六十一部
「いやー、お待たせしました。」
高山はそう言って、藤堂達の前に座った。根城の方の制圧が終了し、捜査の指揮を執っていた高山は責任者として取り調べなどに参加していたため、藤堂達は別室で待機させられていたのだ。
「それでどうだったんですか?」
藤堂が聞くと高山は真剣な顔で
「今回捕まったのは、保険金詐欺に加担していたマフィアの構成員でした。
その点では情報が入るし良かったと思うんですが、根城の一つを潰したところで、まだいくつかあるんじゃないかと思うような物証も出てきてます。
ついでに言うと、根城の中には東南アジア系の外国人が数人いました。この人たちが荷物を運ぶのを手伝っていた人かどうかは今のところわかってないというか通訳がいないと何を言ってるかわからないので、通訳待ちの部分があります。
ただ、今回保護した中にはグエンという名前の人はいませんでした。
引き続き他の根城の捜索と保護した人たちからの情報を待って、グエンさんのことについても調べてみようと思ってます。」
「捕まえたあの尾行男は事情聴取にしっかりと答えてるんですか?」
加藤が聞き、高山が
「どうも、失敗=死を意味するくらいの掟があるみたいで、マフィア自体は解体していても報復を恐れているみたいで、『保護してくれるなら何でも話す』と言ってるみたいです。こっちも日本語が通じないわけではないですが、基本的には中国語なので通訳が間にいないと大変なので話してはくれてるんですけど、進んではいない感じですね。」
「その男はグエンさんのことは知らなかったんですか?」
藤堂が聞くと高山は首を振り、
「まだそこまで聞けてないんですよ。
まずは他の根城の場所を最優先で聞き出しているところですから。」
「そうですか・・・・・・」
藤堂が考え込むと加藤が
「高山さん、今後の僕らの捜査はどうしましょうか?
高山さんがこっちの責任者ならお忙しいと思うんで俺らだけで動きましょうか?」
「そうですね、すみません。
運転手くらいなら誰か出せると思うんで、好きに命令してどこでも連れて行ってもらってください。」
「わかりました。」
加藤が言い、高山が
「それでは私はまだ捜査が残っているので失礼します。」
高山はそう言って出て行った。加藤が
「どう思う?」
「何がですか?」
「高山さんってできる人だったんだなってことだよ。」
「能ある鷹は爪を隠すですよ。バカみたいにはしゃいでいたように見せることができたのも、その能力があったからですし、バカに見せたのだって全ては対象を罠にはめるための作戦。
それに僕らは全く気が付いてなかった尾行に気が付いて、それを確認するためのロケーション選択。
もしかしたら、通天閣の時も人通りが多い町中ではなく密閉空間である通天閣の展望台に上った時もすでに尾行がいるのを知っていた可能性だってあるんですよ。
爪を隠すどころか、爪があることすら悟らせずに相手を狩ったんですから、あの人は釣り人ではなく狩人ですよ。」
「なんかもう人ってわからないよな。
みんな凄すぎて俺は何もできない奴な気がしてきたよ。」
「僕もおなじですよ。ただ、勉強ができただけで、結局何も特技とかがあったわけじゃないし、自慢できることもないのかもしれません。
ああ、そう考えると今まで威張ってきたこと自体がとても恥ずかしくなってきました。」
「お前もいいところあるじゃないか。
勉強ができるってことは成長し続けられるってことだろ、俺みたいに体が頑丈なだけじゃあ、年を取って体が衰えたらなんにもできなくなるってことっだぞ。」
「大丈夫ですよ、加藤さんは定年の年齢になっても若い人にも負けずに走り回ってる様子が想像できますから。」
「それはそれでなんか嫌な気がする。
でもそうだな、ない物ねだりよりもある物をいかに活かすかを考える方が俺らしいし、藤堂だって自分のできることを見つめ直した方がいいかもしれないな。
まあ、威張ってたことに関しては反省してそれを俺に対して見せてくれれば、それでいいんだよ。」
「加藤さんに対する接し方を改める気はないので大丈夫です。」
「何が大丈夫なんだよ?
まあ、いいや。急に変わられてもそれはそれで怖いからな。」
「捜査はとりあえず、不法滞在者の襲撃事件と不法就労者の斡旋を行っている人材派遣会社の調査ですね。
外国人が働いているところからそういう企業がないかを調べましょう。」
「わかった。」
加藤は口にこそ出さなかったが、藤堂の良いところはしっかりと捜査の必要なところを自分にもわかりやすく教えてくれるところだと思った。




