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第15話 池の周りを廻る(興津川夏合宿編【4/6】)

 正太郎と祐子は、バス停の前のベンチに腰を降ろした(まま)、二人並んで星を見ていた。祐子が唐突(とうとつ)に、正太郎へ問い掛けて来た。

「正ちゃん。2年進級時の文理選択は如何(どう)するの?」

「えっ、(おれ)? (おれ)は、分からないけど、多分(たぶん)、文系だな。英語が致命的(ちめいてき)に苦手なんだけどね。国語と社会は好きだからなあ。祐ちゃんは、如何(どう)するの。オールラウンダーだから(うらや)ましいよ。でも、嗜好(しこう)から()ったら、間違い無く、理系かな?」

「ううん。私は、…()だ、決めていないよ。…正ちゃんは将来、なりたいものとか、夢はあるの?」

「夢かあ…」

 正太郎は言葉を切ると、星が降り注ぐ様な天空(てんくう)を見上げた。真上(まうえ)には、天の川を背景に、星達による白鳥(キグナス)悠然(ゆうぜん)()の姿を顕現(けんげん)させ、(またた)く星々の間を飛翔(ひしょう)している。とても、幻想的な光景である。そして、顔を赤らめ(なが)ら、(おもむろ)(つぶや)いた。

(おれ)、物を書く職業に()きたい。どんな形でも良いからさ。そして、()うした美しい光景だとか、感動を綺麗(きれい)描写(びょうしゃ)したい。そして、文章で人に感動を伝えたいと思っているんだ…」

「小説家とか?」

「まあ、…流石(さすが)其処迄(そこまで)は考えて無いけど…」

大丈夫(だいじょうぶ)。成れるよ。正ちゃんなら。沢山(たくさん)、本読んでいるし」

 煮え切らない回答を返す正太郎に対して、祐子は一生懸命(いっしょうけんめい)に背中を押す。そんな祐子に対し、正太郎は笑い(なが)ら、

「読書好きが小説家になれるのなら、人類の半分以上が小説家だよ」

 と、多少(たしょう)自嘲気味(じちょうぎみ)(うそぶ)いた。そして、逆に問いかけた。

「祐ちゃんは?」

「…私は」

 祐子は其処(そこ)で、言葉を切った。


(私の夢は正ちゃんのお嫁さんになる事だよ)


 祐子は自分の秘めたる夢を、口には出せなかった。(あた)りは、(しば)し、沈黙(ちんもく)に支配された。そして、二人の(あいだ)にも、沈黙(ちんもく)が訪れた。

「敬介達、大丈夫(だいじょうぶ)かなあ」

 正太郎は、二人の(あいだ)の、微妙(びみょう)な空気を払拭(ふっしょく)すべく、自分が敬介に(おこな)った、ちょっとした、お節介(せっかい)行方(ゆくえ)を気に掛けて、(つぶや)いた。多少(たしょう)、会話の中に閉塞感(へいそくかん)を感じていた祐子も、感良くそれに乗っかった。

多分(たぶん)大丈夫(だいじょうぶ)。いずなちゃんは(やさ)しい子だよ。屹度(きっと)、敬介君の想いが伝わると思うよ」

 正太郎と祐子は手を(つな)いでいる。祐子は改めて正太郎の手を(やさ)しく(にぎ)った。手の温もりにホッとした。胸襟(きょうきん)を開き、夢を語ってくれた正太郎の言葉が(うれ)しかったのだろう。


 其処(そこ)へ、敬介達が帰ってきた。いずなは、大分(だいぶ)(おさ)まったものの、()だ、泣き(じゃく)っていた。

「…ひっく。…ひっく。…すん」

如何(どう)したんだ? (さて)は、敬介の(ヤツ)(なん)か、不埒(ふらち)な事しようとして…」

「正ちゃん。敬介君はそんな事しないよ。いずなちゃん! 宿に戻って一緒(いっしょ)にお風呂(ふろ)入ろうよ!」

 まだ、泣き()れているいずなを、お風呂(ふろ)に誘ったのは、祐子のファインプレーであった。ひろみと凛子は勉強部屋らしかった。二人とも、お風呂(ふろ)は今日二回目である。温かいお湯につかると、いずなは見る見るうちに、落ち着きを取り戻していった。

如何(どう)? 大分(だいぶ)、落ち着いた?」

「うん」

「何があったの?」

「星を見た後、その、…ケースケ君に(こく)られて…」

「その、すごく、(うれ)しかった。初めてだもん。感激したら涙が出てきちゃって、でも、『私なんかでいいのかな』って思ったら、急に不安になっちゃって…。昔の事思い出したりしたら、(わけ)、分から無くなっちゃって」

