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四十三部

 上田の運転する車に、山本・伊達・松前が乗り込んで移動中に

「警部、例の事件のニュース見ましたか?」

 上田が山本に聞き、山本は呆れたように

「どのチャンネンルつけても、あのニュースばっかなんだから、見てない方がおかしいだろ。」

「あの事件っておかしいですよね。」

「何がだよ?」

 山本が聞くと、上田が

「日本の海域内で銃撃されてたところですよ。

 暴力団絡みの事件でもないのに、密漁者全員が射殺されてたわけですし、しかもかなりの数の漁船が来てたわけですよ。

 そんな集団に、襲われていることを連絡する時間すら与えずに全滅させるような銃器を持ってるところなんて日本には一つしかないじゃないですか。」

 山本達は知らなかったが、この上田の考えは同様に三浦によって竹中達にも伝えられていた。

「じゃあ、何か?

自衛隊が密漁者を殺したって言いたいのかよ?」

山本が呆れた感じで聞き返すと、それに答えたのは伊達だった。

「別にいいんじゃないですか、それで。

 日本の国益を侵害していたんだから、国を守るために設立された自衛隊が密漁者を撃退しても、設立理念には反してないんですから。

『国を守る』っていう理念からは」

「理念の前に常識ってもんがあるだろうが。

犯罪者を見つけたのなら攻撃じゃなくて、警告を行ったうえで投降するように説得するのがセオリーだ。

 状況もいまいちわからんが、あれはいきなり攻撃されたから何の対処も取れずに全滅したって考えるのが妥当だろ。」

 山本が言うと松前が

「口で言ってもわからないから密漁者は増えてしまったんじゃないですか?

 それにネット情報なのでどこまで信用していいかわからないですけど、密漁者達の船を発見した漁師の中の一人を名乗る男がSNSで『現場から遠ざかっていく海上自衛隊の巡視船を見た。』と投稿してました。

 あながち、自衛隊の襲撃説もバカにできないかもしれませんよ。」

「自衛隊が襲撃したのなら、その場で自分達が第一発見者になればよかったんじゃないか?

 そうすれば証拠も何もかもを捜査と偽って、海に沈めることができた。

大体、全滅させるつもりなら銃撃じゃなくて、魚雷を撃った方が確実に証拠も含めて海に沈められるだろうが。

 銃撃したことにも意味があるし、沈めている時間がなかったと考えるべきなんじゃないか?」

 山本が言うと、上田が

「他国の船に攻撃するだけで、日本としては国際問題になりますもんね。

 しかも密漁者とは言え民間の船を攻撃したとなれば、どこの国の軍隊であっても国際問題になるのは確定事項ですからね。」

伊達が、

「しかもですよ、海上自衛隊は警察の捜査介入を今のところ固辞しているそうです。『海上で起こったことは事故であれ、何であれ自分達の管轄なので警察のご厄介にはなりません』と言ってるそうですよ。」

「毎度、思うがお前のその情報はどこから来るんだよ?」

「僕にも情報を教えてくれる提供者はいるんですよ。

 まあ、どのような人物かまでは言えませんけど。」

「そうだろうな・・・・・・」

 伊達が言うことを軽く流しながら山本は他のことも含めて色々と考えていた。

そこに伊達が、

「ところで今はどこに向かってるんですか?」

「とりあえず、影山秀二が大学に提出していた住所に向かってるところだよ。

 実家ではないところになってたから、そこに行けば影山秀二本人あえるかもしれないしね。」

 上田が答え、松前が

「影山秀二に会いたい理由は何なんですか?」

「石田の事件後、他の学生には変化がなかったが影山秀二は事件後に一度も大学に現れていない。一人だけ他の人と違ったことをすれば注意を引くのは当たり前じゃないですか。」

 山本が答え、上田が

「それに住所からすると大学生が普通に暮らせるような場所じゃないんですよ。

 超高級マンションなんです。確かに実家は金持ちですが、実家からの援助なしに生活しているなら、こんなとことには住めないと思うんですよ。」

「へえ~、超高級マンションで・・・・・・

 悪魔の巣窟でないことを僕は願いたいですね。」

 伊達が笑いながら言い、山本が

「住所が嘘って可能性の方に俺はかけてるけどな。」

「やめませんか、そのかけ。

 実際に住んでた時に、なんか自分よりいい生活してるってなって、精神的なダメージが大きくなりそうですよ。」

 上田が言い、伊達が

「学生とはいえ、公務員よりも高所得な人はいますから比べても仕方ないですよ。」

「住んでること確定みたいな感じですよ、警部。」

「みたいだな・・・・・・・」

「しまったなぁ。上田さんが一番怖いかもしれませんよ、僕は」

 伊達はそう言って笑った。


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