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第12話 興津川に行こう!(興津川夏合宿編【1/6】)

 ()の日は、コンクールも昨日無事終わり、夏休み中の最後の登校日だった。朝から、じりじりとした暑さの中、(せみ)達が、懸命(けんめい)にがなりたてている。()れからは夏休みも、愈々(いよいよ)、終盤戦となり、()(あと)、夏休み終わり(まで)、全員で顔を合わせる機会(きかい)は無い。祐子はHR(ホームルーム)が終了した(ところ)で、正太郎に話し掛けた。

「ねえ、正ちゃん。()(あと)のご予定は?」

「ごめん。祐ちゃん。()(あと)すぐに歯医者の予約があるんだ。でも、()の後だったら、ヒマだけど」

 祐子はニッコリと微笑(ほほえ)むと、(うなづ)いた。

(わか)った。私もいずなちゃんと部室で合うの。()れじゃあ、また、(あと)からメールするね」

 (まる)っこい肥満(ひまん)体躯(たいく)の祐子が、豊満(ほうまん)な胸を()すり(なが)ら、教室を出て行った。高志が欠伸(あくび)をし(なが)らも、なにげなく首を伸ばして祐子の胸元(むなもと)をチラ見する。

「相変らず祐子ちゃん、()い胸してんなあ。()れにしても、(あつ)いなあ。海にでも行きてーな」

「お前なあ…。(しか)し、確かに(あつ)いよなあ」

「なあ、正太。祐子ちゃんをプールかなんかに、()れて行ってやったら、如何(どう)なんだ?」

 友人思いの高志が、不器用(ぶきよう)な正太郎の背中を押す。

「いや、実は、彼奴(あいつ)、昔からプールとか海、駄目(だめ)なんだよ。泳げ無いんだ。かなり、水が怖いらしい」

成程(なるほど)なあ。天才少女にも弱点はあったか…。だったら、川は、如何(どう)なんだ? 川なら、泳げるか如何(どう)かなんて、(あま)り関係無いだろ」

興津川(おきつがわ)か? 興津川(おきつがわ)に行くとしたら、何処(どこ)()いかな?」

 (くだん)興津川(おきつがわ)は、清水区の東部を流れる二級河川(にきゅうかせん)である。清水の北部である安倍奥(あべおく)(たん)(はっ)し、駿河湾(するがわん)へと(そそ)いでいる。然程(さほど)、大きな川でも無く、流域(りゅういき)には、川遊(かわあそ)びが出来(でき)そうな地点が(いく)つもあった。

「そうだな…。チャリで行くなら、雨乞(あまごえ)清地(きよじ)和田島(わだしま)(あた)りだろうな。安全だしなあ…。まあ、気が向いたら()れて行ってやれよ」

「そうだな。やっぱ、行くなら雨乞(あまごえ)清地(きよじ)(あた)りだよな。ところで、高志は()れから如何(どう)すんだ?」

「前店にラーメン食いに行く。ひろみにラーメン(おご)る事になっている」

 正太郎は(しぶ)い顔で(くぎ)()す。

「…。おい、今度は一体(いったい)、何をやらかしたんだ?」

「別に…。おっぱい(さわ)ったら、回し蹴り食らった挙句(あげく)に、ラーメン(おご)る事になった。理不尽(りふじん)(きわ)まり()えだろ」

()り無い(ヤツ)だなあ。おまえ、学校祭の時に()りたんじゃ無かったのかよ? ()れに、みなと祭りの時も、()た様な事やらかして…」

「へへん、あんなんで()りて(たま)るか」


 ()(ころ)、部室では、敬介が祐子といずなに、何事(なにごと)かを懸命(けんめい)懇願(こんがん)していた。部室には敬介といずなと祐子の3人だけだった。

(たの)む。いずなちゃん、祐子ちゃん。何にも()わずに、8月22日から3泊、いや、2泊で()いから、温泉(おんせん)一緒(いっしょ)に来てくれ…」

「ヴー。何か絶対(ぜったい)にHな事、(たくら)んでいる」

 いずなが疑わしそうな眼差(まなざ)しで警戒する。

(たくら)んで無いよ。そりゃ、いずなちゃんが一緒(いっしょ)温泉(おんせん)入りたいって、()うなら、(おれ)、喜んで入るけどよ」

「…絶対(ぜったい)行かない」

 ムッとして(にら)みつけるいずな。祐子が困った様な顔で()った。

()(かく)(わけ)を聞かせてよ。()(まま)だと、何も分から無いし、全然(ぜんぜん)、決められ無いよ」

「実は、(おれ)のおじさん。良二おじさんって()うんだけど、親父の弟でさ、両河内(りょうごうち)民宿(みんしゅく)(いとな)んでいるんだ。ほら、()の前、話した民宿(みんしゅく)。本来は()の時期、夏休み期間中は、書き入れ時なんだけど、おばさんの姉の子供が結婚式で、おばさんが北海道に行く事になってたから、()の期間は客を取らなかったらしい。其処(そこ)へ、うちのひいばあちゃんの具合(ぐあい)が悪くなって、親父と良二おじさん、二人で様子(ようす)を見に行く事になったんだ。宮崎の都井岬(といみさき)の方だって」