「…そう。いろんな感情が入り過ぎちゃったんだね。いずなちゃんは、敬介君の事、如何(どう)思ってたの?」

「良く分からない。でも、()の4人の中では、一番、意識していたと思う。…ううん。それは(うそ)だ。ずっとケースケの事が好きだった。多分(たぶん)、学校祭の頃から。…ううん。屹度(きっと)、もっと前から。すごく純粋で(やさ)しいし、何時(いつ)も、(そば)にいたし。冗談(じょうだん)ばかり()ってたけど…」

「敬介君。何時(いつ)でも、いずなちゃんの事、気にしていたもんね。何時(いつ)も、いずなちゃんの事、可愛(かわい)いって()ってたよ」

「あれこそ、冗談(じょうだん)だと思っていたよ。私、そんな事、()われたこと無かったから…。()の人、いつもからかってばかりって、先刻(さっき)、『おてて(つな)いであげる』って()った時のケースケの顔見て驚いちゃったもん。軽い冗談(じょうだん)心算(つもり)だったのに…」

「すごい喜び様だったもんね」

 祐子は相槌(あいづち)を打って、続けた。

多分(たぶん)、敬介君いずなちゃんじゃなきゃ駄目(だめ)だったと思うよ。敬介君、何時(いつ)だっていずなちゃんしか見ていなかったもん。此方(こっち)()けちゃう位に」

「そう…なの」

「敬介君。初めてあった時からいずなちゃんの事。かわいいって()ってたよ。そして、化学の追試の時、いずなちゃんが様子(ようす)見に行ったって聞いたら、感激してたもん。(やさ)しい子だって。それに、学校祭の時だって、2日間一緒(いっしょ)にいられたって、大喜びだったよ」

「ケースケ君の方こそ、本当(ほんとう)(やさ)しいよ。先刻(さっき)、取り乱しちゃった時、ずっと(なぐさ)めてくれてた。『大丈夫(だいじょうぶ)だから。心配ないから』って、頭、()(なが)ら。…本当は、余計(よけい)、涙出ちゃったけど…」

本当(ほんとう)によかったね。いずなちゃん」


 ()の時、ガラガラッと、引き戸が開いて、ひろみと凛子が入って来た。

「あれー、祐子といずな? 何よー。お風呂(ふろ)入るなら誘ってよ。水臭(みずくさ)いわね」

「あら、本当(ほんとう)。そう()えば、あんた達、何処(どこ)に居たの? お風呂(ふろ)誘いに行ったら、勉強部屋にいなかったから」

「いずなね、お外で星見てたの。ゆーちん達と」

「へー。何かあったの?」

 猜疑(さいぎ)眼差(まなざ)しを向けたのは凛子である。祐子がニコニコし(なが)ら、

内緒(ないしょ)だよね。いずなちゃん」

「うん。内緒(ないしょ)。って、()いたいけど、みんな大切なお友達だから()うね。あのね、ケースケ君に(こく)られました。そして、その、…受け入れました」

「えっ」

「マジなの?」

 凛子が、すごく(やさ)しい顔つきで、

「良かったじゃない、いずな。本当(ほんとう)にヤキモキしていたんだから。あーあ、()れで3組目かあ。ちょっと待って、そうすると、残っているのって、私と駄眼鏡(だめがね)だけじゃないの。うっわーっ。もう、最悪。駄眼鏡(だめがね)しか残って無いの? 何よ、()れ」

 凛子が大仰(おおげさ)に驚いてみせる。祐子が()った。

「あら、明彦君4人の中で一番イケメンじゃないの? それに、抑々(そもそも)、凛子ちゃん、明彦君と付き合って無かったの?」

「…無いわよ。何、()っているの。祐子。家が同じ方向だから、からみが多いだけよ。それに、スケベだし」

 祐子がニヤニヤし(なが)()った。

「じゃあ、何かHな事。されたんだ」

「…知らない」

 いずなが寄ってきた。

「kwsk」

 ひろみが、助け舟を出した。

「ちょっと、待ちなさいよ! 凛子。なんで()ん中に、私とハロゲン族が入っている(わけ)?」

「あら、正太に聞いたわよ。勉強部屋で、ハロゲン族に情熱的なまでに(こく)られたって。何でも、『愛と青春の旅立ち』のラストシーンみたかったって。居合わせたみんなが、万雷(ばんらい)の拍手を送っていたとか、()ってたわよ」

「あのバカ…。適当な事を…。()(かく)、ハロゲン族は、正式に(こく)った(わけ)じゃないから、ノーカウントでしょ」

 祐子が()った。

「いや、かなり正式だったよね? あれ」

「うん。ドラマみたいな演出もしてたよね。(すご)くかっこ良かったよ。いずな、キュンってなっちゃったもん」


 女子勢(じょしぜい)が、二回目の風呂(ふろ)から上がって勉強部屋へ戻って来た時には、男子勢(だんしぜい)全員が勉強部屋にいた。鴨居(かもい)の上には教室にある様な丸い時計が設置されており、10時を指している。男子4人は勉強部屋A、(すなわ)ち、205号室に全員集結して、黙々(もくもく)と宿題をやっていた。いずなは敬介と目が合うと、いずななりの()()無い気配りなのであろう。心からの感謝と親愛の情を込めて、ニッコリと微笑(ほほえ)んだ。敬介はいずなの屈託(くったく)()(こぼ)れる様な笑顔を見て、(にわ)かに顔を赤らめ(なが)らも、ホッとした様子(ようす)であった。高志が、上がって来た女子勢(じょしぜい)見咎(みとが)めて、

