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四十九部

大谷は勢いよく取調室の椅子に座らされた。

「ちょっと、本当に何なんですか?こんなとこに来なくても仕事のことなら・・・・・」

 大谷の前の椅子に竹中がゆっくりと座り、真横に片倉が立った。三浦と今川は取調室から出て、隣室に移った。マジックミラー越しに取調室の中を見ると、明らかにヤクザに絡まれているサラリーマンの様相を呈していた。

「何や、まだわかってへんのか?

 ここに連れて来たったんは俺らなりの優しさやんけ。

 お前も話したらあかんことくらいたくさんあるやろ。それを話したことを隠すために、わざわざここに来たんやんか。」

「僕が話してはいけないことがあるとなんで思うんですか?」

 大谷はオドオドとしながら、竹中に聞き返したが答えたのは片倉だった。

「簡単に言うと、あなたは常に我々に仕事をするようにと言っていましたが、我々の仕事は切羽詰まったもの等、一つもなく、あるのは資料の整理と雑談をする時間くらいでした。

 あなたは基本的に竹中さんが雑談をしていても何も言わなかったのにある特定の場合にのみ、注意をしてきていたんです。

 それはあの密漁事件の時と、あともう一つだけでいた。」

「何ですかもう一つって?」

 大谷が聞き返すと、竹中が

「俺も片倉に言われて気付いたけど、お前は尖閣諸島周辺の巡視船が消え事件の時も俺らに仕事しろって言ってたで。

 これは二つに関連があるからやないんか?

 そして、おそらく上杉さんか総監あたりから俺らが興味持たんように誘導するなり、邪魔するなりしとけって命令があったんちゃうか?」

「そんなことないですよ。たまたまじゃないですか?」

「私の公安の友人から、面白い・・・・と言ったら不謹慎になるのですが、興味深い話を聞きました。

 それは、あるテロ集団に関する情報でした。その集団の狙いは国家の転覆や新興宗教のようなものではなく、『日本を守る』をスローガンにしているそうです。

 なぜテロ組織認定されているのかまでは教えてもらえませんでしたが、その集団は一時期は『岩倉使節団』と名乗っていたそうです。

 最近ではまた新しい名前に付け替えたようですが、やっていることは変わりません。」

「何を・・・・・・しているんですか?」

 大谷が聞くと、

「ヘイトスピーチと言えばご理解頂けますか?」

「差別的な発言をしているからと言ってテロ認定までされるとは思いません。」

「そうでしょうね、その集団は一貫して外国人の日本からの排除を訴えているそうです。

 その構成員が、人物までは特定できていないようですが自衛隊の中にもいるみたいなんですよ。

 もしも、その自衛隊員が尖閣諸島の巡視任務に入っていたら?

 消えた巡視船は、消えたのではなく奪われたのではないか?

 そして、その奪われた巡視船に搭載されていた機関銃で密漁者が殺されたのだとするなら?」

「な・・・・・・何が言いたいんですか?」

「自衛隊は身内の反逆にあって、巡視船を大量に失い、そして、その失った巡視船が密漁者とは言え民間人を襲ってしまったとなれば防衛省はどのような手段を取るでしょうか?

 事件を風化させ、うやむやのうちに闇に葬り去ろうとしているのではないか、ということが聞きたいんですよ。」

「僕も・・・・・・詳しいことは知りません。

ただ、この二つ事件に関してはややこしいことになるから、ウチには関わらせないようにして置けと上杉さんが言って来たんです。

 実際にややこしいことになってますから、上杉さんは正しかったということですよ。」

「大谷はどこまで知ってるんや?」

「巡視船が奪われた可能性についてと、もしかしたら防衛省がもっと大きな隠し事をしている可能性もあるということだけです。」

「具体的にはどのような?」

「わかりません。

僕も気になったので、聞いたんですけど、『お前らの命にかかわることかもしれないから言えない。とりあえず、関わらせないようにだけしておけ。』と言われたんです。」

「よっぽどまずい事件ってことやな。」

 竹中が言うと、片倉が

「テロ認定されているということは、国家に危険を及ぼす危険性が高いということです。

 もしも自衛隊の軍事力と呼べる物の中から巡視船以外にも奪われたものがあるなら、それを使って外国を攻撃することもできるということになります。」

「それは・・・・可能性の話やんな?」

 竹中が恐るおそる聞く。片倉は黙ったまま何も言わない。

「とにかく、関わらない方がいいですよ。

 上杉さんも意地悪で言ってるわけじゃなくて、皆さんの身の安全を最優先にさせた結果なんですから。」

「そう言われてもなぁ~、知ってもうたら調べたいやんか、それに俺ら暇やしな。」

 竹中がそう言ったとにドアが開き、大谷がビクッとなり、片倉がめんどくさそうな顔をしたので、竹中が振り返ると黒田が腕組みをして立っていた。

「どうしたん、黒田ちゃん? なんか用事?」

 竹中がふざけて言うと、黒田はニコリと笑って、

「残念ですが暇な時間は終わりましたよ。

 総監から、捜査命令が出ました。」

「密漁者の事件のか?」

 竹中がまさかといった声で聞くと黒田は首を横に振り、

「外国人、特に不法滞在者を狙った殺人・傷害事件が起きてます。

 その他にも前科者の外国人等も標的になっていると思われます。

 その事件の捜査をやって貰います。

 詳しくは、課の方で話しますので全員来てください。隣にいる二人もですよ。」

 黒田はそう言って、マジックミラーを睨みつける。黒田の視線の先にちょうど今川と三浦は立っていたので、見えているのかと恐怖を感じた。


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