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六十二部

 鼻唄混じりにパソコンのキーをタップしながら、映像の確認をしている男がいた。あまりに軽快なリズムでパソコンのタイピングをするので、実はなにもうってはいないのではないかと思い、パソコンを覗き込むとそこには予想を遥かに超える量の情報が打ち込まれていた。

「私が遊んでいるように見えたかね?」

パソコンの前の男が笑みを浮かべながら聞いてくる。

「今は…………………岩倉さんですか?」

 男に向かって聞くと、男は鼻で笑ってからうなずく。そして

「私が誰かなど気にする必要はないよ。

 私の作る物が全世界の人達からどのような評価を受けるのかぐらい、どうでもいい話だ。

 私は私であり、私が納得して作った物や私が認めた物を他人に評価されたいとは思っていない。作りたいものを作り、共感してくれる人とだけ分かち合えれば私は他にはなにも望まないのだから。」

「そうですか。」

「ところで今日は何の用だろうか?

木戸に会いに来たのか?」

「いえ、現在の進行状況の確認をさせて頂きたくて来ました。

どうですか?」

「そうか、それは都合がいい。

今から新作を公表するところだったんだ。」

 男はそう言って、パソコンを操作してパソコンの画面をこちらに向けた。そして動画が始まった。


『我々をテロ組織と揶揄する者共よ、刮目せよ。

我らは貴様ら認識しないところで様々な成果を得ている。

断言しよう、我らの構成員は既に200万を超えたことを。

我らに同調を希望するものが500万はいるということを。

刮目せよ、貴様らの見えていない足元はすでに切り立った崖となっていることを。

 日本を蝕む寄生虫は日が経つごとに我らの手によって駆除されていると言うことを。

 怯えよ寄生虫どもよ。貴様らの安息の土地は日本にないことを知り、逃げ出すがいい。逃げ惑え、こやつ等のように。』

 そして映像が切り替わり、血だらけでときおり後ろを確認しながら、走っている男の姿が写し出される。 

ポルトガル語を叫びながら走る男の背中に腕がかかり引き留められた男の背中をナイフが襲う。悲鳴と共に逃げていた男の体から力が抜けて膝から崩れ落ちた。

 同じような映像が何個か続いたあとで、

『目を見張れ!我らが行いを差別とする者たちよ。

差別のない世界などない。なぜなら世界には差別の基になる物がありふれ、そして新たに生まれ続けているからだ。

 人種、国、土地、貧富、性別、文化、ルックス、家柄………………等挙げればまだまだでてくるだろう。

世界は差別でできている。皆が違うからこそ社会は成り立ち、そして優劣をつけて他人に憧れ、他人を妬むのだ。

相容れぬ者とは繋がらず、分かち合えるものとだけ繋がればいい。

 世界は広いようで、自分の手の届く距離しかあなたの世界ではないのだから。

 さあ、苦しむ日本人よ、手を伸ばせ。

我らがその手を握ろう。我らと共にあなたの明日を今日より良いものにしよう。我らが『平成攘夷軍』であり、そして、この国を終わらせる存在である。』


「最後の一言がまさにテロ組織って感じでしたが?」

「新たな物を作ろうと思えば、古き物を時に破壊しなければいけない。

いつ崩壊するかわからない廃墟を再利用するのではなく、一度取り壊して更地にしてから建物を建てるようなものだ。

 私の役目は破壊すること、そして君の仕事は更地に新たな建物を建てること。

時に仲間の屍を越えなければ、戦場では生き残れないのだと知るべきだね。

 私や西郷君達の屍を越えていく覚悟が君にあるかね?」

「必要なら自分の命もかえりみずに戦場を駆け抜ける覚悟はしています。

 でも仲間を見捨てて逃げる覚悟をするつもりはありません。」

「キレイ事ばかりでは通用しない『敵』というのはいるものだよ。

だが、私は君のそういう所が嫌いじゃない。」

「反響を楽しみにしていますよ。」

「反響とは予測ができないものだからね。君の望みが叶うことを切に願っているよ。」

 岩倉がそう言って笑った。一礼をして部屋から出た。

坂本は心配そうに岩倉のいる部屋を見て、

「捨て駒になるつもりなんだろうか?

いや、そんなことは俺がさせない。」

 そう言って、心に強く言い聞かせてその場を離れた。


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