「何だ。何だ。一体(いったい)何処(どこ)へ行ってたんだ?」

 いずながニコニコし(なが)ら、

「えへへ…。お風呂(ふろ)だよ」

 高志が血相(けっそう)を変える。

「何だと。俺達(おれたち)内緒(ないしょ)でか?」

「そんな事、()ったら、また、あんたが(のぞ)くでしょ」

 ひろみが、ふくれ(なが)ら釘をさす。そして、凛子も続く。

「そうね、其処(そこ)眼鏡(めがね)棒組(あいぼう)にしてね」

 明彦が(あわ)てて叫ぶ。

「こら、ちょっと待て。あれは、ハロゲン族に(そそのか)されてだな…」

「わあ、裏切りやがったな。てめえ。おめえだってノリノリだったじゃねえか。凛子の彼処(あそこ)の毛を見るんだって…」

「何ですってえ、()のエロ眼鏡(めがね)

 明彦が周章狼狽(あたふた)(なが)ら、事態の収拾(しゅうしゅう)躍起(やっき)である。

「うわあ、高志、()まんねえ創作(フェイクニュース)(でっ)()げてんじゃねえ…。()れに、敬介がいずなの裸を見てみたいなんて()うから、抑々(そもそも)、こんな事に…」

「うわぁ、何、()いやがる。俺迄(おれまで)、巻き込むんじゃねえ。こん畜生(ちくしょう)

 いずなが赤くなり(なが)ら口を(とが)らせる。

「ムッキー、ケースケのエッチ」

 正太郎が、

「まあまあ、みんな反省している事だし…。ところで、何で全員、()の部屋へ? 他にも部屋があるだろうに…」

 凛子と祐子がテーブルを、もう一組セットし(なが)ら、ひろみが

()いじゃないの。みんなでやってもさ…。折角(せっかく)の合宿だし、分らない所は聞けるし。大体(だいたい)、むさくるしい野郎4人で勉強をやっていて、何が楽しい(わけ)?」

 明彦が口を(とが)らす。

抑々(そもそも)、勉強に楽しさを求めてもなあ…」

 祐子が、軽く(はしゃ)(なが)ら、

「いいじゃん、いいじゃん。(みんな)でやろうよ。判らないところも聞けるし」

()れも、そうか」


 和気藹々(わきあいあい)とした、勉強合宿の、夜の部、本番が始まった。みんな、思い思いの教科をやっているが、判らない事を自分で調べたり、聞き(なが)らして進めている。苦手な教科について教えを()うのは勿論(もちろん)の事、自信の無いところを咨詢(しじゅん)する事も可能なのである。勉強合宿は予想以上に効果的であった。(さら)に、みんな、一定水準以上の学力を持つ子供達である。矢張(やは)り、此処(ここ)一番での集中力は、流石(さすが)(すさ)まじいものがある。彼らは一心不乱(いっしんふらん)に、おもいおもいの教科を進めて行った。そんな中で、正太郎が敬介に、思い出した様に(たず)ねた。

「そう()えばさあ、敬介。補習(ほしゅう)の宿題はやったのか? 数学の…」

「あはは、実は今、やっているんだ」

(まった)く、余計(よけい)な作業だよなあ。来学期は補習(ほしゅう)食らわねえ様にしねえとな」

(まった)くだ」

「ムッキー、本当(ほんとう)だよ。頑張(がんば)ろうね。ケースケ」

 いずながやんわりと(たしな)める。今度は敬介が思い出した様に(たず)ねた。

「そう()えばさ。正太。薬缶(やかん)()っていた、池の問題は如何(どう)だ? ()けたのか?」

「…?」

「ほれ、池の(まわ)りを(まわ)るって(ヤツ)さ」

「ああ…、あれか」

 正太郎も(にわ)かに思い出した様である。

「あれは、普通に無理だろ。薬缶(やかん)冗談(じょうだん)じゃねえの? 何か、にやにやしてやがったし。お前こそ、如何(どう)なんだ? ()けたのか?」

 敬介がきっぱりと()い放つ。

出来(でき)(わけ)()えだろ」

「何なの? ()れ?」

 ひろみが聞き(とが)めて、二人に(たず)ねる。

「ああ、何でも…」

 と、()(なが)ら、(おもむろ)に正太郎が説明を始めた。

「『AとB。2人の男が池の外周を同方向にジョギングをしている。ある瞬間、Aの後方200mにBがいた。Aが100m進んだ時、2人が並びBがAを抜き去って行った。A、Bともに、()(まま)、速度を変えずに池の(まわ)りを回り続けたとしたら、A、Bが並ぶ地点は(なん)箇所(かしょ)あるでしょうか?』だとさ…」

