三十部
「それで?中国のお友達はなんて言って来たんだ?」
山本と上田は伊達からの連絡で集まり、山本が聞いた。
「中国の保険会社いくつかを調べたところ、旅行先は違うけど盗難保険で多くの保険金を支払っていたことがわかりました。
その中でもダントツで日本の旅行者の金額が飛びぬけて多かったそうです。
今回の被害者も約40万9237人民元、日本円で言うと700万円分の保険金を受け取っていました。
保険会社に問い合わせをしたところ、保険会社も不信感を持っていたようで独自に調べていたそうです。」
「その結果は?」
「グレーと言ったところですね。被害者は中国では成功している分類に入る高額所得者でわざわざ犯罪をしてまでお金を稼ぎたいかと言うとそうでもないくらいに資産を持ってます。
ただ中国の政治状況はあまり良いとは言えません。共産党の一部のみが多額の収入を得て、貧しい農民の中には民主化を進めるために行動している人が増えてきています。
そうした中で高額所得者でもいつクーデターや内乱に発展するかわからないと感じている人もいるみたいで、今のうちに稼いで他の国に移住するための資金作りをしている華僑と呼ばれる人たちも多いようです。
そうした人たちが楽に多額のお金を得るために・・・・というのは否定できないと友人は言ってました。」
「中国ってそんなにやばい状況だったけ?」
上田が聞き、松前が
「表向きはあまりその情報は出てません。
共産党の情報統制で危ないものは外部に漏れないようにしてます。
特に朝鮮状況が悪化してる中で中国が弱みを見せれば緊張状態にある朝鮮状況は戦争に大きく傾くことも懸念されるからです。
でも実際は、共産党に反発する人達に監視を付けたり、政府の方針に逆らった首長があらぬ罪を着せられて逮捕されたり、人権活動家を何年も刑務所にいれたりと共産党の横暴が目に付くようになってきてます。
特に選挙制度では多くの国民が反発を持ってますし、独立を画策している地域もあるという話ですからふたを開けたら中身はぐちゃぐちゃだったなんてことになるわけです。」
「じゃあ、今回の被害者を公安が調べてるなんてことはあるのか?」
山本が聞き伊達が
「一応のマークはつけてくれるそうです。
ただ、高額所得者で共産党員の親戚という立場上からあまりあからさまな捜査もできないみたいです。
ただ旅行者の盗難保険金が支払われだしたのが2か月前から一斉にと言った感じです。
それまでは特に加入者もいなかったのに4か月前から加入者が増えて、今の状況になっていることから計画的に保険に加入していたのではないかと考えるのに無理はないので、公安も保険金詐欺として捜査をしようとはしているそうです。」
「こっちはまだ進展せずって感じだな。
それで現場を見てきたんだろ?何かわかったのか?」
「防犯カメラが少ないところ、それに例の信号機もあまりないところを狙って現場を選んだ可能性が高いですね。
本来なら人通りが多いのに、時間帯と天候によって誰もいなくなる場所を探し、石田さんが通るところを狙ったとするならかなり用意周到です。
逆に、所轄が通り魔の線で調べていることが不思議ですね。
通り魔なら、他にも事件の報告があるはずですが一件もない。場所だけでなく手口なども同等のものは何もなく一件しか起きていないのだから、それは特定の人物を狙った犯行だと考えるのが普通だと思います。」
松前が難しい顔で言う。山本が
「何が言いたいんだ?」
「捜査を指揮しているものの中に『通り魔』で片付けたい人がいるのではないか、ということです。どこからか圧力があってそうしているのか、それとも自分の所轄の中で起こった事件を解明されたくない人がいるのか。
裏事情はわかりませんが、捜査を妨害している人がいるならその人の排除からしなければいけないでしょうね。」
「要するに、被害者をもっと詳しく調べて、狙われる理由を探さないことには疎さは進まないと言いたいのか?」
「簡単に言えばそうですね、ただ狙われた理由ではなく、捜査されない理由は簡単にわかるかもしれません。多少荒っぽいことをすればの話ですけど。」
山本は頭に手を当てて、少し考えてから
「できるだけバレないようにしてください。」
「これまた善処しますよ。」
松前はそう言って、出て行ってしまった。上田が
「どんなことをするか大体の見当はついてるんだろ、伊達?」
「そうですね・・・・・・・、担当の刑事を締め上げるか、捜査本部のパソコンをハックして情報を得てから何かしらの手段で脅しに出るか、それとも・・・・・・」
「まだ何かあるのか?」
山本がうんざりして聞くと伊達は笑いながら
「小十郎の情報収集は力業と技術力にものを言わせることが多いですから、特定するにはちょっと時間が要りますね。」
「警部、大丈夫でしょうか?」
上田が心配そうに聞き、山本がため息を漏らしながら
「なるようになるだろ・・・・・」
小さくなっていく松前の背中を見ながら山本は一段と深くため息をついた。




