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九十一部

 山本は目を開いて、

「外国人をターゲットにしたのはなぜだ?」

「なるほど………………あくまで君は警察官で今回の事件の全容を解明することにしか興味がないと言うことなのだね…………」

「どういう意味だ?」

山本が睨み付けると岩倉は怯えたような仕草をして見せてから

「そんなに睨まないでくれ。

 単純な話だ、桂の話や他のことではなく、事件のことを先に聞いてきたから、警察官であることを優先したのだなと思ってね。」

「それで?

 この質問には答えられるのか?」

「ああ、もちろん答えよう。

 坂本同志は君に向かって言っていたね、日本がいつの間にか外国に侵略されるのではないかと。

 日本は少子高齢化だ。国際結婚と呼ばれるものも増え、テレビをつければハーフだとかのタレントが溢れている。

 別にそれが悪いことではないが、それだけ日本が国際化し、日本独自の文化や風習が薄れているのではないかと心配にならないかね?

 高齢者がいなくなり、今の少子と呼ばれている世代の子供が高齢者になったとき、日本に日本人はどれくらいいるのかを考えたら憂鬱にならないかね?

 人口減少を止めるための政策などほぼ皆無だ。

女性の社会進出、晩婚化、核家族の集合体だった国から個人主義が徹底され、一人世帯も増えている。

 寄り添って生きなければ、生きていけなかった時代は終わり、コンビニに行けば食べるものにも困らないし、家電が進化したことで人の手がなくても生活環境を最適に保つこともできるようになった。

 人が群れている必要性は無くなり、命を繋ぐ意識も薄れている。

 日本が日本であるためには、生存競争が存在することを国民が理解するための危機感なのだ。

 なにも考えなければ、いつの間にか自分のいた場所には違う人間が成り代わり、自分の存在意義すら見失う。

 代わりの場所はあるかもしれないが、もといた場所には戻れなくなるだろう。

 日本から外に出れば、日本語の通じない国の方が多い。もし日本を追われたら、日本語しか話せない日本人の居場所はどうなると思う?

 君達も捜査の中で出会っただろう?日本語が話せずに仕事も見つからずにさ迷う外国人達に。

 彼等こそが未来の日本人かもしれないとは思わないかね?」

「日本人に危機感を持たせるために、外国人を襲撃したってことだろ?

 いちいち話の長いやつだ。」

「思っていることが言えない人間と言うのは、普段話させて貰えないから、チャンスには貪欲になるものなのだよ。」

「外国の船を襲撃したのはなぜだ?

 国内で不法就労者を攻撃するだけでも、危機感を感じた人はいただろう?」

「不法就労は死ぬかも知れない危ないことだと、日本人だけでなく外国人にも見せることは大事だっただろう。

 だが、日本人は知らなかっただろう?

 日本の資源である魚が他所の国に大量にとられていることも、日本の領海の中を我が物顔で航行する船の存在も。

 日本を守るために駐日している軍人が日本人に危害を加えていることも。

 ニュースで取り上げられても、それに関心をもつかはわからない。

 自分の身が危ないと思わせなければそれは危機感とは呼べない。

 対岸の火事では、人は注意も確認もしない。

 自分以外の人が不幸になっても、自分には関係ない、自分に同じことが起こるとは思わない。

 違うと思わないかね?

 自分の身の回りに起こったことは、自分にも起きるのだよ。

 高度な技術を持ち経済大国となった日本で、今一番多く出回っているのは『made in China』だ。

 日本の技術力はどこにいった?安く作れればどこで作っても同じなのか?

 日本人は日本人であることに誇りを持っているのか?

 日本が作り上げてきた歴史は娯楽のためにあるのか?

 日本人が育んだ文化は西洋文化に負けるような脆弱なものだったのか?

 そんなわけないだろう。

 日本が日本であるために大事なことを忘れ、外国のマネをして失われていい文化も歴史もないはずだ。

 私はこの国の未来のために社会をより良くするために行動した先駆者なのだ。」

「その先駆者はテロリストと呼ばれるんだよ。

犯罪者になれば、まともな人間から尊敬されることはないだろ。

 人から尊敬されてはじめて先駆者って言えるんじゃないのか?」

「それは違うな。

 かのヒトラーは元々は国の一国民でしかなかった。

そこから、国を導き、そして国民の手によって『独裁者』へと変貌させられたのだ。

 カリスマは凡人からすれば神の啓示であり、すべてを肯定されたカリスマは自らを神と思い込む。

 国民が考え、カリスマの発言に異を唱えれば独裁者は生まれない。

 ヒトラーは確かに間違った人間であったかもしれないが、ナチスの行った愚行の全責任がヒトラーだけにあると思うのはひどすぎると思わんかね?

 ヒトラーという独裁者を作った国民も戦犯だったのではないか?

