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五十三部

地下に降りる階段を降り、扉を開けると薄暗い店内の中央にカウンターがあり、その向こうに机の席が並んでいる。

 店内を見渡していると、一番奥の机席にいる大きな男が手を振ったのでそちらに歩いて行く。席に座ると大きな男が、

「カタさんが遅れてくるのは珍しいですね。」

「コージ、私は二人とは別に動いているんですから、私が別で合流することは特に珍しい事ではないでしょう。」

「でも、5分の遅刻であることは変わりないけどな。」

「テルが見つけにくい場所を指定したからではないですか。

 初見でこの場所に店があるとわかる人の方が凄いと思いませんか?」

 片倉が聞くと、伊達は笑いながら

「こういう隠れ家風の店の方が雰囲気があって面白いだろ?」

「嫌いではないですね。」

「捜査は難航中みたいですねカタさん。」

 松前が言うと、片倉が

「コージ、何をもって難航中と決めるかによりますよ。

 ですが、実際は難航中と言わざるを得ない状況ですね。

まず事件の詳細な情報もなければ、被害者の詳しい素性もわかりませんし、それが膨大な量いるので、どこから手を付けていいかもわからない、さらに調べたからと言って犯人に繋がる情報は今のところなし。

 もう少し目立った動きがあるまで待機しておくのが妥当かもしれないですね。」

「大谷との関係は?」

 伊達が聞くと、片倉は嫌そうな顔をして、

「彼とは合いませんね。正攻法で責めるだけが勝負でないことも理解はしているのでしょうが、あれはダメ、これもダメというのが多すぎて正直なところ邪魔でしかないですね。」

「面倒な監視役が付いたってことか・・・・・・」

 伊達が言うと、片倉はため息をついてから松前に向かって

「コージ、頼んでいた件は?」

「例のテロ組織のことだね。

 現在の呼称は不明だけど、以前は『岩倉使節団』と名乗って、諸外国の進んだ政治制度や逆に日本が取り入れてきた外国の制度等の悪いところを批判して、代わりの制度を提案しているだけだったのが次第に過激になり、制度上の問題を作っている人達を襲撃する事件を何件か起こして、テロ認定されたみたいだね。」

「へえ、ヤジしか飛ばせないどこかの政党よりよっぽど政治家に向いているな」

 伊達が皮肉ぽく言うと、片倉はそれを無視して

「襲撃されたのはどんな人たちだ?」

「一番わかりやすい例で言うと、生活保護受給者の中の不正に受給している人とかが多いね。

 生活保護を受けているのに高級車に乗ってる人とか、ぜいたくな暮らしをしている受給者がいても、調べる自治体側の人員不足や不正受給だと判明した後の対処に関する権限が弱いことから、野放し状態になってる人もいるらしいし、最悪なのはいい車に乗って、受給されるお金を取りに来る人までいるくらいに、なめられてるんだよ。

 ただの市役所とかの職員じゃ、暴力団には勝てないから放置状態になってるなんて話もあって、誰も手が出せないような人がかなりボコボコにされたりしたみたいだよ。」

「警察の対応は?」

「暴行や傷害で実行犯数名を逮捕、上としては共謀罪で集団全体を捕まえたかったみたいだけど、実行犯が自分達が勝手にしたことだと主張した上に共謀関係を立証できなかったので、結局はトカゲのしっぽ切状態のまま実行犯だけが懲役刑を受けた。」

「なるほど、集団内の結束はかなり強固なものだったというわけですか。」

 片倉が考え込み、伊達が

「他には何かしたのか?さすがにテロ認定されるにはそれだけじゃ足りないだろ?」

「某外国大使館への襲撃事件が実際にあったらしいんだけど、国内外にその事実は報道されていない。

 原因は、襲撃の理由がある大使が麻薬の輸入に関与していたことを知った一部の過激な構成員が鉄パイプや金属バット、改造エアガンなどをもって、大使館に押し入ったことで、大使館側としては不祥事を公表したくなかったこと、大使館が襲撃されて、被害がかなり出たことから防衛能力の低さを広めないようにするため、日本側としては日本人が外国大使館を襲撃したなんてことが全世界に広がるのを避けたかったため、お互いの不利益関係が一致したので、なかったことにするのが手っ取り早い解決策になったという感じかな。

 でも、大使館襲撃は実際にあったことなので、対策は講じる必要があった。

そこでテロ認定がされたわけだね。」

 松前が言い終えると、片倉が

「その『岩倉使節団』のリーダーとか幹部の情報は?」

「本当かどうかはわからないけど、リーダーは『岩倉具視』を自称していたらしいよ。その他の幹部も維新の盟友の名前で呼ばれていたらしいけどあだ名の可能性が高いし、幹部以上は顔すら見せずに公安の追跡を逃れているらしいから、その線から調べるのは余計に大変かもしれないよ。」

「まさに行き止まりですね。」

 片倉がため息をついて言うと松前が

「でも、ネットには多くの外国排斥をうたった記事が増えてきているから、それを扇動している可能性はまだ残ってるよ。」

 松前が言うと、片倉が少し首をかしげて、

「さっきから思っていたのですが、しゃべり方に統一感がみられないのですが何かありましたか?」

 伊達が笑いながら、

「こっちはこっちで、気を遣う人が多いから、あらかじめコージにはこういう内容を話せっていうことを指示しているんだけど、それがどうも俺の言い方をそのまま言うから、原稿と自分の話し方とがごっちゃまぜになってて、今は少し不安定な感じになってるんだよ。」

「アニキの原稿は難しい言葉が多いし、説明が長いとどうしても自分の言葉も出てきて色々と大変なんだよ。」

「力だけでも、ネットの能力だけでも、あの人達を信用させることは難しいからな。しっかりと話もできるところを見せておこうと思ったんだけど、これは少し逆効果だったかもしれないな。」

「コージで遊んでいるだけでしょう、テルは?」

 伊達はイタズラがバレた子供のように笑い、

「とにかく、少しでも多く情報を手に入れて、誰よりも早く、そして誰よりも先に真実を知った上で、高みの見物と行こう。

 俺達は残党狩りを楽しみにしてここにいるんだから。

大きな戦乱の主役は山本警部にしてもらって、ゆっくりじっくり残党狩りを。」

 伊達はそう言って、自分の飲んでいたグラスを掲げる。松前も同じようにするが、片倉はまだグラスどころか水も来ていないので笑いながら、

「そういうのは、もう少し後にしてもらいたかったですね。

 すみません、ジンジャーエールをください。」

 片倉が店員に言うと、店員が慌ててグラスに注いで片倉の下に来た。

「それでは改めて、我々の目的のために・・・・」

 伊達がそう言って3人はグラスを同じ高さで合わせた。


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