何処(どこ)?」

 いずながあどけない顔で聞き返す。

「うーんと。桃鉄でワープ駅がある(ところ)だよ。?駅の南の…」

「わかった! 日南(にちなん)だ!」

 二人で一緒(いっしょ)(さけ)んだ。祐子が感心した。

「一発で分かったよ。敬介君。流石(さすが)、地理が得意だね。説明が上手(じょうず)だよね」

 いずなも、ニコニコし(なが)(うなづ)いている。

「うん」

「いや、おまえらが特殊(とくしゅ)なだけだろ。桃鉄で場所を説明したの初めてだぞ。(ちな)みに、おばさんが行くのは浦河(うらかわ)襟裳(えりも)(そば)のカード駅だ」

「ムッキー、其方(そっち)も、分かった。ケースケ。今度から場所説明する時は、桃鉄でお願いね。それなら、いずな。すぐ分かるから」

 敬介が(あき)れた様な素振(そぶり)で説明を続ける。

其方(そっち)の方が分かりにくいだろ。あーそうそう。()れで、明後日(あさって)から3日間おじさんたちが旅行に行っちゃうんだが、従兄弟(いとこ)が残るんだよ。小5の良介と小3の千穂が。最初は、(やつ)らが(ウチ)に来る手筈(てはず)だったんだが、3日間、宿を空けるのも流石(さすが)不用心(ぶようじん)だって事になって、親父が、『敬介おまえが行って面倒(めんどう)を見て来い』ってさ。『あそこ、温泉(おんせん)もあるし、目の前が川だから、一日中、川遊(かわあそ)出来(でき)るぞ』ってほざきやがるんだ。(おれ)だって、宿題(しゅくだい)()(なん)にもやって無いのに…」

「川?」

 いずなが、目を(かがや)かせ(なが)ら食いついた。

「ケースケ♪ ()の川って泳げるの?」

「当たり前だろ。川で泳がなくて、何するんだよ。大岩の上から、飛び込みも出来(でき)るぞ」

 いずなの(ひとみ)が、見る見るうちに(かがや)くお星様になった。

「ムキーッ♪ いずな絶対(ぜったい)行く。料理も得意だし」

「マジか?」

「うん。ラーメン。お湯掛ける(やつ)。いずなが作る卵ラーメン、絶品(ぜっぴん)だよ」

「そう()うのは、料理とは()わない」

「だったら、ゆーちんも行こ。ゆーちんなら、むちゃくちゃ女子力高いから。レベルマクラスだよ」

「お料理なら、多分(たぶん)大丈夫(だいじょうぶ)だと思うけど…。温泉(おんせん)魅力的(みりょくてき)なんだけど、ちょっと、…。ねえ、敬介君、其処(そこ)って何人(くらい)泊まれるの?」

「30人位は大丈夫(だいじょうぶ)なんじゃないかな。良二おじさんも、『ちび達の面倒(めんどう)見てくれるなら、合宿(がっしゅく)してくれてもかまわないぞ』って、()ってるしよ」

「だったらさ、正ちんにも声掛けようよ。当然(とうぜん)、みんなにもさ。()れなら、ゆうちんも絶対(ぜったい)参加(さんか)だよね」

「…もう。でも、()の前話していた旅行の話。『夏休み川遊(かわあそ)び&宿題(しゅくだい)合宿(がっしゅく)』って事で、みんなに声掛けてみたら…」

「なら、いっそ。全員呼び出そうぜ。ラインで」

 早速(さっそく)、いずながラインを入れる。そして、敬介達も続いた。

『メーデー、メーデー。緊急事態(きんきゅうじたい)発生。大至急(だいしきゅう)、部室に来られたし。 ―いずな』

(たの)む。みんな。相談したい事があるんだ。申し(わけ)ないが、部室に来てくれないか? ―敬介』

『正ちゃん。良かったら、歯医者終わったら部室に来てくれない? 相談したい事があるの。 ―祐子』

 すぐに、高志とひろみがやってきた。

如何(どう)したんだよ。緊急事態(きんきゅうじたい)って、一体(いったい)、何事だよ。折角(せっかく)、ひろみとデートしてたのに…」

 ひろみが、顔を赤らめ(なが)ら、大仰(おおぎょう)否定(ひてい)する。

「ふざけた事、()わないでよ。前店で一緒(いっしょ)にラーメン食べてただけでしょ。で、一体(いったい)如何(どう)したって()うのよ?」

 其処(そこ)で、敬介が事情(じじょう)()(つま)んで説明した。

「へー。面白(おもしろ)そうじゃないの。()の前の旅行の話をした時、本当は、絶対(ぜったい)行きたいなって、思ってたんだ。私、行くわよ。料理も、多少(たしょう)なら…。英語で()(ところ)の、ア・リトルのレベルなら…」