 テロリストと呼ばれようとも私は私の思想を伝え、そしてなにも考えずに誘導員の政治家に導かれるまま歩くことに一石を投じよう。

 私の名前がテロリストとして語られるならそれもまた良い。

私達が何を考え愚行を行ったのかが日本に、世界に広がるならどんな汚名であっても受け入れてやろう。」

「お前がさっきから言ってる『社会のため』ってなんだ?

 お前が大切にするべきだと言う『文化』ってなんだ?

お前が言っていることは正しいことだとなぜ言い切れる?

 お前がカリスマなら、今の俺達は考え、そしてお前に異を唱えてる国民ってことになるんじゃないのか?

 お前は独裁者の存在を否定しながら、考えを国民に押し付ける独裁者になろうとしてるんじゃないのか?」

 山本が言うと岩倉は笑顔で

「文化とは受け継がれ、発展し、そして進化するものだ。

 だが、日本で生まれた文化が世界で広がったとしても、日本人が大切に思うことと他国の人間が思うことが違えば文化は廃れ、あるいは劣化していくだろう。

 日本人が何百年と大事にしてきた建物にイタズラするような外国人や、日本人ならしないと言う行為でも文化の違いを理由にしてしまう外国人に日本が踏みにじられていると思うと吐き気がするよ。

 文化は単独で成立し何者にも吸収、併合してはならないものだ。

多種多様な文化の集合体は混沌を生むだけで美しさも気品もない。

 日本が日本の文化を発信し、そして不可侵を前提に干渉させればいい。日本を踏み荒らさないと誓える人間だけの入国を認め、それに反すれば無理矢理でも日本から排除するべきだ。

 『文化』とは日本人であることの証明とその誇りなのだよ。」

「人はみんな違うだろ。

 多様性があるから社会は成立し、わかりあえない人がいるから争いが起き、それを解決するために法律ができる。

 そうやって少しずつ理解して、わかりあって、お前の言う『文化』は進展するんじゃないのか?

 違うものを受け入れるから幅が広がったり深みが増したりするだろ。

 お前の考え方こそが日本を滅ぼすものなんじゃないのか。」

「まっとうな反論だね。

 それはまっとうな人生を、自分が進みたい道をそのまま進んできた人間から出る意見だ。

 世の中には抑圧され、自分の望まない道でもがきながら自分を隠してでも求められることを実現することで自らの存在意義を証明せざるをえない人間がいる。

 君の言葉は同じ様にまっとうに生きてきた人間の心には響くかもしれないが、私達のような人間にはきれい事にしか聞こえないよ。

 社会は多様性でできている?

 そんなことはないよ、金や権力を持ったものが自らの利益のために操作し、国民主権と言いながら極一部の上層部の人間の意見で国が社会が動かされ、社会を動かす歯車として国民が存在するだけ。

 歯車に意思などないだろ?

 噛み合った歯車と共に同じ様に回り続けるだけだ。

 社会のためとは、歯車に意思を与え、自らの回りたい方向に回させることだ。

 歯車の動きが変われば社会も混乱するだろう。

だが、その混乱こそが民主主義のあるべき姿だ。

 自分達が考え、議論して国の動きが変わっていく、それこそが真の民主主義と言えると思わんかね?」

「混乱は人の生活を乱すだろ。

 混乱が起きていい方向に進むなら良いが、不利益を被るのは国の上層部の奴じゃなくて、普通の国民なんじゃないのか?

 国を変えるために誰かが不幸になっていいなんてことはないだろ。

幸せを追求する権利は誰にでもあるんだから、急に不幸にされたらたまったもんじゃないだろうが。」

「改革には痛みが伴うものだ。

 人が生きるためにはたくさんの犠牲が必要であることは不変の事実だと思わないかね?

 鳥が、豚が、牛が、魚が突然命を奪われ、食用へと変貌させられる。

君は、いや君達は思うだろうね。

動物と人間は違うと、だが、何が違う?

地球上に生き、同じ空気を吸い、同じ様に生きているのではないのか。

 人間だけが特別な生き物というわけではないのではないか?

 犠牲を伴って生物は生き、そして生存競争に負けたものから種が途絶えていく。

 それは人間でも動物でも植物でも同じだ。

 さあ山本君、反論したまえよ。

なぜ人間が生物を犠牲にしていいのに、同じ様に人間を犠牲にしてはいけないのか?」

「悲しいだろ。」

 山本が言うと岩倉は目を丸くして驚き、

「それが君の答えなのか?」

「ああそうだ。

 難しい理由ならたくさんあるだろうが、どれを言ってもお前には響かないんだろ?

 それなら単純明快に俺は誰かが傷つくのが、不幸になるのが悲しいんだよ。誰にも傷ついてほしくないし、不幸になって欲しくない。」

「それなら動物はどうなのかね?

 動物には家族を失う悲しみはないと言うのかね?」

「あるかもしれないが、それは俺の意見ではなく動物の意見だろ。

 俺が悲しいから、俺が犠牲になる人間を認めない、それがすべてだよ。」

 岩倉は静かに目を閉じて何かを考え込むように唸っている。

 

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