十一部
「わかりました。じゃあ、昼からもう一度空港に行って確認してみます。」
藤堂は電話を切って、加藤に向かって、
「警部が、今回の事件はもしかしたら被害者の保険金詐欺かもしれないって言いだしたから、被害者の情報を集めて欲しいって上田さんが言ってました。」
「どういうことだよ、被害者の保険金詐欺?」
加藤が意味がわからないために聞き返す。藤堂もあまり理解できていないので
「たぶんですけど・・・・旅行に行く際に入る盗難保険とかを利用して、保険会社から保険金を受け取ろうとしてるのではないかということですよね。
被害額が数百万単位になれば、一回の旅行でかなりの儲けになるんじゃないですか?
それに、中国マフィアとかが絡んでくれば組織的な詐欺事件ってことにもなります。」
「凄いですね、山本警部っていう人は!
そんなこと思ってもみませんでしたよ。」
大阪府警の高山さんは実際に山本警部と会ったことがないから、とても感心しているが、藤堂や加藤からすれば根拠のない仮説に基づいて捜査をすることになるので、それはそれで大変であるということは高山に二人とも言わなかった。加藤が
「・・・・そう・・・・なんですよ。山本警部の推理は一見ズレているように見えてマトを得ていることがあるので、調べてみる価値はあると思います。」
「そうなんですか~、さすが竹中さんが認めてる刑事なだけあるな~。」
高山は感心しきりな感じで言う。藤堂が
「竹中さんって、どんな人なんですか?こっちでは、山本警部の補佐役に徹されているので、捜査に自分が出て仕切るって感じじゃないんですよ。」
「そうなんですか?
僕個人の見立てですけど、あの人は刑事やからよかったけど、犯罪者にしたらそら手におえんくらいのキレ者ですよ。
上司を口車に乗せて、自分の推理を押し通すくらいのことは普通にしますし、俺らが思いつかんような方法で、被疑者あげることもあるくらいの人やから、東京行くって聞いた時は大丈夫なんやろかと思いましたからね。」
「まあ、たまにその片鱗は見せてる気がしますけど、でも頼りになる警部ですよね。」
加藤が言うと、高山が
「それは、捜査が成功してるからやと思いますよ。
失敗したらそれだけで違法捜査やなんやて、騒がれてますし、なんといっても竹中さんの悪いとこは方向音痴なのに勝手にどこでも行くとこですよ。
事件で呼び出してるのに、携帯も持たんと色んなとこ行って、いつまで待っても現場に来んくらいのこと、しょっちゅうありましたからね。」
高山は言ってる途中から少しずつ思い出してきたのか声に怒りが混じりだした。藤堂が話をそらすために
「このたこ焼き美味しいですね。やっぱり、こういう地元の美味しいお店は地元の人に聞くのが一番いいですね。」
「お口にあってよかったです。晩御飯の串カツも期待しといてくださいね。」
「そうですね。じゃあ、とりあえず午後はもう一度、関空の方にお願いできますか?」
「藤堂さんも加藤さんも大変ですね。了解です。」
高山の機嫌も落ち着いたようで、藤堂も加藤も一安心して胸をなでおろした。
今日初めて出会った人ではあるが、穏和な雰囲気から怒った時を想像していなかったが、先ほどの会話で怒った時の片鱗を目にして、高山さんは怒らせない方がいい人だと藤堂は思った。