 高志が(たず)ねる。

「ほー、意外だな。何が作れるんだ?」

「大した物じゃ無いわよ。…おにぎりとか、お茶漬(ちゃづ)けとか、納豆(なっとう)とか」

「そう()うのは、ア・リトルとは、()()えだろ、普通。(ただ)のリトル、(むし)ろ、ネヴァーが、文法的には正解だ。ぐはあっ…」

 ひろみの(ひじ)が高志の鳩尾(みぞおち)にめり込んでいる。

「本当に失礼ね。あんたは如何(どう)するのよ?」

 高志は、()せて顔を(しか)(なが)らも()った。

当然(とうぜん)。行くに決まっているだろ。(おれ)も、本当は()の前、旅行の話の時、絶対(ぜったい)行きたいと思ってたんだ。()れなら、宿題(しゅくだい)問題も一挙(いっきょ)に片付く。それで無くても、先刻(さっき)、正太と川でも行きたいって、話していたんだ。んでもって。おい、敬介。温泉(おんせん)ってなあ、当然(とうぜん)混浴(こんよく)なんだろうな?」

「んな(わけ)あるかあ!」

 わいわいやっている所へ、(あせ)()()き明彦と凛子がやってきた。続いて、右側の(ほほ)()らした正太郎も来た。

如何(どう)したんだよ? 何か緊急事態(きんきゅうじたい)だって? 折角(せっかく)、凛子とデートしてたのに…」

「ふざけた事、()っていると、眼鏡(メガネ)(たた)き割るわよ。一緒(いっしょ)に本屋で買い物してただけじゃないの。夏休みの宿題(しゅくだい)の資料集めと参考書買いに。江尻台のT書店から、態々(わざわざ)、戻って来たのよ。一体(いったい)如何(どう)したのよ? 緊急事態(きんきゅうじたい)って何事?」

「うちの近所で、祐ちゃんちの隣じゃねーか。あいててて…親知らずを抜かれた。麻酔(ますい)が切れてきて、死ぬ程痛い。祐ちゃん、相談したい事って? 何かあったのか?」

「正ちゃん。大丈夫(だいじょうぶ)?」

 敬介がまた、事情(じじょう)を話した。明彦が即座(そくざ)賛成(さんせい)した。

成程(なるほど)な。()いじゃないか。(おれ)是非(ぜひ)参加(さんか)させてくれよ。(もっと)も、料理の方は、(いも)の皮を()(くらい)しか、寄与(きよ)出来無(できな)いと思うが…」

「ばかやろ。()れだけ出来(でき)れば貴重(きちょう)な戦力だ。ひろみや、いずなより、よっぽどな…。ぐほっ」

 いずなとひろみの(ひじ)打ちが、左右から、同時に高志の鳩尾(みぞおち)にめり込んでいる。

面白(おもしろ)そうね。私も行きたいわ。川遊(かわあそ)びってした事ないし。温泉(おんせん)もあるんでしょ。最高じゃないの。()の前、赤灯台で旅行の話が出た時、わくわくしたの。料理も人並みには出来(でき)ると思うし。でも、宿題(しゅくだい)が心配ね。私、()だ何もやって無いもの。まあ、()(ため)合宿(がっしゅく)か」

 敬介がみんなを安心させようと、懸命(けんめい)説得(せっとく)する。

「そんなの、みんな()たり寄ったりだ。(ちな)みに、(おれ)(まった)くやってねえから、安心してくれ。おじさんも、部屋が空いてるから、勉強部屋として使ってくれって」

「そう。何だか(まった)く安心出来無(できな)いんだけど…。まあ、()いか。私はオーケーよ」

「正太は?」

愚問(ぐもん)だな。(おれ)()の手の企画(きかく)に、参加(さんか)しない(わけ)無いだろう? (おれ)も、勿論(もちろん)参加(さんか)だ。本当は、()の前の旅行の話、絶対(ぜったい)に行きたいなと思ってたんだ。当然、祐ちゃんも参加(さんか)するんだろ?」