 (みんな)も、集中力の切れ目なのか、各自の手を止め、正太郎の説明に(にわ)かに食いつく。高志が(いぶか)(なが)ら、(たず)ねた。

「何だそりゃ?」

 ひろみも、

()れだけ? 肝心(かんじん)な池の円周(えんしゅう)は?」

 正太郎も困惑(こんわく)した様に、説明する。

()れが、薬缶(やかん)野郎(やろう)()わ無えんだよ」

「そんな事()って、あんたが聞き逃しただけじゃないの? ()れなら、()ける(わけ)無いじゃないの」

「んな事、ねーよ。(おれ)、何度も薬缶(やかん)に聞いたんだぜ。でも、あのハゲ、『何でも、教えて(もら)える程、()の世の中、甘くは無い』とか、(みずか)らの存在意義を否定する様な、くだらねえ戯言(たわごと)をだな…」

 此処(ここ)で、明彦も参戦する。

()れにしても、奇妙な問題だな。何箇所(なんかしょ)かと()(ところ)も妙だし…。直感、出来(でき)そうにないんだが…。積分(せきぶん)の問題だよなあ。()れ。()し、そうだとしたら、(おれ)達、()だ習ってねーぞ」

 凛子が、困惑気味に敬介に(たず)ねる。

「ねえ、敬介。本当(ほんとう)に問題、間違って無いの? 圧倒的に情報量が足りない様に思うんだけど…」

「ああ、でも、多分(たぶん)、正太の()った通りだったと思うぜ」

()れで、補習(ほしゅう)受けてた連中で、誰か()けた(やつ)はいたの?」

 凛子の問い掛けに、正太郎が代わりに答える。

「いねえと思うぜ。って()うより、抑々(そもそも)、数学の補習(ほしゅう)会場だぞ。数学赤点と()の予備軍だぞ。(みんな)一様(いちよう)にぽかんとしてたぞ。六と一平なんぞは、(よだれ)()らして、ガーガー爆睡(ばくすい)してやがったし…」

 いずなも参考書を置いて、考え始める。

「ムッキー、一見、解けそうに無いんだけどなあ…。でも、薬缶(やかん)円周(えんしゅう)()えて()わ無かったと()う事は、()の条件で()けると()う事かなあ…」

 高志が()える。

「んな(わけ)あるかあ。あの禿(ハゲ)、ボケが始まってるんじゃねーの」


 【緊急告知】

 此処(ここ)で、()の問題を自力で()きたい方は、本を置いて考えてみよう!

 実は、()れだけの条件でも、スッキリ()けますよ。


 此処(ここ)で、(みんな)沈黙(ちんもく)と引き換えに、外から聞こえる虫の()が、一段と大きくなった。一同(いちどう)一様(いちよう)に、首を(かし)げているが、()の中で、(ただ)、一人だけニコニコしている者が居る。祐子である。鉛筆を(くわ)えて、考え込んでいたいずなが、祐子の表情を見咎(みとが)めて()った。

「ゆーちん。如何(どう)したの? ひょっとして、何か判った?」

 祐子はニコニコし(なが)ら、大きく(うなず)く。

「…うん。多分(たぶん)()けたと思う」

「えーっ」

「う…そだろ。()の条件でか?」

 驚愕(きょうがく)一同(いちどう)である。

「…うん」

 数学自慢(じまん)の明彦が(あわ)周章(ふため)く。

「ちょっと、待ってくれよ。祐子ちゃん。本当(ほんとう)()けたのか? 積分(せきぶん)を使うんだろ?」

「ううん。使わないよ。…実は、私、ちょっと感心してるんだ。だって、()のクイズ、(すご)秀逸(しゅういつ)なんだもん。羅漢(らかん)先生の作かなあ?」

「祐ちゃん、早く答えを教えてよ」

 正太郎が()かすが、祐子はそんな正太郎を(たしな)める。

駄目(だめ)だよ。正ちゃん。少しは自分で考えないと。こんな良質なクイズ、滅多(めった)にお目に掛かれ無いよ」

「そんなぁ…」

 高志も口を(はさ)む。

「そんな事、()わねーで、頼むよ、祐子ちゃん。抑々(そもそも)、池の円周(えんしゅう)が分らなければ、話にならないだろう。それに、池の円周(えんしゅう)不定(ふてい)で成立するなんて事はねーだろ」

「えへへ…」

 祐子は、(ただ)、ニコニコと微笑(ほほえ)んでいるだけである。(しか)し、此処(ここ)で助け舟をだす。

「あのね。池の円周(えんしゅう)(こだわ)っては駄目(だめ)だよ。はっきり()うとね、池の円周(えんしゅう)がいくらであっても、()の条件なら、答えは変わら無いよ」

