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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 6 章

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13:知らなかった事だらけ

 空間魔法で(オーガ)を狩った翌々週の火曜日。暦も九月に変わり、高校では新学期も始まったらしい。

 魔物については相変わらず小物しか出ていない様子ではあるが、今回は俺が見たことのない魔物も確認されているらしいので、今回は駆除に参加することにして組織の支部へと集合した。

 そして、集合時間の三〇分ほど前からバスの前で待っていたのだが、そろそろ点呼が行われる時間だというのに後から来る人数はあからさまに少なく、人数はいつもの七割に届かないぐらいだ。

 組織は学業を優先させるようなので、遊撃(IF)扱いの非常勤の人材が減っているんだとは思うが、つまりそれだけ高校生が多かったということで──何というか、命の危険が伴う仕事なので、労働基準法的な意味で心配になってくる。



 今日は一時間半ほどの移動時間を経て、また名前も知らない森に到着した。

 いつもの女子高生三人組が居ないので俺はまだ班を組めておらず、もう今回は一人で良いかと思っていたら、この場で一番偉そうな人がこっちに歩いてきた。

「そこの……白井か。一人で森に入る気か?」

「……駄目なんですか?」

「危険があるから当然……いや、白井の場合はそうではないかもしれないが、規則では禁止されている。特別な許可を得ていれば可能だったとは思うが、そういった許可は得ているか?」

「許可は……記憶にないですね。多分得てないかと……」

「……端末で確認できたはずだ。確認方法は──」

 言われるままにアプリケーションを操作して確認画面を表示させてみた。

「どこに出るんです?」

「そこの枠だな。そこに書かれていないなら、そういった許可を得ていないということだ。大人しく班を組め」

「……わかりました。じゃあ、どこか適当な班は……」

「そうだな……井上(いのうえ)、どうだ?」

「へ? 良いんですか?」

 名を呼ばれて反応したのは、すぐそこに居た大学生ぐらいの男性。この人は、組織で初めてエアソフトガンの使い方を見せてくれた人だったはずだ。

 二人の視線がこちらに来たので、回答。

「私は問題ありませんよ」

「じゃあ、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 頭をぺこぺこと下げあって、今日共に行動する班が決まった。


 場所は違うにもかかわらず春先は花粉で大変そうな森を歩き、前回と同様に魔物の駆除を始める。

 井上の班はいつぞやに見た顔ぶれと変わらず、高校生に見える男性も居て驚いたが、童顔なだけで成人しているそうだ。

 魔法使い(MU)と呼ばれる組織に常駐する人達の班だが、魔法の運用に長けた彼らにとっても俺の索敵範囲はありがたいものらしく、少なくとも言葉では期待しているとは伝えられた。

 期待に応えるべく、いつものように範囲を伸ばして半径六〇メートルほどの範囲を索敵──

「……えーと、この方向で、水平方向には四〇メートル、上一〇メートルぐらいの位置に、魔物っぽいのが居ます。単独ですね」

「いきなりか……見えた。あと一〇メートルほど接近して、射撃で仕留める」

『了解』

 全員慣れているのか井上の指示に素早く応じ、木に張り付いている魔物を狙う。

 魔物の見た目は、胴体だけで見れば五〇センチメートルに満たないが、脚はそれなりに長い蜘蛛。蜘蛛としては馬鹿でかいが、魔物にしては小さいか。

 爪は鋭く、顎も強く、それなりに頑丈な骨格と毛に覆われていて、以前読んだ資料通りなら糸は出さずに跳び掛かってくるらしい。

 呼称は『大蜘蛛』。これは小型の奴なので、『小型の大蜘蛛』などという呼ばれ方になるが、中型、大型なども一応確認はされているらしく、矛盾した名称というわけでもない。

 何気に、初めて遭遇する人型以外の魔物である。と、感心しているうちに一〇メートルほど進んだ。このぐらいの距離が命中率も高いのかもしれない。

「白井、他には居ないな?」

「はい、感じ取れるのはあいつだけです」

「よし。落ち着いて狙え……撃てっ」

 井上の号令に合わせてエアソフトガンの発射音が連続し、樹の幹にしがみ付いていた小型の大蜘蛛に全弾命中──木の板を叩いたような音が連続し、力の抜けた魔物は樹に刺さっていたらしい二本の脚でぶらりと垂れ下がった後、脚そのものが千切れて残りが地面に落ちた。

 着地時にはドスッと砂袋を落としたような音が鳴ったので、それなりに質量はある模様。

 樹に刺さったままの脚が塵になり始めたので駆除には成功したと思うが、これに跳び掛かられるのは遠慮したいので胴体が崩れるまで警戒する。

「……終わった、か」

 本体が崩れるのを確認した井上の言葉に応じるように、ほっと息を吐いた。


 慣れてしまえば後は同じようなものだったが、報告回数が二桁に届いたところで、気になってきたことがある。ため口での会話も良いということなので、班長を務める井上に質問を投げかけてみる。

