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八十三部

「彼らは問題なく任務を遂行したようです。

高杉君もまさか自分が育てた部隊によって自分が暗殺されるとは思っていなかったでしょうね。」

 都内のある場所において北条総理が話しかける。

「彼は自分こそが一番優秀で、誰かを陥れえることはあっても誰かに陥れられることはないと思っていたのでしょう。

 彼のその傲慢さが今回の事態を引き起こし、そして優秀なひとりの人間が死ぬ結果を招いてしまいました。

 本当に心から哀悼の意を表しましょう。」

 カーテン越しだから北条からはその人の表情は見えないが、おそらく悲しんでいることはないだろう。

「影山秀二の方も引き続き部隊に捜索を行わせていますが、今のところ居場所の特定できる情報は得られていません。

 ただ、次の動きの情報はありますので文書で報告をさせて頂きます。」

「その・・・・影山某は相手にしなくても大丈夫でしょう。

 自分の首を絞めていることにも気づかずに未来ばかりを見据えているから、絞首台の上にいることすら知らずに奈落へと落ちてしまうんです。

 未来とは過去があるから成立するものです。過去を省みず将来のことばかりでは、土台がないから小さな地震でも容易に崩壊してしまう。

 彼が我々のことをどれくらい知っているかはわかりませんし、全てを知っていたとしても道端の石、あるいは飛び回るコバエ程度の存在です。

 簡単に排除できる障害であることに変わりはありませんからね。」

「山本勘二についてはどのようにいたしましょうか?」

「彼にこの先どのような試練があったとしても、それを超えられないなら私の欲する人間ではなかったというだけのことです。

 この先の障害を乗り越え、私の前に現れることができた時はじめて彼は存在意義を見出されることでしょう。」

「承知しました。

 引き続き武田に監視と誘導をさせておきます。」

「そうですね。

 最後に、ここにいない皆さんも心しておいてください。

『王』になるのは私であり、あなた達の誰でもありません。

 立場を誤れば、あなた達の命もいつ終焉を迎えるかわかりません。

ゆめゆめ、幻想にとらわれず、そして自分の立場でできることを模索して日本を良くしていきましょう。」

 様々な形の画面から一斉に「はっ!」という声が響く。

「御前様のお気持ちのままに・・・・・」

 北条はそう言って頭を下げた。


「高杉大臣の乗った車が事故を起こして、高杉大臣とその運転手の二名が亡くなったそうです。

 道路を猛スピードで走り抜けていくところがカメラに写ってましたから、運転手の操作ミスによる事故として捜査が進められているみたいです。」

 上田が報告をすると山本が

「騒動の渦中にいる防衛大臣がなんであの場所にいたのかはわかってるのか?」

「はい。秘書の話では、北条総理が防衛大臣の職を辞職するようにと言いに来られた後、血相を変えて外国に行くから航空券の準備をしろと言って、自宅に帰られたようです。

 事故現場が高杉大臣の自宅から成田国際空港に続く道の途中だったことから、空港に向かう途中で事故に遭ったのだと思われています。」

事故の現場付近に信号機などはなく、どのようにして事故が起こったのかも詳しくはわかっていないようです。」

「高飛びするために運転手に無茶な運転をさせて、それが事故に繋がったってことか?」

「その線で調べが進んでいるようです。

 ただ、車がかなり炎上していて高杉大臣の遺体も運転手の方もかなり燃えてしまっていたので、詳しい死因はこれからの検死の結果次第と言った感じらしいです。」

「車が炎上するほどの事故だったのか?」

「車が横転した時に火花が散って、それに燃料が引火したのではないかと思われてます。ただ、周囲の聞き込みの中には燃え上がる前に不自然な爆発があったとの証言もあったみたいですが、この証言に関してはあまり重視はされてないみたいです。」

「何か裏があるかもしれないってことか?」

「そうですね。気になるならもう少し調べておきましょうか?」

「・・・・そうだな、頼む。」

 山本がそう答えた瞬間に三浦が入ってきて、

「警部・上田さん、お二人に確認して欲しいことがあるので今から一緒に出てもらってもいいですか?」 

「どうしたんだ?」

 上田が聞くと、三浦は言いにくそうに、

「とりあえず、未確定情報というか・・・・・・

 この間、上田さんに頼まれた件の結果です。

 詳しくは車の中で話します。」

「しょうがないな、行くぞ上田。」

 山本が言い三浦の方に向かう。上田もそれに続いて部屋を出て行く。

その様子を見て、舌打ちした人物がいたことに三人は気づかなかった。


「高杉さんが死んでしまいましたよ、影山さん。」

 暗いビルの一室で大久保が楽しそうに影山に向かって聞いた。

「何が言いたいんだ?」

 影山は怒るでもなく、手元にあるパソコンの画面を見ながら聞き返した。

「悠長にしている暇があるのかなと思いまして。

 平成攘夷軍の方は終わらせたと思ったのに、岩倉さんが勝手なことをしてくれたおかげで予定から大きくそれてますよね?」

「だから何が言いたいんだ?」

「次のアクションを起こすべきじゃないですか?

 高杉がいたから、暗殺部隊が関止められていたけど、その関が無くなればまた命を狙われますよ?」

「むやみに動いても注意を引くだけだよ。

 それに岩倉さんが今更何をしてももう坂本さんは引き返せないところに行ってしまってます。僕の計画に支障があるとするなら、本来暴露する役割を担うのが君だったため、君の仕事がなくなったことくらいですね。」

「面倒な仕事を先にしてくれたことには感謝してますよ。

 でも、歯止めをしないとこの先も暴露は続きますよ?」

「大久保君、君が何を心配しているかは知らないけど、あの人も僕の手の上で踊っている一人にすぎません。

 彼が暴露するネタは僕が意図的に教えておいた物ばかりです。それを公開されても僕の計画には何の影響もありませんよ。」

「彼が捕まって、こっちの情報を暴露することはどうですか?」

「それはありません。彼には守らなければいけない存在がある。

 僕らのことを暴露すれば、守りたかった人間も芋づる式に捕まることになってしまいます。

 彼ができるのは些細な抵抗と大切なものを守るための嘘をつくことだけです。

罪悪感に負けてこんなことをしているなら、彼も五條と何ら変わらない程度の器だったというだけの話です。」

 大久保は満面の笑顔で影山に向かって、

「影山さんにとって、僕達はどんな存在ですか?」

「手駒・・・・・・は言いすぎですね。物を考え自分で行動してくれるのだから動かされるだけの駒ではない。

 かと言って、友人などでもない・

・・・・・・・そうですね、足軽隊長くらいですかね。

命令されながらも自分の判断で部隊を動かすこともある、それくらいにしておきましょう。」

「手厳しいですね。

 羽柴秀吉のように、足軽から天下を取ることだってありますよ。

 影山さんが織田信長なら、家臣は大切にしておかないと本能寺で殺されてしまいますよ。」

「大丈夫です。」

 大久保は首をかしげて、

「何で言いきれるんですか?」

「本能寺に行く予定がないからですかね。」

 影山はそう言って笑った。

「影山さんがそんなとんちを言うとは思いませんでしたよ。」

「死んだら、また戻ってこればいいだけですから。」

 影山はうっすらと笑みを浮かべて呟き、さらに

「あの時のようにね・・・・・・」

 大久保は影山を見つめるだけで何も言わなかった。

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