九十二部
「君達が捕まえてきた外国人も同じ様に悲しいから救おうとは思わないのかね?
彼らは祖国では不遇な扱いを受け、新天地を求めて日本に来ているのに日本でも同じ様に辛い思いをして働いている。
彼らは不幸なんじゃないのか?
だから、犯罪だとわかっていても楽な仕事を探してしまうんじゃないのか?」
「それはお前の決めつけだろ。
自分の成長のために、好きなことのために、家族を幸せにするために、いろんな理由で日本に来てるんだよ。
確かに日本に馴染めない外国人がいて、不法就労をする人もいるだろうが、それでも一生懸命に生きてるのに、その人達に間違った仕事を紹介する奴が一番悪いんだろ。」
「日本を利用して金儲けをしていた外国人にもあっただろ?
外国人の犯罪が増え続けていることに危機感を持つべきだ。
これからも外国人は増えていくぞ?
外国人の犯罪は増え、日本国民の差別意識が強くなれば、外国が関連するイベントもうまくいかなくなるだろうね。
外国人との距離の取り方や外国人が日本での過ごし方を理解して、お互いに歩み寄らなければいけないが、金儲けしか考えていない国の上層部の奴らではそれもままならないだろう。
どう思うね?
この先、日本は犯罪者が増え、恐怖のなかで日々の生活を送ることになる。外国人がいると言うことがどういうことかを考えた方がよいと思えないかね?」
「だから、全部撃ち払ってしまえばいいってことか?
江戸時代に異国船を打ち払った薩摩や長州は報復で大打撃を受けたぞ。同じようにならないとなぜ言い切れるんだ?」
「痛みを知り、そして学ぶことがある。
国が前進するためには痛みが必要なのだ。
我らがその痛みであり、自分の保身しか考えていない政治家よりも国民が必要としているものなのだ。
我らが行ったことは確かに愚かで、違う手段だってあっただろうね。
でも、我々は確実にこの国の国民の意識に問いかけられた。
『お前らはこのままでいいのか?』とね。
国の防衛を任されながら、大事なことは何も教えてくれない防衛省も国家機密を理由に国民の質問に答えようともしない大臣にも聞いてみたいと思わないかね?
『あなた達の守りたい物はなんなのか』とね。」
岩倉は椅子から立ち上がると、ひとつの資料を取り出して、上田に渡し、説明もしないで椅子に座った。
上田は資料を確認していく。山本が上田に向かって
「なんだ?」
「空港の窃盗事件に関係したマフィアの情報と………………それから襲撃に使った船の入手日と入手方法……………あとはこの計画に参加した者達の詳細な情報といったところですね。
真偽は確かでないので検証が必要ですが……………………」
「検証など必要ないよ。
それが我らのすべてであり、坂本同志が隠したかったことでもある。
私を……………いや、桂を守りたかった彼がすべてを背負って一人で逝こうとするのは耐えられない。
だから、私がすべてを告白しようと思って用意したのだ。
私には後悔は少しもない。あるとするなら坂本同志の身代わりとなることができないこの体くらいだ。」
「この計画の………………死んでいった人達にも後悔がなかったと言いきれるのか?」
山本が聞くと岩倉はにこりと笑い、
「それは桂が知っているはずだ。
さて、私ははそろそろ時間のようだ、それでは皆さんまたお会いしましょう。」
岩倉はそう言って目を閉じて机に伏せてしまった。