 祐子は笑顔を(かがや)かせて、

勿論(もちろん)!」

「あれー? ゆーちん。先刻(さっき)は、何か、(しぶ)ってたじゃないの。正ちんが来ないと(いや)、みたいな感じで」

「…もう。いずなちゃんの意地悪(いじわる)

 正太郎は顔を赤らめ(なが)ら、敬介に聞いた。

「ところで、敬介。場所は、興津川(おきつがわ)何処(どこ)ら辺なんだ?」

興津川(おきつがわ)の上流。但沼(ただぬま)交差点(こうさてん)を左折して、(しばら)く行った所。雨乞(あまごえ)だよ」

雨乞淵(あまごえふち)か、最高のロケーションじゃないか。(まさ)川遊(かわあそ)びの(ため)の立地だな」

 いずなが、(ひとみ)(きら)めかせて(たず)ねる。気分はもう、雨乞淵(あまごえふち)の様だ。

「ねえ、正ちん。そんな、()い処なの? 其処(そこ)

「ああ。川遊(かわあそ)びには最適だ。大きな岩があってな、其処(そこ)から飛込みが出来(でき)るぞ」

「うほっ♪」

「さらに、近所にある清地(きよじ)(ふち)はさらに難易度(ハードル)が高い。高さ10メートル位の道の上からダイブ出来(でき)る」

「わあ。其方(そっち)絶対(ぜったい)行こうね。ねえ。ゆーちん、其処(そこ)で草薙素子ごっこやろうね! あと、003ごっこも…」

絶対(ぜったい)にいや!」

 敬介が嬉々(きき)として()った。

「それじゃ。おじさんに電話するぞ。『やっぱやめた』は、無しだからな」

 高志が、()当然(とうぜん)とばかりに応じる。

「ああ、心配すんな。おじさんによろしくな。それで、宿泊費は?」

「そんなの、留守番(るすばん)(たの)むのに、(もら)える(わけ)ないだろう。おじさんも、当然(とうぜん)、いらないって()ってたぞ」

 全員でわいわい()(なが)ら立てた計画はこんな感じだった。


『22日(1日目)

 ・ 9時に全員学校集合。(高志と敬介を除く)正太郎が近所の仕出(しだ)し屋(花月(かげつ))でおにぎりを準備(昼食用)。

 ・ 9時30分。興津駅前(おきつえきまえ)で高志と合流。

 ・ 10時。雨乞(あまごえ)バス停で敬介出迎え。

 ・ 宿に到着。休憩後(きゅうけいご)。敬介の従兄弟(いとこ)(良介と千穂)と全員で川遊(かわあそ)び。

 ・ 昼食はおにぎり。他に弁当を持ってきてくれる人はよろしく。バーベキューは不可(ふか)。(火を使う為)

 ・ 14時。宿に帰宅。ゴミはきれいに持ち帰る事。休憩。()(ころ)、コープさんが食材を届ける予定。

 ・ 17時。夕食準備開始。祐子と凛子だけに負荷(ふか)を掛けないように全員で手伝う事! 献立(こんだて)はカレーライスと野菜サラダ。また、いとこ達はこの時間宿題(しゅくだい)適宜(てきぎ)1名が講師係(こうしがかり)。また、適宜(てきぎ)2名が風呂(ふろ)係。内湯(うちゆ)箇所(かしょ)露天風呂(ろてんぶろ)箇所(かしょ)にお湯を張る事。

 ・ 18時夕食。残さず食べる事!

 ・ 19時花火。火の始末には十分注意すること。子供達が楽しめるように配慮(はいりょ)する事。

 ・ 20時。入浴。(覗かない事!)露天風呂(ろてんぶろ)は21時までが女子。22時までが男子。

 23日(2日目)

 ・ 6時に全員起床(きしょう)。女子は朝食準備。昼食用のおにぎりを作るため、ご飯は12合炊く事。その間、残りの者はラジオ体操に参加(さんか)する事。

 ・ 7時朝食。献立(こんだて)は納豆と味噌汁、目玉焼き、ほうれん草のおひたし。昨日のカレーが残っていたら全部食べる事。

 ・ 8時。子供達の宿題(しゅくだい)適宜(てきぎ)2名が講師係(こうしがかり)。特に、絵日記は良く面倒(めんどう)見てやること! 残りの者は自分の宿題(しゅくだい)

 ・ 10時。清地(きよじ)(ふち)(いずなの強い要望)へ出発。自転車()しくは徒歩(とほ)で。子供達の面倒(めんどう)をみる徒歩(とほ)組は2名以上選出する事。

 ・ 昼食はおにぎり。

 ・ 15時。宿に戻る。ゴミはきれいに持ち帰る事。宿到着後休憩(きゅうけい)()(ころ)、コープさんが食材を届ける予定。

 ・ 17時。夕食準備開始。献立(こんだて)はとんかつ、野菜サラダ。昨日同様、いとこ達は()の時間宿題(しゅくだい)適宜(てきぎ)2名が講師係(こうしがかり)。また、適宜(てきぎ)2名が風呂(ふろ)係。内湯(うちゆ)箇所(かしょ)露天風呂(ろてんぶろ)箇所(かしょ)にお湯を張る事。

 ・ 18時夕食。残さず食べる事!

