二十七部
「ホンマにここでええんか?」
千葉県の倉庫街の一角で竹中が声を落として片倉に聞いた。
「ええ、間違いありません。今日、今からここで違法薬物の取引があります。
そこに例の売人である井川も来ます。千葉県警の特殊班にも協力頂いて、一網打尽にした後で我々の事件のことも聞かせてもらいましょう。」
片倉はそう言って、拳銃を取り出した。
「おい、もしかして撃つつもりやないやろな?」
「抵抗された場合は撃ちますよ。
薬物犯罪者の一人や二人死のうが、大元が潰せればそれで救われる人は何十倍・何百倍にもなるんですから。
善良な多くの国民を守るためなら悪人が何人死のうがかまいません。」
「何人も撃ち殺さんといてくれよ。こっちは生きた証人が欲しいんやからな。」
「善処します。行きましょう!」
片倉はそう言って、駆け出した。竹中も拳銃を出して片倉の後を追う。
「動くな!警察だ。持っているものを地面において、両手を頭の上で組め。」
片倉は取引中の男たちの前に拳銃を構えて立ちながら言った。
相手の中にも拳銃を持っている奴がいて、即座に片倉に銃身を向ける。
竹中が片倉に注意を呼びかけようとしたとき、一発の銃声がその場に響く。
倒れたのは銃身を片倉に向けた男だった。片倉が冷たい声で
「動くな、と言った。持っている物を地面に置けと言ったんだ。
それ以外のことをした者は死んでもらう。
ここは既に重装備をした特殊班で囲んでる。
無駄な抵抗をする奴は死ぬか、それとも四肢に風穴があくかどちらかだと思え。
もう一度言う、持っているものを地面において、両手を頭の後ろで組め。
二度目の忠告はない。次は全員ハチの巣になると思え。」
その場で薬物の取引をしていた奴らの顔から色が無くなっていく。それは脅しなどではなく、本当に殺されるという事を感じ取っての恐怖を感じたからなのだろう。全員が一斉に地面に持っているあらゆる物を捨て、頭の後ろで両手を組んだ。
その瞬間に防弾チョッキや防弾シールドを持った特殊班がなだれ込み、全員の身柄を確保した。片倉に撃たれた男は右腕に銃創があり、血が出ているが命には別条はなさそうだ。
「おい、いきなり撃つなや!」
「こちら側の被害を出さないための最善の一手です。
警察をなめている薬物犯罪者や暴力団なんかはたくさんいます。
拳銃を構えていてもどうせ撃たないんだろという感じで見下している場合があるんです。なら、その考えを出鼻からくじけば反抗も抵抗もできずに大人しく捕まってくれます。」
「それは今回が都合よく言っただけやろ?」
「いえ。いつも、このケースはこのやり方で制圧しているので、成功率は高い方です。」
「お前いつもこんな危ないことしてるんか?」
「正義の味方が後ろでこそこそしていたのでは正義は守れません。
最前線で敵と勇敢に戦うからこそ、正義の味方と認めてもらえるんだと私は思ってますよ。」
「片倉!!」
大きな声で詰め寄ってくる男は千葉県警の特殊班班長である。
「お前、やりすぎだろ。あの男、静脈が傷ついてるぞ。大量出血だ。」
「そうですか・・・少し腕の高さを見誤りましたか。」
「そういう問題じゃないだろ。手柄をくれるのはいいが、後始末が面倒な事案は困るんだよ。」
「班長さんも竹中さんという部外者がいる中なので言葉には気を付けてください。面倒な事案が増えますよ。」
班長はチラリと竹中を確認して、
「ああ、そうだな。少し調子に乗りすぎたよ。
あの中から、井川ってやつだけをお前に渡せばいいんだったよな?」
「ええ、それが条件ですから。」
「で?どれだ?」
「ああ、あの今連れていかれた人です。
署に連行後、こちらで貰いに行きますよ。」
「わかった。」
班長はそう言ってきびすを返して、指揮に戻っていった。
「おい、どういうことや?手柄やるから協力しろって言ったんか?」
「そうでもしないと、こちらの思い通りにやらせてもらえませんし、なにより手柄を立てるために焦って飛び出すバカでも警察官に変わりはありませんから、警察に一かけらの被害もなく、犯罪者にダメージをを与えることを目的に作戦は実行してますから、それに比べれば自分の手柄など気にすることでもありませんよ。」
片倉はそう言って、連行されている男たちを眺めながら歩いて行った。その後ろ姿を見ながら竹中がつぶやいた。
「徹底しすぎて怖いなあいつは・・・・・・・」
映画やドラマの薬物取引の現場を押さえたら銃撃戦になったり、激しいもみ合いが繰り広げられたりする印象を竹中は持っていたが、実際は突入から5分も経たないうちに全員を制圧、逮捕するというあっけないものだった。
竹中は知らないが、片倉が関わらない案件ではこのようにあっさりとは解決しない、ドラマや映画ほど激しくはないがある程度のもみ合いや抵抗を受けるのが普通なのである。




