八十五部
『現在、日本各地で防衛省に対する批判のデモ行進や、憲法9条を改正するべきだとするデモも起こっており、それに対して9条改正を反対するデモも行われており、日本各地で大規模なデモが同時に起こっているため交通網に影響が出ています。
また、デモ参加者同士での暴行・傷害事件なども起きているため警察も厳戒態勢をとっています。』
アナウンサーの言葉を聞きながら、黒木は大きく息を吐いた。
「お疲れのようですね。少し休憩されたらどうですか?」
秘書が声をかけたのに対して黒木が
「ああ、大丈夫だよ。
臨時で作成している法案がなかなかうまくいかなくてね。
ただ、この法案を提出したところでうまく可決されるかはもうわからなくなってきたけどね。」
「お一人でせずに、他の議員の先生方にもご協力をお願いしたらどうでしょうか?」
「今のところ、信用できるのは自分だけだからね。
もちろん、議員に限った話であって、秘書のみんなのことは信用しているよ。」
「お心遣い感謝します。」
「アハハ、本当だよ。
もっと早く取り組むべきことだったんだよ。入国管理を厳しくすることも、事前に日本での滞在時に注意するべき事柄を世界に発信するということも、日本における外国人労働者の在り方に関することも。
そして、憲法について考えることもね。
大事な問題を先送りにし続けてきた結果が今のこの状況を招いてきたことをもっと早く理解して対処するべきだった。
多くのものを失ってから急いで始めても失ったものは帰ってこないのに。」
「ご友人のことですか、それとも後輩の方々の話ですか?」
「君は答えにくいことを直球で聞いてくるね。
重要文化財に傷をつけられたとか、外国人によって日本人が殺されたとか、深い心の傷を負わされたということだってあっただろう。
行き止まりについて初めて道を間違えたことに気付いているから、外国からどんどんと遅れて、主導権を握れないまま差し出す側に回り続けている。
道を選ぶ段階で、もっと見通せる立場を築きあげることができていれば、こんな危機的状況は回避できたはずなんだよ。
坂本の言うように、『いつの間にか』引き返せないところに来てしまっていたんだろうな。本当に『いつの間にか』って怖いことだと思うよ。」
「そうですね、先生もいつの間にかかなり老けて見えるようになりましたよ。」
「・・・本当に君は言うよね、そういうことをサラッと。」
「恐縮です。」
黒木は目を閉じて静かに笑った。そこにドアをノックする音が聞こえ、秘書がドアを開ける。そこには北条総理が笑顔で立っていて、
「やあ、黒木君。少し時間を貰ってもいいかな?
大事な話なんだ、これからの君と・・・そして山本君のね。」
黒木は鋭い目で北条を睨みつけた後、
「どうぞ・・・・・・・」と言って、北条を部屋に招き入れた。




