十五部
「よかったんですか、警部?」
伊達が聞くと、何のことかわからない山本が聞き返す。
「何がだ?」
「向こうの事件も気になるところだったんじゃないかなと思ったんですよ。
別にやることもないなら、事件の内容だけでも一緒に聞いてから出てもよかったんじゃないですか?」
「竹中さんがいるんだから、あっちは任せとけばいいんだよ。
俺は俺の捜査をするだけだ。」
そう言って颯爽と歩く、山本に対して伊達が、
「捜査って何やるんですか?情報待ちじゃなかったでしたっけ?」
山本がめんどくさそうに
「石田一成殺害事件の捜査をする。」
伊達はニヤリと笑って、
「その事件は、警部は捜査してはいけないんじゃなかったですか?」
「お前なら、捜査しないのか?」
「まさか『独断龍』と呼ばれた僕が自分のしたい捜査をしないわけないじゃないですか。当然、上の命令なんて無視して捜査しますよ。」
伊達が胸を張って言うのに上田がツッコンだ。
「いや偉そうに言うことじゃないからな。」
伊達は笑いながら上田のツッコミを流し、
「それで何か気になることでもあったんですか?」
「石田のゼミ生が、石田が死ぬ前に頼んだことがあったらしい。
自分のパソコンのファイルをコピーしておくことだったらしいが、事件後、学生が石田のパソコンを調べてもそんなファイルはどこにもなかったらしい。
所轄は通り魔の線で調べてるらしいが、もしも消えたファイルが原因で石田が殺されたなら、所轄の捜査では犯人は捕まらない。」
「だから自分でってことですか?石田先生が自分で消したのを忘れただけかもしれないですよ。殺されたと思う要因は他にもあるんですか?」
「最後にあいつと話した時・・・・・、あいつは論文を書いていると言っていた。
『無戸籍者の人権』がどうのこうのって内容だって言っていたが、その学生の話では石田は憲法の統治機構の専門学者で人権分野の論文を書いたことがないらしい。それに前回の論文を書き上げてから時間が経ってないから、次の論文を書くまでには時間を置くと石田本人が言っていたらしい。
あいつは無駄な嘘をつく奴じゃなかった。
それなら、俺に対してついた嘘は何だったのか、あれは自分の身に何かあった時の布石だったんじゃないか。俺にはそう思えて仕方ないんだよ。」
「なるほど。友人である警部にだけわかるように何かを残そうとしたわけですね。まあ、最初っから僕はその事件を捜査することに反対してたわけではないので別にかまわないんですけどね。」
「石田は何かを調べていたらしい。研究室では調べられないような内容だったらしい。それに無戸籍者の人権を結びつけて、石田の知り合いをあたれば、石田が何を調べていたのかがわかるはずだ。」
「それで、どこに行くんですか?」
上田が聞き、山本は少し考えてから
「足束先生なら石田の交友関係も知ってるんじゃないか?
もし石田のことがわからなくても、無戸籍者の人権についても聞けるかもしれない。」
「じゃあ、東京大学に行くということでいいですね?」
上田が確認して、山本がうなずいた。三人は憲法学者の権威である東京大学法学部の足束史郎教授を訪ねるため車に向かった。