 ・ 19時。入浴。((のぞ)かない事!)露天風呂(ろてんぶろ)は20時までが男子。21時までが女子。

 24日(3日目)

 ・ 6時に全員起床(きしょう)。女子は朝食準備。昼食用のおにぎりを作るため、ご飯は12合炊く事。その間、残りの者はラジオ体操に参加(さんか)する事。

 ・ 7時朝食。献立(こんだて)は納豆と味噌汁、目玉焼き、ほうれん草のおひたし。

 ・ 8時。子供達の宿題(しゅくだい)適宜(てきぎ)2名が講師係(こうしがかり)。特に、絵日記は良く面倒(めんどう)見てやること!

 その他留意事項

 ・ ゲームを持ち込む場合は、全員が楽しめる様なものにする事。

 ・ アニメ等は子供が見ることを前提に。(エロは不可(ふか)

 ・ 天候等には臨機応変(りんきおうへん)に行動すること。『川は危険な場所に成りうる』事を、常に意識する事。

 ・ 自分の宿題(しゅくだい)自己責任(じこせきにん)でこなす事。

 ・ 体調不良の場合は、くれぐれも無理をしない事。

 ・ いつも、子供達の事を見守る事。(自分の弟や妹だという意識を持とう)良二おじさん達が帰って来る(まで)は、我々が保護者である。

 ・ 小さい子供達がいるから、怪談、猥談(わいだん)(たぐい)は禁止。

 ・ 高校生らしい良識(りょうしき)を持った生活を送ろう!』


 みんなから出た意見を、司会役の明彦が取りまとめ、みんなで精査(せいさ)し、凛子がノートパソコンで素早(すばや)く打ち込んでいく。見事な行動計画表の完成だった。一同は、場所をいつもの茶店(キャトル)へ移動した。凛子はコンビニで印刷したものを全員に配った。高志が目を通し(なが)(つぶや)く。

「おお。何か物々(ものもの)しいな」

 祐子が敬介に(たず)ねた。

「良介君たちのお世話(せわ)を、何時(いつ)(まで)すれば()いの?」

「一応、24日金曜日(まで)。土曜日には、おばさんが帰宅する予定だし、金曜日にはゆり姉が帰って来る」

「ゆり姉?」

「ああ、良介たちの姉ちゃんだ。今年から、東京の大学に行っている」

 ひろみが敬介に(たず)ねる。

「初日の昼食のおにぎりは?」

「正太が近所の仕出(しだ)し屋で(たの)むって」

 正太郎が(うなづ)く。

「ああ、花月(かげつ)だよ。六助んとこ」

 いずなが楽しそうに()った。

「ああ。おいしいもんね。彼処(あそこ)

 高志が起床(きしょう)時間を見て、ふてる。

「カーッ。6時起床(きしょう)かよ」

「何、()ってんのよ。祐子や凛子はもっと早いわよ」

「分かってるって。二人は今回のプランの眼目(がんもく)だもんな。(おれ)達も協力するって…。(しか)し、ラジオ体操かよ。小学校以来だ…な」

 祐子がニコニコし(なが)ら答える。

「あら、私、去年(まで)、出ていたよ」

「まじかよ」

「だって、…正ちゃんも出ていたし…」

「おまえもかい」

「あれは、健康に()いんだよ」

此処(ここ)の最後にある、『高校生らしい良識(りょうしき)を持った生活を送ろう!』ってのは?」

 ひろみは、()当然(とうぜん)だとばかりに()った。

「見てのとおりよ。あんた達はすごく()い奴らだけど、みんなに共通してるのは、ワルノリする事だけが玉に(きず)なのよ。此処(ここ)でバカやったら、敬介に迷惑が掛かる事を忘れないでね」

