10:地球の魔法使いの魔力事情
早々に鬼を倒したという報告が周囲に流れたが、近くに居た別の隊は結局操作ミスの可能性を考えたのか、一旦合流することになった。
あちらの隊の隊長に褒められて、こちらの隊の隊長は微妙な反応。話の流れかこちらに視線が来そうだったので、気付かなかった振りをして周囲を警戒する。目視するまでもなく周囲に魔物が居ないのはわかっているのだが、面倒臭そうだからな。
しばらくすると隊もまた別れて森を練り歩き始めた。
見つかる魔物には少しデカい気がする小鬼も混じってはいたが、鬼と比べれば大した差はなく、終了予定時刻を考えると折り返しに丁度良い時間になってきた。
折り返し、未踏破の範囲を塗りつぶすようにバスに向かって歩き始め、また小鬼を見つけて報告。全員が射撃を行って──
「あれ?」
「……」
魔法にならずにそのまま飛んだBB弾が混じっていた。気になったので弾道を逆に辿ってみると、困ったような表情の桜の姿がある。
「どうか、したのか?」
「魔力、使い切った……」
「……まぁ、結構撃ったしな。交換用に他のを持って……って、そっちも尽きてるのか」
元々他の二人と同程度の魔力が籠っていたはずなので、どうやら桜はやや多めに魔力を消費してしまったようだ。もう少し気にしておくべきだったろうか。
「……むぅ……」
「それで、尽きたのなら込め直せば良いと思うんだが、難しいのかな?」
「えっと、その、白井さん? 込め直せばって簡単に言ってますけど、そんな簡単な話じゃないですよ?」
茉莉がフォローに入ってきたが、主張している言葉はよくわからない。
「どういう意味?」
「? 自分の体に貯められる魔力はそこまで多くもないですし、他の物から魔力を移し替えるとしてもロスが大きい……ですよね?」
「それはわかるが……街中ならまだしも、この辺りの魔力は結構濃いよ?」
「……?」
なんだか互いに話が通じていない雰囲気だ。……実演した方が早いかな? と、その前に一応確認からか。
「友木さん、他人が込めた魔力でも操作は、できるよね?」
「それは、できるけど……白井さんの魔力は、大丈夫?」
「まぁ、俺はまだ余裕もあるし、込める魔力自体もそこらに漂ってるものだから大丈夫だよ」
「へ? し、白井さん?」
茉莉が何やらうろたえているが、隊が魔物の後始末で止まっているうちにさっと実演。森の奥の方に入ったからかこの辺りの魔力は異世界に近い濃さなので、異世界での標準的な集め方で大丈夫だろう。
まずは右手の人差し指を立てて、その少し先に魔力の輪を作る。込める魔力の目標値は、訓練の時に使ったエアソフトガンに籠っていた魔力より少し多い程度で。
回転させつつ魔力を集めながら少しずつ輪も大きくして、十分に集まったら、魔力の輪の回転は一旦停止。輪を小さくしながら桜の持っているエアソフトガンの照準器に、予備の物にもついでに込めていく。
前の手順も含めてやや急いで進めたので、小鬼の残骸の確認作業が終わる前に込め終えた。俺の魔力消費量は魔力の輪の芯に使った少しだけだ。
「終わったよ」
「え、あ、ありがとう、ございます」
「どういたしまして。……大丈夫だよな?」
「……魔力は、ちゃんと、動かせる。どっちの量も満タン。大丈夫」
「ん。……ん? 畑さん、宮寺さん?」
隊の移動が始まったのでそのままついて行こうとしたのだが、茉莉と美奈子の二人が遅れていて、随分と驚いている様子だった。
「いや、え? 何をどうしたんですか、今のっ?」
「そ、そうですよ白井さん、先程の魔力の動きは……」
「え、魔力で輪の形を作って回転させたら集め易いんですけど、知りません?」
「……」
茉莉は最初から知らなかったように見えるが、美奈子は何故か知った上で驚いている様子。
「えと、それだけで集められるんですか?」
「それだけで集められるけど……あー、結構魔力が濃いところじゃないとダメだからね? 回転させるのにもちょっとは使うから、街中で同じことをしても減る方が早いよ」
「……そこまで美味しい話でもないんですね……。でも、魔力が濃いところなら自給自足可能ってことです……?」
「ある程度魔力が濃く漂ってないとマイナス、濃い所で集めようとしても動かす魔力の量が増えてすぎると制御が難しくなったりとか、使いどころは難しいね」
「そうなんですか……その…………」
