八十七部
「山本警部達は、岩倉の正体に気づいて裏付けを進めていますよ。
テルはこれからどう動きますか?」
片倉が静かに聞く。片倉は感情が読みにくいため伊達は自分が責められているのかそれともただ確認されているだけなのかを計りきれずに
「予定外の事情が多すぎて、計算は大きくそれてるよ。
まさか、こんな大がかりなテロ行為までしてくるとは思ってなかったからな。高杉大臣の問題にしても表に出るのが早すぎたし……………」
「思い通りにならないのが人生であり、それが楽しいのだと思います。
責めているのではなく、警部達と合流すべきではないかと聞いただけです。」
片倉が言い、伊達は肩を落として
「それなら最初からそう聞けばいいだろ。
山本警部の動きはそれほど問題じゃない。俺らが見ておかないといけないのはもっと後ろだ。
武田総監、さらに後ろの北条総理、あのあたりが何を考えているのかわからない。他にも今回の事件も含めて後ろにいたのは確実に影山秀二だ。その影山も姿が全く見えなくなった。」
「公安の情報では高杉大臣の作った暗殺部隊は動画で公開された名簿に乗っていた人数の少なくとも2倍以上はいたはずだとされています。
その部隊の指揮権がどこに移ったのかによって、影山の命はもうすでにない可能性もありますね。」
「逆に影山が指揮権を手に入れていたなら、総監あるいは総理の命に危険があるってことになるな。」
伊達が言うとパソコンで何かをしていた松前が
「どうやら、総理側についている可能性が高いですね。
高杉大臣の事故の現場付近を通っていた人のSNSの投稿に光る物体が横転した高杉大臣の車に向かって飛ぶのを見たというのがありましたが、すべて見間違いであったとして謝罪してます。
こんな証言があったのに警察は事故として処理したなら、口封じを警察にさせることができる人物ってことになると思う。」
「気を付けた方がいいですね。
暗殺部隊はいまだに存在し、そして誰かの命を狙っているということですから、我々も行動次第では標的にされかねませんよ。」
片倉が言ったことに伊達は頷いてから
「でも、高杉大臣の噂が本当だった以上、公安から教えて貰ったもうひとつの噂も現実味がました。
これは放置すれば日本そのものが危機にさらされる情報だ。
立ち止まってもいられない。
ばれずにでも確実に調べていこう。」
「難しい要求ですね。」
片倉が短く言い、松前が
「情報の管理なら任せて下さい。」
伊達は空を見上げてため息をつき、小さな声で
「日出る国の天子か………………………………」
そう呟くと目を閉じた。




