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八十四部

「なんで先に何も言わないで帰っちゃうんですか!」

 藤堂が加藤に詰め寄りながら聞くというより注意する感じで言った。

「悪い悪い、昔お世話になってた先輩から、大事な用があるから今すぐ来いって言われてさ。

 ちゃんと黒田課長には許可をもらったんだけど、藤堂に伝えそこねてさ。」

 加藤が申し訳なさそうに言い、藤堂が

「メールするとか、他の人に伝言を頼むとかもできたじゃないですか。

 それで、どんな用だったんですか?」

「まぁ、なんてことないどうでもいいことだったよ。」

「どんなことだったんですか?」

「お世話になっているある人にサプライズを仕掛けるって感じだな。」

「誰にですか?」

「それは……………………あれだよ。どこから情報が漏れてしまうかわからないから秘密だよ秘密。」

「僕も知ってるかもしれない人ってことですか?」

「あ~、どうだろうな。わからないけど、大がかりなドッキリだから、もしかしたらどこかで関係あるかもしれないな。」

「気になるじゃないですか。

 もっと詳しくお願いしますよ。」

「これ以上はダメだよ。

あっ、警部達来たぞ。」

 加藤が言うとドアが開き、山本と上田が入ってきて、山本が

「おお、お疲れ。

二人とも悪かったな、長いこと出張してもらってるのに休みなしになって。

 今日、大坂から帰って来たのか?」

「僕はそうですけど、加藤さんは昨日帰って来たみたいですよ。」

「すみません、用事があって昨日の夜に戻らせてもらったんです。

 黒田課長には許可をもらいました。」

「そうか、もっと連休を取らしてやりたいとこだが、事件がまだ解決しきってないからな。」

 山本がため息まじりに言い、加藤が

「また新しい動画が投稿されたらしいですね。

 それはもう確認されたんですか?」

「いや、これからだよ。一緒に見るか?」

 上田はそう言って、パソコンを操作して動画を再生させた。

『高杉防衛大臣は国民から逃げようとした。

 その責務を放棄し、保身のために海外へと逃亡を企てたのだ。

しかし、神様は見ているのだろう。彼には裁きが下ったのだ。

 我らが攻撃部隊が自衛隊から盗んだ巡視船や、日本近海を無断で航行する外国船を奪っていたことも防衛省は把握していたにもかかわらず、それを公表しようとしなかった。

 それはなぜか。それは高杉大臣によって隠ぺいの指示が出ていたからだ。

これから流す音声は、高杉大臣と防衛省幹部による会話である。」

 その言葉と同時に画面は真っ暗になり、音声だけが流れ始めた。


『大臣、現時点で把握しているだけで海上自衛隊の巡視船は10隻以上が行方不明になってます。

 乗組員の安全確認もできていませんし、他国からの攻撃を受けている可能性も否定できないため、世間に公表して大規模な捜索部隊を編成した方がいいのではないでしょうか。」

 男が必死に訴えかけるが、高杉は落ち着いた声で

「その必要はない。

 それに、よく考えてからものを言え。

例えば、そんなことを公表してみろ。防衛省が管理している船舶が何者かに奪われたにしろ沈められたにしろ、世間からの批判は全て防衛省に向くだろう。

 自衛隊員が行方不明になっているなんて情報を出せば、その家族が騒ぎ出すだろうし、新規入隊を考えている人にだって影響を与えてしまうだろう。

 ただでさえ、人は足りてない状況だ。新規入隊だけでなく脱退を申し出る者も出たらどうする?

 幸いなことに、海外派遣も増えてきているのだから、そこをうまく利用して行方不明になっている者は海外派遣のメンバーだということにしておけば誤魔化せるだろう。

 何より、日本の軍隊である自衛隊の船が消息不明になったなんて情報が外国に漏れれば、日本の弱さを世界に公表してしまうことになるんだぞ。

 ただでさえ、反日をうたって自国を統一しようとしている国が近くにあるのに、これ以上相手に有利な情報を与える必要はない。

 国を守ることが仕事なんだ、船が消えた?隊員が行方不明?そんなことは国を守ることに比べれば取るに足らない些細なことだ。

 いいか?国とは国民の防壁なんだよ。

 国があるから国民は守られるんだ。壁が無くなれば国民はみな戦火にさらされるだけの存在になってしまう。国の存在こそが国民を守り続けることなのだ。その目的のために多少犠牲が出ても仕方ないと思わないのか?

