十三部
「それでは全員そろったので捜査会議を始めます。」
黒田が言ったのに対して竹中が、
「全員って、加藤と藤堂がまだ来てへんやんか?」
「あの二人は別件で大阪の方に残ってもらってます。
現状はここにいる7人でこちらの捜査をしていきたいと思います。
関西国際空港の方の情報はこちらにデータで届いていますし、報告書も来ているので、本人達がいなくてもなんとかなると思います。」
「その別件って言うのは何ですか?」
山本が聞くと、黒田は困ったような顔で、
「それは・・・・空港での事件の報告が終わった後で話します。」
「わかりました。」
山本は黒田が話しにくそうにしているということは何か本当に面倒なことが別に起こっているのだと確信した。
「それでは、成田の方は僕から報告します。」
上田がそう言って、資料を渡し、そして
「まず手口ですが、トイレ前で爆買いをした中国人を待ち伏せ、『トイレに行くから荷物を見ていて欲しい』と頼み、トイレから戻ってきたら逆に『あなたの荷物も見ていてあげるからトイレに行ってはどうか』と持ち掛けて、トイレに行ったところで荷物を持って空港から出て行く、っといった感じです。
ただ、空港なので車の出入りが多く、犯人の車を特定することはできませんでした。
被害者に関しても、荷物が盗まれてるのに急いで帰国するという点が不自然なので、山本警部は今回の事件は被害者が仕組んだ保険金詐欺ではないかとの見方も今のところ出ています。」
「旅行会社とか保険会社から金取るために、日本に来て爆買いしたってことか?そんなんせんでも、他にどうとでもやりようはあるんちゃうか?」
「竹中さん、今のところ上田が言った話は俺の仮説です。
でも、爆買いされた物のほとんどが電化製品で転売することを考えたなら、中国国内で盗まれたことにするより、日本で盗まれたと主張した方が詐欺だと気づかれにくいと思います。
それにこの方法なら、富裕層の『ただの旅行』を『金儲け』にできますし、貧困層を使って、『旅行させてやるから言う通りにしろ』と言うことだってできます。
中国での詐欺事件は裏にマフィアが絡んでいるという話を聞いたことがあるので、詐欺の画をマフィアが描いて、金が欲しい中国人を使ってと言うことは十分に考えられるんです。
何より被害者が不自然すぎます。数百万円分の物を盗まれたのに警察を待たずに帰国するなんて、考えられないでしょう?
警察に会いたくない理由が何かあったと考えるのが妥当です。」
「それで、その被害者とは連絡は取れたんですか?」
今川が聞き、上田が
「一応は取れたけど、盗まれた経緯の説明と日本の警察を信じているとか言って、あまり詳しいことは聞けてないのが現状だよ。
爆買いした物の使い道とかの質問になると黙っちゃうし、他にも色々聞いてみたけど、なんか言ってることがあやふやな気がするしで、怪しいの何って。」
「じゃあ、その仮説を立証するにはどうすればいいんですか?」
三浦が聞き、山本が
「盗んだ物を他の仲間の荷物に紛れさせて、同時に帰国した可能性を視野に、空港の入り口と出国ロビーの受付のところの防犯カメラを比べて荷物の量が増えている客がいなかったかを調べてる。
あとは、中国の保険会社の中に最近、日本へ行った客に高額の保険金を払った会社がないかを外務省を通じて調べてもらってる。
中国の公安にツテがあればもう少し楽なのかもしれないが、ない物ねだりでは進まないからな。」
「僕、中国の公安に友達がいますよ?
大学時代に留学して来てた人と仲良くなったんですけど、そいつが公安に入ったと聞いてます。連絡しましょうか?」
伊達が言い、全員が疑いのまなざしを向ける。それを感じて、
「いや本当ですよ。確かに、片倉や松前を使って調べる方法もありますけど、さすがに中国国内の保険会社を調べるなんてできませんし、サイバー攻撃みたいなことになるので、松前にはやらせられませんから。
友人がいるのは本当なので、一度連絡してみますよ。いいですか、黒田さん?」
黒田は山本の方を確認して、
「打開策は早急に欲しいところです。正式な手段とは言えないですが、情報をいち早く得るためには仕方ないかと思いますので、『ご友人』にお願いして協力していただきましょう。」
「いや、本当に友達なんですから。まあ、じゃあメールしときますよ。」
「それで、空港の防犯カメラの方はどうやったんや?」
竹中が聞き、上田が
「荷物の量が明らかに増えたと言えるほどの増加は認められませんでした。空港内の免税店でお土産を買い足している人もいますから、入り口と受付で量が変わっていても不自然ではないというのが空港職員の人の話でしたから。」
「それも考慮しての計画ならとんでもないな。他かに報告することは?」
「関空の方で、犯行グループの一人の顔が写ってました。
東南アジア系の顔でしたし、出入国情報をいま確認しているところです。」
「そいつだけが頼りってことか。それで今後はどうするんや?」
竹中が聞いたところで、黒田が言いにくそうに、
「先ほどの、お話なのですが・・・・・・」
「なんや?」
「藤堂君と加藤君にも調べてもらってることですが、外国人の強盗団というのが日本各地で報告されています。コンビニ強盗やグループでお金を持っていそうな人を囲んで脅し取るような事件が多数報告されてます。
東京でも何件か起きているので、ここにいる人員をさらに割り振っていかなければいけなくなるので、皆さんにかかるご負担がその・・・・・」
黒田は申し訳なさそうに語尾を小さくさせていく。
「そんなことか。エエんちゃうか、別に。警察なんやし、捜査してなんぼやろ。」
「そうですね、他の課の人達に手の負えない事件を捜査するために集められてるわけですから、文句言っても仕方ないですよ。」
竹中と三浦がフォローを入れるが、戻って来た伊達が。
「だから言ってるじゃないですか、人員が不足してるんだから、増やした方がいいって。松前と片倉なら、向こうで浮いてるわけですしいつでも異動できる状態ですよ。」
「それは、いま武田総監に聞いているところです。
それに他にも人員の補充は考えてるので。待って下さい。」
「まあ、とりあえず、ここにいる人をどう分けるかですね。
竹中さん、強盗の方の責任者でいいですよね?」
山本が言い、竹中が怒った感じで、
「それほぼ決定事項やんけ!まあ、ええわ、今川と三浦は貰うで。」
「了解しました、大谷もそっちでいい。爆買い中国人の方は進展があるまで時間がかかりそうだから、竹中さんの方を手伝ってくれ。」
「わかりました。」
大谷が返事をしたところで、各捜査班に分かれた。




