十部
「どう思いますか?」
車に乗り込んだところで、上田が聞く。山本は
「最後に呟いていた言葉は、俺が石田に言ったことな気がする。
あいつはいつも最後の最後で何かしくじって、ミスをする奴だったから・・」
「じゃあ、石田さんは何かをしくじったと感じていたということですか?」
「わからないが、あいつは意味のない嘘をつくような奴じゃなかった。
それならあの論文の話は何だったのか?石田の詰めが甘かったのは、もしかしたら、それに関連することなのか?狙われるとわかってたのに、人通りの少ない道を歩いていたことがミスだったのか?
とりあえず、今の状況では全然わからないことばかりだな。」
「どうするんですか?
総監とかにはこの件には関わるなって言われてるんですよね。」
「ここまで来たら調べるしかないだろ。武さんに隠れてでも、調べてやるよ。」
「まあ、止めても無駄なんでしょうから、僕も付き合いますよ。」
「悪いな、毎回巻き込んで。」
「もう慣れてきましたし、石田さんが殺されたとするなら、それほどやばい何かを知っていたからと考えざるを得ないんですよね。」
「石田が死んだことで得をする人物が誰かか?
そんなに石田の交友関係知ってるわけでもないし、あいつが教授になるのはもっと先の話だったみたいだから、それ関係でもない。
そうなると、島村君が言ってた、石田のフィールドワークで調べていたことに関係することしかないってわけだな。」
「あとはファイル名ですよね。『KSH』でしたっけ?」
「意味がわからないよな。何かの略称か、それとも何かの機関の名前か、人名って可能性もあるよな。」
「警部、『SH』って?」
「そんなわけないだろ。じゃあ、最初の『K』は何だって話になるだろ。」
「そうですよね、偶然ですよね。」
「そうだよ、偶然、偶然・・・・・」
山本はそう言って、窓の外に目をやり、『KSH』がもし人名であるなら、『影山(K)秀二(SH)』ではないかと思ってしまった。
ただ何の確証もない上に今の上田なら『きっとそうですよ』とか言い出しかねないと思い黙っていた。
最近、五條のところに行っても影山の話ばかりしているため、何かあるとすぐに影山に結びつけてしまう癖がついているのかもしれない。
偏った考えが捜査を間違いに導くこともあるので、山本は自分に強く言い聞かせることにした。




