六十四部
「あの~、私がここの責任者の荒木です。
警察がどのようなご用でしょうか?
少し立て込んでるので、手短にお願いします。」
山本たちは外国人の就労斡旋をしていた人材派遣会社を訪ねたが、明らかにオフィスとしての体裁を保っているのに社員がこの責任者を名乗る男しかいない。山本が
「あの、他の社員の方は?」
「それが………………、今日来たら誰も出社してなくて、どういうことなのか確認しているのに連絡も繋がらないんです。」
「あなたが社長なのに社員と連絡がとれないということですか?」
上田が聞くと荒木は少し戸惑ってから、
「私は雇われ社長なんです。
会社に毎日来て、社長室で定時まで過ごすだけで、月に30万円貰える仕事だったので、引き受けていて、会社の業務もすべて社員の人達がしていたので私にはどんなことをしていたのかわかってないんです。」
「何でそんな怪しい仕事をしていたんですか?」
伊達が聞くと荒木は
「私はホームレスだったんです。
まともな仕事を探しても住所もない私を雇ってくれるところなんかなくて、そのときに声をかけられて、まともな生活ができるならと思ったんです。」
「その声をかけてきた人はどんな人でしたか?」
山本が聞くと
「とても真面目そうな50代くらいの人でした。
身なりもしっかりしてるし、言葉遣いとかも丁寧でヤバイ系の筋の人ではなさそうでした。」
「要するにヤクザとかではなかったってことですね。
その人は何て言って勧誘してきたんですか?」
上田が聞くと荒木は思い出しながらなのか少し間を空けながら、
「えーと…………自分も一時期ホームレスだったことがあるからあなたの気持ちはよくわかるとか…………成功することができたから、あなたにも救いの手を差し出したいとか………同じように他のところでも雇っているとか言ってました。
その時は藁にもすがる思いという感じで受けたんです。
仕事の内容に少し不安を感じてましたけど、私にできることなんてなかったので、文句を言ってクビにされたくなかったですし、社長室にいるだけでお金が貰えるならと思ってしまったんです。」
「それで、その人はあなたになんて名乗ってましたか?
今の状況から本名を名乗ったとは思えませんが一応教えてもらえますか?」
「岩倉さんです。
他の人にもそう呼ばれてました。
他にも20代くらいの体ががっしりとした男で『西郷』って呼ばれてる人と話してました。
会話までは聞こえなかったんですけど、その『西郷』って人と一緒に仕事をしているみたいでした。」
「警部、この人は『頭切り』ですよ。
下端を切るのを『尻尾切り』って言うのに対して、何も知らない人を偉いとこにおいて責任だけ被せるのを僕らは『頭切り』って呼んでるんですけど、この人はそれですね。」
伊達が言うと山本も同意見だったようで、
「みたいだな。
荒木さん、その岩倉という人物の連絡先はご存じですか?」
「はい。知ってるんですけど、連絡しても全然繋がらないんです。」
「今までに連絡したことはありますか?」
「あの、その携帯の名義が私で自分のを作ったときに専用の回線が欲しいからって言うので、2つ作って、その片方を岩倉さんに渡したんです。
2、3度電話がかかってきたことがありましたけど、かけたのは今日がはじめてです。」
「その電話を違うことに悪用することも昨今はあるんですよ?
例えば振り込め詐欺とかですけど。」
伊達が言うと荒木は焦ったように
「で、でもですよ、新しい服を買ってもらって、住むところも用意してもらって、連絡用に電話まで買ってもらったんです。
あれ?って思っても断れるわけないじゃないですか。」
「そうですね、そこまでされるとなかなか断れないですよね。」
上田が荒木の機嫌をそこねて話が聞けなくなるのを危惧してフォローを入れる。山本が
「業務を担当していたのも岩倉という人だったんですか?」
「いえ、それは鈴木さんという若い人でした。
岩倉さんは他にも仕事をされているので、月に1度か2度くらい顔を出すだけでした。」
「西郷という人物については体ががっしりとしていたこと以外に何か特徴はありますか?」
「あまり覚えてないですね。
あっ!そう言えば明治維新の時の誰かの名前を言ってました。
誰だったかな?伊藤とか大久保とか武市とか…………坂本だとか」
「それを全部言ったんですか?」
山本が聞くと荒木は
「いえ、どれかひとつです。
岩倉さんと西郷って名前で、明治維新ぽい名前だな~くらいにしか思ってなかったんです。」
「とりあえず、ここの捜索させていただきます。
不法就労者を企業に斡旋していた可能性が高いので。
よろしいですか?」
「あの、その話が本当だった場合、私はどんな罪になるんでしょうか?」
「あなたが何も知らずにここの社長になっていたというのであれば、名義貸しくらいですね。
とりあえず、詳細を調べるのに警察には来てもらうことになります。
捜索しても良いですか?」
「ええ、どうぞ。
私も偉そうに言えた立場ではないので、あれですけど、してもいないことの責任なんてとれないので。」
伊達が近くにあった社員のパソコンを起動させ、中身を調べてから
「ダメですね。
パソコンは初期化されててデータは残ってないようです。
適当につけてみてこれだと他のやつも同じ感じになってると思います。」
「松前が修復できるとかはないのか?」
山本が聞くと伊達が答えた。
「小十郎ならできるかもしれないですけど、最初っからパソコンに保存してないデータまでは見れないので、この会社のセキュリティ次第ですね。」
「なら仕方ないから、松前が来るまで書類とかを調べとくか。
伊達はこのままパソコンで生き残っているのがないか探してくれ。」
山本が言い、伊達も「了解です。」と短く答えてパソコンの方に向かった。
「とりあえず荒木さんにはここで待機してもらいます。
捜索が終わり次第、署の方でお話を聞きますので、少しお待ちください。」
「わかりました。」
「いくぞ上田。」
山本が言い、上田も棚や机の引き出しなどの捜索を始めた。




