四十一部
夜の日本海沖、ある一隻の船が漁船の群れに近づき、そして次の瞬間、轟音とともに漁船の群れから悲鳴と聴き取れもしない外国の言語で怒声が響く。
数分とかからずに悲鳴も怒声も聞こえなくなり、その場には穴だらけになった漁船の群れと血だらけになった魚たちがいた。
その光景を見ながら、船の舳先に立った男が
「異人にまみれた日本の闇は今ここから変わる。
新生日本の夜明けぜよ。」
後ろに控えていた人達から笑い声が起こる。舳先の男はその様子を笑いながら見て、
「これは坂本さんに言ってもらいたいものだよな。」
「あなたは士族の誇りを語ってるのがお似合いですよ。」
後ろに控えていた人の中からそんな声が聞こえ、舳先の男は笑う。
「もうすぐ夜明けだな。そろそろ本物が来る頃だから撤収しよう。」
男の一声で、後ろに控えていた者達は自分の持ち場に戻り、船の操舵を開始して、その海域から音もなく消えていった。
「最近、漁獲量が減ってるから、今年の正月はあんまり豪勢にできないんじゃないかって親父がうるさくてな。」
「うちも同じこと言われるよ。魚が取れないのは俺らの腕の問題じゃなくて海水温の異常だったり、色んな要因が絡んでるんだから、そんなこと言われてもって感じだよな。」
「そうだよ、それに日本海にまで外国船が入ってきて密漁してるなんてこともよくあるし、国が何とかしてくれないんじゃあ俺ら漁師はたまったもんじゃないよな。」
「本当だよ。あいつらのせいで獲れてたはずの魚がいないなんてことになれば俺らの生活ができなくなるんだからな。」
漁師たちはいつものように色々な愚痴を言いながら、船をポイントに向けて進めていた。日本海を進んでいた彼らの目に、おびただしい数のライトが煌々と照っているのが見えた。
「おいおい、こんな経済水域の中なのに密漁船が堂々と居やがるぞ。
ふざけた奴らだ、近寄って文句言ってやる。」
「おいやめとけよ、相手の言葉もわかんないし、お前は英語もまともに話せないだろ。」
「こっちが怒ってることくらい伝わるだろ。」
「それに数ではこっちも負けてないんだ。日本人をなめるなよって思い知らせてやる。」
「確かに漁船の群れの数じゃあ負けてないけど、向こうがどんな武装してるかわからないだろ?もし銃とか持ってたら危ないって。」
「うるさいな、行くぞ野郎ども、あいつらの獲った魚も全部俺らのもんだ。」
「どこの海賊だよ、お前は」
そんなことを言ってる間に他の漁船も近づいてきて、文句を言いに行く体制が出来上がった。
「おい、テメーらどこの国のもんだ?ここらは俺らの漁場なんだからとっとと出て・・・・・・・・・・・・・ウ、うわー」
先ほどまで威勢良かった男が大きな悲鳴を上げる。
「何だ銃でも持ち出してきたのか?」
そう言ってもう一人の男が駆け寄ると、相手の船の惨状を目にして吐き気をもよおした。穴だらけの船、沈没こそしていないが明らかに銃撃を受けたような傷跡、そして船上に無数に倒れている朝鮮系の外国人。
「やばい、海自に連絡してくる。」
そう言って男は無線のそばに駆け寄り、連絡を入れた。そんなことをしている間にも船は密漁船に近づいて行く。
「おい、大丈夫か?生きてる奴はいるか?」
大きな声で呼びかけるが何の反応もない。血だらけの船内には何も動く様子すらない。一人の漁師が、
「おい、あれが犯人じゃないか?」
そう言って指差した方角にどんどん小さくなっていく明かりが見えた。
「バカか、あれは海自の巡視船の明かりじゃないか。
でも、通報してこんなに早く来るものか?っていうか何で離れてるんだ?」
漁師達にはわからないことばかりだった。