(うそ)だろ…。池の円周(えんしゅう)が5キロであっても、10キロであっても、同じ答えだと()うのか?」

「うん」

 祐子は大きく(うなづ)く。

()得無(えな)いだろ…そんな事」

 明彦が(うめ)く様に(つぶや)くが、祐子はニコニコし(なが)ら、低音の押し殺した様な声で()った。

()得無(えな)いなんて。()得無(えな)い…」

「ムッキー、もう、ゆうちん。こんな時にグリードしないの」

「何か、イラッとするなあ。微妙(びみょう)()ているだけに…」

 正太郎も不満を口にする。

「えへへ、ごめんごめん。でも、()の部屋の中にも、似た様な状況の物があるんだけどなあ…」

 祐子の思いも掛けない一言により、(みんな)、示し合わせた様に、一斉(いっせい)にキョロキョロと(あた)りを顧眄(こべん)する。(しか)し、何の変哲も無い、杪夏(びょうか)山間(やまあい)(ひな)びた温泉宿である。(あた)りに聞こえて来るのは、川音と虫の声だけなのである。部屋の内外に、何かヒントになる様な物があろうとも、思われ無い。(しか)し、いずなが、突然、()頓狂(とんきょう)な声をあげた。

「あーっ」

 そして、初めて、ニッコリすると、

「むっきい、そう()う事か。」

 敬介がいずなに問いかける。

「いずなちゃん。何か判ったの?」

(ようや)く、判ったよ。答えは2箇所(かしょ)だね。ゆうちん」

「いずなちゃん。正解!」

 高志がいずなを()かす。

「おい、自分だけ判ってないで、さあ、早く解法を教えろよ」

 いずなはニヤニヤし(なが)ら、いたずらっ子の様な顔付きである。

「ムキキ。駄目(だめ)だよー。自分で()かなきゃ」

「わあ、いずなてめえ。ふざけんな。コラッ」

「こら、いずな、(おれ)を寝かさないつもりか? (おれ)は早く宿題に戻りたいんだよ」

 明彦も(いき)り立つ。普段、クールなグラマラスな美人である凛子も、両手を合わせて、(おが)(なが)ら頼み込む。今日はライトブルーの涼しげな色のカチューシャをしている。

「いずな、お願い。あたし、()()うの気に成り出すと、眠れなくなるの。せめて、ヒントをお願い…」

「ムッキー、しょうがないなあ。ヒントはrational numberかな」

「rational number…。有…理数?」

 凛子が、(あたか)も、夢寐(むび)の人の(ごと)く、(うつ)ろな表情で()の言葉を反芻(はんすう)する。一方(いっぽう)、ニコニコした祐子が、感心する。

「いずなちゃん! それ、(すご)()いヒント」

「エヘヘ…」

一体(いったい)如何(どう)()う事だ?」

「わ…判らん」

「ねえ、正ちゃん。Aが100m進んだ時に、Bは何m進むの?」

「そりゃ、300mだろ。」

「そう、判っているのは、()れだけ。だったら、Aが1km進んだ時には?」

「3kmだろ」

「つまり、速度差しか判らないと()う事だよね」

 其処(そこ)で、いずなが補足(ほそく)した。

「ムッキー、厳密に()うと、速度比だよね、ゆうちん」

「そう、常に同じ速度でと()う条件があるからね。じゃあ、Aが池の(まわ)りを1周した時には、Bは…」

「そりゃ、3周だろ…。ああっ」

 正太郎が悲鳴(ひめい)に近い(さけ)び声を上げる。卒爾(そつじ)として、何か気が付いた様である。そして、()の時、いずなと祐子が、突如(とつじょ)として、カウントダウンを始める。

「5、4、3、2、…ゼロ」

 そして、祐子が部屋の一点を指差す。(みんな)、つられた様に、()の方向を見る。部屋の鴨居(かもい)よりも上に、教室に有る様な大きな丸い時計が設置されていたが、丁度(ちょうど)、深夜0時を指していた。

「ほら、AとBが並んだ!」


 満面(まんめん)()みを浮かべた祐子の一言により、各々(おのおの)から、驚嘆(きょうたん)に近い溜息(ためいき)()れた。

「ああ…」

「そうか…」

(なる)(ほど)

「そう()う…事か」

 一同、了解(りょうかい)した様である。唯一(ゆいいつ)、敬介だけが、泣き声を()げる。

「ちょっと、待ってよ。いずなちゃん。(おれ)全然(ぜんぜん)、判らないよう」

「ムッキイ、ケースケったら。先刻(さっき)、ゆうちんと正ちんが()ってたでしょ。Aが池の(まわ)りを1周した時には、Bは3周回るって。なら、Aが2周回った時には、Bは?」

