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七十三部

「何で僕に話をさせてもらえないんですか?」

 藤堂がものすごい勢いで高山に詰め寄る。高山は愛想笑いを浮かべながら、なだめるように

「まぁまぁ落ち着いてください。

 僕としてはすぐにでも藤堂さんにお話頂きたいのですが、現場に出向いた者が聴取を行うことになってますし、実際のところお二人は出向という形の扱いなので、こちらのやり方に準じてもらわないといけないんです。

 郷に入っては郷に従えですよ。」

「それはおかしいじゃないですか!

 グエンさんは僕を信用して、警察に来てくれたのに僕と会わないなんて、グエンさんが不快な気持ちになりますよ。」

 藤堂は勢いで詰め寄っていたので歯止めが利かず高山と軽くぶつかってしまった。高山が藤堂の肩に手を置き、

「藤堂さん、僕もなんとかできる身分なら、そうしますが、叩き上げで警部補の僕では警視や警部すら説得できないんです。

 グエンさんに関してはもう少し待ってください。

 事情聴取にも応じてくれてますし、アジトの場所も数ヶ所特定できたみたいやから、そこの調査の命令も出てます。

 事情聴取はさせてあげられませんけど、僕と一緒にアジトの調査に出るくらいはできます。

 グエンさんにも、藤堂さんは少し忙しくてすぐには来れないがもう少ししたら会えると伝えさせます。

それに気になることがあるんですよ。

なぜグエンさんがこのタイミングで出てきたんかってことです。

 信号が捜査に利用ことを犯人グループが知っていたなら、顔のわれてる実行犯を自由に外に出したり、連絡ができるようなお金を持たせておくでしょうか?

 グエンさんが何かの役割をもって警察に来たという可能性も持っとくべきやと思います。

 その可能性を消すためにも、犯人グループのアジトを潰して情報を集めましょう。」

「わかりました。

無理なことばかり言ってすみませんでした。」

 藤堂はそう言って頭を下げた。


「え~とどこの外国人だったかな?」

「ベトナム人ですよ高杉大臣。」

 暗い部屋のなかで、高杉防衛大臣、影山秀二そして西郷が会合を行っていた。高杉の問いに西郷が答えた。

「ああ、そうだったな。うまくいきそうかな?」

「ええ、彼には色々とこちらのことを裏切れない様に手を打ちました。大臣の方はどうでしょうか?」

 影山が聞くと高杉は鼻をならして

「誰にものを言っているんだ?

 準備は整っている。期待していてくれ、西郷君。

 第一部隊が最高級の武器を自衛隊並びに周辺国の軍隊から集めてきている。君達が負けることなどないくらいの軍事力が用意できた。

 実行の時は近いと思ってくれ。」

「はい、準備を整えて待機しています。」

 西郷が短く答え、高杉が

「日本は武力を持たねばならない。

 綺麗事だけでは国を守ることなどできない。

仮に同盟国に助けて貰えたとしても、それを口実に不利な貿易条件や何の役にも立たない軍隊の駐在費に国家資産を使うことなど愚の骨頂だと思わんかね?

 国民の安全で幸せな生活を守るのは、主権国家であって同盟国ではないのだよ。

 外国人を使って金儲けをすることには反対しないが、日本を食い物にするような輩は排除しなければならない。

 我が国の、主権を維持し、世界に対する発言力を高めるためにも日本に軍隊は必要であり、そして害を及ぼす国を掃討できる権利を有さなければいけない。

 今回の君たちの働きは実に巧妙でかつ実利にとんだ行為だ。

 外国人に対する見方は変わってきている。それと差別的に、そして嫌悪感をはらんで。

 私がこの国を変えて見せるよ。」

 高杉は上機嫌に笑った。それを愛想笑いだがそうとは思わせない笑みで影山が返し、西郷は姿勢をただしたまま笑うこともなく直立でたっていた。しかしその目は冷ややかで、汚物でも見るような蔑みの感情が見てとれた。高杉は会合が終わるとすぐに席をたち、そして部屋から出ていった。

「もう少し表情に気を使った方か良いですよ。」

「必要ありません。彼が見ているのは所詮は自分のことだけで、僕のことなんか視界にも入っていないでしょう。

 それより、作戦はいつ実行しますか?」

「西郷さんは今回の計画はどう考えていますか?」

「坂本さんも覚悟はしていると思います。

 どのような結果になれ、日本を改革することが最優先事項だと私は考えます。坂本さんの覚悟を無意味にしないためにも私にできることをします。」

「そうですか。

 いつ実行できますか?」

 影山の問いに西郷は姿勢を整え、

「指令があればいつでも大丈夫なように待機しています。」

「なるほど、それでは今夜二一○○、一斉に実行してください。

 ああ、それと命は大事にしてくださいね。壊滅できなくても、ダメージを与えられればそれで充分ですから。」

「はい、それでは準備がありますので失礼します。」

 西郷はそう言って部屋を出て、声にならないくらいの声で吐き捨てた。

「思ってもないことを………………………………」

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