「わかった。わかった」

「それじゃあ。(おれ)達は此処(ここ)で」


 明彦と凛子が帰っていった。高志、ひろみ、敬介、正太郎達が詳細(しょうさい)を詰め始めた。

 いずなは、祐子に()った。

「本当に、わくわくするね。ゆーちん。心から早く明後日(あさって)にならないかなって思うよ」

「いずなちゃん。飛び込みを楽しみにしていたものね」

「ううん。それだけじゃないの。今回の企画(きかく)全部が楽しみなの。最初、ケースケに頼まれた時、頭に真っ先に浮かんだのが『みんなで』だったの」

 いずなが、(はしゃ)(なが)ら、祐子に()う。

「それは、私も同じだよ。話を聞いた時、みんなで行きたいな、って思ったもの」

「本当は、いずな、遠足やキャンプや修学旅行って大嫌いだったの。休んだ事だってあるよ。班決(はんぎ)めなんかでも、いつも、ババ抜きのジョーカーみたいな(あつか)いだったし、陰口(かげぐち)()われたり、邪険(じゃけん)(あつか)われたり、いじめられたり、無視されたり、いっそ、一人だけの班にしてもらった方が気が楽だったよ、馬鹿(ばか)の振りをするしか無かったもの。本当に、(ろく)な思い出が無いよ。だから、勉強だけは、此奴(こいつ)らに負けない。何が、あっても勉強だけは、って。ちょっと、性格が屈折しちゃったのかな…」

 いずなが、ちょっと表情を(くも)らせ(なが)ら、しんみりと告白する。祐子も悲しそうな笑顔を浮かべ語りだす。

「私も()た様な物だよ。いつも、ブスとかデブとかどんくさいって、()われていて…。何で、そんな(ひど)い事()うのかなって、悲しかったよ。昔、小学校の(ころ)、男子達が、泳げない私をからかって、()の内、泣いている私の手足を(つか)んでプールに放り込んだの」

「そんな、(ひど)い事を…」

()の時、正ちゃんは首謀者(しゅぼうしゃ)の子に突っかかって行ったんだけど、反対にみんなに(いじ)められて。そして、先生が私を助けてる時に、相手の子を(なぐ)って怪我(けが)させちゃったの」

「そんなの、当然(とうぜん)だよ」

「でも、()の後、それが大問題になっちゃって。私、先生に、正ちゃんは私を守っただけだ。って、何度も(うった)えたのだけど。『守るのと仕返しは違う』って、取り合ってもらえなかった」

「ひどい…」

「それ以来かな、水が怖くなっちゃったのは。だけど、中学に入って、成績が全て順位で出る様に成ったのが、すごく(うれ)しかったな。『()の人達。何を()っても、勉強じゃ私に(かな)わないんだ』って。()の辺は、多分(たぶん)、いずなちゃんと同じだと思う。()の代わり、ますます、周囲に壁が出来ちゃったけどね」

「同じだね」

「でも、最近思うの。先刻(さっき)みたく、『みんなで行きたい』って、思える自分って、実は、(すご)く、(しあわ)せなんじゃないかなって。昔なら考えられないよ。だから、昔の自分を見て哀れむのじゃなく、前を向いて未来の自分を見た方が(しあわ)せなんじゃないか。って、そう思える様になったの」

「本当に()のとおりだね。『みんなと一緒(いっしょ)に旅行に行きたい』なんて、半年前の私が見ても絶対(ぜったい)信じ無いと思うな。私も前を見る様にするよ。ねえ、祐ちん。思いっきり楽しもうね。あと、水が怖くなくなると()いね。最初は足を(ひた)すだけ、多分(たぶん)、それだけでも、とても気持ちが()いと思うよ」

「うん。ありがと。がんばってみるね」

 相談がまとまり。解散する事になった。


 8月22日、九夏三伏(きゅうかさんぷく)(こう)、当日は朝から、苛烈(かれつ)な暑さの中、働き者のセミ達がやかましい声を上げていた。正太郎と祐子は、花月(かげつ)の前にいた。正太郎は紺と水色のボーダー柄のシャツにグレーのハーフパンツにサンダルと()う出で立ち。祐子は白のポロシャツにデニムのスカートにやはりサンダルと()う出で立ちである。前日に正太郎から、『普段、乗りなれない距離(きょり)、自転車に乗るから、出来(でき)る限りラフな格好(かっこう)の方ががいいよ』とアドバイスを受けていたのだ。六助の母親が正太郎達に挨拶(あいさつ)をし(なが)ら、

毎度(まいど)、ありがとね。準備しておいたわよ。正ちゃん。お母さんによろしく。今日はお出かけかい?」

「はい。興津川(おきつがわ)に泳ぎに」

「あら、祐ちゃんも一緒(いっしょ)かい?」

「はい。おばさん。先日は有難(ありがと)御座(ござ)いました」

()いねえ。若い人たちは、えーと。(サケ)が10、たらこが10、おかかが10、梅が10、昆布(こんぶ)が10、鳥飯(とりめし)が10。それじゃあ、気をつけてね」

「本当にすみません。おばさん。朝一番に」

「正ちゃんも祐子ちゃんも、たまには、(うち)の六助にも勉強を教えてやって下さいね。あのバカときたら、赤点を5個も、6個も、取って来て…、本当にもう」

「六助君は?」

「今日も部活だよ」

「そうですか…、それじゃあ。行って来ます」

「ああ、気をつけて行ってらっしゃい」

 二人とも後部荷台(にだい)と前部(かご)荷物(にもつ)()せていた。正太郎は前篭(まえかご)におにぎりを無造作(むぞうさ)()せると『さあ、行こう』と、こぎだした。