「そりゃ、6周だろ…。」

「Aが1周回った時と、2周回った時、Bと何処(どこ)で並ぶと思う?」

「あーっ、そうか。同じ処だ」

「ムッキー、判った?」

「…うん。でも、何で、こんな、変てこな事が起こるんだ? 現実には()得無(えな)いだろう」

 祐子が、ニコニコし(なが)ら、解説する。

()れはね、AとBの速度比が、時計の長針と短針の様に、有理だからなの。つまり、二人の速度比が有理であれば、池の円周(えんしゅう)にかかわらず、答えは、常に固定化される。逆に、速度比が無理であれば、答えは不定(ふてい)に成らざるを得ない…」

「だったら、答えを不定(ふてい)にする(ため)には、例えば、最初の設定をルート200メートルとかにすれば…」

 若干(じゃっかん)、横道に外れ掛かる敬介の発言を高志が(たしな)める。

「あのなあ、そんな不自然に悪目立(わるめだ)ちする設定のクイズで、誰が引っ掛かるんだよ」

「それも、そうか」

 納得する敬介の横合(よこあ)いから、祐子が、又、話し始めた。

抑々(そもそも)()のクイズの秀逸(しゅういつ)(ところ)はね、池の(まわ)りを回ると()う、如何(いか)にも有りそうな設定(シチュエーション)の中に、常に等速度で走り続けると()う、絶対に()得無(えな)い様な設定(シチュエーション)が組み込まれる事によって、突拍子(とっぴょうし)も無い解答になってしまう(ところ)なの」

「確かに…」

 明彦が(うめ)く様に(つぶや)く。そして、静かに祐子に(ただ)した。

「でもさ、祐子ちゃん。かなり早い段階で気が付いていたよな。如何(どう)してなんだ?」

 祐子は、言葉を選び(なが)ら、(おもむろ)に語りだした。

「私が、一番引っ掛かったのは、『()(まま)、速度を変えずに池の(まわ)りを回り続けたとしたら』と()う、妙な言い回しなの。明らかに、普通の言い回しでは無いし、返って目立ったの。そして、()の設問では、常に等速度である事を強調している。と()う事は、等速度で無いと成立しないのかなって、思ったの。本来(ほんらい)であれば、常に等速度で走るなんて、()得無(えな)(はず)なんだから…」

「確かに…」

 敬介も同意する。(さら)に、祐子が続ける。

「そう考えれば、此処(ここ)での条件は明らかに、速度比を(あらわ)している。普通、私達が日常使う『速度』という言葉は、お約束として、()の頭に『平均』という文字が入るのだけれど、()の場合は明らかに違う。純粋な速度比。其処(そこ)で判ったの。()れは、有理数(ゆうりすう)無理数(むりすう)の問題なんだろうなって。そして、比率は1対3。であれば、二人が並ぶ位置も常に同じ。時計の文字盤で例えるのなら、12時と6時の位置だね。」

 祐子はニコニコし(なが)ら、(さら)に続ける。とても、(うれ)しそうである。

()の問題、設問を聞いただけでは、有理数(ゆうりすう)無理数(むりすう)の問題だとは、まず、気が付か無い。()の点が、秀逸(しゅういつ)(ところ)だよね」

 嬉々(きき)として説明している、()のぽっちゃり型の少女をを見据(みす)(なが)ら、正太郎は(ひそ)かに思った。

(絶対に理系だよ…)

 正太郎は、先程(さきほど)の、バス停前での祐子との会話を思い出し(なが)ら、素直(すなお)に祐子の説明に感服していた。確かに、そうであろう。あの発想は(まぎ)れも無く、理系の()れである。自分では及びも()かなかった着想である。(しか)し、()の思索も、高志の()頓狂(とんきょう)な声で中断された。

「あーっ、もう、0時だぞ。正太と敬介のせいで、30分近くも無駄(ムダ)にしたぞ…」

「わーっ、俺達(おれたち)のせいにするつもりか」

「ふざけやがって」

 憤然(ふんぜん)異議(いぎ)(とな)える、正太郎と敬介。高志は(さら)に続ける。

大体(だいたい)、0時直前に、いきなりカウントダウンなんか始めやがって…。てっきり、俺は地獄通信にでも繋げるつもりかと…」

 すかさず、凛子が混ぜ返す。

一遍(いっぺん)、死んで見る?」

「うわあ、やめろー」

  田舎の温泉宿の一泊目は、いろんな夢や希望や、バカバカしい笑いを(やさ)しく包み込み(なが)ら、()くして、()けて行くのだった。


 カッコー、カッコー。


 朝5時過ぎ、正太郎は、早起きの閑古鳥(かっこう)杜鵑(ほととぎず)の鳴き声で起こされた。神経が高ぶっているせいもあろう。何時(いつ)に無く、爽快(そうかい)な目覚めだった。正太郎はゴソゴソと寝床(ねどこ)から()い出すと、匇卒(そそくさ)と着替えを始めた。(まさ)に、宵衣旰食(しょういかんしょく)の生活ではあるが、()しむらくは、()の生活が仕事の(ため)では無いと()う事(くらい)であろうか。立秋(りっしゅう)を過ぎれば、(こよみ)の上では秋である。だが、(こよみ)の上での秋は、あくまでも、(こよみ)の上での話なのだろう。もう、(すで)に、暑かった。セミ達もフルスロットルで泣き始めている。正太郎は部屋の中を見渡した。正太郎以外のみんなは、思い思いの寝相でまどろんでいる。出窓(でまど)欄干(らんかん)に両手を掛け、河原を見下ろした。遠く、西側は()(かす)かに紫紺(しこん)の空だった。(やま)()に明けの明星(みょうじょう)が見える。ぼんやりと(なが)めていると、隣の欄干(らんかん)から、声が聞こえた。

