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三十五部

「ここがかの有名な通天閣です。

高さこそあべのハルカスに負けてもうたけど、この通天閣周辺の新世界にはまだまだ大阪を盛り上げるもんがたくさんありますよ。」

 高山が嬉々として、通天閣の魅力を解説している。その言葉の端々に通天閣に対する愛を感じる藤堂と加藤であった。高山の話は続き、

「ここから大坂城が見えますし、あっちの方を見るとですね・・・・・」

「あ、あのすみません、高山さん・・・・」

 高山の解説を遮り、藤堂が

「僕らも観光しに来てるわけではないので、そのお話はまた今度ということでいいですか?」

「ああ、すいません。

ちょっと、この辺の生まれなもんで通天閣愛が止まらなくて。」

「地元に誇りを持ってるって素敵ですよね。

自分の地元はあまり誇れる物とかなくてうらやましいですよ。」

「加藤さん、話がずれるんでその話もまた今度でお願いします。」

「そうでしたね、新世界の周りの飲食店は結構、観光客とかも来る食べ歩きスポットですから、お連れしたんですよ。

 特にこのビリケンさんの足に触るとですね・・・」

「高山さん!」

藤堂が声を張ると、高山も気づいたのか

「すみません。と、とりあえず、色々と聞いてみましょうか。」

高山はそそくさとアジア系の外国人を探して、声をかけていく。しかし、あまり収穫はなく、戻ってきて、

「ダメですね、京都に来たついでに大阪に来た人ばっかりで、この辺の外国人事情に詳しい人もいなさそうですわ。」

「とりあえず、通天閣から降りませんか?

展望室にいる人だけが観光客じゃないでしょうし、下の方が人は多いですし。」

 藤堂がいい、加藤が

「確かに見下ろすとたくさん人がいるよな。

 それにお店の人に話を聞いてもいいわけだし。

登る必要性はあまり感じなかったような・・・・・」

 加藤はそこまで言って、あることに気付き、

「すみません、その~・・・高山さんのご好意を否定するつもりではなかったのですが。」

「いいえ、かまいませんよ。確かに上ったことに意味はなかったですし、ただお二人に大阪の良いところを紹介しながら・・・・と思っただけですから。

 気にしないでください。降りるのはこっちからですよ。」

 高山は明らかに肩を落として、出口に向かって歩いて行った。その様子を見て藤堂が

「加藤さん、言いすぎですよ。高山さん落ち込んじゃったじゃないですか。」

「お、お前が降りた方がいいって言ったのが始まりだろ。」

「僕は加藤さんと違って、登ったことを非難するようなことは言ってません。」

「そ、それはそうだけど・・・・・・」

 加藤が言いよどんだところで、高山が

「お二人とも何してるんですか、早く行きますよ。」

「はい、すぐ行きます。」

 加藤がそう言って、小さな声で藤堂に

「高山さんにお詫びに何かごちそうするってことでどうだ?」

「安直な考えではありますけど・・・・・・賛成です。」

「場所は高山さんに決めてもらおう。」

「同意見ですね。早く行きますよ。」

  藤堂と加藤は高山のもとに駆け出した。その様子を陰から見ていた人影が

「何を・・・・・しているんだ、彼らは・・・・?」と呟いた。


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