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五十九部

「大久保先生は、このような事件が起こる前から不法滞在者や外国人の犯罪について問題提起をされてきておられましたよね?

 一部の報道の中には、先生がされた発言を引用して、せんせいがこの『平成攘夷軍』の指導者なのではないかと言っているところもあるようですが、その点に関してはいかがでしょうか?」

「私が同じようなことを言っていたから、そのまま私とその集団をひとまとめにされても困りますね。

 私は私の考えに基づいて、犯罪を行う外国人に対しての取締強化を述べてきただけで、必ずしもあの『平成攘夷軍』とやらの考えに賛同しているわけでもありません。

 思想・信条の自由は認められていますし、外国人にひどい目にあわされた人達が集まって、そのような活動を始めたのだとするなら、それは私がどうとか以前に国に問題があるし、その国の不満が爆発した結果がこのような行為に繋がっているんだと私は思います。」

「それではご自分の関与を完全に否定されるというわけですね?」

「当然ですよ。私は『平成攘夷軍』とやらには全く関与していません。

これだけははっきりと明言させてもらいます。」

 京泉大学法学部准教授 大久保利典はテレビの取材をあるホテルの一室で受けていた。何回も繰り返し聞かれてきた内容なだけに答え方もわかるようになってきていた。インタビュアーが

「それでは『平成攘夷軍』についてどのように思いますか?」

「そうですね、同じような考えを持っている者としては行動に移したこと自体は称賛してもいいのかもしれません。

 ただ、行動の方向性が間違っていることは確かです。

  暴力に訴えても、その報復は暴力を持ってされるものであることを今一度考え直すべきだと思いますね。

 考えているだけなら何のお咎めもない、表現が行き過ぎればそれは犯罪になり、行動が行き過ぎればその先に待っているのは絞首台だけでしょう。

悲しい事ではありますが、痛みを与えられた人がその痛みを晴らすのは加害者に同様の痛みを与えることでしかなしえないのかもしれませんね。」

 大久保は必死に悲しそうな顔を作る。

「それでは最後にもう一つお聞きしますが、これから日本はどうなっていくと思われますか?」

「日本はいま大きな転換点に来ているのだと思います。

 このまま何もなかったことにして、根底にある問題の解決を目指さないのであれば待っているのは国そのものの破滅です。

 ただ、ここから対策をしっかりとして、ダメなところはダメなところでしっかりと改正を行い、よりよい未来にすることもできると私は思っています。

 今の政治家にどこまでできるかはわかりませんが、少しでも私の言った後者になるように努力して頂きたいと思います。」

「そうですね。本日はありがとうございました。」

「こちらこそありがとうございました。」

 取材が終わりテレビのクルーが帰っていくと、部屋に残って椅子にもたれかかっていた大久保のもとに薄ら笑いを浮かべながら男が現れた。

「聞き耳を立てていたんですか?」

 大久保が聞くと、男は笑いながら

「いやいや、ご高説を賜り、授業料を払いたいと思わされましたよ。」

「ご遠慮なく、払ってもらって結構ですよ。」

 大久保が言うと、男は大久保の後ろに立ったまま

「国内での扇動活動は大久保さんにお任せします。

ただ、彼らのことをあまり悪く言い過ぎると坂本さんや西郷さんに怒られますよ。」

「西郷は忙しすぎて私のことなど気にもかけていないでしょう。

坂本さんも計画のすべてを一任されているわけですから、私程度の関わっている時間が無駄なんだと思ってると思いますよ。」

「まあ、どちらにしても岩倉さんの動画のおかげで反外国人、外国人の排除に関する機運は確実に高まっています。

 このままいけば予定通り、となるんじゃないですか。

あくまで坂本さんの予定ですけどね。」

「あなたは今回は傍観しているだけですか?」

「まだ時が来ていないだけで、僕もしっかりと働きますよ。」

「山本さんの動きが心配ですね、重要なところを潰される前にしっかりと計画を進めておいた方がいい。特にあなたは高確率でマークされている。

自由度の高いうちにあなたなりの計画を一でも二でも進めておいた方がいいと私は思いますよ。」

 大久保が言うと男は笑みを浮かべまま

「大丈夫ですよ。山本警部がよそを向いているうちにこっちは準備ができています。彼らがしくじっても、僕はしくじらないので安心してください。」

「そうですか。

私は待っているんですよ、あなたが影ではなく長になることを。」

「無駄な期待ですね、僕は長にはなりませんよ。影からすべてを操る存在になりたいんですから。」

 男はそう言って、ホテルの部屋から出て行った。大久保は一人で

「坂本さんも焦らないと国際犯罪者にされてしまうというのがまだわかってないんだろうな。」

 大久保はそう言って先輩の心配をするのではなく楽しそうに笑った。

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