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七十七部

「はじめまして、やっと会えました。藤堂です。」

 藤堂と加藤はようやく大阪府警から許しが出て、ベトナム人の空港窃盗事件の犯人グループで藤堂を頼って警察に来たグエンと会うことができた。

「あ……グエンです。」

 グエンは小さな声で言った。グエンからの情報で犯人グループの潜伏先が次々に発見され、犯行の指示役の男なども捕まっている。

 長時間の取り調べ等もあったのだろうか、かなり疲れている印象を藤堂は受けた。

「大丈夫ですか?

 お疲れなら、少し休憩してからにしますが?」

「だいじょうぶです。

あと………………………モウスコシですから……………」

「何がですか?」

 藤堂が首をかしげて聞くと、グエンは少し焦ったように

「なんでもないです。何か聞きたいとこないですか?」

「えっ?あっ、ああそうですね。

 あなたと同じところで技術実習をしていたハンさんがとても心配されてましたよ。実習先から逃げたあとはどうやって生活していたんですか?」

 グエンの表情が少し曇ったように藤堂は感じたが、グエンは淡々と

「実習先から逃げてきた人が集まる場所があって、そこで仕事紹介してもらった。それで生きてた。」

 後ろに立っていた加藤が小さな声で

「この話って、犯人グループに何で加わったのかって調書と同じ回答だぞ?」

「日本語の理解の問題じゃないですか?聞かれてることの意味がはっきりとはわかってないから、前に聞かれたのと同じようなことを聞かれたと思って答えてるんじゃないですか?」

「ああ、そういうことか。」

 加藤はそう言って後ろに戻った。藤堂が

「日本語の勉強もそこでされたんですか?」

「ええーと、ハイ。」

 「そうですか。とにかく、無事でよかったです。」

 藤堂が優しく微笑むとグエンは何かショックを受けたような顔を一瞬して、

「あなた、いい人ですね。」

「えっ?そうですか、回りの人にはあまり言われないですけど。」

「あなたはいい人だし、信じてもいいと思うから、他の警察官にいってないこと……………………………教える。」

「なんですか?」

「私がいた場所に一回だけ、日本人が来てた。

 その人たち、私たちが日本語わからないと思ったのか、日本語で話していた。一人は『サイゴウ』さんって人でジエイタイの人だって行ってた。もう一人は『サカモト』さんで警察の偉い人みたいだった。」

 藤堂と加藤は驚いて、

「坂本さんですか?」

「はい、カンサシツというところではたらいているような感じでした。

「その二人はどんな話をしていましたか?」

「ジエイタイから裏切者がたくさん出ている。とか、アジアの船がたくさんエビスにとめてある。とか話していました。」

「恵比寿に軍艦を隠しているという話だったんですかね?」

「でも、恵比寿には軍艦を隠せるような場所はないだろ。

 何かの暗号って考える方が正しそうだぞ。」

「そうですね。グエンさん、他に何かその人たちが言っていたことはありませんでしたか?」

「ええと、日本語が難しくて何を言っているかわかりませんでした。」

 グエンはどこか用意されたような答えをいっているように藤堂には感じられた。加藤が

「とりあえず、山本警部達にこの事を伝えてくる。」

 そう言って、加藤は出ていき、すぐに戻ってきて、

「おい、藤堂。大変なことになったるぞ。

 たぶん今の話を全部聞いてた大阪府警が先に動いてたみたいだ。」

「そんな…………………

まだ不確定情報なのに、早とちりだったらどうするんですか?」

「とりあえず、俺らも行くぞ。高山さんあたりに聞いてみよう。」

「わかりました。グエンさん、すみませんが今日はここまでにしましょう。また後日、ゆっくりとお話しさせてもらいます。」

 グエンはどこか、ほっとしたような顔で

「わかりました。」と答えた。それに違和感を感じたものの藤堂は取調室から加藤と一緒に出ていくしかなかった。


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