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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 6 章

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11:魔力を集める練習

 茉莉から電話を受けた次の日の朝。茉莉が桜と共に訪れ、俺達の住んでいる部屋のドアホンを鳴らした。

 今回は美奈子は来ていないらしく、他に誰かが居るわけでもないようだが、一応俺だけが見える形で応対に出る。

「おはよう。いらっしゃい」

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「おはよう、ございます。よろしく」

「友木さんも教わりたい、のかな? まぁ、頑張ってね」

「頑張る」

 今日の二人は落ち着いた私服姿で、どちらも肩には組織の制服が入りそうなバッグの紐を掛けている。

 俺が促すと、お邪魔しますと言いながらそろそろと入ってきて──施錠をしてからリビングまで戻ると、メイド服姿のアニマとアンナが姿勢を正して待っていた。

「おお、おはようございます」

「おはようございます」


 挨拶も済ませ、知らない相手が居ないならとアニマが自前の耳と尾を出したところで、用件を済ませるべく──

「早速で悪いけど、とりあえずどこまでできるか、見せてもらっていいかな?」

「え、ええっと、すぐ、ですか?」

「……何か、問題でもあったか?」

「いえ、その、着替えたいんですけど……」

「? 魔力操作の補助機能なんかが付いてたりするのかな? あの制服」

「そんな機能はありませんけど、制服着てないとすぐ魔力が散っちゃいません?」

「いや、この部屋の魔力はあの森と同じぐらい濃くしてあるから、そう簡単には散らないぞ?」

「ふぇ……? あ、ほんとだ? ……っていうか、してあるって何ですかっ!?」

「何って、言葉通りの意味だけど」

「……え、と、どうやって?」

「そこは内緒で。どうしても着替えたいなら、そこの部屋は何も置いてないからそっちでどうぞ。友木さんも着替えるならどうぞ?」

 空き部屋に繋がる扉を示しながら言ってみたが、桜は首を横に振った。

「必要がないなら、私はこのままでいい」

「うー……わかりました。私もこのままでいいです」

「そっか。それじゃあ、一人ずつがいいかな。どっちからやる? それとも、最初は俺が見本を見せた方が良いかな?」

 俺の質問に対し、茉莉と桜は互いを見た。

「……私からでいい?」

「いい」

「じゃあ、私からやります」

 茉莉から見せてくれるようだ。


 誰から見せるかが決まった後は立ったままするのかという問題が出てきたので──どうしようかと少し悩んだ後、リビングの机を退かして五角形を描くように椅子を並べて座った。俺を基準として近い方から順に、左にはアンナとアニマ、右には桜と茉莉が並んでいる。

 場所が決まった後は、茉莉が意識を集中しながらゆっくりと指先付近に魔力を集め始めた。

「……あっ、できたっ!? あっ、ああぁぁ……」」

 茉莉の前にできた魔力の輪を見て茉莉は驚いたような声を上げたが、そこで集中は途切れてしまったらしく、直径一〇センチメートルほどの歪んだ輪は数秒ほどで崩れてしまった。