「? っと、また居たな、報告してくる」
「あ、はい」
茉莉が何かを言いかけていたが、魔物が居る時はそちらを優先するべきだろう。
見つけた小鬼について報告した後。ある程度接近すると少し離れた場所にまた小鬼らしい反応があったので報告をして、準備ができたところで攻撃開始。俺も油断はしないように気を付けながら軽く魔法を撃ち、今回も戦闘はすぐに終わった。
一応、自分が手を加えた装備だからと桜の様子も見ていたが、威力に問題はなさそうだったので一安心だ。
「で、畑さん、さっき言いかけてたのは?」
「……もしよければなんですけど、私にも……いえ、私のもお願いできますか?」
「そのぐらいなら良いよ。前回ケーブルも貸してもらったしね。……宮寺さんもついでにどうです?」
「では、お言葉に甘えて……」
魔法に交じって普通のBB弾が飛んで行く姿を見るのは、見ていてかなり気が抜けた。自分の所属する班員が魔法に交じってただのBB弾を飛ばしているというのは、なんだかとても恥ずかしい気がする。
とはいえ流石に、他の班までやるのは面倒なので止めて──いや、もしかすると、【魔力操作】が効く範囲なら遠隔でも魔力を込められるのだろうか? 何となく、できそうな気がする。
…………。
まぁ、いいか。面倒だし。
手に取る形で進めた作業だったが、どちらも桜のものと比べれば半分程度の魔力で足りたので、すぐに終わった。
何発かBB弾も飛んではいたが、各自予備の魔力供給源的な物は持ち込んでいたようで、BB弾を撃ち続ける人は現れないままバスまで無事に帰り着いた。
鬼は俺達の居る隊が倒した一体だけだったようで、他の隊も少々の怪我人はいるが全員揃った状態で労いの言葉を隊長達から貰い、俺達を乗せたバスが動き初めてから、更にしばらく。
どことなく黄色くなってきた気がする太陽の光を受けつつ窓の外を眺めていると、どこからかいびきが聞こえてきた。
……まぁ、他の人達も疲れてたみたいだし、仕方ないかな。俺もなんだか変に気疲れした気がする、し?
前方から聞こえるいびきよりいくらか控えめな寝息に気付いたので、そちらに視線を向けてみると──桜が茉莉に寄り掛かって眠っていた。
「あ……あははは」
俺の視線に気付いた茉莉は恥ずかしそうに苦笑し、更に向こうの美奈子とも目が合った。
とりあえず俺は桜を起こしても悪いので小さな苦笑を返し、視線を逸らしてまた外を見た。
組織の建物でまた労われてからは俺は三人と別れ、車に乗せてもらってマンションまで帰宅。
前回駆除に出た時と同じような流れで夕食を摂り、風呂を済ませてのんびりと過ごす。
「そういえば、地球の方達って魔法は苦手なんですか? ご主人様以外にも、ホンドーさんも魔法は得意ですよね?」
「魔物が出るような所以外は基本的に魔力は薄いから、練習する機会が少ないんだと思うよ。本堂君の場合は、アモリアさんの補助もあって召喚されてすぐに加護を得たらしいから、例外だと思う」
「あっ、そういえば、そうでしたね」
「それで、最初は加護がなかったユーリが上手く魔法を使えてるのは、エルだった時の経験があったからだとすると……道理、なのかしら?」
「そうだなぁ。あの世界の力が使えるかどうかで【魔力操作】の難度が全然違うし」
「魔力を留める服もあるらしいって言ってなかった?」
「確かにあるけど極一部の服だけだし、性能が良い奴は高いし、肌が出る所はそのままだし……」
「……地球で同じ条件を揃えるなら……森の中で生活をして、街に出る時には魔力が流れにくい全身を覆う服を着てれば……あ、これだと消耗を抑えるだけね」
「ああ。回復まではできないから、何処でも魔力が濃く漂ってる異世界よりはどうあがいても不利だと思うよ」
「……地球の人も案外大変なのねぇ……」
「……まぁ、魔法に関してはな」
………………
鳥の鳴き声か、微かに聞こえる目覚ましか、外の明るさか。朝の気配を感じて目が覚めてきた。
アンナは大人しく寝ていて、静かな寝息が聞こえている。昨晩は普通の寝間着姿で寝ていたアニマは、俺に絡みついてはいるが、特に着崩したりはしていない。
胸元に掛かる寝息への慣れをおかしく思っていると、俺が起きた気配を感じたらしく、アニマとアンナも目を覚まし、今日も一日が始まった。
俺とアンナが協力して【固定】を掛けただけあって、外の温度が伝わり難いので室温の維持は楽にできるが、当然ながら換気を行う必要はある。
