九十七部
「今・・・・・どんな気分だ?」
山本は取調室の向かい側に座る坂本に対して聞いた。
「良いと思うなら、山本さんも精神科に通うべきですね。」
坂本は苦笑しながら言った。
「桂先生のことを知っていながら隠していたのはなぜだ?
お前も責任能力が多重人格者にはないからという理由か?」
「僕はどちらかと言うと、責任能力に関係なく犯罪行為を行った者には罰を完全なる形で執行すべきだと思ってます。
知らなかったから罰しない?行為時に正常な状態じゃなかったから罰しない?年齢が若いから判断能力に欠けていた?
そんな理由で犯罪者が見逃されていいはずがない。
無知は罪ですし、どんな状態であれ行為を行ったものとして、その罰を受けることになんの問題があるんでしょうね。
年齢が若いうちに犯罪行為を認識すれば大人になってから過ちを犯すことも無くなるでしょう。
子供の思うイタズラは大人がすれば犯罪行為なんですよと教えなければいけない。ただの遊びで言った言葉が相手に一生消えない心の傷を負わせることになることがあることを教えておかなければ大人になった時にモラハラだパワハラだと言われる大人になるんだということを教えないといけない。
子供への教育がこれからの未来を作るのに、人間としての在り方を教えずにテストの点数ですべての子どもを秤にかけていくのは間違っていると思いませんか?
もっと学ぶべきことはたくさんあるのに、学力を重視し人間教育ができていない。日本教育の問題点はそこにあると思うんですよ。」
「お前らは基本的に話をそらしたいときに日本の問題点を語りだす共通点があるな。
俺が聞きたいのは、お前がなぜ桂先生をかばったのかだ。」
「・・・・・・答えのない問題もあるじゃないですか。
自分ではこうしなければいけないとわかっているのに動けないことだってありますよ。
桂先生が・・・・黒木さんを支える最後の支柱なのかもしれないと思ったら、僕と一緒にいなくなるべきではないと思ってしまったんです。
特に石田さんが亡くなってから黒木さんが大切にしていた世界が一つなくなったみたいに落ち込んでいたんです。
僕も影でこんなことしてましたけど、そんなことも知らずに僕を頼ってくれてたんです。その僕がいなくなったところで他に頼りにしていた桂先生もいなくなれば黒木さんはとても悲しむと思ったんです。
理由があるなら、黒木さんを悲しませたくなかったそれだけですよ。」
「お前にとって黒木は何なんだ?
ただの大学の先輩じゃないのか?」
「日本がまだ国も作れずに小さな集団で争っていたくらいの昔の中国に諸葛孔明という人がいました。
その人はとても優秀でしたが武将に仕官せず、隠居暮らしをしていた。
そこに劉備という仁徳あふれる男が訪ねてきて自分の軍師になって欲しいと懇願した。彼は結局、劉備の軍師になった。」
「何で急に三国志の話が始まったんだ?」
「諸葛孔明が劉備を選んだのは、劉備に王たる器を見たからだと言われてます。
嘘か本当かはわからないですけどね。
僕も同じかもしれないですね、いや正確に言うと違いますけど、黒木さんが日本を変える人物だと心の底から思えたからだと思います。」
「黒木の理想のために犯罪行為を行ってでも日本を改革しようとしていたわけか、影山秀二と組んで?」
「秀二はもうすぐ死にますよ。
あいつはおそらく踏んではいけない地雷を踏んでしまったと思います。」
「そんな話を岩倉もしていたらしいな。」
「・・・あの人は本当に怖い人ですね。
でも、本当に影山秀二を捕まえたいなら、急いだ方がいいですよ。
五條の件も納得のいく答えは影山が持ってますし、あいつの企みはまだ山のようにある。僕も詳細を知らないだけでもう何かが動き出しているのかもしれない。
本当に奥底が見えないいやな奴ですよ、秀二を見てるとたまに光輝に見える時があるんだから兄弟って怖いですね。」
坂本はそう言って笑ったが、笑っているのは口元だけで目は笑っていない。
山本が何かあると思って考えていると坂本が
「そう言えば、もうすぐ国会議員資格の試験ですよね?
山本さんも担当になったんですか?」
「うちの課は全員かり出された。
まあ、俺が黒木の担当になることはないらしいけどな。」
「気を付けてくだしね、秀二はぶっ飛んでますからね。
試験当日に爆破テロとかするかもしれないですよ。」
「それは予告か?それとも予言か?」
「可能性の話です。それくらいヤバい奴ですよってことです。
もしかしたら、候補者として来場するかもしれないですね。」
「わざわざ自首しに来ると思うか?」
「僕の言葉に証拠能力があるとしても、物的証拠は何もないですから逮捕まで行くのは大変ですからね。
自首しに来るとは言えないかもしれませんね。
ああ、あとこれだけは言っときますよ。山本さんは他にも気を付けた方がいいでね。身の回りにまだ秀二の息のかかった奴がいるかもしれません。
誰とはわからないですけど、秀二からの情報には山本さんの近くにいないとわからないことがたくさんありました。
周りの誰も信じないことですね。後ろから刺されるかもしれないですよ。」
「それは予告か、それとも忠告か?」
「忠告です。
死刑になる僕ができる最後の忠告になると思います。
そうだ、検察の人にできるだけ早く死刑を執行するように掛け合っといてもらえますか?
重罪を犯せば死刑になる、死刑は飾りではなく実際に執行されるものなのだと世間に知らしめてください。
なんなら、公開処刑とかもいいですね。笑顔で「さよなら」って言って死にたいですね。」
「マンガの読みすぎだな。
そんな最期を迎えられるほど現代日本は甘くねえよ。」
「残念ですね。」
坂本はそう言って本当に笑った。