 とりあえず、言葉を掛けるべきかな。

「えっと……ドンマイ?」

「うぅ……はい……あ、でも今回は一番上手く行きました」

「うん、それはおめでとう」

「じゃあ、次は私?」

「そうだね。友木さん、どうぞ」

「わかった」

 桜も返事をするなり魔力を集めて、茉莉より綺麗な輪を作ったが、回転させようとしたところで歪んで壊れてしまった。

「……昨日よりちょっと綺麗に作れたけど、失敗……」

「あー……うん、ドンマイだね」

「……ありがとう」

 見たところ、桜の方が茉莉より一歩進んでいるらしい。

「しっかし……練習場所としては魔力が濃いから外よりは向いてるんだけど、どう教えようかな?」

「白井さんができるのは知ってるけど、アニマさんやアンナさんも、できるの?」

「しばらくやってないけど、できるよな? とりあえず、アンナ、見せてみて」

「ええ。……その、これで良いのよね?」

「そうそう、それそれ」

 アンナが軽く前に出した手の先で魔力が動き、くるくると魔力の輪が回りながら魔力を集めていく。

「普通に、できてますね……」

「そりゃまぁ、基礎中の基礎だしね」

「これ、基礎なんですね。アンナさんはどうやって学んだんですか? コツとかは……」

「えっと、私は……ユーリに教えてもらった、のよ? コツって言われても……ええと……」

 アンナは恥ずかしそうな感じで、学んだ時の事は何故か言い難そう──と、そういえばアンナに教えたのは馬車の上で抱えてた時で、少し悪戯もしながらだったか。

 ……参考にはならないな。うん。同じ教え方はしないとして、どうしよう。

「……そうだ、アニマ、たしか杖があったよな?」

「あ、はい、そうですね! 持ってきますっ。二本とも、で良いですか?」

「そうだな、それで頼む」

「はいっ」

 アンナに魔法を教えた時にはアニマも居たので、話が早くて助かる。

「……杖? 杖ってまさか、魔法の杖とか言いませんよね? まさかですよね?」

「いや、言うぞ? 魔法を使うための杖なのは、間違いないからな」

「え、えう、えええっ!?」

「……」

「? なんでそんな驚いて……って、友木さんもなんかとんでもない顔になってるな……」

 茉莉は何やら恥ずかしそうな、桜は物凄く嫌そうな表情に変わっている。

「お待たせしましたっ」

「お、ありがとう」

「どういたしましてですっ」

 荷物置きに使っている部屋からアニマが杖を取ってきた。初心者用の木の杖と、金属で飾られた上級者用の杖だ。

 アニマから杖を受け取って茉莉と桜の方を振り向くと、さっきよりは普通の表情、というより予想外な物を見たような表情になっていた。

「……どうかしたのか? 二人とも」

「い、いえいえ、何でもないです。……こっちの杖でしたか……」

 茉莉は何でもないと言った後、ほっと息を吐きながら呟いた。しかし、こっちの杖?

「こういうのじゃない杖って、どんなのだ?」

「ああ、あれじゃない? 魔法少女とかいう」

「あー………………そっちかぁ。もしかして、マジカルなんたらとかのコスプレでも、させられた事がある、とか……?」

 アンナの言葉に納得しながらもう一度二人の方を見ると、茉莉も桜もさっきと同じような表情に戻ってしまっていた。

「あ、あははは……」

「……」

 この話題は良くなさそうなので、早速実際に使ってみてもらうべきだろうか。

「とりあえず、畑さん。この杖を持って、魔力を流してみて」

「わかりました。魔力が籠ってる部品とかはないんですね……ええと……わっ」

 茉莉が杖に魔力を流し込むと、杖が持つ機能によって魔力の輪が作られ、回転を始める。異世界の初心者用の魔法の杖の機能はこれだけだが、茉莉が学びたいと言った範囲も丁度これだけなので、問題はないだろう。

