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八十ニ部

「どうなってるんだ!早くなんとかしろ!」

 顔を紅潮させ、周囲に怒鳴り散らしている高杉防衛大臣に対して秘書が対応に困りながら、

「どうにかと言われましても、否定のコメントは出していますが大臣が表に出ずに何を言っても説得力がないともうしますか…………………

 実際のところがある以上は否定しきれない部分もありますし…………」

 秘書が言葉に詰まると、高杉は一段と声を大きくして、

「あれもできないこれもできないなんて報告はいらん!

 まったく、この無能が!」

 高杉が吐き捨てたところに、人が入ってきながら、

「まぁ、そう言ってやるなよ高杉君。

 秘書の方達も必死にやってくれているじゃないか。

 それでもなんともならないということは君の行いがいかに間違っていたかを指し示しているということでないかな?」

「ほ、北条総理……………………」

 北条はニコリと笑いながら高杉を諭すように話しかけ、高杉は突然の来訪者に驚いて次の言葉が出てこなかった。

「残念なお知らせをしに来たよ。

 私としては、今後も君に防衛大臣の職を続けてもらおうと思っていたが、各派閥から早期に辞任させるべきだととの声が大きくてね。

 大変申し訳ないが、今日中に辞表を持ってきてくれ。

 その後の対応に関しては…………………君の好きなようにすればいいよ。

雲隠れでも、記者会見を開いても、それは君の自由だ。」

「ま、待ってください。

 私はまだやれます。必ず挽回して見せますのでチャンスをください。」

「そう言われてもね……………………

 これはあの御方が決めたことだからね。

 簡単に言うなら、君は陸軍出身だから乗る船を間違えてしまったんだよ。君が乗るべきだったのはこっち側で、あちら側ではなかったということだ。

 君の乗った船の船長にでもすがってみることだね。

あんな若造に何ができるかは私には皆目見当もつかないが。」

 北条はそう言い残して、高杉の執務室から出ていった。高杉は青ざめた顔で秘書に向かって、

「影山とは連絡はとれたか?」

「残念ながら、まったくです。」

「もう終わりだ………………………………」

 高杉はそう言ってひざから崩れ落ちた。

 高杉は、何かを思い付いたように立ち上がり、秘書に向かって

「すぐに航空券をとれ、すぐに日本を出る。」

「えっ?え~とどちらに行かれるんですか?

 と言いますか、こんな状況で海外に行くのは評判が悪くなりますよ。」

「そんなことは言ってられない状況なんだ!

 とにかく、すぐに日本から出れる飛行機ならなんでもいいから用意しろ!私は家に一度戻って準備をする。それから空港に行くから私分の航空券を用意しておけ、わかったな?」

「わかりました…………………」

 高杉は物凄い勢いで執務室から出ていった。そして、その姿がその場にいた秘書達が見た高杉の最後の姿になるとも知らずに。


 黒塗りの高級車を炎が赤々と染めてゆく。

家から空港に向かう途中の車道で文句を垂れていた高杉は運転手の様子がおかしくなるのに気づくのが遅れた。運転手はハンドルから手を離し、上を見上げている。高杉が覗き込むと運転手の眉間に赤い点がついている。フロントガラスにはきれいに小さな穴が開いている。

 この状況をすぐさま理解した高杉がハンドルに手を伸ばすが時すでに遅し、車は猛スピードで壁に向かって進み、そして衝突する。

 自衛隊で鍛え上げた体を持つ高杉は上手く受け身をとったが全身を強打したことに変わりはなかった。

 車は横転して、猛スピードで横転したため摩擦熱で火が起こり、車が燃え始めていることを感じた高杉は痛む体を我慢しながら、車から這い出ようとした時だった。自分の顔を照らす赤い光が目にはいる。

 照準を合わせるためのレーザーであることはすぐに理解できた。人生の終わりを感じて、レーザーの方を見る。スナイパーの弾丸など見えるわけはないと思っていたが、飛んできた弾丸は高杉の思い描いたものではなかった。ライフルの弾丸ではなく、明らかにロケット弾かグレード弾だ。車に着弾し、大きな爆発が起こる。その時になって高杉は弾丸の種類のわけを理解した。

 シナリオは運転手の操作ミスによる横転事故、そしてガソリンなどが漏れたことによる爆発と炎上による焼死。

 自分が『鬼兵隊』と呼んでいた部隊による華麗な暗殺だと理解したときには体は炎に包まれ、そしてガソリンに引火した誘爆が起こり意識はなくなる。

 薄れ行く意識のなかで、いつもカーテン越しに話していて、顔も見たことがないあの方の声が聞こえた気がした。

『腐った政府から日本を取り戻しましょう』

 自分が『腐った政府の人間』に分類されたことを理解しながら、高杉晋太郎はその命を終わらせた。

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