 清水高校の講堂前にはいずな達が待っていた。

 いずなは白のTシャツに青で大きな四分(しぶ)休符(きゅうふ)、水色のショートパンツにビーチサンダル。思い切り体を横に弓なりに伸ばし、手を懸命(けんめい)に振っている。

「ゆーちん!」

「いずなちゃん!」

 ひろみは、ピンクのポロシャツにベージュのキュロットスカートにサンダル。祐子を見つけると、元気な声を掛けた。

「おっはよう!」

「オーッス」

 凛子は白色の地にブルーでアディダスの文字のTシャツ。学校祭の時に明彦から巻き上げた奴である。下は紺のハーフパンツに黒のスニーカーパンプス。髪にはトレードマークの、大きな黄色のカチューシャをしている。

「じゃあ、行くか」

 明彦はライトグリーンの開襟(かいきん)シャツに、白のスラックスにサンダルと()ういでたちであった。


 一向は出発した。炎天下(えんてんか)のサイクリングである。ぎらつく太陽は容赦(ようしゃ)なく照りつけた。横砂(よこすな)()(とう)しを越え、清見寺(せいけんじ)(わき)を抜ける(ころ)には全員汗だくだった。興津駅(おきつえき)に到着したら、高志がスポーツ飲料を片手に手を振っていた。高志は白のTシャツに青のサッカーパンにビーサンといういでたちだった。後ろの荷台(にだい)荷物(にもつ)の他にビニール袋を(くく)()けている。

(あつ)いなあ。これは、まったくの川日和(かわびより)だな。ああ、()れか? お袋が持って行けって。甘夏(あまなつ)だよ。重くてかなわねーよ」

 一向は、すぐに出発した。国道52号に合流すると、緩慢(なだらか)な上り坂の連続になった。が、()の後は、(しばら)く、下りが続いた。正太郎が祐子に声を掛けた。

「祐ちゃん。こんな遠出、初めてだろ? 大丈夫(だいじょうぶ)か?」

「うん」

「おーい。いずな。大丈夫(だいじょうぶ)か? 又、(しばら)く登りだぞ」

「うぇー」

 二つ目の(のぼ)り坂を越えたら、川の蛇行(だこう)沿()って大きく湾曲(わんきょく)した道は、(しばら)く、気持ちの()い下り坂だった。真夏(まなつ)の下り坂を疾走(しっそう)する自転車に吹き付ける(むか)い風は、(すこぶ)心地良(ここちよ)かった。そして、また、長い(のぼ)り坂である。但沼(ただぬま)集落(しゅうらく)横目(よこめ)に、()てし無く続くかと思われる(のぼ)り坂を(のぼ)りつめた所に、但沼(ただぬま)交差点(こうさてん)がある(はず)だった。正太郎は苦悶(くもん)の表情を浮かべ(なが)らも、後ろを振り返った。全員、胸突(むなつ)八丁(はっちょう)の坂を相手に立ちこぎをしている。(ようや)く、但沼(ただぬま)交差点(こうさてん)が見えた。正太郎はラストスパートを掛けた。先頭の正太郎が但沼(ただぬま)交差点(こうさてん)にたどり着くと、其処(そこ)(しばら)く、みんなが来るのを待った。

「ふう。結構(けっこう)きついわね」

 ひろみが息を切らし(なが)ら、やって来た。

「おい、ひろみブラが()けているぞ」

 高志が()った。ただ、台詞(せりふ)はいつもの高志であったが、口調(くちょう)がまるで違ってた。何処(どこ)か、こう、へろへろだった。ひろみの顔が着ているシャツよりピンクになった。

「あんたって人は、如何(どう)して、いつもいつも」

「ちょっと待ってくれ。…悪かった。…ただの冗談(じょうだん)だ」

 声が本気だった。ひろみが(たちま)ち、()頓狂(とんきょう)な声を上げた。

「あんた。そんなに荷物(にもつ)を持ってたの」

 良く見ると、甘夏(あまなつ)の袋を後部荷台(にだい)に左右、ハンドルに左右、前部に左右。計40㎏はあろうかという量である。さらに背後にはシェルパよろしく大きなバックパックを背負(しょ)っている。息がまだ苦しそうだ。