「ちょっ、え……え? これ、何なんですか、この杖っ!?」

「何って、魔法の杖だよ? 輪を作って魔力を集めるだけの機能しか持たない、初心者用の奴だね。あ、ほら、もう少し綺麗な形を作れるように頑張ろうね?」

「はぇぇぇ……」

 意味のある言葉は出てこないが、一応形は整ってきているので、俺のアドバイスは聞こえているようだ。


 一分ほど魔力の輪をくるくると回転させている茉莉を見ていた桜が、自分もやりたそうにしているように見えてきた。

「畑さん、とりあえず、そろそろ一旦止めて。えっと、魔力を流し込むのを止めて、吸うか散らすかすれば止まるから」

「は、はい……むむむ」

 無駄な力でも入っているのか唸り始めた茉莉だったが、三〇秒ほど掛けてゆっくりと魔力の輪が止まった。茉莉も多少は魔力を回収できたようだ。

「じゃあ、その杖をそのまま友木さんに渡してあげて」

「あ……そうですね、桜ちゃん」

「うん」

 桜も茉莉と同様に魔力を初心者用の杖に流し込み、魔力の輪を作った。


 桜も体験したところで、微妙に疲労もしていたようなので一旦質問も兼ねて休憩を入れることに。

「それでこの杖、本当になんなんです?」

「何って、初心者用の魔法の杖だよ。この部屋ぐらい魔力が濃い環境用の物だから、日本じゃどうにも使い難いけどね」

「……作ったのは、白井さんですか?」

「いや、専門のお店の人。日本円にすると、初心者用の方が一〇万円ぐらい、上級者用の方が八〇万円ぐらい……だったかな?」

 購入したのは異世界なので支払いに使ったのも日本円でなく金貨なのだが、大体そのぐらいの価値だと思う。

「うわ、思ったより高い……上級者用の方は、どんな感じなんです?」

「上級者用の方は魔力を感じ取れる範囲を伸ばせる機能が付いてるけど、魔力を集めるだけなら初心者用の方が使い易いね」

「……もしかして、森で魔物を見つけるのが早かったのは、そっちの機能? 杖を持ち込んでるようには見えなかったけど……」

 茉莉の質問に答えていると桜が食いついてきた。

「あの時は機能だけを自前で模倣してたんだ。杖はその機能の使い方を覚えるために買ったんだけど……覚えてからは使ってないんだよなぁ」

「……使ってないのは、なんで?」

「魔力を込めたら魔力の輪と一緒に作動する機能だから。どっちか片方だけ使いたい時は無駄が多いんだよね……あと単純に嵩張るし」

「……なるほど」

「ところで……一つちょっと気になってた事があるんですけど」

「何かな?」

 桜の質問群がひと段落ついたと思ったら、今度は茉莉からの質問。茉莉の視線はアンナ達の方を向いているので、内容はアンナ達に関するものかな。

「その、杖の話じゃないんですけど、そっちの二人は、なんでメイド服を着てるんですか?」

「……特に深い意味は、ないわよ?」

「そ、そうですか……」

 茉莉の質問にはアンナが答えた。まぁ、女性の来客があるからちょっと気合が入っただけ、というのは言い難いところではあるだろう。

 ついでに、アンナは下に着てるのがアレなせいで木綿(コットン)と化学繊維との衣擦れが時々聞こえるあたり、気合を入れる方向性が間違っている気は──いや、そもそもメイド服な時点で今更か。

「それで、服以外に質問は?」

「魔法の杖とか言ってましたけど、その杖って魔法が使えるようになるんですか?」

「いや、さっきも言ったけど、初心者用のは魔力を集めるだけ、上級者用のはそれに加えて感じ取れる範囲を伸ばすだけだね」

「そんな甘い話はないんですね……白井さんみたいな魔法、ちょっと使ってみたかったですけど」

「ん? 皆いつも使ってるよね? エアガンで」

「……あれはちょっと、魔法には含めたくないです……そういえば、白井さんの魔法って原理的には近いものなんですか?」

「そうだよ? 魔力そのものの塊に物理的な力を持たせただけだから……BB弾が核になってないだけで、殆ど同じようなもんだね」

「……えっと、エアガンで魔法を撃つのって、やっぱり珍しい、ですか?」

「俺が見たのは、この組織の人達が初めてだったな。多少見慣れてはきたけど、やっぱり真面目な顔でエアガンにBB弾を込めたり、大真面目に構えたりしてるのは中々にシュールだなぁと……」

「で、ですよねぇ……うああああぁぁぁ……」

 茉莉は恥ずかしそうに顔を覆って悶え始めた。同時に視線を逸らした桜の顔も少し赤くなっている気がする。

「いや、ほら、魔力が薄い日本で魔法を使うには、良い装備だと思うよ? うん」

「うぅぅ……ありがとうございます……」

「……白井さんみたいに魔法を使うには、どうすればいい?」

「ん、そりゃあ……消費量的にはこっちの方が何割かの無駄もあるし、魔力を沢山蓄えてないと無理じゃないかな?」

「いつも、そんな量を? ……そういえば、この部屋の魔力は……?」

「たしか前にも言ったけど、太陽の光と熱を集めて魔力に変えてる。詳しくは内緒だけどね」

「…………私達がある程度使っても、構わない?」

「うん? 練習で使う分ぐらいは想定内だけど、それ以上に?」

 桜は遠慮がちに、こくり小さくと頷いた。

「用途を、聞いても?」

「それは……いつもの駆除と、詳しくは言えないけど、もう少し」

「んー……それだけだと……どんどん持ってけとは言えないかな……?」

「……うん……無理を言ってごめんなさい」

 桜と、ついでに横で聞いていた茉莉も落ち込んでいる様子だが、流石に話を聞かないまま許可し過ぎるのはどうかと思う。

「……ま、練習の過程で、今回持ち込んだ物に自分で込めるぐらいは認めるよ。後は他で頑張りな」

「はい。……改めて、ごめんなさい。それと、ありがとうございます」

「私も、すみませんでした。ありがとうございます」

「それじゃあ、休憩はここらで終わりとして。練習続けようか」

「はい!」


 茉莉の元気な返事と共に練習を再開し、昼頃には二人とも、杖がなくても魔力の輪を作って回転させるだけならできるようになった。まだ効率は悪いが、練習を重ねればどうにかなりそうなぐらいだ。

