八十八部
「おい、これちゃんと写ってるのか?」
男が心配そうにのぞきこむ。それを見て周りにいる人達が笑いながら、
「大丈夫ですよ。
相変わらず機械系はダメなんですか?」
言われた男はカメラのレンズの近くで真っ赤になりながら、
「そ、そんなわけないだろ。
もう余裕で使いこなしてるにきまってるだろ。
あ、あれだよ確認だよ。テストで撮れてなかったら意味ないからな。」
「本当ですか~?」
周りから笑い声が聞こえてくる。笑われた男は話をそらすために
「それで、飯は何にするか決まったのか?
人数がいるんだから早めに頼まないと揃えられないぞ。」
「ファストフードがいいなと思うんですよ。
ハンバーガーとかもいいし、牛丼とかもいいですよね~」
「おい、おい。
予算なら気にすることないんだぞ?
全部、西郷が出すんだからもっと高いものにしろよ。」
「西郷さんも金持ちじゃないんですから可哀想ですよ。」
「高いものなんて食べなれてないからお腹壊したらどうするんですか?」
皆が口々に自分の思いを言っているが一度に聞き取れるような人数でもないので
「うるさいな。
最後かもしれない晩飯なんだ。酒は飲ましてやれないんだから良いものでも食わないとやってられないかなと思っただけだ。
それに西郷が出せなくても坂本が腐るほど持ってんだから大丈夫だ。」
男の言いはなった言葉でその場は先ほどの笑い声で満ちていた部屋が静寂で満たされていく。男は『しまった』と思い、
「悪い………………………」
「何いってるんですか?
皆、覚悟はできてますよ。みんなでワイワイ遊んでた時とか、金がなくて安いジャンクフード食べてたときが一番楽しかったなと思って、こういう選択なんです。
それに、最後にしなければ良いんですよ。
皆で帰って西郷さんや坂本さんが破産するぐらい贅沢三昧させてもらおうって話してたんですよ。」
「なんだよおまえら、俺抜きでそんな楽しそうな話するなよな。」
笑い声が戻ってきて、和やかな雰囲気がその場を満たしていく。
「やっぱり牛丼だな。
よし、この船の晩餐は牛丼にしましょう。連絡お願いします。」
「わかったよ、連絡してくる。」
男が出ていく、笑い声は止み船室の中にはすすり泣く声も聞こえてくる。強がっていても自分達を待つ現実は厳しい訓練を乗り越えてきたからこそ楽観的に見ることなどできるはずもなかったのだろう。
上官の前では弱音を吐かない、軍人である彼らはそれを徹底したのだろう。出ていった男が戻ってくると、雰囲気はまた一変した。
だが、上官の男はそんなことはわかっていたのか
「泣きたい奴は……………………泣けば良い。
逃げたいやつがいるなら逃げて良い。俺らは正規の部隊じゃないんだ。ここから逃げたからといって誰にもお前らを責める権利なんてない。
家族や友人、いる奴がここにいてるとは思えないが彼女とかに少しでも未練があるなら、今すぐその人のところに帰ってれ。
攻撃した事実さえあれば俺達の任務は完了する。
各船に攻撃に必要な人数いれば良いんだ。ここで引き返したい奴は頼むから引き返してくれ。
これはここを任された上官としてではなく俺の意見だ。
お前らが逃げた責任は俺が全部背負って海底に持っていってやる。
逆に言うなら道連れが少ない方が俺は嬉しい。
死ぬ必要なんてない。生きて欲しい。」
男は頭を下げた。泣き声も聞こえてくるが誰も「降りる」とはいわない。
「帰りましょう。皆で一緒に…………………………」
一人の男がいった。皆の視線がそっちに集まる。男は続けた。
「任務もまっとうして、敵を壊滅させて皆で帰るんです。
それで皆で豪華なごはん食べて酒飲んで笑って戦勝祝いしましょう。」
「そうだな、皆で帰れば良いんですよ。」
「そうだ」
賛同の声が広がっていく。そして
「上原さんが変なこと言うから皆、変な雰囲気になったじゃないですか。上官なんだから部下の士気下げること言わないで下さいよ。」
「おい、お前らがそんな雰囲気だしてたから俺は空気読んだんだろうが。」
「上原さんは空気読めないんだから無理しちゃダメですよ。」
「俺はKYじゃないぞ。」
「最近はそれ使わないんですよ。
そういうところが読めてないんですよ。」
船室に笑い声が響く、スピーカーからも笑い声が聞こえてきた。どうやら各船に向かっての演説だったようでたくさんの笑い声が聞こえてきた。
「お前らも笑いすぎだ!もう知らんからな。
帰って何を食わしてもらうかでもかんがえとけ!」
上原はそう言い残して船室をあとにした。
男はその様子を微笑みを浮かべて見ていた。
もうこの世にいない彼らの最後の笑顔の映像。誰一人としてあの約束を果たすことなく、海底に逝ってしまった。
それを考えると男の目頭は熱くなるが、彼らの笑顔を見ているとまた自然と微笑んでしまう。
パソコンを操作して何度めかも覚えていない動画の再生をしようとしたところでドアがノックされた。
男は数秒目を閉じてから、動画をファイルに戻して、ドアに向かって
「どうぞ。」と言った。




