八十一部
『ダンッ!』取調室に大きな音が鳴り響き、そして坂本が立ち上がって、山本に向かって
「こんな物はあるわけがない。どうしてこんなものが…………………」
「まぁ、落ち着け。
お前が全部自分のしたことだと自白したにも関わらず、それを証明する音声まで付けて動画を公開した人物がまだ残ってるってことだろ?
主犯は坂本だけでなく他にもいる、若しくはお前の逮捕だけではインパクトにかけると思ったお前らの裏にいる人物の策略か。
どっちにしろ、俺達は『まだ終わってない』って言われてる上に、『砲撃で目を覚まさせてやる』何て言葉が出ている以上は、お前以外にも主犯格がいる可能性を捜査しなければいけないけどな。」
「この名簿を信用しているんですか?
こんなものも嘘ですよ。この名前の自衛隊員が本当にいるのかどうかも怪しいじゃないですか。
それに高杉防衛大臣が作った暗殺部隊?
そんな話まで信じてる訳じゃないですよね?」
山本が上田の方を見ると上田は資料を広げながら
「世の中って腐ってるなと思うんですよ。
誰かの名前がテレビとか新聞とか週刊紙に載るとその人の名前を検索する人が出てきたり、自分が知ってるその人の情報を無断で勝手にネットに挙げたりするんですから。」
坂本は資料を手に取り、
「あの名簿に載っていた名前をインターネットで検索したらこんなに情報が出たってことですか?」
「知人、友人、関係者。色んな文句がついてはいるが、突き詰めれば友達や知り合いを売った最低な奴らだ。
犯罪者であってもプライバシーはある。警察に捕まったのにその人がどんな人でどんな生活を送っていたのかを世間が知る必要性はない。
そんなことは犯罪学とかを研究してる学者だけが統計のために知れば良いだけだ。
被害者でもなければ、関係者でもない人間がその人のプライバシーを侵害すること自体が罪であることを人はいつまで経っても気がつかない。 今回のことについても言えることだが、誰かが面白半分で勝手に個人情報を流したことによって、どれだけの人が傷つくのかを全く考えられていない。
本人だけじゃなく、家族、友人、恋人までもが周りにさらされ傷つくんだ。
いつか自分がさらされる側になるかもしれないとは考えていないだろう。インターネットで匿名で情報を出しても、技術のあるやつなら出元を特定することぐらい簡単なことだとも知らずにな。
実際、テレビや新聞、週刊紙の記者が名簿に載っていた人の家まで行って取材しているような記事がもうでてる。
この名簿の人物は実在していると証明されてるってことだ。
まだなにか言いたいことがあるか?」
「僕は………………………………こんなことはしません。
西郷や死んでいった友人を晒し者にするようなことに意味を感じません。弔いの意味を持って誰かが仕組んだことだとしても、僕は絶対に許せない。
彼等だって生きて帰ってくるつもりで作戦に参加して、そして無念のうちに死んでいったと思います。」
「『あの人が笑顔でいられますように』か?
あれは誰の言葉で誰に向けてだったと思う?」
山本が聞くと、坂本は目を伏せて、
「あの声は西郷でした。
西郷には恋人はいませんし、両親も早くに事故で亡くなったと聞いてます。あいつが誰の幸せを願っていたかは僕にはわかりません。
ただ、あいつは自衛隊と言う脆い組織の中で、何も守れないことに葛藤していました。海外派遣に行っても、感じるのは己の無力と悲惨な状況に何も対処をせずに放置している国に対する怒りだけだったと言ってました。
そして、あの状況こそが『世界の先進国』なのだと言ってました。
戦争や内乱の種は世界のどこの国にも平等に存在し、それが表面化したのが少しだけ早かっただけなのだと。
経済では確実に発展途上国でも、世界の行く先は戦争や内乱によって国家の統制が強くなり、刃向かったものはテロリストとして処分される。全世界が迎える混乱期の先を走っているのが中東諸国やアフリカ諸国なのではないかと思うと言ってました。
日本もいつか、平和主義を歌いながら抵抗もできずに混乱に巻き込まれ、そして日本を守るためだけの平和主義を訴えるようになるのではないか、日本を守るために他国を滅ぼしてでも平和を守るべきだと主張する国になるのではないかと言ってました。
国の行く先、世界の行く先を世界に出て見て感じて、そして警鐘を鳴らさないといけないと思ったやつでした。」
「だからと言って、西郷というやつの行いは正当化されないぞ?」
「逆らえない波はどこのどんな場所にでもあることは知ってます。
それでも、西郷はいつも波を乗り越える手段を探していました。
それが正攻法出なくても、波を超えた先に新しい世界が広がっていると信じて突き進む、そんな真っ直ぐな奴だったんです。」
「そんな奴らを晒し者にしたやつに思い当たる人がいるんじゃないのか?
例えば、高杉防衛大臣とか?」
「自分の名前を出して、あんなふざけたことをする必要が彼にはありませんよ。」
「そう思わせることが狙いという可能性は?」
山本が聞くと坂本はゆっくりと椅子に座り、
「彼にそこまでの頭はありませんよ。
きっと、今頃は顔を真っ赤にして誰かに怒鳴りちらしてるんじゃないですかね?」




