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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 6 章

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09:組織の小規模戦術

 月曜になってからは郵便物の確認以外にも、組織のアプリケーションから魔物の情報を確認する日課を加えて、更に二日。こちらでは鬼と呼ばれている魔物の情報が確認できた。

 集合時間は一一時。片道二時間ほどの移動を経て、前回とはまた違う森に行くようだ。

「んー……これは、行っておくべきかな?」

「いつ行くの?」

「先週行った時より少し遅いぐらいだけど、今日の昼前だね」

「急な話ねぇ」

「その辺は、仕方ないんじゃないか? 放置するのもなんだしな」

「……それもそうね。油断はしないと思うけど、気を付けて」

「ありがとう。じゃあ早速登録をっと……晩御飯についてはいつも通りで」

「ええ。結局、いつもユーリは間に合ってるけど、遅れるようなら食べておくわね」

「よろしく。アニマもな?」

「は、はいっ」



 マンションまで来てくれた車に乗って出発し、集合場所へは集合予定時刻の三〇分ほど前に到着したが、集まっている人数は妙に少ない気がする。

 念のためにスマートフォンで集合場所を再確認してみると──少なくとも、スマートフォンの表示ではここで間違いないようだ。日時も正しい。


 とりあえずそのまま待っているとぽつぽつ人が増えてきて、その中にはいつもの女子三人組の姿もある。こちらから軽く手を挙げると、桜は同じく手を軽く挙げて、茉莉と美奈子は目礼を返し、そのまま近付いてきた。

「今日もそんな恰好なんですね……」

 挨拶するなり服装について茉莉から文句を言われてしまった。確かに、流石に手ぶらではないが、街中を歩いていてもあまり違和感がない姿なので仕方ないとは思う。

 鞄の中身も今は麦茶が入ったコーラの五〇〇ミリリットルボトルと、スマートフォン充電用のあれこれぐらいである。スマートフォンはスマホケースと共にポケットの中だ。

「……いやぁ、俺は、ほら、服は何着ても大差ないしな。それで……今日は集まってる人数は前回と大差ない気がするんだけど、なんでかな? 魔物は強いんだから人数は必要になりそうなもんだよね?」

「ええと、今日みたいに強い魔物が確認されてる時は、遊撃(IF)の人は戦力がある程度認められてないと参加自体ができないようになってるんです」

「それはアプリから確認できたからわかって……って、戦力として認められてる人は少ないのか?」

「その、お金がある程度入らないと装備の強化は難しいですし、優秀な人は万能戦士(AR)魔法使い(MU)に大体異動しますから」

「なるほどなぁ。……君らは? あー、常駐できないのかな」

「そうですね。学校や家業の関係で常駐できない人も遊撃(IF)所属です。私達は夏休みじゃなかったら平日無理なんですよね……」

「それは……日が暮れてから森に入ったりするのは危ないし、仕方ないかな」

 というか労働基準法にはひっかからないのだろうか。いや、森に入って木刀を振り回しつつエアソフトガンを撃つ仕事、という時点でダメそうな匂いは相当に漂っているので、深く考えてはいけないのかもしれない。



 予定時刻の少し前に点呼が行われ、バスに乗りこんで移動が始まる。

 俺と女子三人組は最後尾の四つ並んだ席に座ることになってしまったが、席順としては俺、桜、茉莉、美奈子の順で、窓際の席に座らせてもらった。

「白井さんって、窓際好きなんですか?」

「割と。まぁ、ここのバスに乗ってる時は……女の子との距離に気を付けてる感じだけどね」

「意外と……尻に敷かれてる?」

「どうだろ? 互いに思いやりを持って接してるようなもんじゃないか?」

「そう?」

 桜の疑問に対する回答を考えてみたが、アニマもアンナも俺を尻に敷きそうになったら謝りにくる気がする。というより特にアニマは自分から敷かれに来るので、俺から手を伸ばして抱きかかえているような感じだろう。