「……なんていうか、やけに遭遇する頻度高くないかな? 魔物」

「そうか? いつもこんなもんだが……何と比較した話だ?」

 雑談も兼ねて少しばかり聞いてみたが、いま一つ物足りない回答。まぁ、聞き方も悪かったか。

「えっと、俺は二か月ぐらい前まで日本に魔物が出るなんて知らなかったんだけど……一つの支部で週辺り何十匹も狩れるぐらい現れてるなら、この組織に関わる前の俺は何で知らなかったんだろうかなと」

「ん……? 道具もなしに魔物を狩れるぐらい力を磨ける環境に居たんなら、そのぐらい知ってるだろ?」

「いや、知らないよ? 魔力なんてものが実在するのを知ったのも、ほんの数か月前だし……」

「はっ!?」

 この支部が担当している範囲で一番遠い場所は、バスで数時間移動することもあるらしいが──このペースであれば一つの県でも月あたり百匹以上、年あたり千匹以上の魔物が現れている計算になる。

 俺は子供のころからずっと日本に住んでいたのに、これだけ報告が上がる魔物の事を異世界に召喚されるまで知らなかったというのは、妙な話だ。

「組織に入ってすぐ読んだ資料と比べても、何か明らかに多い気がするんだが、なんでだろ?」

「い、いや、冗談だろ?」

「いや、ほんとに知らないんだけど……」

「そっちじゃなくて、魔力の方」

「そっちも事実だよ」

「……その実力に至るまで一年も掛けなかった、のか……? んな馬鹿な……」

 ああ、井上が驚いた理由はそっちだったか。

「魔力そのものじゃないけど運用に役立つ力なら一八年ぐらい鍛えてたし、魔力の扱いは環境と教師が良かったから、かな?」

「魔力とは別の、力?」

「まぁ、人に教えられるものじゃないからそこは省くよ」

 教えられない理由は『習得できない』ではなく『習得させたくない』という類のものだが、練習に要する期間が長いのも事実なので面倒臭い。

 井上は驚き、訝しみ、諦めと表情を変えて溜息を吐いた。

「……この組織の成り立ちは、知ってるか?」

「いや、知らない」

「……興味、なさすぎじゃないか?」

「この組織は機密が多そうだし、あんまり変な情報を知っても面倒だろ? っと。前方、一一時、五五メートルほどの地点に小鬼一匹」

「はぁ……了解。行くぞ」

『了解』


 身構えて向かいはしたものの、所詮は小鬼(ゴブリン)。対するこちらは俺を含めて五人も居るので、戦闘自体は文字通り秒殺だった。

 二系統以上の魔物が一緒に出るのも初めてだなと思いつつ、魔石などは残らなかったので周囲をさっと警戒し、また歩きながら井上に話し掛ける。

「周囲に魔物は見つからず、と。それで、何があったんです?」

「あー……三年前になるか。本当に知らないのか?」

「三年前……というと、俺は前の会社に入って一年目半ぐらいの頃かな。社食で垂れ流されてるニュースは聞いてた気がするけど、何があったっけ……」

 正直なところ、全く覚えていない。新聞は押しの強さに負けて契約こそしたが、読む時間がないので半年で打ち切った。テレビはアンテナに繋いではいたが、大体の用途はゲームとDVDだった。

「……まぁ、大々的なニュースには、なっていなかったか。とある企業が行った新エネルギーに関する研究の途上で、魔力を使って何ができるかって実験があったんだよ」

「どんな実験?」

「詳しいことは資料室でも読めたと思うが、オカルト系の実験だな。お題目は神隠しにあった人間の救出だとか、原理の再現だとかで、異なる世界に繋がる道を開こうって奴だ」

「へぇー」

 俺もやったなぁ。というより毎日向こうの世界にある家は確認していて、更に空間魔法の効率化が進んでいるぐらいだ。

「……嘘じゃないぞ?」

「それはわかってるから、続きを頼むよ」

「……本当だろうな? ……まぁ、それで、使う魔力を制御できなかったんだな。事故が起こって空間に穴が開き……穴自体は実験用の器材がすっ飛んだことで徐々に塞がったが、塞がるまでの間に色々と流れ込んだんだ」

「うげぇ……」

 ……大失敗してんのかよ……そういえば、異世界側でもなんか失敗して吹っ飛んでたんだっけ。気を付けよう。

「……その時に流れ込んできた大量の魔力で何かの閾値(いきち)を越えたのか、世界中で観測される魔力の量が増えだして……ああいや、観測機器が増えたのも事故の後なんだが、増加傾向にあるのが確認された」

「で、魔力が溜まりやすい辺りでは、魔物が発生するようになったわけか……」

「そういう事だ。発生した魔物に対抗するべく作られたのがこの組織で、その事故を起こした企業も吸収合併して装備や人材を整えながら、今に至るわけだ」

「なるほ……ど?」

「どうした?」

「……」

 もしかして、俺が一度転生する直前に拾ったあの黒猫、黒猫だと思ってたが魔物だったりしたのか? もしくは、あの時は山に入ってたから、他の魔物に襲われた可能性もあるか。

