二十部
「それやったら、服の袖から見えた手が黒人の腕やったってことで間違いないな?」
被害者の取調べをしていた竹中と今川は、被害者の一人から聴取を行っていた。被害者は30代くらいの会社員で暴行を受けて、自宅療養をしていた。
「はい、いきなり胸ぐらをつかまれて引っ張られたときに黒い腕が見えました。」
「黒いシャツを着ていたのとも違ったということですね?」
今川が確認するように聞き、男性もこれが確認だということを認識しているのか、
「はい、腕にはうっすらですけど毛が生えてましたし、抵抗した時に小指がかすったんですけど、あれは服の感じじゃなくて、肌の感じでしたから。」
「話は変わりますし、何度も聞かれてるかもしれないですけど、確か事件にあったんは深夜の2時くらいやったらしいですね。
そんな時間まで何をしてたんですか?」
「あ、あの日は、会社でムカつくことがあって、一人でやけ酒を飲んでたんです。一軒で帰るつもりだったんですけど、なかなか落ち着かなくて、はしごしてる間にあんな時間になってて、歩いても30分くらいのところに住んでいるので歩いて帰ってたんです。」
「ついでに、どんなことがあったんですか?」
「えっ、そんなことまで話さなきゃいけないですか?」
竹中はニコリと笑って、
「別に話したくなければいいですよ。ただ、あなたの身辺をもう少し洗えば、あんたが何であんな時間にあそこにいたんかも、きっとわかるんちゃうかなと思うんですよ。どうですか、話す気になりましたか?」
「何を言ってるのかわからないです。」
男性は怪訝な顔で竹中を睨みつけているが、その額には大きな汗が浮かんでいる。竹中はため息をついて、
「まあ、ええは。今、俺が知ってるあんたの情報で言うとそうやな~、飲んでたんは酒やなくて、お薬やったんちゃうかなということやな。」
男性は顔が真っ青になり、
「知りませんよ。もういいでしょう、僕は被害者なんですよ。」
そう言って男が家のドアを閉めようとしたところに、竹中が足を挟み込み、
「そんなこと言わんと、違法薬物の件でゆっくりと警察でお話聞かせてくださいよ。そのためにしっかりと令状も取って来たんやから。」
ニコリと笑う竹中の後ろで、呆れた顔で今川が令状を広げて見せた。男はゆっくりと地面に膝から崩れ落ち、竹中が強引にドアを開ける。
「ヤクの売買の帰りに襲われた、そうやな?」
竹中の問いに男性は力なくうなずく。
「あなたの持ち物に違法薬物がなかったということは犯人によって持ち去られたということですか?」
「わかりませんけど、目が覚めた時には財布もクスリもなくて、スマホも壊れてて、データの復旧もできないくらいに壊されてたので、電話帳とかもバックアップを取ったのが少し前なので、新規の番号とかも無くなってしまったので困ってるんですよ。」
「つまり、ヤクの売人の番号も消えてもたってことか?」
「登録しといたのは消えました、最初にあった時にもらったメモ用紙は家のどこかにはあると思います。」
「それは組対の奴らに任せるか。とりあえず、今川連絡して来てくれ。
あんたにもう一つ聞きたいんやけど、犯行グループは何語で話してた?
あんたにやなくて、仲間同士で何語やったかを知りたいねん。」
「わからないですよ。日本語じゃなかったのは確かですし・・・・・あと英語でもなかったです。なんかもっと聞きなれないような感じの言語でした。」
「中国語とか韓国語とかじゃなくてか?」
「違うと思います、もっとこう英語に近い感じがするけど、違うみたいな・・・・」
竹中は頭を掻いてうなだれる。もう少しヒントになりそうなことを知っていてくれればよかったが、現段階では犯人グルー王に黒人がいるということ以外は英語に近い言語で話していたということだけしかわからなかったわけだ。
「まあ、ええは。しっかりと思いだしといてくれよ。
あんたにはとりあえずヤクの件より先に、こっちで色んな言語聞いて近いのが何かを探してもらう作業から入りそうやからな。」
男性もその作業の対辺さを理解したのかうなだれてしまった。
電話をして戻ってきた今川は二人の間に流れる重い空気を察して、声をかけるのを少しためらってしまった。それほどに重い空気が流れていたのである。