 結局抱き枕になられているというか、尻の下に滑りこまれているような気はするが、それはそれとして。

「え、えっと、どっちが本命なんでしょう?」

「……ノーコメントで」

 茉莉の質問への答えは、この場で答えるようなものではないので、スルー。

 俺は自前の充電用ケーブルをスマートフォンに突き差した。


「ところで、今日はどう動くことになるのかな? 班の組み方や移動とか」

 移動が長く暇なので、隣に座る桜に質問を投げかけてみた。

「班の規模は同じだけど、何班かでまとまって隊を作って行動する。情報が回ってきたら応援に行ったりもする。発見報告をしないまま戦闘を始めるのは厳禁」

「なるほど……」

 ソーシャルゲームなんかで言うなら、一定以上の強さを持つ相手に単独(ソロ)で挑むのはダメということか。

「……不満?」

「……多少。まぁ……確かに、死亡事故なんかが起こっても困るから、仕方ないといえば仕方ないのか」

「そういうこと。それなりに事故も起こってるから、小型の魔物以外は報告なしに戦うとペナルティがあったりする」

「うぇぇ…………森の中って、電波はちゃんと届く?」

「電波が通じてないときは、たしか、画面に警告が表示されたはず」

「んー警告が出たら戻るしかない、のかな?」

「それは……どうだったっけ」

「繋がらないときは、生存を最優先に、だったかな。でも、電波が届き難い所に入るような時はたしか、高出力の無線機器を持った人がグループごとに一人は付いたはずですから、繋がらなくなることは滅多にないかと」

 桜が答えきれず、茉莉が引き継いで答えてくれた。

「先週行った時は、三人の誰かが持ってたのかな?」

「いえ、あの森は割と電波が届き易いそうですから」

「そうなのか。ありがとう」

 電波が通じない状況で戦闘して罰則に引っかかるようなことは、あまり起こりそうにないとみて良いか。

 ……しかし、色々あるんだなぁ。



 トイレ休憩を一度挟んで着いたのは、前回よりやや深く、魔力も濃い気がする森。電波はまだ通り易いらしく、俺は前回と同じく美奈子達三人と班を組んで行動することになった。田平の姿もあったが、別の隊に所属することになったようだ。

 ただ、バスの中で聞いた通り今回は更に他の三つの班と組むことになっていて、その全体を指揮するのは万能戦士(AR)魔法使い(MU)で構成される班である。

 基本的に実力が認められていない者が多い遊撃(IF)に指揮を執られるよりは、良い可能性が高いか。

「──小型でない魔物を見つけた際も落ち着いて、まずは口頭で周囲に、その後端末を用いて報告を。決して一人で戦おうとはしないように」

『はい』

 少々面倒ではあるが、わざわざ反旗を翻す理由もない。……しかし、案外近場にも深い森ってあるもんなんだなぁ。


 隊長、でいいんだろうか。俺達の参加する部隊だか小隊だかの長からの諸注意が終わったので、各々が森に入るべく装備の最終確認を始めた。

 俺もその流れに合わせて、周囲とは随分違いはするが、装備の確認。前回よりやや厚めな【固定】の鎧を身に纏い、目立たない範囲で脚力も補助できるような機構もこっそり準備する。

 スマホケースもどきも取り出して、【魔力知覚】の範囲がきっちり伸びていることを確認──

「ひえっ!?」

 ……?

 突然誰かが声を上げたのでそちらを見ると、声の元は巫女っぽい服を着た女の人。

 その女性の視線は俺に向いていて、周囲の視線も最初はその女性に集まっていたが、釣られるように周囲の視線も俺に集まってきた。

「……ええと」

「っ、は、はい」

「…………もしかして、これ、わかります?」

「!」

 手に持ったスマートフォンを示すと、女性はこくこくと頷いた。中には結構な濃さの魔力が溜まっているので、その濃度がわかる人からすれば気になるのも仕方ないかもしれない。

 しかし、俺が索敵するには必要な作業なので困ったところ。仕方なく一旦【固定】を掛け直して魔力を封じ込めるとまた驚かれたが、とりあえず話をするべきだろう。

「周囲、何メートルぐらいまで魔力を感じ取れます?」

「……その、自信があるのは一〇メートルぐらい、です」

「……じゃあ、その、すみませんけど、これ使わせてもらっても良いですか? これを使ってると六〇メートルぐらいまでわかるようになるので」

「は、はは、はい」

「……」

 何だか無茶苦茶脅してそうな雰囲気で申し訳ない。索敵用に外部に繋げている『魔力容器(マナケース)』内の魔力は一部だけなのだが。

 …………。

「え、え? ええっ!?」

 索敵用に繋げ直し、戦闘用の魔力も流れ出ない程度に外と繋げてると、更に怯えたような反応が返ってくる。

「何をしてるんですか、白井さん……」

「あ、いや、どんな反応が返ってくるか気になって、つい」

 美奈子に呆れられてしまった。



 索敵用の魔力だけに戻すと先程の女性も落ち着いたので、隊長の指示の下で森に入り、探索を始めた。五分に一回ぐらいの間隔で弱い魔物が見つかるので、俺はその都度口頭で報告しながら進んでいる。

「お。隊長ー、二時ぐらいの方向、距離五〇メートルほどの位置に小鬼三匹です」

「……視線は通っていないな。全隊、留意しつつ慎重に進め」

『了解』

 最初は本当に微妙な顔をされたが、変に手を抜くのも性に合わないので仕方ない。視線は通っていなくても俺の報告は場所も種類も数も正確だったので、三回ほどで皆も慣れてきて信じてもらえるようになった。

