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十二部

「大丈夫ですか、ご友人が亡くなられてから少し元気がないように見えるのですけど?」

 坂本が心配そうに聞く、黒木は軽く笑い飛ばして、

「大丈夫だよ。ただ、予想外のことって言うのは思った以上に精神をむしばんでいくものなんだと実感しているのも事実だね。」

「少し休まれた方がいいんじゃないですか?

冬に予定している第一回の政治家任用試験の勉強もあるわけですし、『事を急いては射損じる』って言います。

それに連続で、事件を起こせばそれだけ、武田総監や北条総理に悟られやすくなります。少し間をあけて、じっくりと行動した方がいいんじゃないですか?」

坂本の言うことも黒木にはわかっている。だが、動き始めた歯車を簡単には止められないのも事実であるし、それも最も懸念していることを坂本に向かって口にした。

「俺が国会議員である内に、変えとかなければいけないことは山積みだからな。

俺も試験に受かる確証はないわけだし、できることは今のうちにしておかないと。」

「本当に裏道は作ってないんですか?」

「当たり前だろ。俺が通れる道なら他の政治家も通れるわけだから、この試験の意味がなくなる。

 それじゃあ、わざわざこの法案を通した意味も無くなる。」

「もしかしてですけど・・・・・・・この事件を最後にしようなんて思ってないですよね?」

「どういうことだ?」

 黒木は首をかしげて聞く、坂本は心配そうに

「この事件で、山本さんに捕まろうと考えてるんじゃないかということですよ。

 黒木さんの思い描いてた日本改革はおおむね実現してきました。

残りは今回の事件で達成できるとして、あとは秀二の計画によってねじ曲がった部分の修正をこれからもしていかなければいけないのに、黒木さんがドロップアウトするんじゃないかと僕は思ってるんですよ。」

「色んな可能性を考慮して対策をたてるのは、坂本の良いところだけど、その対策は必要ないよ。

 俺は俺のしたことにしっかりと責任をとらなければいけないと思ってる、だからこそ、改革のその先を見てからしか政治家を辞めるわけにはいかないとも思ってる。

 それにもしものことがあれば、その時は俺だけで沈んでやるから、お前には迷惑をかけないよ。」

「僕が言ってるのはそういうことじゃ・・・・」

「わかってるよ。今、さっき言ったけどまだ辞めるつもりはない。これだけで俺の返事は十分だろ、今は?」

 坂本は何かを諦めたかのようにため息をついて、

「わかりました、この事件については責任をもって、僕が進めます。

秀二が何を考えてるかはわかりませんけど、これ以上好きにはさせませんので安心してください。」

 坂本はそう言い残して、部屋を出て行った。坂本の消えた部屋のドアを見ながら、黒木は考えていた。

 坂本は終始、心配そうな顔をしていた。坂本を不安にさせるほど、自分は落ち込んでいるように見えたのだろうか、自分が投げた石がどこに落ちたのかを確認せずに、うまいこと飛んだと決めつけて、あぐらをかく人間だと思われていたのだろうか?

 少なくとも自分では投げた石がどこに着地して、どんな波紋を広げるのかぐらい確認しなければ落ち着いてお酒を飲むこともできないくらいの小心者であることを自覚しているというのに。

 大学生の時、山本と石田と三人で飲んでいたときに、山本が石田に向かって、

『お前は詰めがいつも甘いんだよ。』と言っていた。

それに対して、石田が俺に向かって『黒木みたいに石橋が壊れるまで叩いてるのは俺の性に合わない。』と言って、俺が山本に向かって『山本みたいに誰でも器用にできるわけじゃないからな。』と言った。

 今、思えば三人がそれぞれ何かが足りず、それを三人で補いあって、そして楽しい学生生活を送っていた。

 他にも友達はいたが、大学生の時の俺の世界は山本と石田と三人が一緒にいるだけで成立していた。それほどに二人の存在は大きく、それは大学を出て15年くらいしても何も変わらなかったし、変わることもないと思っていたのに、その変化は突然に、最悪の形で目の前に突きつけられたのだった。

 世界が三分の一滅んだ感覚、どこまでも続くと思っていた地平線が急に崩れ落ちて、目の前に断崖絶壁が広がるような感覚。

 俺の失った世界を取り戻すことはどんなに努力しても、戻らないという現実。

悲しみの中で、自分の理想を実現して、石田のいなくなった世界から消えたいと思っているのは坂本の言う通りだ。

 自分のやるべきことをなして、そのまま霧のように消えていきたい。何者にも縛られない雲のように知らず知らずのうちにどこかに行ってしまいたい。

 自分でも改めて深く考えてみて、気づいた俺の深層心理に坂本は気づいていたのかもしれない。

 つくづく実感する坂本の有能さに驚きつつも、まだまだ頑張らなければいけないことが多いと言った自分の言葉を改めて自分に言い聞かせて、黒木は静かに目を閉じた。その目からは一筋の涙が流れていた。

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