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四十七部

「乗り込んできた割には山本勘二は大人しかったですね。」

 クローゼットの中から出てきた男が秀二に話しかける。秀二は吹き出して笑い、

「そんなところに隠れてたんですか?」

「君が隠れろと言ってからすぐに応対を始めたのでね。

 あと30秒待ってくれれば、もっと気の利いた隠れ場所を探してみせたさ。」

「岩倉さんはきっと子供の時のかくれんぼもそうやって言い訳してたんじゃないかと思いますよ。」

「隠れなれてはいない場所で1分以内に見つからない場所を探すなど、無理難題過ぎると思わんかね?」

「そんな真剣に隠れたことがないですから、僕には理解できませんね。

見つけてもらえることを前提に隠れるのがかくれんぼですよ。」

「そんな考えだから、今までも手駒が見つけられて、捕まってしまっているんじゃないのかね?」

「アハハ、岩倉さんは完璧主義者ですからね。

 きっと完全犯罪もある派なんでしょうね。」

「もちろんだとも!

私が警察に捕まることなどありはしない。捕まったとするなら、それはきっと周りにグズ共のせいだなのだろうからね。」

「そのグズも含めてすべての人が捕まらないように、計画に助力して頂けるとありがたいのですが。」

「当然だ。

 私も坂本君や西郷君やその他諸々の計画参加者のことは嫌いじゃない。

できることなら、私達が作った未来でともに笑っていたいと思っているのだからね。」

「それでは、例のものは出来上がったということですか?」

「ああ、坂本君からも『最高傑作を期待している』と言われているからね。

西郷君のくれた最高の素材をもとに、私の加工技術と編集技術を用いて、最高の動画が完成した。」

「さすがフェイクニュースの達人は言うことが違いますね。」

「私に捻じ曲げられない事実などこの世に存在しないからね。」

 普通なら起こるようなことを言われても岩倉はどこか満足げに返してくる。

この人の凄いところであり、様々な人がこの人を苦手と感じる要因でもあるが秀二は別に岩倉のことが嫌いではない。

 さきほど、山本達にした話で言うなら、『好きではないが嫌いでもない』という所だろう。どちらかと言うと好きな方に入るくらいの感じだ。

 そんなことを考えていると、岩倉が

「それよりもあの伊達という刑事が邪魔なんじゃないのかね?」

「狂犬はほっといたら、誰かが保健所に連れて行ってくれますよ。」

「あまいね、君のそういう所があまいというんだよ。

 狂犬はかみついた相手にもそのウイルスをうつしてしまうんだよ。

彼と一緒にいることで、周りの刑事も狂犬化してしまったら、我々の身の安全に関係してくる事案だ。

 狂犬になれば、どんなにかわいかった飼い犬でもさっさと処分してしまった方がいいに決まっていると思うがね。」

「動物愛護団体が聞いたら怒られますよ?」

「かわいがるだけなら子供でもできるが、処分する時の判断は大人にしかできない。有害だと思うなら処分してしまうくらいの覚悟をもって動物と接するべきだ。

不治の病で苦しんでいる人が安楽死を望むように、動物も自らが飼い主を含めた誰かに危害を加える前に殺して欲しいと思ってるかもしれないだろ?」

「岩倉さんの言う事もごもっともですよ。

でも、あの伊達という刑事はほっときましょう。僕には彼を利用した計画のパターンもあります。

 目の上のたんこぶになれば、その時は・・・・・・・消えてもらえばいいだけです。」

「あの石田何某のようにか?」

「あの人は知りすぎた、優秀すぎなければ、今も笑っていられたでしょうに。

 とても残念ですよ。」

 そう言った秀二の顔に残念そうな様子は一ミリもなかった。


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