「あっ。正ちゃん。おはよう」

 見ると、白いフリルの付いたキャミソール姿の祐子が出窓(でまど)に腰掛けている。豊満(ほうまん)な胸でキャミソールがはちきれそうである。二日目の(しょ)(ぱな)から、祐子の(かがや)く様な笑顔を見る事が出来(でき)た。

「祐ちゃん。おはよう。早いね」

「正ちゃん。みんな、まだ寝てるから、下で…。一緒(いっしょ)に朝の散歩しない?」

「分かった。玄関前で」


 朝の(さわ)やかな空気を吸い(なが)らの散歩は、気持ちよかった。相変わらず、時折(ときおり)閑古鳥(かっこう)の鳴き声が聞こえる。小径(こみち)には、撫子(なでしこ)が咲いていた。祐子は、『今日こそ正ちゃんに会えます様に』と、思い(なが)らも、一日が始まっていた昔が思い出された。中学時代に、祐子が毎日『ラジオ体操』に出席していたのも、正太郎の顔が合法的に見れる口実(こうじつ)であったからに他ならない。結局(けっきょく)、正太郎の顔を見れても、何を話す(わけ)では無かった。(むし)ろ、話が出来(でき)無い日の方が圧倒的に多かったが、それでも、祐子は満足だった。でも、今に較べたら、と、思わざるを得ない。正太郎は、手を繋ぎ(なが)ら、隣でニコニコしている丸っこい少女を見て、幸福感に(ひた)っていた。ふと気がつくと、祐子は反対側の手に何か黒い大きな物を持っている。

「あれっ、祐ちゃん。それは?」

「ああ。これ、カメラ。私、カメラが趣味なの。今回の合宿も、もう100枚くらい()ったよ。あと、みなと祭りの時も、100枚くらい()ったかな。みんなの浴衣姿(ゆかたすがた)

「えっ。そうなの? そう()えば、花見や竜爪山(りゅうそうざん)でも、沢山(たくさん)()ってたなあ」

「うん。内緒(ないしょ)で正ちゃんも、沢山(たくさん)()っちゃった…。そうだ。ちょっと、お願いが。もし、良ければ、二人で写してもいい? 合宿で、二人で写した写真、一枚も無いから…」

「うん。いいよ、ちょっと恥ずかしいけどね。そのかわり、祐ちゃんの写真も()らせてね。(おれ)、祐ちゃんの写真、一枚も持って無いし…」

 二人で()った写真はちょっと表情が硬かったけど、幸せそうな二人のワンショットだった。

 祐子のはにかんだ様な笑顔が、とても可愛らしかった。

「後から、もらえる?」

「うん」

「よければ、他の写真も」

勿論(もちろん)、いいよ」

「実は、(おれ)。小学校の時から、ホームページ作っているんだけど、億劫(おっくう)で、なかなか、写真撮らないから、あまり、更新しないんだ。やっぱり、写真が無いと()えないから。あっ。勿論(もちろん)、載せるの風景写真だけだから」

 祐子は正太郎の、突然の吐露(とろ)(ひど)く驚いた。()し、知っていたら、()れこそ毎日でも閲覧していただろう。

「えー、本当(ほんとう)。私、知らなかったよ。URL教えてくれる?」

「うん。いいよ。もっとも、大した内容じゃないけど…。旅行とか、遠足なんかの写真に、感想とかコラムを()えて()っけているだけだよ。見ている人、(ほとん)ど、いないんじゃないかな、最近は更新もしてないし」

