表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/98

七十一部

『それでは次のニュースです。

 本日未明、15年前に発生した強盗殺人事件で指名手配されていた男が警察に逮捕されました。

 最新型の信号機の捜査利用が開始され、今までに指名手配されていた人物が既に10人、失踪届けの出ていた人物が50人、捜索願いの出ていた人物が600人ほど発見されており、失踪、捜索願いの出ていた人物に関しては、そのようになった背景を考慮したうえで家族のもとに帰った人たちのみを公表しているということで実際にはもっとたくさんの人が見つかっているものと思われます。

 犯罪発生件数も先月比の6割減と言う結果が出ていると言うことで、捜査利用による効果は早くも出ているようです。』

 武田警視総監の会見から数日が経って、テレビのニュースはほとんどが、結果に対する称賛のようなものであり、よい結果が出た反面で、どこにいても居場所を知られてしまうと言うことがプライバシーの侵害にあたるとして批判する人も大勢いたが、それよりも今まで捕まっていなかった凶悪な犯罪者が次々に逮捕されているということやスリや痴漢等の犯罪も目に見えて減っていることに比べれば気にしないと言う人の方が大勢を占めていた。

 テレビでは連日のように『専門家』を呼び、討論のような形をとっている。それを見ながら、山本達は不法滞在者襲撃事件の現場周辺の映像の解析を行っていた。

 テレビののキャスターが

『本日のお客様です。

 もと警視庁捜査一課課長で現在は防犯、犯罪学を研究されている内藤政豊さんです。よろしくお願いします。』

 鋭い目付きとがっしりとした体、短く刈り上げられたその風貌は未だに捜査の前線を駆け回っていそうな感じの男が短く言った。

『よろしくお願いします。』

『今回の武田警視総監の動きに関して、一部では責任の所在を巡って法務省と警察庁の間でもめていたとの話もありますが、内藤さんはどのようにお考えですか?』

『そうですね、実際に監視社会になったではないかと批判している人もいますし、誰かが責任を持って導入を先導する必要があったなかで、総監がその役割を引き受けたというかたちになりました。

 今後、この導入が吉と出るか凶と出るかはまだなんとも言えませんが、私は時期尚早であったと思います。』

『それはどういう意味ですか?』

『確かに凶悪犯罪の増加、再犯者の増加等の克服するべき問題はたくさんあります。

 ただ、問題を一気に全て解決することなどあり得ませんし、そんなことをできる切り札があったとしても段階を追いながら進めていかなければ、問題解決の過程で人が学んだであろうことも学べないことになってしまいます。

 例えば、ハッキング技術が高度化している現在で信号の人工知能(AI)を守るセキュリティの状態が万全でなければ、カメラの映像がハッキングされ、個人情報だけでなくあらゆる情報が外部に流出してしまう可能性があるんです。

 その問題をどう解決するのか、情報の扱い方に関しても明確なルールを定め、それを公表してから捜査に利用しなければ、警察への信頼が低下している今の状態では適正な利用がされているとは信じにくいと思います。』

『武田総監は、そのような問題点に関しては思い至っていないと言うことでしょうか?』

 アナウンサーが心配そうに聞くと内藤が

『それはないでしょう。

問題はあるが早期に利用を開始しなければいけない理由があったのだと思います。』

『それはどのような?』

『以前に警察官によって、政治家や権力者のご子息などを襲撃する事件がありましたよね。実際には犯罪行為を行っていた人々が襲われているので、どちらも責めにくいところではありますが、あの事件の時に総監は警察改革を宣言されていました。

 ですが、目に見えての成果と言うものがありませんでした。

 ここに来て武田総監が、警視総監の名においてとの言葉をつけたのは、警察の捜査改革の一端としてAI信号機の利用を宣言することによって、警察改革が進んでいるという目に見える成果の強調をしたかったのではないかと思います。』

 この話を聞いて、上田が

「こんなこと言われたら、総監の立場が厳しくならないですか?」

「ならないだろ。」

 山本が吐き捨てるように言った。上田は山本が言い切ったのを不思議に思い

「何でそんなに言い切れるんですか?」

「内藤政豊元警視庁捜査一課課長だぞ?

 いつの課長かで考えろよ。武田さん、上杉さん、それから内藤さんの順番で一課の課長をやってるんだよ。

 この並びで内藤さんが武田さんとなんの関係もないわけないだろ。」

「武田総監の部下だってことですか?」

 上田が驚いて聞くと、山本が

「上杉さんが右腕なら、内藤さんは右足だろうな。

 表立っては、関係性が掴みにくいが確実に武さんを支えている人物だよ。たぶん、こうやって批判しているように見せて違う狙いがあるんだと俺は思うな。」

「何があるんですか?」

 上田の質問に答えたのは竹中だった。

「そんなん決まってるやないか。

 『警察改革が進んでる結果』を印象づけることや。

反語、逆接とか日本語は難しいよな。反対のことを言ってるのに、その逆のことを強調して相手に伝えられることができるんやから、日本語は本当に難しいな。』

「つまり、けなしてるように見えて、成果をあげたのだと言う印象をマスコミを通して伝えてるんだよ。

 警察の改革は進んでいます、皆さんご安心くださいって感じてな。」

 上田はテレビの画面に映る鋭い目付きの男がその目に写しているものが何かを考えると、こちらが睨み付けられているような錯覚を起こしそうになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