九十五部
『政府は今回の事件を受けて、出入国管理法の改正と来日外国人における労働特別法の施行、そして自衛隊のあり方についての見直しと外部監査制度の導入、並びに他国軍基地に対する日本でのあり方に関しても改めて検討を行うことを明言し、すでに出入国管理法に関しては法案が可決され、早いものであれば一週間後から適用を開始すると発表されました。内容は
一つ、外国人が入国する際に入国資格に合わせたGPS機能つき端末の貸与と所持を原則とすること。もし、紛失した時は1日以内に日本の警察に申し出ることが規定されており、紛失の報告を怠った場合や破棄した場合には強制送還並びに10年間の入国禁止措置がとられるなど厳しい罰則が設けられています。
二つ、日本から出国する際に荷物に大量の電化製品や高額な物を持ち込む時は空港到着前に申告書類を作成し、空港にて担当者の審査を受ける必要があるとするもの。
申告を怠った場合には対象の荷物を持って出国できない可能性があるため事前の申告には細心の注意を払う必要があるとのことです。
三つ、日本人の出国に関して、国の指定する危険地域に向けて出国する際には外務省に申請を行い許可がなければ、該当地域で問題に巻き込まれたときに国として補償等を行わないことを規定しています。
四つ、外国人犯罪者については日本での裁判が終了次第強制送還を行うとし、犯罪の種類の軽重に関わらず懲役2年以上の判決を受けた者は判決の3日以内に出生国、あるいは父母の出生国に送還するものとし、日本への再入国は全面的に禁止されることの四つが先行して実施されるようです。』
テレビのアナウンサーが今回の事件の終息を受けた政府の対策を伝えている。入国禁止措置等は人権の侵害だと叫ぶ人達もいたが、よくよく考えると犯罪を起こさなければいいのではないか、という根本的な話をふられて黙りこむ人達が見受けられた。
GPSによる監視に関しても批判は出たが、それよりも不法滞在者の多さが日本人に恐怖を与えたため、合理的だと判断する人達の声に押し流され、批判自体がされなくなった。
日本人の出国に関しての部分に関しては、ジャーナリストを名乗る人達からの批判が多く出たようだが、この部分に関しては、昨今の国際テロ話組織の活動や何十年も前の苦い記憶から対応されたものだろうと思われた。
被害に遭い亡くなられた方もいるから言いにくい話ではあるが、渡航自粛を促されながら渡航して問題に巻き込まれたから国が助けてくださいと言うのは厚かましいと思われる。
テロ組織の要求を飲めば、『テロに屈した』と批判され、要求をはねのけても『国民を見捨てた』と批判されるなら、はじめから規制して巻き込まれないように対処する法が遥かに優れた判断だと思われた。
旅行に行きたい人は自由に行けるが、危険な場所にわざわざ行かせることが国民の幸福に繋がるとは思えない。
テレビのアナウンサーが
『これらの内容は大きく、国民の自由を制限していると思われますし、外国人の観光客の足が重くなってしまうのではないかと思われますがどうでしょうか?』
アナウンサーはコメンテーターとしてきている大久保に話を振った。
『政府の対応としては、人権の制限をかけたように国民の皆さんに見えてしまうかも知れませんが、それは大きな間違いですね。
自由を主張するにも生きていることが大前提になります。
命の危険に見舞われてから人権を主張しても後の祭りですよ。
つまり、遅すぎるんです。
自分を守るためにも規則に従った渡航を行うことが重要になると思いますね。
あと、外国人観光客に関しては、日本がなぜ多くの観光客が来ていたのかを考えてみてもらいたいんです。
世界のなかで変わった文化を持ち、島国だからこその独特の世界観がある。そして何より、平和なんですよ。
外国で片手にスマホを持ちながら歩いてはいけませんよ、強奪されますから。食事の時にスマホや財布を机の上においてはいけませよ、盗まれますから。
日本ではそんなことはありませんよね?
それも今まではの話でこれからどうなるかわかりません。治安が悪くなれば自然と観光客は減るでしょう。
治安を回復させるためには日本人だけでなく来日する外国人にもマナーであったり、文化だったり等の『日本』を理解してもらう必要があると思うんです。
だからと言って全部勉強してから来てくださいとは言えないので、それをサポートするような制度を作っていかないといけないと思うんです。
例えばGPS付きの端末を使って道案内ができたり、翻訳機能も搭載されているので日本語を話せなくても自由に日本を回れるなどの特徴もあります。
監視ととらえるから人権侵害だと思ってしまうんです。この制度の重視すべき点は来日外国人のサポートにあると私は思っています。』
『なるほど、それでは他の政府の対応についてはいかがでしょうか?』
アナウンサーが話題をかえ、大久保が色々と言っている。山本がテレビから視線をそらした時に後ろから
「政府の反応が速すぎると思いませんか?
事件が起きはじめてから時間は経ってますけど、法案を作るのなんて、ましてや可決するところまで行くのにはちょっと速すぎる気がしますよ。」
上田がコーヒーを山本の前に置きながら言った。
「前から改正の必要性は言われてたんだ。この事件をきっかけに法案の作成が加速しただけかもしれないだろ。」
山本がそう言ってコーヒーを飲むと
「ちゃうと思うで。
政府は………………ああ、これもちゃうな。
北条総理は急いでんねん、冬に『国会議員資格認定試験』をする言うたのに、今回の事件でそんなことしてられへんくなったから先延ばしになってるけど、もう春もなかなかになってるんやから早くやりたいんとちゃうか。」
竹中が近づきながら言った。山本が
「どうしてそう思うんですか?」
「簡単なことや、黒田ちゃんからこの試験に関してみんなに伝えたいことあるから集めてきてくれって頼まれたからや。」
「それって、理由になってないですよね?」
上田が言うと竹中は笑いながら、
「まぁ、ええやんか。
ほら、第三会議室でやるから山本は先行っとけ。上田は伊達と片倉に戻ってくるように連絡してくれ。
ほんま、あいつらはどこにおるかわからへんからなぁ~」
「わかりました。」
「俺も他のやつら探すのを手伝いましょうか?」
「ええねん、山本は。
最近、疲れることばっかやろお前は。
ちょっと休んどけ。休暇をとれ、総務の奴がうるさいって黒田ちゃん言ってたで。」
「ああ、そうだ。警部、総務課から苦情が来てましたよ。」
上田が思い出したように言い、思い当たることが多すぎた山本は
「どれについてだ?
捜査経費か?宿直室の連日利用についてか?それとも竹中さんの言った休暇の話か?」
「どれも言われてますけど、拳銃の返却手続きについてですよ。
拳銃の携帯は今回の事件ではテロ組織相手だから仕方なく認められてましたし、持って貰うのは良いですけど毎日しっかり返してくださいよ。日によって返されてたり返されてなかったりでバラバラだし、返されてるのに返したって書類がなくて総務が把握してなかったりで大変なんですよ。
僕が気づいたときは、警部の分もやってますけど毎回はできないですから注意してくださいよ。
警察官の拳銃の使用に世間が騒いでる今、紛失でもしたら大騒ぎになりますから。」
「手続きとかあったのか?
聞いてないぞ?」
「昔からありますよ。」
上田はそう言い残して部屋から出ていった。竹中が山本の肩に手を置き
「きっと今までも誰かがやっといてくれたんやで。
感謝しろよ、上田とか今川とか大谷にな。」
「えっ、それってどういう意味ですか?」
「まっ、そういうことやな」
竹中は手を振って部屋を出ていった。
山本は頭をかいて、椅子の背もたれに寄りかかり天井を見つめ、小さくため息をついた。