「私、絶対に見るよ」

「…それと、あのね、祐ちゃん。…昨日のお約束。しても…良い?」

「…うん」

 祐子は飛びっきりの笑顔で(うなず)く。

「えへへ、本当(ほんとう)は、ちょっと、期待してたんだ」

 祐子は、そう答えると、静かに目を閉じた。正太郎はぎこちなく、唇を重ねた。


 二人は、6時少し前に戻ってきた。ライム色のエプロンを着た凛子は、一人、厨房で朝ごはんの準備に取り掛かろうとしていた。

「あっ。祐子。おはよう。何処(どこ)に行ってたの」

「えっ。正ちゃんとお散歩」

「あらあら、朝っぱらから熱いわね。(しか)し、彼奴(あいつ)もよく起きられたわね。確か、2時過ぎまで、勉強部屋にいたわよ。1時ごろ、私とひろみでコーヒー入れてあげたのだけど、まだ、頑張っていたもの。彼奴(あいつ)と敬介、宿題やってないって、結構(けっこう)、目の色変えてやってたからね。まあ、私もだけどね。でも、うちの学校の宿題。一日、二日、目の色変えた位で、何とかなる量じゃ無いもの。勉強部屋Bでは、明彦とハロゲン族とひろみが3時位まで、やってたそうよ。なんだかんだ()っても清水高校の生徒よね、バカやっていても、勉強はするもの。でも、今から起こすのちょっとかわいそうね。ごはん出来(でき)(まで)、寝かしてあげようか?」

「あっ。正ちゃんが起こしに行っちゃった」


「おーい、朝だぞ」

 男子部屋で正太郎がみんなを起こして(まわ)っていた。

「何だよ、もう、朝かよ」

 ハロゲン族がぶそくっている。敬介が大欠伸(おおあくび)をし(なが)ら、

「ねむいなあ。女の子達は、もう起きたのか?」

「祐子と凛子は。…他はまだみたいだ」

 ハロゲン族が、とたんに活性化した。

「何だと! 起こさなきゃ駄目(だめ)だろ。ついでに、寝顔もカメラに収めよう」

 眼鏡(めがね)もキリッとした顔で続いた。

「手伝おう」

 高志たちが、女子部屋に乱入した。

「おーい。朝だぞ」

 (しか)し、いずなとひろみは起きていた。(しか)も、()の手の作品(おはなし)様式美(おやくそく)である。ひろみはピンクのブラとピンクのパンツ。いずなは水玉模様のパンツだけだった。いずなは、あわてて、両腕で胸を隠す。

「ウキャーッ」

「おまえらー。また、性懲(しょうこ)りも無く、何のつもりよ。ぶっ殺すわよ! ()の野蛮人」

「うわー。待て、待て、待て。誤解(ごかい)だ。(おれ)達は、(ただ)、起こしに来ただけで…」

「ムッキーッ、ひろみっち! ハロゲン族が、カメラ持ってる! (しか)も、見て。下が、又、もっこりしてる…。屹度(きっと)、又、あのエイリアンが活性化してるんだよ」

「あんたたちねえ。乙女の部屋に、何のつもりなの?」

「いや、誤解(ごかい)だ。これは、ただの生理現象…グワッ」

「何が、誤解(ごかい)よ。くらえっ、天誅(てんちゅう)!」

「グエッ」

 ひろみが横蹴(よこげ)りを放った。

 全員そろって、7時に朝食。献立(こんだて)は納豆、味噌汁、目玉焼き、ほうれん草のおひたしだった。祐子が、

「高志君、如何(どう)したの? 目にあざが。明彦君も鼻血が…」

 ひろみが不満げに()った。

「別に…。朝っぱらから現れた不埒(ふらち)痴漢(ちかん)を、成敗(せいばい)しただけよ」

「聞いてよ。祐ちん。いずな。おっぱい見られちゃったんだよ。ハロゲン族と眼鏡(めがね)に」

「なーにがおっぱいだ。ぺちゃんこの(くせ)しやがって」

「ムッカーッ」

 続いて眠そうな顔で入って来た敬介が、目を(こす)(なが)ら、いずなに声を掛けた。まだ、意識は眠っている様である。

「おはよう。いずなちゃん。良く眠れた?」

「うん。ケースケ君は?」

「良く眠れたよ。3時間程だけど…」

 二人の会話を聞きとがめた高志が、

「何だあ? いずなちゃんにケースケ君って、お前ら、なんか、変なものでも食ったのか?」

 高志は、()だ昨晩の二人の()()め話を知らないらしい。いずなが、味噌汁を(すす)(なが)ら、()まして()った。

「ハロゲン族が持ってきた甘夏」

「何だと。いずな。おっぱいもむぞ。ぺちゃんこだったけど」

「ムッキーッ。()のハロゲン族は。ひろみっち。ゴー」

「わーっ。分かった。もう、()わない」

 明彦が、

「ところで、今日は如何(どう)する?」

 凛子が答えた。

()の後、おにぎり作って。10時まで、全員で宿題。()の後、いずなが楽しみにしている清地淵(きよじふち)へ出発。子供達も私達と一緒(いっしょ)だと宿題(はかど)るんだって」

 午前7時の段階で、(すで)に暑さがかなり厳しい。今日も絶好の川日和(かわびより)である。胸躍(むねおど)る一同であった。

敬介だぜ。It never rains but it pours.って英文があるんだ。いずなちゃんに聞いたら、「降れば土砂降り」と訳すんだそうだ。何だかマーフィーの法則みたいな英文なんだが、さて、次回はそんな話だ。次回、『第16話 蜘蛛に集られ崖から転落した日の出来事』。見てくれよな。


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