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六十八部

ドアが閉まって、男の姿が見えなくなっても影山はまだ頭を下げていた。そこに向かって、あざける様な笑い声を含めて

「あなたが頭を下げる価値のある男なんですか?」

「愚問だよ、大久保。

 彼を誰だと思ってるんだ?」

「高杉晋太郎現防衛大臣ですよ。

 陸上自衛隊の陸上幕僚長を経て、衆議院議員になり、現在当選5回。

 北条総理とは派閥が違い、内閣の派閥調整時に派閥のトップが無理やり現在のポストを北条総理に要求して、もめ事を避けたかった北条総理も仕方なく認めて防衛大臣になった男です。

 他にも我らが恩師・三橋教授のご学友である、くらいですかね。

 他のことも説明しましょうか?」

「もういいよ。

 君の言う『価値』がどういうものかはなんとなくわかるが、あの人には手を出しにくい状況が続いていることは否めない。

 後ろの部隊さえなければ、既に都合の良いところで死んでもらっている。

あの人にはそれをさせないだけの機転と能力がある。

足元が丈夫なうちは無理に手を出せば今度こそ殺されるだろう。

西郷君達の活躍が進めば、あの人も動かざるを得なくなる。

それまでは様子を見ながら低姿勢でいることが大事になる。」

「そのためには西郷達を切らなければいけないじゃないですか?

どのタイミングでとかは考えているんですか?」

「それを決めるのは岩倉さんだよ。

 彼の中の葛藤が終着点を見るまではこちらも準備だけ進めて待つことしかできない。

 それこそ、彼の良心と邪悪な心の戦いに決着がついてどちらが主導権を得るかによって、そのタイミングは今この時に起こるかもしれない。

 とりあえず待機だよ。」

「ジキルとハイド・・・・ですね。」

 大久保がポツリと呟き、影山が笑いながら

「彼には、ハイドに勝ってもらわないと、計画が進まないからね。

 それに、三橋教授に消えてもらったんだから、彼の残した理想くらいは、形は変えても実現してあげないとね。」

「あなたがそんなに教授に恩を感じていたとは思ってなかったですよ。

 『日本大改革』でしたっけ?何かを変えるためには力がいる、地位がいる、強力な武器となりえる人脈がいる、そのためには手段を選ぶな。

 使えるものは使い、使えないものは排除してでも改革をでしたか?

まさか自分が『使えないもの』として排除されるとは思ってもみなかったでしょうね。あの人はどの段階で自分が要らないものだと気づいたんでしょうね。

その瞬間を見てみたかったですよ。

 自分が切られたことを知った時の絶望の顔ってやつを。」

「世界には突発的に怪物が生まれる。

 人を幸せに導く英雄的な怪物もいれば、民衆を破滅に導く独裁者的な怪物が生まれることだってある。

 『三橋ゼミ』は高杉防衛大臣が作った『あえて怪物を作り出す培養器』だったわけだから、そこから生まれた怪物によって自分が踏みつぶされたからと言って、研究者が悲壮感を持つとは思えないよ。

 逆に、自分の生み出した怪物の恐ろしさに喜びを感じていたんじゃないかと僕は思うね。」

 影山は心底楽しそうにそう言った。大久保は呆れ気味に

「やはり影山君は『独裁者的な怪物』だよ。

 でも、民主主義がもたらす愚鈍で生ぬるい政治より独裁者の作る世界の方が、人は真の自由を手にできるのかもしれない。

 『選べないほどたくさんある選択肢』より、『目の前に突き出されたいくつかの選択肢』から選ぶ方が人は幸せになれると思うよ。」

「勘違いしているよ大久保。

 『英雄的な』も『独裁者的な』もどっちも怪物であり、どちらか一方が存在するから、もう片方が生まれ、そして競い合った結果でどっちがどっちだったかを決める。『勝てば官軍』とはよく言ったものだね。」

「それでもあなたは英雄にはなれないんですよね?

 表に立たないから。」

「そのための『救世主』を作っているんじゃないか。

 彼には民衆の支持を得て、さらに人を導く光になってもらわないと。」

「山本警部にそんなことを望んでも意味がない気がしますよ。」

「彼には彼の、僕には僕の仕事がある。そして彼の役目は別に彼だけのものではない。別の誰かに任せることだってできる。」

「スペアが既にあるということですか?」

「そうだね、そろそろ彼にも遊んでないで仕事をしてもらうとしよう。」

 影山はそう言って少し笑って部屋を出て行った。大久保は一人ため息をつきながら

「人たらしのくせに、人を切るのが速すぎるんだよ。

 つながった先から後ろがどんどん切れていけば残るのは、背後に広がる断崖絶壁になることも彼にはわかってないのだろうな。

 でも、そこが面白いんだけどな。」

 大久保はそう言ってドアを開けて暗い道に向かって歩を進めた。


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