エアコンは稼働しているが換気機能はないものだし、ドアの開閉も多少はあるが部屋中の換気を済ませられるほどではないので、虫が通り抜けられない程度の隙間は空けてあるし、時々はまとめて換気も行っている。
しかし、部屋に漂わせている魔力自体は異世界基準で普通の濃度とはいえ、地球基準で言えば濃いめではあるし、空気に乗せて盛大に垂れ流すのは何となく勿体ないので協力しながら『魔力容器』に集められるだけ集める。
そのまま家で過ごす予定であれば、扇風機を換気扇代わりにして空気を追い出しながら他の窓から空気を取り込む形で一気に済ませるのだが──今日は食材がやや心許ないので網戸のままで買い物へ。
網戸ではあるが【固定】で固定してある状態なので、防犯的観点でも問題はない。
買い物から帰ったら窓を閉めて冷房を入れながら魔力を満たし、食材を冷蔵庫に突っ込んで寛ぐといういつもの流れへ。
アンナがちょくちょく進めていたRPGのスタッフロールが流れ始めたので三人で静かに鑑賞し、次のソフトはどれが良いかという相談に乗ってから、更にしばらく。
俺の主観では懐かしいゲームのBGMを聞きつつアニマを抱えながら一緒にネット小説を読んでいると、スマートフォンが通話の着信を報せてきた。
表示されている名前は、『畑 茉莉』だ。
「珍しいな。悪いアンナ、ちょっと音量を……ありがとう」
「どういたしまして、ね」
俺が言いかけたところでテレビの音量を下げてくれたので、通話に応じる。
「もしもし?」
『あ、白井さん、こんにちは』
「こんにちは。それで?」
『はい、その、突然すみません。その……もしよければ、なんですけど……先日見せていただいたアレの使い方を教えて貰えませんか……?』
「? ……えっと、どれの事だろ?」
『あ、えと、あの輪っかで集める奴です。勿論、無理にとはいいませんけど』
「あれかぁ」
電話口だからか多少ボカしてあるが……まぁ、昨日見せた事だしな。
『その、駄目ですか?』
「悩んでる所。まず、どの辺りで躓いたの?」
『すみません、本当に初歩で躓いてて……』
「……初歩かー……そもそも出せなかった感じかな」
『……はい』
通話越しでもわかり易いぐらい落ち込んでいる雰囲気だ。
俺も初めて使う時は初心者用の杖に動かしてもらった所だから、さっと習得させるならそれを使わせるのが早いと思う。
「……まぁ、教えても良いといえば良いけど」
『ありがとうございますっ』
「な、なんか凄い食いつきだな。ええと、いつまで覚えたいかとか、場所はどうする?」
『早ければ早いほど良いです、けど、支部の演習場じゃあ駄目ですよね……?』
「慣れてれば大丈夫なぐらいだけど、練習には向かないかな。っていうか、使えるの? あの場所」
『うっ。……そうでした、それがありました。ええと、駆除の申し込みをする予定とかは……』
「特にないかな。大物が出れば行こうとは思ってるけど」
大物を狩るなら殉職者が出ないように頑張るが、二時間程度でも森を練り歩いて小物を狩るのは手持無沙汰で疲れるからな。
『そうですか……うぅぅぅ……どうしよう……』
「んー……あんまり気は進まないけど、ウチ来る?」
『あ……いっ、良いんですかっ? えとえと、明日の予定は空いてます?』
「そりゃまぁ、特に予定は入ってないけど……」
『じゃあ、明日お昼前に伺ってもよろしいでしょうかっ』
「あ、ちょっと待ってね、確認するから」
『は、はいっ』
一旦スマートフォンのマイクを塞いで、二人に聞いてみる。
「畑さんが明日来たいみたいなんだけど、大丈夫?」
「えと、私でしたら、問題ありませんよ」
「まぁ、私も良いわよ。同じようなことが何回もあるわけじゃないわよね?」
「そうなったら流石に俺の方で断るよ。……大丈夫だよ」
『はい、それじゃあ、明日、伺わせて頂きますっ』
「お、おう、じゃあ、また明日」
『はい、それでは』
通話が終了した。……何か、切羽詰まってる感じなのかな?
時計を見ると、まだ夕飯には少し早いぐらいの時間を指している。
とりあえず、先程の続きに戻──
「お? さっき読んでた内容とは違う気が……」
「あ、戻りますね」
アニマがキーボードを素早く操作して、俺と一緒に読んでいたページまで戻った。
「……」
俺は通話を始める前とは少し違う体勢で抱き着いた。




