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五十七部

「失礼します。」

 ドアをノックする音とともにドアが開き、凛とした美人がドアのところに立ってそう言い、武田はまずいと思いながら笑顔を浮かべて

「ああ・・・・・菊ちゃん、どうかしたのか?」

「驚きですね、総監が私が何をしに来たのかわからないとは思いませんでした。

 それとも、気づいていながら知らんぷりですか?」

 武田は大きくため息をついて

「例の動画のことだろ?

 残念ながら海上自衛隊のマークが偶然映り込んでいたと考えることは私にはできない。あれは故意に自衛隊の船が襲撃したのだと全世界に知らしめるためだと思ってる。

 日本人は自衛隊がそんなことをしないと知っているが、諸外国の受け取り方は様々だと思う。

 『自衛隊』と名が付いてはいるがその軍事力は発展途上国の軍隊よりも上である可能性だってある。いわば、立派な軍隊を所有していると認識している国だってあるわけだ。

 そんな国が日本が密漁者を大量虐殺したと受け取られれば、それだけで日本は非難の的になるだろう。

 本当にお腹の痛くなる話だよ。」

「自衛隊側からのコメントはありましたか?」

「菊ちゃんは防衛省の建物を見たことはあるか?」

「何度かは見たこともありますが、それが何ですか?」

「茶色っぽい壁に屋上の付近が緑色のような色をしていて、とてもきれいな建物だと私は思うが、同時にその中身はどうなのかとも考えてします。

 国防の砦である以上、隠さなければいけない情報は多いことは私もわかっているが、隠された情報の中に犯罪に関することやな国内の動乱の兆しがあるような情報であれば警察とも共有してもらわなければ困る。

 防衛省はあらゆる情報を飲み込んで外には逃がさない、そうだな例えるならブラックホールと言ったところだな。

 そんなところからコメントが出てくると思うか?」

「つまり聞いても何も答えてくれないし、協力を申し出ても断られているということですか?」

「担当者がいません、だとさ。

 何の担当者がいないのかを説明して欲しいよ。まず、この問題に担当者を配備したのかどうかから教えて欲しいもんだ。」

「つまり完全に締め出されてしまったわけですね。」

「そういうことだ。

 こっちとしては色々と手を打つつもりだが、それでも情報をつかむには時間がかかるだろう。今、上杉に直接出向いてもらって怒鳴り込ませてるところだ。

 まあ、それも段階を踏んでいかないと詳細な情報は出てこないと私は思ってるけどな。」

「うちの課は全員でこの事件の捜査にあたらせます。

総監から命令がなくても、この件には山本警部をはじめとするうちの課の人間の能力が必要不可欠ですので、既に捜査にとりかかっている頃だと思います。」

「正直、今回の事件は相当に難しい上に、解決した後にも日本の治安の悪化と外国人に対する偏見が広まらないかという観点から心配事が絶えない状態ではある。山本達が解決してくれること自体は疑ってないが、どの段階で解決してくれるかによって、私がしなくてはいけないアフターケアが変わってくるわけだ。

 できるだけ早期の解決を頼む。手段は・・・・・・・選ばなくていいと伝えてくれ。」

「よろしいんですか?うちの課には無茶苦茶する人が集まってますよ。」

「大谷には面倒をかけるが、大谷が一人では抑えきれないメンツであることは最初っからわかっていた。

 だいたい火のついた山本は、私はおろか上杉にも止られないんだから、大谷には荷が重すぎるというものだ。

 これ以上の事態になる前に事件を解決できれば、その過程は気にしない。

とにかく、事件の解決を優先してくれ。」

「わかりました。それではそのように伝えます。

 おそらく山本警部から総監にお願いもあると思いますからそれにも対処をお願いします。」

「山本の言ってきそうなことなら既に上杉が調べてくれてるから期待には答えられそうだよ。」

「山本警部が事件を解決して良いんですか?」

「質問の意味がわからないな。

警察が事件を解決して何が悪いのかという話だよ。」

「これが黒木俊一のグループの事件なら山本警部の活躍はむしろこちら側が不利になるのではないかということです。」

「山本の活躍のすべてを計画に入れることなんてできるわけないだろ。

 規格から外れたものは小さければ箱に収まるが、大きすぎれば箱を飛び出して行ってしますものだ。

 山本は大きく規格から外れすぎているから向こうの計画にも支障は出てるはずだ。事件を解決する、それだけが警察の追及すべきことだよ。」

「わかりました。伝えておきます。」

 黒田はそう言うときびすを返して総監室から出て行った。

 武田は一人でお腹をさすりながらつぶやいた。

「ストレスがたまると胃潰瘍とかなるんだよな・・・・・・・」


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