六部
「うん、そっちもそんな感じか・・・、そうだな同じようなもんだよ。
じゃあ、そっちで犯行グループに繋がる情報をもう少し集めてくれる?
・・・・・・・了解、警部達には俺から言っておくよ。」
上田は藤堂からの電話を切ってから、山本に向かって、
「関空の方の事件も同じ感じですね。
トイレの前で声をかけてきたアジア系の男に騙されて荷物を盗まれてます。
防犯カメラにもその様子が写っていたそうです。」
「他には何かこっちがわからないような情報はなかったのか?」
「向こうも防犯カメラの映像が不鮮明だったので、大阪府警に解析を頼んでいるそうです。逃走経路は防犯カメラの映像をつなげてみた感じでは、普通の旅行者を装って駐車場まで行ってるところもこっちと同じだったみたいです。
ただ、犯行グループの一人の顔が防犯カメラに写っているようなので、その一人が捜査のきっかけになるかもしれないとは言ってました。」
「映像の解析待ちってことか?」
「そうなりますね。それで、何か気になることありましたか?」
山本達は犯人グループが通ったであろう経路を回って、何か手がかりになることや目撃者がいないかを調べているところだった。残念ながら成田空港の防犯カメラには明確な逃走経路を割り出せるだけの量がなく、穴場と言えるところが何カ所かあり、防犯カメラのないところをすり抜けることもできる可能性があると空港側の担当者の砂田が言っていたため、地道に現場から歩いて、お店や警備員などにも話を聞いて回っていた。
駐車場のところには防犯カメラがあったが、大きな荷物を運んでいそうな車が多すぎて、犯人の車かどうかを判断するのは難しそうだった。
「複数の話を統合すると、ある程度の逃走経路は絞れるが、その情報が『爆買いしたような荷物を持った外国人が出口に向かったのを見た』くらいの話だからな。空港の内部で迷って別方向に進んでいただけの旅行者かもしれないし、確実に犯人グループだったとは言えないみたいだから、何とも言えないな。」
「あ~あ、せめて被害者の中国人から直接話を聞ければもっと情報が集まったかもしれないのに。」
上田が愚痴っぽく言う。被害者は少なくとも犯人の顔を一人は知っていることになる。似顔絵が書ければ、捜査のしようもあるが今のところ捜査のきっかけになることすらない状況で、何もできなくなっていた。
「数百万の損害を出しているのに帰国できるってことは、金にめちゃくちゃ余裕がある超富裕層なのかもしれないよな?」
「あれ、砂田さんの転売目的説は支持しないんですか?」
「転売目的で来ていたなら、商品がない状態で帰国すればどうなるかと考えると、商品を取り返してからしか帰国できないと思わないか?」
「それは‥‥確かにそうですね。転売目的でもお金を払って商品を買っているだけなら、企業としては問題でも法律的に犯罪になるかと言うとはっきり何罪とは言えないですもんね。」
「その中国人の狙いが最初っから、保険金詐欺だったということは考えられないか?」
「本気ですか、警部?旅行先で盗難に遭った場合の保険って聞いたことはありますけど、爆買いまでして盗難事件をでっちあげなくても、かばんとかでいいじゃないですか?」
「カバンだったら、自分の物だからあまり高値で転売できないが、電化製品なら転売してもかなりの値段でさばける。
何より中国人の『爆買い』自体が日本で受け入れられているから、大量に電化製品を買っても怪しむ人もいない。
しかも巧妙に空港で盗まれたとなれば、爆買いを狙った窃盗団による計画的な窃盗事件として警察が調べる可能性が高く、保険金詐欺は疑われない。」
「でも、転売するなら、中国とかにもっていかないといけないんですよね?
そんな事件が起きた後で、海外に持ち出すのは危険なんじゃないですか?」
「例えば、何の被害にもあっていない爆買い中国人も同時間帯に日本から出国しているわけだよな。
そいつらの荷物に少しずつ盗品をばらして出国すれば・・・・・・」
「ちょ、ちょっと待ってください。どんな規模の窃盗団になるんですかそれ?
少しずつばらして運んでもかなりの量があることに変わりないんですよ。」
「まあ、落ち着けよ。これはあくまで仮定の話だろ。
それに保険金詐欺だったとするなら、中国人マフィアとかが裏にいる可能性が高いわけだから人なんて集める方法はいくらでもあるんじゃないか?」
「中国人マフィア相手にどうやって捜査するんですか?」
「だ・か・ら、これは仮定の話だよ。
実際にそうだと決めつけるだけの証拠も何もない。」
「でも、かなり筋は通ってる気がするんですよ。
だって、見知らぬ人に大金出して買った荷物を見ておいてもらうなんてことありえませんから。」
「そう思うなら、砂田さんに入り口付近の防犯カメラの映像と空港の受付のあたりの防犯カメラの映像貰って来てくれ。
入り口と受付で量が違えば、この仮定の話にも少しくらい肉がつくだろ。」
「わかりました、すぐ行ってきます。」
上田は猛スピードで走っていった。山本はため息をついて、
「あいつ、俺の妄想に敏感に反応しすぎだろ。」
呆れて言い放った山本の携帯電話が鳴り、その表示に目を見張った。
画面に表示された名前は『一成』だった。




