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五十部

「昨年度の観光で日本を訪れた外国人は2000万人以上、今年は同月比で既に昨年の人数を超えているとの発表もあります。

 観光名所の混雑やマナーの悪い外国人がいることばかりがクローズアップされがちですが、問題は他にもあるんです。

 それは観光ビザで入国して、滞在期間を超過する人や元から日本での就労を目的に観光ビザで入国して、日本に不法滞在する人が出ているという点です。」

 黒田が事件について、話し始めると竹中が

「それって取締れへんもんなんか?

 聞いてる限りでは、何日間かの滞在しか認めてへんビザなんやから、泊るところとか、それこそ就労なんてできへんのと違うんか?」

 黒田がため息をついて、

「2000万人以上の人すべての管理ができると思いますか?

 同じ国から来ていても、滞在日数は違う人もいますし、行先や宿泊場所の把握、移動手段なども含めて、全てを知ることは不可能でしょう。

 それに外国人だけ特別に取り締まるなんてことをすれば、差別としてとらえられて、人権問題に発展します。

 そこまでのリスクと手間をかけて、取締ろうとは思えないというのが現状だと思います。」

「不法滞在する人も悪いけど、国としてほっといてるってことなんか?」

 竹中が聞くと、片倉が

「少子高齢化が進み、労働人口の減少が将来的な問題となっている日本において、外国人労働者というのは救いになるとも考えられています。

 それに先ほどの竹中さんの疑問に答えるなら、日本に非正規な人材派遣会社というのがあり、外国人労働者に仕事をあっせんしているんです。

 その多くが日本に定住を許された外国人の取り計らいだったり、裏社会の組織が関わっていたりするわけです。

 だから、仕事が決まっていなくても、来てみたらなんと仕事にありつける現状が日本にあるということですよ。」

「へぇ~そんなもんなんか。」

 竹中が言うと、黒田が

「誤解して頂きたくないのは、観光で日本に来られる外国人の方も日本に定住されている方も全部が悪いということではありません。

 実際に、日本人一人当たりの消費量をまかなおうと思うと観光客が5・6人いれば、日本の消費は支えられるという計算が出ています。

 だから外国人観光客が来ること自体は日本として優先的に取り組む課題にもなっているわけです。

 問題なのは、2000万人以上の中のほんの0.0何%というごくわずかな人のせいで、日本という国を楽しみにして来ている外国人観光客の印象が悪くなってしまうことは避けたいんです。」

「ま、まあ、日本の未来の話はええねん。

 事件のこと教えてくれるか?」

 竹中が黒田の熱い演説を前に少し引きながら聞くと、黒田も厚くなっていたことに気付いたのか、

「そ、そうですね。

 事件は日本各地で起こっていますが、共通点は不法滞在者であること、そして不法滞在者であること以外に被害者に落ち度は何もないところです。

 襲撃の手口や殺害方法もバラバラで統一感がなく、同一人物の犯行という可能性はなさそうです。」

「落ち度がないというのはどういうことですか?」

 三浦が聞くと、黒田が

「簡単に言うなら、仕事態度はまじめで誰かに恨まれているような人達ではなかったということです。

 確か日本語を話せなくて、少し困っているという人も被害者に含まれていましたが、仕事のまじめさと少しずつではあったらしいですがコミュニケーションが取れてきていたらしいので、邪魔だと思った人の嫌がらせなどの可能性はかなり低いのではないかと思われます。

 それに、昨今の報道で少しではありますが外国人の方を怖いと感じる人が増えているという傾向にあるらしく、少し敬遠がちになっていたそうです。」

「なるほどな、確かに不法滞在者の中からまじめな人が先に襲われてるんはおかしいと思うは。

 こういう時は基本的に・・・・って言うとなんか悪いけど、なんか前科がある奴とかめんどい奴から狙われていくんが常やからな。

 しかも、ランダムに襲ってるとしても、まじめな人ばっかでっていうのもおかしい。これは明らかにそういう人から狙ってますっていうことなんやろうな。」

 竹中が言うと、今川が

「この状況を受けて、日本から出て行こうとしている外国人は出てるんですか?」

「まだ事件の詳細な情報は表に出ていないので、その動きはないみたいですけど、直に報道が出れば、そのような動きが出てもおかしくはないと思います。

 黒田が答えると、片倉が

「それでは、逆に考えていきましょうか。

 被害者がまじめな人ばかりということは、その被害者がまじめだと知っている誰かが標的を選ぶ際に助言しているのではないでしょうか。

 それならば被害者の身辺を探って、おかしな動きをした人から話を聞いていけば、意外とすぐに解決するかもしれませんよ。」

「お、それええやんか。

 じゃあ、とりあえず東京周辺の事件から調べて行こうか。」

 竹中が言うと、大谷が資料を見ながら

「でも竹中さん、東京周辺だけで500件、全国合わせると1800件くらいはありますよ。死者があまり多くないのが救いっていう感じですね。」

「そんなあるんか?

 でも生存者が多いんやったら、直接話聞けるしええな。」

 黒田が

「残念ながら、現状は生存者が多いですが怪我の状態が良くなく、未だに意識が戻っていない方もおられるようなので、直ぐにお話を聞くことはできないと思います。」

「そうすると、ここには六人おるから二人ずつで組んで、最近起こった事件の被害者からあたっていこか。」

 竹中がそう言うと、黒田が

「私も入ってるじゃないですか、私は捜査には出ませんよ。」

「ああ、そうやったな。じゃあどうしよかな、5人やと一人あまりやな。」

「それでは仕方ないですから、私が一人で調べますよ。」

 片倉が言うと、竹中は明らかに嫌そうな顔をして、

「それはあかんな。あんたは何するかわからんで一人にすると怖いは。

 そうやな・・・・・・じゃあ、今まで通り、俺と今川、片倉と大谷、三浦が一人で調べてくれ。」

「えっ、僕が一人ですか?」

 三浦が驚いて言うと、竹中が

「大谷はまだ信用を取り戻してないからな。

 大谷の見張りに片倉やったら、大谷もアホなことはできへんからな。」

「いや、僕も命令で動いていたわけですし、悪気はなかったんですよ。」

 大谷が苦し紛れに言うと、竹中が笑いながら

「冗談やんけ、片倉の見張りに大谷が良いと思っただけや。

 三浦やと流されたり言いくるめられたりしそうやからな。」

「いや、それは・・・・・・ありますね。」

 三浦が納得したところで、別れて捜査に向かった。


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