「おい、白井? 大丈夫か?」

「あ、悪い、考え事をしてた」

「……まぁ、魔力が増えるってのはよくわからないしな」

「いや、日光に当ててれば増えるだろ? 魔力は」

「……ん?」

「あれ、知らないか? 光合成、ってわけじゃないが、魔力は多機能かつ高性能な変換機みたいなもんでもあるから、熱を上手く吸収させてやれば増えるんだよ」

「……は? え、じゃあ、もしかして……何もしなくても勝手に増えるのか?」

「そりゃあ、使われなければ増えるよ。んで、その事故で閾値を超えたかなんかで増え始めたってことは、元々世界規模で何かに使われてたのかねぇ?」

「……」

「おっと、また魔物が居た。真正面、距離六〇メートルに、小鬼がまた一匹……って視界も普通に通ってるな。……井上? 井上さんや? もしもし?」

 指示が出ないと思って見てみると、井上は眉間にしわを寄せて考え込んでいるようだった。

 魔物は弱い一匹だけだが、向こうはこちらに気付いているので、班員に指示を出してほしい。

「太陽光で、いや熱で増えるなら……根本……対処不可……?」

「おーい、魔物が出たってば!」

「はっ!? あ、ああ、小鬼か。突っ込んできているから、迎撃。構え……撃てっ」

 井上の号令に合わせて、やや過剰気味な火力が小鬼(ゴブリン)を襲った。


 俺の疑問も解消されたところで会話も減り、時間は随分と良い感じになってきたので、バスへ向かって折り返した。

 魔物自体も中々に減っており、俺が索敵を行う井上班も魔物と遭遇する頻度は行きの半分以下に落ち着いている。

「……魔力を、減らす? ……どうすれば…………変に集めても……」

 井上は先程から、何やら魔力が増える件についてぶつぶつと呟いている。まぁ、ある程度量がなければ増えないとするなら、俺の方である程度集めておけば、魔物の発生も減ったりするんだろうか。

 俺は魔力を集めるという点では慣れているのだが、こういう魔物が発生する辺りの魔力はあまり取り込みたいとは思えない。

 とりあえず近くにある重量物、適当な石を拾って、周囲の魔力を浪費しながら浮かべてみる。

「……んん、意外に難しいな」

「……白井? 何の真似だ?」

「魔物が生まれるような魔力は取り込みたくないだろ? ……ああいや、範囲は狭いけど、周囲の魔力を浪費しとこうかと思ってね」

「そんなので、減らせるのか?」

「いや、微妙。もう少し濃い所ならまだしも、薄くなってくると自前の魔力を結構使わされるから……ここだとこの石じゃ釣り合わないな、魔力の操作だけで行こう」

「……」

 井上からの訝しげな目線が痛い。何かないか、何か──

「あ、二時方向、距離六〇メートルほどの所に二匹、小鬼と、小型の大蜘蛛?」

「……了解」

 井上の溜息と共に、班の進路が少し右に曲がった。


 樹によって視界が遮られる場所だったので少し大きめに回り込むと、予想外な光景があった。

 小鬼が崩れて少し経ったような跡が一つと、今まさに小型の大蜘蛛からトドメを刺された小鬼。大蜘蛛については、今日見た個体では一番大きな身体をしている気がする。

 別系統の魔物が居ると潰しあうんだろうか? 漁夫の利というかなんというか、今日は初めて知ることが多い。

「仕留めるぞ。っ、気付かれたか! 撃て撃て!」

 魔物同士でも別系統なら食い合うのかと妙な関心をしていたが、こちらに気付いた大蜘蛛が突っ込んできて、井上班からの射撃とそれに合わせた俺の魔法の矢が迎撃──

「おや」

 大蜘蛛はこちらに近付きながらも樹を盾にして、井上達の魔法を回避した。俺の魔法は樹を避けるように操作したので当たりはしたが、表面を少し削った程度で壊れてしまった。

 そして大蜘蛛は、糸こそ出していないが、ガツガツと大きな音を立て樹の間を跳ねながら近付いてくる。井上達四人は反応が間に合っていないので、頑張るべきは俺か。貫けそうな威力の魔法の矢を準備、俺達のほぼ真上の樹の幹に着地した大蜘蛛に向けて放つ。

 大蜘蛛は斜め下、井上班の人を俺からの盾にするように跳び降りたが、俺の魔法の矢は着地直前の大蜘蛛に追いつき、そのまま地面に縫い付ける。

「うおっ!?」

「し、仕留めた?」

「まだなんかガサガサ動いて──」

「撃て!」

 そのまま四人はエアソフトガンからの魔法を撃ち、合計二〇発程度の魔法が撃ち込まれたところで、ようやく全員落ち着いた。

 目の前まで一気に近付いてきた大きな蜘蛛が目の前でガサガサ動いてたら怖いのはわかるが、なんというか、井上班四人とも反応が過激でむしろその反応に驚いた。

 まぁ、あの機動力は放置したら面倒そうな気がするので、ひとまずはできる範囲でこの森の魔力を浪費してやろうと思う。

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