 それに今更、公表しても野党の奴らの政権批判の材料にしかならないだろうしな。」

『ですが・・・・・・・・・』

 男の声は高杉の怒声によってさえぎられた。

「黙れ!お前に責任が取れるのか?誰が責任を取る立場にいるかもわからないくらいお前は低能なのか。

 公表の必要はない、それだけだ。他に用がないなら出て行け!」

『しかし、他国からも船舶の捜索の依頼が来ていますがそれに関してはどう対処しますか?』

「日本の近海で外国船が行方不明になったのなら、まず初めに聞かなければいけないことは捜索するかどうかではなく、その国に向かってなぜおまえらの国の船が日本の領海内にいたのかを問いただせ。

 無断で入ってきて、勝手に消えた船のことまで責任を持つ必要はないだろう!」

『わかりました・・・・」

 男がドアを開けて出て行ったのか、ドアの閉まる音が聞こえて、高杉大臣が

「まったく、くだらんことでごちゃごちゃと。

 船ならもうすぐ見つかるさ、残骸だけだろうがな。」


 音声が終わり、画面は自衛隊の船を映し出した。そして

『自らの責任を追及されたくない官僚と国のためと大義を掲げて隠ぺいを指示した大臣。

 しかし、大臣はその船の場所を知っていたのだ、なぜなら彼もまた我らが同志だったからだ。

 だが、私は彼に絶望した、彼は仲間の死を嘆えくこともなくただの捨て駒として切り捨てたからだ。

 そして、防衛省には船の捜索の打ち切りと、この案件に関する箝口令が出され、捜索に関する文書の全ても破棄された。当然データなども削除されたが、その前にデータを盗んでおいたのを公表しよう。』

 画面は文書に切り替わり、防衛省内で巡視船と乗組員が消息不明になったこと、捜索を行ったが発見できていないこと。そして、日本海での違法操業の漁船が沈められた際に漁師の一人が自衛隊の巡視船が現場から離れていくところを見たと証言したこと。都合が悪かったので、お金を渡して漁師を黙らせたこと。

 そして、巡視船が消えた日の乗組員を調べると共通して高杉大臣の組織した部隊に所属歴があったこと等が明記されていた。

『この資料は近々、マスコミと警察に郵送させてもらおう。

 我らは国を滅ぼしたいのではない、国を救うために、強くするために立ち上がったのだ。

 国をダメにしているのは政治家であり、官僚なのだ。

 さあ、立ち上がれ、まだ目を覚ましていない同志たちよ!

 国を救いたいのであれば、今までの生活を保ちたいのであれば、声を上げ、国に訴えなければいけないのだ。

 我らは平成攘夷軍、日本の文化を守り、日本を侵略するいかなるモノも排除する。』


 動画が終わり、山本が

「漁船の襲撃事件に関して、自衛隊はと防衛省は犯人を知っていながら、それを隠蔽した。

 これは犯人隠匿の罪に問えると思うか?」

「犯人を特定していて、その居場所まで知っていたとなると可能性はありますけど、誰を捕まえるのかって問題が残りますよね。」

 上田が言い、藤堂が

「それに国の防衛を担ってる防衛省を機能停止状態にするわけにもいかないですよね。

 高杉が言ってましたけど、日本の弱さが表面化してしますことは避けた方がいいでしょうね。」

「そのうち資料は郵送されてくるんですよね?

 その資料の信用性ってのはどれくらいありますかね。」

 加藤が言い、上田が

「犯罪者がわざわざ送ってくるものなんだから、自分で作った偽の情報ってこともありえるよな。

 参考程度、ってところうな。」

「とにかく、今俺らのやれることをやるぞ。」

 山本が言うと、藤堂が

「何か新しいことがわかったんですか?」

「岩倉の正体がわかりそう・・・・・・・・としか言えないな。」

「どういうことですか?」

「信じられないってこと・・・・かな?」

 上田も言葉を濁したので、藤堂と加藤は首を傾げた。 

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