「ああ。()重量(じゅうりょう)半端(はんぱ)ねえぜ。まったく、お袋のバカが…。大体、蜜柑(みかん)農家に甘夏(あまなつ)持って行って如何(どう)しようってんだよ」

 (ようや)く、みんな追いついてきた。(しばら)く休んでから、また出発した。(やが)て、バス会社の車庫(しゃこ)を過ぎ、川の蛇行(だこう)に従った、うねうねとした道の果てに目的地である雨乞(あまごえ)バス停に到着(とうちゃく)した。

「おーい」

 バス停横のベンチに腰掛けていた敬介が、立ち上がると、手を振った。甚平(じんべえ)姿である。良二おじさんの民宿(みんしゅく)は、バス停の横だった。家の前には、ぎらつく猛夏(もうか)日差(ひざ)しを受けたピンク色の(あで)やかな花をつけた潅木(かんぼく)があり、祐子は興味深げに、正太郎に聞いた。

「わあっ、(すご)綺麗(きれい)なお花…。一体(いったい)、何だろう? 正ちゃん分かる?」

「ああ、()れか? 芙蓉(フヨウ)だよ」

「ムキ? 芙蓉(フヨウ)って、(はす)の花の事じゃなかったっけか?」

「そーだよ。だから、区別する為、木芙蓉(フヨウ)とも呼ばれるよ。アオイの仲間だ。実に夏らしくて、(あざ)やかで綺麗(きれい)だよね」

 ひろみが感心し(なが)ら、()った。

「ふーん。ところで、前から思ってたんだけど、正太って、植物や、天文の事、異様(いよう)(くわ)しいよね」

 高志が、大儀(たいぎ)そうに横槍(よこやり)を入れた。

「まあ、なにしろ、学校祭のクイズ王だからなあ。でも、花の説明に(かこつ)けて、身を乗り出した祐子ちゃんの胸でも触ろうと画策(かくさく)してんじゃねえの…」

画策(かくさく)してねーよ」

 正太郎がムッとし(なが)ら、否定(ひてい)する。

「ほら、バカ()って無いで行くわよ。それにしても、随分(ずいぶん)立派(りっぱ)民宿(みんしゅく)ねえ」

 ひろみが感心したとおり、民宿(みんしゅく)とは()うものの、立派(りっぱ)な玄関は旅館()の物だった。敬介が説明する。

民宿(みんしゅく)とは()っても、叔父(おじ)さんが趣味でやっている様な物だからな。本業は農家さ。叔父(おじ)さん、来たよ」

 ひろみが殊勝(しゅしょう)らしく挨拶(あいさつ)した。

「すみません。お世話(せわ)になります」

「こちらこそ、良介と千穂をお願いします。おい、良介。千穂。ご挨拶(あいさつ)しなさい」

「平井良介です。和田島(わだしま)小5年です。サッカー部です。よろしく…お願いします」

 くりくり坊主の良介君は、日焼けして真っ黒だ。

「千穂です。3年生…です」

 千穂ちゃんは、あまり日に焼けていない。かなりの、人見知りのようだ。ひろみが、代表して、

「よろしくね。良介君。千穂ちゃん。勉強はお姉さん達が見るから、がんばろうね」

「うわー。やった」

「いや、流石(さすが)、清水高校の生徒さん達だ。おい、敬介お前も、ちったあ見習えよ」

叔父(おじ)さん。(おれ)だって彼処(あそこ)の生徒だぞ」

「皆さん。母屋の方も、何でも遠慮なく使ってください。3日間よろしくお願いします。あっ。戸締りと火の用心だけは頼みますよ」

「ところで、叔父(おじ)さん。何時(いつ)出発するの?」

「ああ。もう出るよ。お茶も出せんで申し(わけ)ないが。それじゃ、川で泳ぐ前に、今着ている物を洗濯機に入れて、回しておけばいい。帰ってくる(ころ)には、乾いているだろう。それじゃ。行って来るからね。くれぐれも、よろしくお願いします」

 ひろみが殊勝(しゅしょう)らしく()った。

「こちらこそ、お世話(せわ)になります。気をつけて行って来てくださいね」


 愈々(いよいよ)、待ちに待った夏合宿(なつがっしゅく)の開幕である。胸高鳴(むねたかな)る一同であった。


こんにちは。祐子です。今回、私達は、敬介君の親戚の民宿に夏合宿にやって来ました。全く、正ちゃんたら、朴念仁なんだから。えっ、何処がって? それは、次回のお楽しみです。本当に泣かされたんだから。次回、『第13話 夏雲の想い出』。是非、見てくださいね。

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