二部
「大丈夫ですか、警部?」
信号が赤になったので停車したので、上田は助手席で窓の外を眺め続けている山本が心配になって声をかけた。
「んっ?ああ、大丈夫だ。」
どうなんだろうか、あまり大丈夫ではなさそうだ。幼馴染でつい最近も仲良くしていた人物が通り魔に殺されたとなれば、いくら警部でも落ち込んでいても仕方がない気がする。逆にまったく気にしていなくても、それはそれで心配になるわけだが、明らかに元気がないし、何を聞いても上の空では捜査に支障が出るのではないかということも心配になる。
とりあえず、心配なことばかりの上田は
「石田さんのことを警部自身では調べられないんですか?
他人に任せとくより、自分で捜査するって言うと思ってましたよ?」
「武さんと上杉さんから、私情を挟むだろうからって捜査に入れてもらえなかったんだよ。」
「それで、代わりに捜査するのが、この窃盗事件ですか?」
「ただの空港での置き引きだろ?俺らの仕事なのかって思うが、あの二人が回してきた仕事ってことはそういうことなんだろ。」
「でも、爆買いした商品丸ごと盗まれるなんて『置き引き』では済まされないんじゃないですか?」
「中国人の買い占めた商品を空港で全部奪っていく・・・・か、確かに換金すれば金になる電化製品とかなら、狙う奴もいるんだろうな。」
『とりあえず、現場に行って、色々確認して来てください。』と大雑把な指示を黒田課長代理からされたため、前回の事件の取調べを竹中警部や今川警部補、大谷巡査部長、伊達巡査部長に任せて、山本と上田警部補は成田国際空港に向かい、藤堂警部補、加藤巡査部長は関西国際空港に向かった。
一般道から首都高に入って、高速で成田を目指しながらも、山本はあの日の黒木の背中がどうしても頭を離れなかった。
友人を失った悲しみ、その原因が何かはわからないが、なぜ石田が死んだのかを知りたい気持ちは止まらなかった。警視総監である武田晴信と刑事部長である上杉には新人時代からの恩もあるからあまり勝手なことはしたくないが、自分の決めたことを止められてもしてしまう山本の性格を深く理解している二人なら、もしかしたら勝手に捜査することも織り込み済みでの命令なのかもしれない。
その時、自分が黒木に行った『エゴ』とは何かを思い返しながら、フッと笑ってしまう。自分のこの考えは確実に『エゴ』なのだろうと思うと何がとは言えないが笑えてしまったのである。
「何かありましたか?」
上田は相変わらず心配そうに聞いてくる。監視役だった彼も今では山本の最大の理解者となり、捜査を手伝ってくれている。
「なんでもない。少し思い出し笑いだ。」
「そ、そうです。お大事に・・・・」
山本はとりあえず、車から降りたら一発上田を殴ろうと決めて、また窓の外に視線を向ける。
人が一人死んでも変わらない街の営み、今もどこかでこの世界から誰かがいなくなっているのに止まることなく動き続ける社会。
黒木の言う通り、『誰かが死んでも社会は変わらない』のかもしれない。流れる街並みを見ながら、『社会』というものが何を基準に成り立っているのかを考えてしまう山本だった。




