九部
「お忙しい中、すみません。
石田先生のゼミのゼミ長をしている、島村左介と言います。」
空港から移動中にメールが来て、連絡してきた大学生が大学にいることがわかったので向かい、山本と上田は島村という大学生と会っていた。
「それで俺に話したい事って?」
山本が聞くと、島村は「先生の研究室まで一緒に来てください。」と言って、先導して歩き出した。
山本達は黙って従い、一度入ったことのある石田の研究室に到着した。
「実はあの事件があった夜、先生と電話で話していたのが僕だったんです。」
島村が神妙な顔で話し始めた。
「あの日は雨が強くて、電話の音声も聞き取りづらいほどの強い雨だったんです。僕は次の石田先生の授業の内容に関して、聞くために電話をしていたんですけど・・・・・・」
「君は四回生なのに石田先生の授業を受けていたの?」
上田が聞くと、島村は首を横に振ってから、
「言いにくいんですけど、石田先生は自分の授業の内容を決めるのもめんどくさがっていて、僕がここ最近の内容を決めて、その内容を先生が生徒の前でする、みたいな形になってました。
普段は直接聞いていたんですけど、あの週は先生が忙しくて時間が取れなかったので、電話で確認しようと思っていたんです。」
「あいつ、准教授失格だろ。」
山本がはき捨てるように言い、島村も愛想笑いを浮かべている。
「それで、電話してるときに事件が起こったの?」
上田が聞き、島村が
「はい。授業について話してるときに、いきなり『ドンッ』って何かが当たる音がして、先生が『すみませ』って言った後、唸り声が聞こえて、『ドサッ』て倒れるような音がしたんで、先生を呼んだんですけど返事がなくて、警察に連絡した後で、救急にも連絡したんです。」
「今までの話なら捜査資料にも書いてあったけど、話したいことはそれだけ?」
山本が聞くと、島村は首を横に振り、
「実は、『ドンッ』って音がする前に先生が僕に頼みごとをしたんです。
朝一で研究室の先生のパソコンのデスクトップにある『KSH』っていうファイルを僕のUSBにコピーして、デスクトップの元のデータを消して欲しいと言われたんです。」
「何でそんなことを?」
「僕もそれを聞こうとしたところで、『ドンッ』って音がしたんで、理由まではわからないんです。ただ先生は『中身を見てもいいけど、後悔する』って言っておられたので、事情を警察に話して、夕方ごろにここに来た時には先生のパソコンのデスクトップにはその名前のファイルがなかったんです。
もしかしたら、先生はそのファイルのせいで殺されたんじゃないかと思うんです。」
「それを他の警察には?」
「そのファイルのことを知っていたのが僕と先生だけだったら、そのことを話しても信用してもらえないと思ったので、他のゼミ生に確認をしていたんですけど、誰も知らなかったので、言い出せなくなってしまったんです。」
「なんで俺にそれを話そうと思ったんだ?」
「先生のお葬式に行った時に、先生のお母さまが優秀な刑事の幼馴染がいるからきっと犯人を捕まえてくれるって言っておられたので、その流れで山本さんの話を聞いたんです。」
「なるほど、それで他に気になることはないか?」
「そう言えば、先生はどっちかって言うとフィールドワークよりも研究室にこもる方だったんですけど、最近は外出されることが多かったです。」
「ここでは。調べられない内容だったってことか?
論文のための材料集めでもしてたんじゃないのか?」
「先生は半年前に論文を発表して、もう3年くらいは書かないって言ってたので論文のためにってことはないと思いますよ。」
「ハァっ?この前、電話で話した時に論文を書いてるって言ってたぞ。
なんだったけな・・・・そうだ『無戸籍者の人権』がどうのこうのって言ってたぞ?」
「それはおかしいですよ。先生は人権学者じゃなくて、統治機構学者ですから。
人権分野の論文なんて今までに一回も書いてませんし、普通の授業では教えますけど、それほど人権には詳しくないと思います。
どちらかと言うと、統治機構である立法・行政・司法機関のことが専門の憲法学者です。
ほら、この前の事件の時に憲法学者に報道の自由を聞いて回ってるみたいなのあったじゃないですか。あの時も調子に乗って色々調べてましたし、回答も用意してましたけど、学会の中では先生は統治機構の専門の学者の認識なので、そんな取材来るわけないって言ってたくらいですよ。」
「そうなのか?じゃあ、あの時の話は何だったんだ?」
山本が意味がわからずに言うと、上田が
「もしかしたら、島村君に教えるのは書き終えた後でと思ってただけなんじゃないですか。実はパソコンの中にそのデータが残ってたりするかもしれないですよ。」
「あっ、それはないです。先生に頼まれたファイルを探して、パソコンを全部調べましたけど、そんな形跡はありませんでした。
先生はUSBとかの記録媒体は故障した時に大変だから使っておられなかったので、他に保存先があるとは思えません。」
「そうか・・・・・わかった。所轄の方ではどうやら通り魔の犯行で調べているけど、俺は石田を狙った殺人事件として調べてみるよ。
教えてくれてありがとう。」
「いえ。あっ。そういえば!」
「何か他に思い出したことでも?」
「雨の音で聞き取りづらかったんで、僕の勘違いかもしれないんですけど・・」
「何か手がかりでもあったのか?」
「たぶんなんですけど、先生が何かを呟いてたように感じたんです。
雨の音で本当に聞き取りづらかったので、勘違いかもしれないんですけど。」
「なんでもいいんだ、教えてくれ。」
「先生はたぶん、『お前の言った通り、詰めが甘かった』って言ってた気がします。これ犯人と何か関係あるんでしょうか?」
「・・・・・・そうか。とりあえず、他に何か思い出したことがあったら、この俺の連絡先に電話してくれ。
じゃあ、そろそろ捜査に戻るからこれで失礼するよ。行くぞ、上田。」
「お忙しい中すみませんでした。」
島村に頭を下げて見送られて山本と上田は石田の研究室から出て行った。