「よし、射線に気を付けて射撃用意。……撃てっ」

 エアソフトガンの発砲音が一斉に鳴り、俺も周りに合わせて小さな魔法の矢を一発だけ飛ばして小鬼(ゴブリン)達に攻撃した。三匹とも今の一斉射撃だけで終わったようだ。

「よし。死体の確認を──」

「た、隊長、振動を感知しましたっ、北東方向です」

「わかった。小鬼の確認が済み次第、そちらにも向かうぞ」

「はいっ……」

 何やら機材の入ったリュックサックを背負っている男性が隊長に報告を行っていた。

 魔物とはいえ行動する際には普通に音や振動も発生するので、そういった機器があれば俺より広い範囲で探せるとはいえ、微妙に悔しい。


 何やら真剣な雰囲気を漂わせる皆と共にそれなりに警戒しながら数分移動すると、森の中を闊歩する(オーガ)を発見した。周囲の地形はそこまで木が密集しておらず、高低差も少ない。

 (オーガ)はというと、異世界のものとは少し顔立ちが異なっている気もするが、肌の色や身長に大差はないので、強さもそう変わらないと思う。

「広がり過ぎない程度に散開して一定距離まで引き付け、一斉射で仕留める。狙われた者は回避に専念するように。良いな」

『了解』

 小声でのやり取り。引き付ける囮役も指揮を担っている班の一人が担当するようだ。直径一〇メートルほどの半円状に囮役以外の隊員が身を潜めて、囮役はエアソフトガンを構え、魔法を鬼に放つ。

「ッ、ゴアアアアアッ!」

 鬼の叫び声も異世界の奴と大差はなし。ドスドスと大地を踏み鳴らしながら藪を蹴り飛ばして走ってくる──と、鬼は足元にあったらしい手ごろな石を、先程魔法を撃った囮役に投げつけてきた。

「っ!」

 二〇キログラムほどの重量はありそうな石が多少の土を纏ったまま時速一〇〇キロメートルほど、秒速にすれば三〇メートル弱の速度で飛んできた。

 三〇メートルほどの距離はあったので囮役は驚きながらも回避したが、鬼は次の石を拾いながら更に接近していて、体勢が整いきっていない囮役が次弾を回避できるかは怪しいところ。

「撃てええっ!」

 隊長が指示を出した。それに応じて鬼との距離はまだ二五メートルほどあるが、皆が身を乗り出してエアソフトガンから魔法を放つ。

 俺はとりあえず大きめの魔法の矢を三発放って、鬼が投げた石と両手首を貫いて攻撃手段を失わせた。両手首を貫いた魔法の矢は形と位置を保ったまま、鬼をその場に拘束している。

「良くやった、そのまま、畳みかけろ!」

『了解っ!』

 隊長の指示に従って他の隊員も応答しながら、次々に魔法で攻撃する。俺もまぁ、拘束が解かれないように鬼の両腕にそれぞれ一本ずつ魔法の矢を追加しておく。

 何だか、いじめているような気分になってきて、思わず乾いた苦笑が漏れた。俺以外の隊員達は皆中々に興奮しているようで、息も粗い。

「ガッ……」

 そうこうしているうちに鬼の頭に魔法が命中。小さく声を発した後は力なく項垂れ、無言のまま更に隊員からの魔法で揺られ始めた。

「……よし、そこまで!」

「はぁ、はぁ、はい……」

「りょ、了解……」

 更に数秒射撃が続いたところで隊長が指示を出した。攻撃が止んだことによって鬼は魔法の矢からずるりと抜け、地面に倒れて徐々に塵へと還り始める。

 無事に戦闘が終わったようなので、俺も浮かせていた魔法の矢を崩壊させた。


 隊員が残った素材を確認している間に隊長から手招きをされたので近寄ると、隊長は何やら真剣そうな表情をしていた。

「……白井、お前もしかして、単独でもやれたのか?」

「……まぁ、その、はい」

 正直に答えると、隊長の表情はやや驚いたようなものに変化する。

「……加減した理由は、なんだ?」

「最初に注意もされてましたし、私が居ない時とで違いすぎたら後が困ると思いまして」

「…………十分普段とは違っていたが、もっとやれる、のか?」

「一人でやるなら、何体か同時に来ても平気です、よ?」

「そ、それは、吹きすぎじゃないか? 法螺(ホラ)

「いやぁ、実際に経験があるんで……」

「……」

「……」

 とりあえず、隊長の表情筋は大忙しだった。

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