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三十二部

「奴らの動きで新しいものはあるか?」

 武田総監は椅子に座りながら、上杉刑事部長に聞く。上杉は肩をすくめて、

「山本達に捜査を依頼した件以外では、目立った動きはありません。

 ただ、我々が感知していないだけで、水面下で何かが動いている可能性は否定できません。」

「そうか・・・・・法務省の方は?」

「相変わらず、姫地の妨害でうまく交渉がまとまらない感じですね。

 やはり黒田雄二の方から攻めないことには解決の糸口は見つからないと思いますね。」

 上杉がため息まじりに言い、武田が

「考えてはいるが、それで何とかなる確証がないと攻め入るのも尊重にならざるを得んからな。他に何か報告事項は?」

「そうですね・・・・・竹中警部が太田組の薬物関連の強盗を解決しました。

山本の方の事件も中国の公安が腰をあげれば、すぐに解決するのではないかと思い、向こうの公安に至急動くように要請しています。

 中国のマフィア関係が裏で糸を引いているなら公安も早期に手を打って処理したいと思いますので、返事はおそらくこちらにとって有利なものになると思います。

 他で言うと・・・・・・これはあまり関係ないのかもしれないですけど、外国人の犯罪が少し目立つようになってきてます。

 観光だけで何百万人と来日していますし、正規の在留資格を有する外国人も増えてきていますから、分母が増えれば分子も増えるのは当たり前だとは思うのですが、それが少しメディアでクローズアップされる割合が少し増えています。

 報道関係も少し前回の事件のあおりを受けていて国内事情よりも外国のニュースや国際状況の話を多く取り扱っている傾向にありますので、これもたいしたことではないのかもしれませんが。」

「その傾向と黒木の関係は?」

 上杉は少し考えてから、

「黒木は今のところ特に何も動いていないようです。

 法案作りを行っているわけでもなく、誰かと会っているというような情報もありません。

山本と同様に石田という友人の死に影響を受けているのかもしれませんね。」

武田が何か思いついたように、

「そう言えば山本がその石田という人の事件を調べてるみたいじゃないか。

一応、捜査を禁止しているはずだよな?」

「山本に事件の捜査を禁止しても意味ないことくらい、出会った頃から知ってることじゃないですか。

 問題は所轄の方に通り魔で処理するように指示していることを山本に感づかれることですよ。

 あの石田一成という人物はいわばパンドラの箱です。開けてはいけないことを詰め込んで、しまっておいた物を誰かが意図的に開けるために殺害したのであれば、わざわざ中身を露見するようなこともできません。」

「それはお前の考えだろ?

同じように石田という人物をパンドラの箱だと考えて、中身を山本にばらされる前に箱ごと消した可能性も考えられるんだから、無理なことはしない方がいいと俺は思うぞ。」

「武さんは甘いんですよ。

あの石田が警察の極秘資料にすらアクセスできる程の能力を秘めていた上に、それを糾弾できる立場にいたということも相まって、危険度で言えば黒木なんか比べ物にならないくらいなんですから。

 誰かは知らないですが、殺してくれたのはこちらに有利に働くこともある。

ただ、方法は雑すぎて多くの謎が残ってしまったことで余計な詮索をされれば、有利をしのぐほどの不利を被るんです。」

「その疑念の先にお前がいれば山本がお前の言うことを聞かなくなる危険性も認識してのことということでよかったか?」

「覚悟は・・・・・・できています。

 ただ、これだけは言えます。石田を殺したのは私でも私の配下の誰かでもありません。これだけは信じてください。」

「そこは心配してないし疑ってもない。

だが、山本という駒を失うことだけは避けなければいけない。

これはわかるな?」

「・・・・・・・はい。」

「黒木の周りにおかしな動きがないかだけ注意してくれ。

あと、外国人の犯罪についても少し対策を考えておいてくれ。

何もしませんでは、収拾がつかなくなる可能性があるからな。」

「了解しました。」

 上杉はそう言って、総監室から出て行った。

「・・・・・・・・・パンドラの箱か。

いつまでも閉めておくから開けられなくなるんだ。

さっさと開けてさらけ出した方が楽だろうに・・・・・・。

 心配性も行きすぎればただの病気だな。」

 武田は一人そうつぶやいた。


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