五十一部
「ああ、それで泣き言を言いたくて俺に電話してきたのか?」
山本が電話に出ると、三浦が事件の話をして、一人で捜査することになったという報告をしてきたことに対して、山本が言うと電話越しに
『違いますよ。事件の件数も多いですしできれば警部達にもこっちの捜査に加わってもらえないですかってお話ですよ。
全員がきついなら、一人くらい回してください。』
「お前が一人で捜査したくないから、こっちから一人欲しいってことだろうが。
わかった、伊達を行かせる。」
『えっ、伊達ですか?
伊達はちょっと困りますよ。片倉さんが制御できない僕がそのさらに上を行く伊達を扱えるわけないじゃないですか。』
「悪い三浦、スピーカーにしてたの忘れたは。
今の会話は全部こっちのやつに聞こえてたからな。伊達も含めて。」
『えっ、ち、違うよ、別に伊達が嫌いだからってことじゃないから・・・・・』
「じゃあ三浦、頑張れよ。」
山本はそう言って電話を切った。上田が笑いながら
「あれ絶対に気にしてますよ、三浦は。
そういう所のメンタル弱いですからね。」
「竹中さんも過保護なんだよ。三浦は案外、図太い奴だから誰と組まして意外とうまく立ち回る奴だからな。
逆に一人にするとさぼるかもしれないからな。まあハッパはかけとかないとな。」
山本も笑いながら言うと、伊達が
「人をダシにして遊ぶのはどうかと思いますよ?」
「扱いが難しいってところに反論があるのか?」
山本が聞くと、伊達はニコリと笑って
「三浦さんには悪いですけど、あの人の言うことを聞く可能性はほぼゼロですね。」
「三浦も大変だな。俺もそこそこ中間管理職だけど、あいつは管理職でもないのに後輩になめられまくって使われてるんだからたまったもんじゃないだろうな。」
上田がまだ楽しそうに言い、山本が
「それで、これからどうする?
三浦の言う通り、向こうの事件を手伝うか?
何か提案はあるか、伊達?」
「僕に聞かれるとは思わなかったですよ。
ただ、提案はありますよ。」
「何だ?」
「これはあくまで仮定の話ですが、今までに起こっていることが全て繋がっているとするなら、今回の不法滞在車襲撃事件もその一端を成しているのではないでしょうか?
つまり、空港の窃盗事件、中国マフィアの保険金詐欺、外国人強盗団、密猟者殺害事件、そして今回の事件が繋がっていたとすると、次に起こる事件は何かですよね。」
「考えたくはないが、例えば外国人の日本での犯罪を大きく取り上げることによって、外国人への差別を助長する。その中で外国人の犯罪者を攻撃する。
それをまた報道が取り上げると、一種の『犯罪者に鉄槌を下すヒーロー』のような錯覚を国民に植え付けることもできる。
そこに更に新たな何かをってことだろ?」
山本が言うと、上田が
「そんな風に思う人いるんですか?結局はどっちも犯罪者ですよ?」
「10人いる中で一人でもそう思えば、日本人は1億2672万人くらいですから、1267万2千人くらいがヒーロー扱いするってことになります。
実際はもっと少ないかもしれませんが、そういう人が増えれば日本全体の考えが外国人差別へと向かうということになります。
これは国家として放置できない状況になるんですよ。」
伊達が言うと、上田が
「じゃあ、次も何かヒーロー的なことをするってこと?」
「どうですかね?
ヒーロー像って人によって違うじゃないですか。正真正銘のヒーローが好きな人もいればダークヒーローが好きな人だっていますし、一概にヒーローぽい事が何かがわかりません。
単純に予想すると、今はまじめに働いている人達が襲われているのであれば、前科を持っている人や裏社会の仕事をしている人達、僕らが捜してる中国マフィアみたいな人達が狙われるってところですかね。」
伊達が言った後で、山本が
「伊達が言う通り、全てが繋がっているなら、密漁船を襲撃した銃器はまだ犯人が持ってるんだから、それを使って外国船を襲撃したりとかもできるわけだよな。」
「そんなことしたら、戦争になるかもしれないじゃないですか?」
上田が言うと、伊達が
「もしかしたら戦争を起こすことが目的なのかもしれないですよ。
日本は今の状態では戦争できないから、アメリカに助けてもらうことになるわけですけど、そのアメリカの軍事力がどの程度、日本を守れるのかはわからないわけです。
でも、国の予算から多額の米軍滞在費が出ていることを考えると、予算の無駄遣いだっていう意見が高まる可能性はありますよね。
さらに言うなら、憲法9条を変えるために一度戦争状態にして国民の危機感をあおることが目的かもしれない。」
「そんなことして本当に戦争になったらどうするんですか?」
上田が聞くと、山本が
「平和維持のために作られた国際連合があるだろ。
戦争回避のための議論がされて、安全保障理事会とかが仲介して終戦まではいかないにしても停戦状態にはできるだろ。
それに日本としては戦争をしたいわけじゃないから、色々と妥協案は出すだろうしな。」
「でも停戦に持ち込めても、そこから憲法改正とかの議論が始まったのでは遅いですよね?」
上田が聞くと、伊達が
「その間に他にも何かを仕掛けて、特例法とかを作ってからって感じじゃないですか?全部が仮定の話ですけど、要するに日本人の危機感をあおるための何かをしてくると考えるのが妥当かと思います。」
「平和主義は実現できれば、それに越したことはないが、それを許さない国際情勢ってのは昔からあったんだよ。
中東諸国の独立戦争だとか、テロ組織に対する戦闘だとか、武力を持ってしか解決できない問題に日本は関わってこなかった。
でも日本を巻き込んだ国際問題がなかったわけじゃない。
それがどんどん悪化すれば、将来的には戦争になることだって考えるべきなんだ。戦争をするべきだとは思わないが、事態がそうなった時に何もできずに国民が傷ついてから、対処していては遅いということも考えなければいけないんだろうな。」
山本が言うと、ここで初めて松前が
「それでアニキ、結局何を調べるんですか?」
松前はどうやら伊達のことを『アニキ』と呼んだことも気づいていないみたいだが伊達も特に隠す気がないのか、それを流して、
「結局は、何かが起きてからしか動けないってことだよ。
だから、提案としては・・・・・影山光輝の方を調べるというのはどうですか?
もとはと言えば、その影山光輝が自殺したことを発端として、色んな事件が起き始めたんですから、影山光輝を調べれば、もしかしたら今後の『何か』に辿り着くかもしれないですよ。」
「それはどうやって、調べるんだ?」
山本が聞くと、伊達はニヤリと笑って、
「影山光輝にはお友達がたくさんいたそうですから、その人達から話を聞いてみるってどうですか?
とりあえずは、他言ができない状況にある『五條 進』から話を聞きましょう。」
「上田、とりあえず五條のところみたいだな。任せる。」
「わかりました。」
上田はそう言うと、五條のいる府中刑務所に向かって車を向けた。




