七十二部
「信号カメラの捜査利用が開始されて、バンバン逮捕者が出て、府警も大忙しですよ。
これも一重に『武田総監のおかげさま』ってことなんでしょうね。」
高山が皮肉るように言い、藤堂に向かって
「キャリアの藤堂さんとしてはこの状況はどうなんですか?」
最近はキャリアだどうだという話が出ていなかった。特別犯罪捜査課にいると、年齢・階級・女性は一人だけだからかもしれないが性別もあまり関係なく接してもらえていたので、そんなこと自体考えなくなっていた。でも高山さんからするとキャリアだということで考えていることも違うのだと思われているのかもしれない。
「変わらないですよ。
僕たちがするべきことは、犯罪者を捕まえることですし、犯罪被害者を減らすことだけですから。」
「さすがですね。
竹中さんと一緒に働いてるだけあって、まともなこと言われます。
うちのお偉いさんなんて、仕事が増えているのに『もっと頑張れ』くらいのことしか言えないですから。」
「高山さんはどうなんですか?」
加藤が聞く。高山は肩をすくめて
「無茶な捜査をしなくても、情報が入ってくるのは良いんですが、その信用性をどうしても疑ってしまいますよ。
自分で調べたからこそ、自信をもって加害者を糾弾できる。
『ここに写ってるからあんたが犯人やろ』じゃあ、しまらないじゃないですか?」
「捜査員の負担軽減も犯罪の暗数が表に出てきただけで、犯罪自体は減ってないですからね。」
藤堂がそう言った後で加藤が
「でも、泣き寝入りしてた人達を助けられるようになったんだから、頑張る意味はあるだろ。」
高山が驚いた顔をして加藤を見ている。藤堂は高山の言いたいことがわかったので
「たまに芯をつくようなこと言う人なんです。」
「ああ、そうなんですね。」
加藤は二人が言っている意味がわからず、首をかしげた。それを見て藤堂と高山が笑ったところに、藤堂の電話がなる。
「はい、藤堂です。」
着信画面を見ずに出たため、相手が誰かわからなかった。向こうから話すのを待ってもなかなか反応が返ってこない。そして耳からスマホを離し、画面を見ると『公衆電話』と表示されていた。そして、か細い声で、
『ア、アノ、ケイサツの……………トウドウさん…………ですか?』
「そうですが、あなたはどちら様ですか?」
『ど…………ドチラサマとは………………どういうイミですか?』
どうやら日本語があまりわからないようで、片言で話している。
「え~と、あなたは誰ですか? Who are you?」
『あ。ワタシハ、グエンと……………いいます。
ハンが、あなたは信じてもいいヒトっと言ってたから電話した。』
藤堂は目を見開いて、
「グエンさんですか?大丈夫ですか?え~とケガとかはしてませんか?」
『ケガないです。でも、チャイニーズがケイサツニ捕まるから逃げるいうてた。
イママデいっしょだったヒトが何人かいなくなた。
ころされたのかもしれない。タスケテほしい。』
「わかりました、今どこにいますか?」
『言えない、いったら殺される……………。それにどこかもわからない…………」
「大きな道に出てください。信号機があるところならどこでも大丈夫です。そこからなら僕があなたを見つけられます。」
『ワカタ。やってみる。』
そう言ってグエンは電話を切ってしまった。藤堂は急いで、高山に向かって、
「行方不明だったグエンさんからです。自分の位置がわからないみたいなので、信号のあるところに行ってもらいました。
至急、グエンさんが写っている映像がないかを探してもらってください。見つけ次第保護しましょう。」
「了解です。」
高山はそう言ってスマホを取り出して連絡を始めた。加藤が感慨深げに
「やっと見つかったな。」
「まだ早いですよ、保護できるかどうかもわかりません。
警察に不信感を持ってる人ですから。」
「………………………そうだな。」
加藤が短く言ったが、藤堂の心配をよそにグエンはその30分後に無事保護されたのだった。