 ついでに、二人が持ち込んでいた道具にもそれぞれが自身の手で魔力の充填が済んでいる。

「それで……まぁ、ちょっと休憩するぐらいなら構わないけど、畑さんと友木さんはこれからどうする?」

「予定より少し早いですけど、車を回してもらいます」

「さっきの、詳しくは言えない事情の方?」

「はい」

「……そうなん、ですけど、具体的には言えませんよ?」

 俺の質問には桜が即答し、茉莉が補足に入った。

「それはまぁ、俺も無理にとは言わないけど」

「すみません。……その、重ねてで申し訳ないんですけど、またそのうち、魔力を譲っていただきに来て良いですか……?」

「んんんん、それはちょっと……どうなんだろうか」

「やっぱり、対価もなしにってのは図々しいですよね」

「いや、その辺は太陽光発電の余り物みたいなもんだし、知り合いに多少譲るぐらいは気にならないんだよね」

 この二人が自力で回収できる量はたかが知れていて、部屋の換気を一回増やした程度の量である。魔力の生産量も無理なく増やす余裕はまだあるので──量だけで言うなら、欲しがる相手が増え過ぎたら面倒、という程度だろうか。

「……? それじゃあ、その、なんでなんです?」

「それは、ほら。あれだ。まずこの部屋って、俺が契約してる賃貸マンションの一室なんだよ」

「はい、それは知ってます……よ?」

「その、男が契約してる部屋に、女子高生が何かを貰うために通うってなったら……援助交際みたいで、物凄く外聞が悪くないか?」

「えんじょこーさい………………援助……えあうぁっ!?」

 茉莉が変な声を上げながら驚愕した。桜も少なからず驚いている様子なので、どうやら二人とも想像していなかった模様。

「何かを持ってきてればまた違うかもしれないが、それはそれで俺が貢がれてるような感じになるからやっぱり外聞が……どっちにしても、止めておいた方が良さそうだよね?」

「そ、そそ、そ、そうですねっ。えええっと、お(いとま)すっ、るのは早いたほうが、良いですか?」

「とりあえず、顔を真っ赤にしたまま外に出るのは止めてほしいかな。ほら、深呼吸、深呼吸ー」

「へあう、はい……」

 茉莉が深呼吸を始めた横では、物静かだった桜が視線を下ろして胸に手を当てていて──と、俺の方を見た。

「私の体は、対価として……どう?」

「ささ、桜ちゃんっ!? だめだよ!」

「そうそう。そういうのは無しだ」

「……魅力、ない?」

 不安げな表情で聞かれても、この質問は答え難すぎる。

「魅力以前にそもそも法に触れるし、うちの子らに喧嘩を売るのは止めてほしいな。うん」

 背筋にぞわりと鳥肌が立ちそうな感情が後ろから【伝達】スキル経由で伝わってきていて、見るのが怖い。もしかしたら、スキルが無くてもわかったかもしれないぐらいだ。

 そして桜はというと、先程からの驚きでアニマとアンナの事を失念していたらしく、目を見開いていた。焦り過ぎというかなんというか、本当にどれだけ魔力が欲しいんだろうか。

「出過ぎた真似をした。ごめんなさい……」

「……ユーリ?」

「あー……ほら、許してやってくれ。俺も最初から受ける気はなかったし、外からそう見えるかもって話を出したのは俺だしさ」

「…………仕方ないわね」

「すまん。アニマもな」

「……はい」


 先程の話は無かったことにして冷やしてあった麦茶を飲みつつ、どこかぎこちない会話を交わしていると、頼んでいた組織の車が来たらしく、茉莉のスマートフォンに連絡が入った。

 アニマはまた耳を隠しつつ、茉莉と桜の準備は済んでいたので玄関まで見送ることに。

「……ユーリにちょっかいを掛けないなら、遊びに来るぐらいは構わないわよ」

「ありがとう」

「今度は、学校のお話とか、もう少し聞かせてください」

「はい」「うん」

 女子達はそれぞれ仲良くなっていたようで、挨拶を交わしている。

「それでは、これで失礼します。今日は色々ありがとうございました」

「ありがとう、ございました」

「どういたしまして。またね」

「はい」「また」


 玄関の扉が自然に閉まるまで見送って、足音が離れたら静かに施錠をして、寝室に戻った。

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