのラインが、君って事なのよ。実際、祐子は其処迄(そこまで)見越(けいさん)してかましているわよ。田舎(いなか)未通女娘(おぼこむすめ)っぽい見かけに(だま)されない事ね」


「ねえ、明彦君。私達の初体験(はじめて)覚えてる?」

 明彦が顔を赤らめ(なが)ら返す。

「そりゃ、当然(とうぜん)だろ。みなと祭りに行った帰りに此処(ここ)でさ…」

多分(たぶん)、あの子達。あの段階で、(すで)に経験済みだったと思うわよ」

「う…そ…、だろ」

「まあ、根拠(こんきょ)は無いよ。()ってしまえば、あたしの(カン)みたいなモンなんだけど…。あの時、敬介のおじさんの民宿の話が出たじゃない」

「ああ…」

()の時、祐子が正太につれてけってせがんで、(みんな)に突っ込まれていたじゃない(第11話参照)」

「ああ、そうだったな」

「あれはね、多分(たぶん)、失言じゃ無いわよ。確実に(ワザ)とだよ。『ああ、()の子、必死でマーキング(所有権の主張)してるな』って、()の時、そう思ったもの。まあ、今日のもそうなんだけどさ」

「マーキング?」

「そう、マーキング(所有権の主張)。『()の人、あたしとしちゃったから、手は出さないでね』って()うね。そう()気配(けはい)を、多分に感じたわよ。祐子はね、私は、あれでなかなかかわいいと思うんだけど、()れこそ、田舎(いなか)未通女娘(おぼこむすめ)みたいで、万人受(ばんにんう)けするタイプじゃあ無いからね。あの子も必死なのよ。特にボストンティーパーティーの面々(めんめん)美人揃(びじんぞろ)いだからね」

「うーん、(にわ)かには信じられんなあ」

先刻(さっき)の話に戻るけど、祐子は内気と人見知りだとは思うけど、晩熟(おくて)ってのはね。あの子、好きなものには真直(まっす)ぐだから、正太に対しては(すこぶ)る肉食系よ。まあ、あたしが驚いたのは、先刻(さっき)()った様に、良くあの正太を此処迄(ここまで)引っ張り出したと()う点よね。瞠目(どうもく)(あたい)するわね」

 ウエイターが注文したフランク入りのクリームパスタを運んできた。

「それにしても、凛子さん。凛子さんも今日は祐子ちゃんに負けず劣らずにご機嫌(ハイテンション)だったよね」

「ああ、あれね。だから、あたしも負けずにマーキング」

「?」

「だって、ほら、明彦君。君って、ああ()う知的で、()れでいて、一見(いっけん)、純情そうな未通女(おぼこ)っぽい子に弱いでしょ。だから、あたしも負けずにマーキング(所有権の主張)。あたし、()の人としちゃったから()らないでねって。そして、君にも忠告、あたしとしたんだから、祐子には手を出さないでねって」

「…」


 ()()になって(うつむ)く明彦を尻目に、凛子姫は皮付きフランクを、美味(おい)しそうに口に頬張(ほおば)ると、ニッコリと微笑(ほほえ)みましたとさ。

愈々始まった。閉ざされた船内の中、殺人者が闊歩する。パニックに陥る13人の乗組員。全員の顔には恐怖の影が過ぎる。怯えているのだ。そして、次々と殺害されて行く乗組員。此の中に殺人犯が居るのだ。其れも二人も…。突如始まったデスゲーム。ボストンティーパーティーの面々の運命は如何に? 次回、『第35話 Among Us!【前編】』お楽しみに。

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